がんと診断され、闘病に入るなかで男性、女性問わず「性欲の低下、減退」を感じる人は増えます。
性欲がないこと自体は重い症状とはいえませんが、心理的な落ち込みや、パートナーの要望が苦痛に感じるなど生活上の影響は軽くはありません。
この記事では、がん闘病中に起こる性欲の低下、減退について、なぜそれが起きるのか?考えられる原因や医療的に行われる対処法について解説します。
がん闘病中の性欲低下の主な原因
がん(腫瘍)による性欲低下
・精巣腫瘍(テストステロンの分泌低下)
・脳(視床下部)におよぶがん、肉芽腫など(性ホルモンの分泌抑制)
手術による性欲低下
・精巣、卵巣摘出(性ホルモンの分泌低下)
・手術創などによるボディイメージの変化(乳がんの手術など)
化学療法(抗がん剤治療)による性欲低下
・精巣、卵巣障害(性ホルモンの分泌低下)
・副作用(倦怠感、食欲不振、悪心などの体調不良)
放射線治療による性欲低下
・精巣、卵巣障害(性ホルモンの分泌低下9
・脳(特に視床下部・下垂体)への放射線照射(ホルモンバランスの異常)
その他の理由による性欲低下
・副作用(ベンゾジアゼピン系薬・抗うつ薬・ドパミン受容体拮抗薬)
・精神的、心理的な苦痛や緊張・不安・恐怖などによる性生活の優先順位の低下
がん(腫瘍)よって性欲が低下する原因と対策の詳細
腫瘍で性欲が低下する理由
・性ホルモンを産生するための経路・臓器にがんが発生することで、性欲低下が生じる。(下垂体・視床下部に及ぶがん、男性における精巣腫瘍、女性における卵巣がんなど)
・がんに罹患したことによる不安や恐怖によってストレスがかかる。そのストレスに対処しようとするため性生活の優先順位は低くなり、性欲の低下が起こる。そのためがん全般に起こる可能性がある。
・個人差が大きいが、がんと診断され、衝撃が強い時期は、性欲低下が出現しやすい。
主な対応・対策・治療法
・医療的な対処策は特にない。「性交によってがんがうつる」など、誤った知識による性的な行動への恐怖から、性欲低下を起こすことがある。正しい知識の提供を行う必要がある。
・がんに罹患した精神的なつらさを軽減できるように努める。専門家(泌尿器科医やセックスカウンセラーなど)に相談する。
手術によって性欲が低下する原因と対策の詳細
手術で性欲が低下する理由
・手術の傷跡や人工肛門などによるボディイメージの変化、体位によって手術の傷跡が擦れることによる痛みなどが原因で、性欲低下が起こる。
・性ホルモンを分泌する精巣がんや卵巣がん、性ホルモン分泌を促す視床下部や下垂体の手術によってテストステロンの分泌量が低下し、性欲低下が起こる。
主な対応・対策・治療法
・心理的にリラックスすること。
・性欲低下の原因を確認し、原因に応じた対応を、患者・パートナーと考える。
・「手術によって性器が変化してしまった」と不安になって、性欲低下が生じる患者もいる。ストーマ保有者では、外見上の変化によって男性性・女性性を保てなくなることを悲観し、性欲低下が起こる。
・手術による身体的変化があるのに、術前と同様の性行為を目標とする人は満足な結果を得られないことが多い
・術後痛による性欲低下は、体位の工夫などで、疼痛なく性行為ができれば軽減する。
・ストーマ保有者が感じる性行為中の気がかり(装具が邪魔、排泄物が見えるなど)に対しては、下着・腹帯の着用や装具(小型、肌色など)の採用を検討する。
化学療法(抗がん剤などの薬物)によって性欲が低下する原因と対策の詳細
化学療法で性欲が低下する理由
・抗がん薬の副作用(倦怠感や悪心だけでなく脱毛などボディイメージの変化など)により性生活に意識が向かなくなる。
・口内炎・皮膚の乾燥や亀裂など、直接的に性機能への影響はないと思われる副作用でも「キスができない」「スキンシップ時に痛む」など、間接的に性欲低下を起こすことがある。
・男性の場合:精巣は抗がん薬の感受性が低く障害を受けにくいといわれる。しかし、多量の抗がん薬を使用すると精巣が障害され、テストステロンの産生が低下するため、性欲低下が起こりうる。
・女性の場合:抗がん薬によって卵巣が障害されると、ホルモンバランスが崩れ、性欲低下が起こる。(膣潤滑液が出にくくなり、性交痛が起こると、性欲低下を助長する)
・女性では、アルキル化薬、白金製剤、アントラサイクリン系薬剤を使う場合にリスクがある(卵巣への直接的毒性があるため)
主な対応・対策・治療法
・投薬継続中はどうしても副作用が起き、長期間の投薬になれば副作用は重くなる傾向がある。投薬前に「性欲に関しても影響がある」ことを本人と配偶者が理解しておくことで、その後の考え方の相違を(ある程度)予防できる。
・医療的に副作用を軽減できる方法はほとんどない(吐き気に対する制吐剤などはあるが、脱毛に対しては対策がない)。
放射線治療によって性欲が低下する原因と対策の詳細
放射線で性欲が低下する理由
・男性の場合:12Gy(グレイ)以上の照射でテストステロンの産生が低下し、性欲低下が生じうる(精巣のライディッヒ細胞の放射線感受性は低いといわれる)
・女性の場合:照射によって卵胞の形成が阻害され、性ホルモンの産生が低下し、性欲低下が起こるといわれている(卵胞の放射線感受性は高い)
・骨盤領域への照射による膣の線維化・瘢痕化から性交痛が生じると、性的快感を得られなくなる。
・視床下部~下垂体への放射線照射により、ホルモンの分泌指令が出ず、性欲低下が起こることがある。
・放射線照射による副作用症状(倦怠感、悪心、皮膚障害によるボディイメージの変化など)により、性生活に意識が向かなくなることでも、性欲低下が起こる。
主な対応・対策・治療法
・放射線療法の副作用は、性生活にさまざまな影響を及ぼすため、治療後にどのような影響がでるのかをしっかり説明を受けておく。
・膣の瘢痕化に対しては、膣ダイレーターなどで伸縮性が低下することを防止し、性交痛が出ないようにする方法もある。
性欲が低下する、その他の原因と対策の詳細
性欲が低下する理由
・向精神薬や制吐薬など(ドパミン作用拮抗薬、ドパミン含量を低下させる麻薬、ヒスタミン受容体拮抗薬など)は、血中プロラクチン濃度を上昇させ、性ホルモンの分泌を抑制するため、性欲低下を生じさせる。
【性欲低下を招きやすい薬】
・向精神薬(ベンゾジアゼピン系薬剤、ブチロフェノン系薬剤)
・制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)
・医療用麻薬(モルヒネ、メサドン)
・消化性潰瘍治療薬(シメチジン)
主な対応・対策・治療法
・薬剤性の性欲低下は原因薬剤を中止もしくは変更することによって大部分は回復する。
・薬の中止などによって症状が悪化する場合には、性機能を犠牲にするしかないため、患者の意志が確認される。