
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がんと診断され治療を始めると、多くの患者さんが経験する変化の一つに「性欲の低下」があります。
男性でも女性でも、がん闘病中に性的な関心が薄れていくことは珍しくありません。治療そのものの身体的な影響だけでなく、精神的な負担、薬の副作用など、複数の要因が重なって性欲の減退が起こります。
性欲がなくなることは命に関わる症状ではありませんが、パートナーとの関係性に影響したり、自分自身の心理的な落ち込みにつながったりと、生活の質(QOL)という観点では軽視できない問題です。
この記事では、がん闘病中に起こる性欲の低下・減退について、その原因を詳しく整理し、医療的に考えられる対処法や向き合い方を解説します。
がん闘病中に性欲が低下する主な原因
がんの患者さんに性欲低下が起こる背景には、さまざまな要因があります。大きく分けると以下のような原因が考えられます。
がん(腫瘍)そのものによる影響
がんが発生した部位や種類によって、性ホルモンの分泌に影響が出ることがあります。
例えば男性の場合、精巣腫瘍が発生すると男性ホルモンであるテストステロンの分泌が低下し、性欲の減退につながります。
また、脳の視床下部や下垂体といったホルモンの司令塔に腫瘍や肉芽腫ができると、性ホルモンの分泌を促す指令が出にくくなり、結果として性欲が低下します。
さらに、がんと診断されたこと自体が大きなストレスとなり、心理的な影響から性的な関心が薄れていくケースも多く見られます。診断直後の衝撃が強い時期は、特に性欲低下が現れやすい傾向があります。
手術による影響
がん治療のための手術が性欲に影響を与えることもあります。
精巣や卵巣を摘出する手術を受けた場合、性ホルモンを分泌する臓器そのものがなくなるため、ホルモンバランスが変化し、性欲の低下が起こります。
また、乳がんの手術による乳房の切除や、直腸がん・膀胱がんなどで人工肛門(ストーマ)を造設した場合、手術の傷跡や身体の変化が「ボディイメージの変化」として本人の心理に影響し、性的な自信を失うことがあります。
手術の傷が特定の体位で擦れて痛みを感じる場合も、性行為への抵抗感から性欲が低下する要因になります。
化学療法(抗がん剤治療)による影響
抗がん剤治療では、薬剤が精巣や卵巣に影響を与え、性ホルモンの分泌が低下することがあります。
特に女性の場合、アルキル化薬、白金製剤、アントラサイクリン系といった薬剤は卵巣への直接的な毒性があり、卵巣機能が障害されるとホルモンバランスが崩れて性欲が低下します。卵巣機能の低下により膣の潤滑液が出にくくなると、性交時に痛みを感じることもあり、これがさらに性欲低下を助長します。
男性の場合、精巣は比較的抗がん剤の影響を受けにくいとされていますが、大量の抗がん剤を使用すると精巣が障害され、テストステロンの産生が低下して性欲に影響が出ることがあります。
また、抗がん剤の副作用として現れる倦怠感、吐き気、食欲不振、脱毛といった症状も、直接的ではないものの性生活への意識を遠ざける要因となります。口内炎や皮膚の乾燥・亀裂なども、キスやスキンシップの際に痛みを感じることで、間接的に性欲低下につながります。
放射線治療による影響
放射線治療も性欲に影響を与える要因の一つです。
男性の場合、精巣に12グレイ(Gy)以上の放射線が照射されると、テストステロンを産生する細胞(ライディッヒ細胞)が障害され、性欲低下が生じる可能性があります。ただし、ライディッヒ細胞の放射線感受性は比較的低いとされています。
女性の場合は、卵巣への放射線照射により卵胞の形成が阻害され、性ホルモンの産生が低下します。卵胞は放射線感受性が高いため、影響を受けやすいといわれています。
骨盤領域に放射線を照射した場合、膣の組織が線維化したり瘢痕化したりして、性交時に痛みを感じることがあります。痛みがあると性的快感を得られなくなり、性欲も減退していきます。
また、脳の視床下部や下垂体に放射線が照射されると、ホルモンの分泌を指令する機能が低下し、性欲低下が起こることもあります。
放射線治療による倦怠感、吐き気、皮膚の変化といった副作用も、化学療法と同様に性生活への意識を低下させる要因になります。
薬剤による影響
がん治療に使われる薬だけでなく、症状を和らげるために使用される薬も性欲に影響することがあります。
特に以下のような薬剤は、血中のプロラクチン濃度を上昇させたり、ドパミンの働きを抑えたりすることで、性ホルモンの分泌を抑制し、性欲低下を引き起こすことが知られています。
| 薬剤の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 向精神薬 | ベンゾジアゼピン系薬剤、ブチロフェノン系薬剤 |
| 制吐薬 | メトクロプラミド、ドンペリドン |
| 医療用麻薬 | モルヒネ、メサドン |
| 消化性潰瘍治療薬 | シメチジン |
これらの薬は治療や症状緩和に必要なものですが、副作用として性機能に影響が出ることがあります。
精神的・心理的な要因
がんと診断されたショック、治療への不安、再発への恐怖といった心理的な負担は、性欲に大きく影響します。
生命の危機に直面している状況では、性生活の優先順位が自然と低くなり、性的な関心が薄れていくことは当然の反応ともいえます。
また、「性行為によってがんがうつる」「治療中に性行為をしてはいけない」といった誤った知識や思い込みから、性的な行動に対して恐怖や罪悪感を抱き、性欲が低下するケースもあります。
腫瘍そのものが原因の性欲低下への対応
なぜ腫瘍によって性欲が低下するのか
腫瘍が性欲に影響を与える仕組みは、主に以下の3つです。
一つ目は、性ホルモンを産生する経路や臓器に腫瘍が発生することです。下垂体や視床下部に腫瘍ができると、性ホルモンの分泌を促す指令が出なくなります。男性では精巣腫瘍、女性では卵巣がんなどが直接的にホルモン産生に影響します。
二つ目は、がんに罹患したことによる心理的ストレスです。診断のショックや治療への不安、将来への恐怖などが重なると、心身がストレスに対処しようとするため、性生活の優先順位が下がり、性欲が低下します。これはがんの種類を問わず起こりうる現象です。
三つ目は、診断直後の時期の影響です。個人差はありますが、がんと診断されて衝撃が強い時期は、特に性欲低下が現れやすいといわれています。
腫瘍による性欲低下への対処法
腫瘍そのものが原因の性欲低下に対しては、医療的な特効薬はありません。
ただし、誤った知識による恐怖が性欲低下を引き起こしている場合は、正しい情報を得ることが重要です。「性行為でがんがうつる」といった誤解を解き、安心できる情報を提供することで、心理的な負担を軽減できます。
また、がんに罹患したことによる精神的なつらさを軽減するために、専門家に相談することも有効です。泌尿器科医、婦人科医、セックスカウンセラー、心理士などの専門家が、患者さんの悩みに対応できます。
パートナーがいる場合は、二人で話し合い、お互いの気持ちや状況を共有することも大切です。性生活は一人だけの問題ではなく、関係性の中で考えていく必要があります。
手術が原因の性欲低下への対応
なぜ手術によって性欲が低下するのか
手術による性欲低下には、身体的な要因と心理的な要因があります。
身体的な要因としては、性ホルモンを分泌する精巣や卵巣を摘出した場合、ホルモンの産生が低下して性欲が減退します。また、視床下部や下垂体の手術によってホルモン分泌の指令系統が影響を受けることもあります。
心理的な要因としては、手術の傷跡や人工肛門などによるボディイメージの変化が挙げられます。特にストーマ(人工肛門)を造設した患者さんは、外見上の変化により「自分の男性性・女性性が失われた」と感じ、性的な自信を喪失することがあります。
また、特定の体位で手術の傷跡が擦れて痛みを感じる場合、性行為そのものが苦痛となり、性欲が低下していきます。
手術による性欲低下への対処法
まず重要なのは、心理的にリラックスすることです。焦らず、自分のペースで心身の回復を待つ姿勢が大切です。
性欲低下の具体的な原因を患者さん本人とパートナーが一緒に確認し、原因に応じた対応を考えることが必要です。
「手術で性器が変わってしまった」という不安から性欲が低下している場合、実際にはそれほど変化していないケースもあります。正確な情報を得ることで不安が和らぐこともあります。
ストーマを持つ患者さんの場合、外見の変化が気になって性行為に消極的になることがあります。この場合、下着や腹帯を着用したり、小型の装具や肌色の装具を選んだりすることで、心理的な負担を軽減できます。
手術後の痛みが性欲低下の原因であれば、体位を工夫することで痛みを避けながら性行為ができるようになり、性欲も回復していくことがあります。
一つ注意すべき点は、手術によって身体が変化しているにもかかわらず、術前と同じような性行為を目標にすると、満足な結果を得られないことが多いということです。現在の身体の状態を受け入れ、新しい形での性生活を模索する柔軟な考え方が求められます。
化学療法が原因の性欲低下への対応
なぜ化学療法によって性欲が低下するのか
抗がん剤治療による性欲低下には、複数のメカニズムがあります。
まず、抗がん剤の副作用として現れる倦怠感、吐き気、脱毛などが、性生活への意識を遠ざけます。特に脱毛は外見の変化として本人に大きな心理的影響を与え、性的な自信を失う要因になります。
口内炎や皮膚の乾燥・亀裂といった副作用も、直接的には性機能に影響しないように見えますが、「キスができない」「スキンシップで痛みを感じる」といった形で、間接的に性欲低下につながります。
男性の場合、精巣は比較的抗がん剤の影響を受けにくいとされていますが、多量の抗がん剤を使用すると精巣が障害され、テストステロンの産生が低下して性欲が減退することがあります。
女性の場合は、抗がん剤によって卵巣が障害されると、ホルモンバランスが崩れて性欲が低下します。特にアルキル化薬、白金製剤、アントラサイクリン系薬剤は卵巣への直接的な毒性があり、卵巣機能の低下を引き起こしやすいとされています。
卵巣機能が低下すると膣の潤滑液が出にくくなり、性交時に痛みを感じることがあります。痛みがあると性行為そのものが苦痛になり、性欲がさらに低下していきます。
化学療法による性欲低下への対処法
抗がん剤治療を継続している間は、どうしても副作用が発生します。治療期間が長くなれば、副作用も重くなる傾向があります。
この状況で重要なのは、治療を始める前に、患者さん本人とパートナーの両方が「性欲にも影響が出る可能性がある」ことを理解しておくことです。事前に知っていることで、治療中に起こる変化に対して心の準備ができ、パートナーとの考え方の違いもある程度予防できます。
残念ながら、抗がん剤の副作用を医療的に軽減できる方法は限られています。吐き気に対しては制吐剤が使用されますが、脱毛に対する有効な対策は現時点ではありません。
そのため、副作用がある状態を前提として、どのように性生活と向き合うかを考える必要があります。治療が一段落して副作用が軽減すれば、性欲も回復していくケースが多く見られます。
放射線治療が原因の性欲低下への対応
なぜ放射線治療によって性欲が低下するのか
放射線治療が性欲に影響を与える仕組みは、照射部位や線量によって異なります。
男性の場合、精巣に12グレイ以上の放射線が照射されると、テストステロンを産生するライディッヒ細胞が障害され、性欲低下が生じる可能性があります。ただし、ライディッヒ細胞は放射線感受性が比較的低いため、影響は限定的とされています。
女性の場合は、卵巣への放射線照射により卵胞の形成が阻害され、性ホルモンの産生が低下して性欲が減退します。卵胞は放射線感受性が高いため、男性よりも影響を受けやすい傾向があります。
骨盤領域に放射線を照射した場合、膣の組織が線維化したり瘢痕化したりすることがあります。これにより膣の伸縮性が低下し、性交時に痛みを感じるようになると、性的快感を得られなくなり、性欲も低下していきます。
また、視床下部や下垂体に放射線が照射されると、ホルモンの分泌を指令する機能が低下し、性ホルモンの産生が減って性欲低下が起こることがあります。
さらに、放射線治療による倦怠感、吐き気、皮膚の変化といった副作用も、性生活への意識を低下させる要因になります。
放射線治療による性欲低下への対処法
放射線治療を受ける前に、治療後にどのような影響が出る可能性があるのか、担当医からしっかりと説明を受けておくことが重要です。
特に骨盤領域への照射を受ける場合は、膣の瘢痕化が起こる可能性があることを知っておく必要があります。
膣の瘢痕化に対しては、膣ダイレーターという医療器具を使用して、膣の伸縮性が低下することを防止する方法があります。定期的に使用することで、性交痛が出にくくなり、性欲の維持にもつながります。
また、放射線治療の副作用は性生活にさまざまな影響を及ぼすため、不安なことがあれば医療スタッフに相談することが大切です。
薬剤が原因の性欲低下への対応
なぜ薬剤によって性欲が低下するのか
がん治療やその関連症状の緩和のために使用される薬剤の中には、性欲に影響を与えるものがあります。
向精神薬や制吐薬などは、ドパミンの働きを抑えたり、ドパミンの量を減少させたりすることで、血中のプロラクチン濃度を上昇させます。プロラクチンの濃度が上がると、性ホルモンの分泌が抑制され、性欲が低下します。
具体的には、ベンゾジアゼピン系薬剤やブチロフェノン系薬剤といった向精神薬、メトクロプラミドやドンペリドンといった制吐薬、モルヒネやメサドンといった医療用麻薬、シメチジンといった消化性潰瘍治療薬などが、性欲低下を引き起こしやすいことが知られています。
薬剤による性欲低下への対処法
薬剤が原因の性欲低下は、原因となっている薬を中止したり、別の薬に変更したりすることで、大部分は回復します。
ただし、薬を中止することで治療している症状が悪化する場合もあります。その場合は、性機能を維持するか、症状のコントロールを優先するかという選択になります。
この判断は患者さん本人の意志が最も重要ですので、担当医とよく相談して決めることになります。症状の程度、生活の質への影響、パートナーとの関係など、総合的に考えて判断する必要があります。
性欲低下への向き合い方
がん闘病中の性欲低下は、多くの患者さんが経験する変化です。しかし、この問題について医療者に相談しにくいと感じている方も少なくありません。
性欲低下は生活の質に影響する問題であり、相談することは恥ずかしいことではありません。泌尿器科医、婦人科医、心理士、セックスカウンセラーなどの専門家が対応できますので、悩みを一人で抱え込まず、相談してみることをお勧めします。
パートナーがいる場合は、二人で話し合うことも重要です。お互いの気持ちや状況を共有し、理解し合うことで、関係性を維持しながら治療に専念できる環境を作ることができます。
また、正しい知識を持つことも大切です。「性行為でがんがうつる」といった誤解や、「治療中は性行為をしてはいけない」といった思い込みが、不要な不安や罪悪感を生んでいることもあります。
性欲低下は一時的なものであることが多く、治療が一段落して体調が回復すれば、性欲も戻ってくることが期待できます。焦らず、自分のペースで心身の回復を待つ姿勢が大切です。

