
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
卵巣がんと診断された患者さんやご家族から「組織型によって何が違うのですか」という質問をよくいただきます。
同じ卵巣がんでも、組織型によって進行の速さ、化学療法の効果、予後が異なります。自分のがんの性質を理解することは、治療方針を考えるうえで重要です。
この記事では、卵巣がんの主な4つの組織型(漿液性腺がん、粘液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がん)について、それぞれの特徴を詳しく解説します。
卵巣腫瘍の基本的な分類
卵巣に発生する腫瘍は、発生する場所によって4つのタイプに大きく分けられます。
| 腫瘍のタイプ | 発生部位 | 全体に占める割合 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 表層上皮性・間質性腫瘍 | 卵巣の表面を覆う上皮、卵巣間質 | 60~70% | 最も多いタイプ。悪性の場合、上皮性卵巣がんと呼ばれる |
| 性索間質性腫瘍 | 卵胞内の顆粒膜、黄体 | 5~10% | ホルモンを産生する。境界悪性が多い |
| 胚細胞腫瘍 | 卵胞内の胚細胞 | 15~20% | 悪性の場合、若年者に多い |
| その他 | 不明確、他臓器からの転移 | 残り | 転移性腫瘍など |
さらに、これらの腫瘍は性質によって「良性腫瘍」「境界悪性腫瘍」「悪性腫瘍」の3つに分類されます。卵巣腫瘍全体の約85%は良性で、悪性は約15%とされています。
上皮性卵巣がんの組織型分類
卵巣がんの大部分を占める上皮性卵巣がんは、顕微鏡で見たときの細胞の形や性質によって、さらに複数の組織型に分類されます。
日本人の上皮性卵巣がんにおける組織型別の発生頻度は以下のようになっています。
| 組織型 | 日本での発生頻度 | 欧米での発生頻度 | 日本人の特徴 |
|---|---|---|---|
| 漿液性腺がん | 約36% | 約50~60% | 最も多い組織型 |
| 明細胞腺がん | 約24% | 約5~10% | 日本人で特に多い |
| 類内膜腺がん | 約17% | 約10~15% | 子宮内膜症との関連が高い |
| 粘液性腺がん | 約11% | 約3~5% | 若年者にも発生することがある |
この組織型分類は単なる分類ではなく、治療方針や予後を考えるうえで重要な意味を持ちます。なぜなら、組織型によって進行の速さ、化学療法への反応性、予後が異なるためです。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
漿液性腺がんの特徴
漿液性腺がんは、卵巣がんの中で最も多く見られる組織型です。
発生頻度と年齢
日本では上皮性卵巣がん全体の約36%を占めます。35歳から60歳代に多く見られますが、特に50歳代で発症のピークを迎えます。
最新の知見:卵管からの発生
近年の研究により、漿液性腺がんの多くは卵巣ではなく卵管から発生していることが明らかになってきました。特に高異型度漿液性腺がん(高悪性度タイプ)の約半数は、卵管采(卵管の先端部分)の粘膜から発生し、その後卵巣表面に広がると考えられています。
この発見により、2020年に発刊された治療ガイドラインでは、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんがひとまとめにして扱われるようになりました。
2つのタイプ:高異型度と低異型度
漿液性腺がんは、細胞の異型度(正常な細胞からどれだけ離れているか)によって2つのタイプに分類されます。
高異型度漿液性腺がん(HGSC)は、圧倒的多数を占めるタイプです。細胞の異型度が高く、悪性度も高いため、進行が早いという特徴があります。多くの患者さんは、発見された時点ですでにステージ3期から4期に進行しています。
低異型度漿液性腺がん(LGSC)は、比較的まれなタイプです。両側の卵巣に発生する頻度が高く、進行がんも珍しくありませんが、卵巣に限局している場合は予後良好です。
進行の特徴
漿液性腺がんは、卵巣がんの中で最も進行が早いタイプです。発見時に60~70%の患者さんがすでにステージ3期から4期に進行しているとされています。
ステージ1期であっても、約3分の1の患者さんで両側の卵巣にがん細胞が存在します。また、リンパ節転移もしやすく、ステージ1期でも約30%の患者さんで骨盤から傍大動脈にかけてのリンパ節に転移が認められます。
化学療法への反応と予後
高異型度漿液性腺がんは、一般に化学療法に対する感受性が高いことが知られています。手術療法と化学療法を組み合わせることで、予後の向上が期待できます。
ただし、5年生存率で見ると、卵巣がんの中では最も予後不良な組織型とされています。これは、発見時にすでに進行していることが多いためです。
遺伝子変異との関連
高異型度漿液性腺がんの約20%で、BRCA1またはBRCA2遺伝子の変異が認められます。この遺伝子変異は遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の原因となることが知られており、家族歴がある場合は遺伝カウンセリングが勧められます。
粘液性腺がんの特徴
粘液性腺がんは、粘液を作り出す上皮細胞ががん化して増殖するタイプです。
発生頻度と年齢
日本では上皮性卵巣がん全体の約11%を占めます。閉経後の女性に多く見られますが、20歳から30歳代の若年者にも発生することがあります。
発生の特徴
粘液性腺がんは、良性の粘液性腺腫から境界悪性腫瘍を経て、がんに進展するという段階的な発生過程(腺腫-がんシークエンス)をたどると考えられています。
片側性(片方の卵巣のみ)に発生することが多く、卵巣が両側ともがんになる症例は比較的少ないです。また、腫瘍が10cmを超える大型の多房性嚢胞を形成することが多いという特徴があります。
発見時期と予後
粘液性腺がんの約半数は、ステージ1期で発見されています。これは、腫瘍が大きくなることで症状が出やすく、比較的早期に発見される傾向があるためです。
また、悪性度が低い(組織学的分化度が高い)症例が多いため、一般に予後は良好とされています。
化学療法への反応
粘液性腺がんの課題は、化学療法に対する抵抗性です。早期に発見された場合は手術のみで良好な予後が期待できますが、卵巣外に進展した粘液性腺がんは、漿液性腺がんよりも予後が悪い場合があります。
これは、粘液性腺がんが標準的な化学療法(パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法)に対して抵抗性を示すことが多いためです。進行例に対する有効な化学療法の開発が課題となっています。
遺伝子変異
粘液性腺がんでは、KRAS遺伝子変異が高頻度に認められることが報告されています。
類内膜腺がんの特徴
類内膜腺がんは、子宮の内側を覆う子宮内膜の細胞に似た細胞から構成されるタイプです。
発生頻度と年齢
日本では上皮性卵巣がん全体の約17%を占めます。20歳から40歳代に多く見られますが、60歳代でも発症することがあります。
子宮内膜症との関連
類内膜腺がんの大きな特徴は、子宮内膜症との強い関連です。約30%の患者さんで子宮内膜症を合併していることが確認されています。
実際に、子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)の経過観察中に、類内膜腺がんが発見されることもあります。このタイプは、卵巣の子宮内膜症から発生することが特徴です。
進行の特徴
類内膜腺がんの多くは低異型度(悪性度が低い)であり、進行例は比較的少ないとされています。ただし、約30%の患者さんで両側の卵巣にがんが認められます。
化学療法への反応と予後
類内膜腺がんは、進行が比較的遅く、卵巣がんの中では最も予後の良いがんとされています。一般に漿液性腺がんや粘液性腺がんよりも予後は良好です。
また、漿液性腺がんと同様に、化学療法が比較的効果的であることが知られています。
遺伝子変異
類内膜腺がんでは、ARID1A、PIK3CA、CTNNB1/β-カテニン遺伝子の異常が認められることがあります。
明細胞腺がんの特徴
明細胞腺がんは、顕微鏡で見ると細胞内に明るい胞体(細胞質)があることから、この名前がついています。
日本人に特徴的な組織型
明細胞腺がんは、日本人を含むアジア人で特に頻度が高いことが知られています。欧米では上皮性卵巣がんの約5~10%程度ですが、日本では約24%を占めています。
近年、その発生頻度は増加傾向にあり、卵巣がん全体の約20~24%を占めるまでになっています。
子宮内膜症との強い関連
明細胞腺がんの最も大きな特徴は、子宮内膜症との強い関連です。50%以上の患者さんで子宮内膜症を合併しており、実際に子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)から明細胞腺がんが発生していることが確認されています。
このため、チョコレート嚢胞を持つ患者さんは、定期的な経過観察が重要です。
発見時期と進行の特徴
明細胞腺がん全体の約40~60%がステージ1期で発見されています。これは、子宮内膜症の経過観察中に発見されることや、比較的進行が遅いことが理由と考えられます。
ただし、同じステージ1期であっても、他の組織型の卵巣がんと比べると、明細胞腺がんの予後はやや悪い傾向があります。
化学療法への抵抗性
明細胞腺がんの最も大きな課題は、化学療法に対する抵抗性です。標準的な化学療法(パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法)の有効性が低いことが知られています。
2025年現在、明細胞腺がんに対する有効な化学療法の開発が進められていますが、現時点では決定的な治療法は確立されていません。このため、新薬や治療法の開発が待たれる状況です。
合併症のリスク
明細胞腺がんの患者さんは、血栓症(血管内に血の塊ができる病気)や肺梗塞のリスクが高いことが知られています。これらの合併症を防ぐため、治療中は特に注意が必要です。
遺伝子変異
明細胞腺がんでは、約半数の患者さんでARID1AやPIK3CAの遺伝子変異が認められます。これらの遺伝子変異は、将来的に分子標的治療の開発につながる可能性があります。
組織型別の特徴比較
| 項目 | 漿液性腺がん | 粘液性腺がん | 類内膜腺がん | 明細胞腺がん |
|---|---|---|---|---|
| 日本での頻度 | 約36% | 約11% | 約17% | 約24% |
| 進行の速さ | 最も早い | やや遅い | 比較的遅い | やや遅い |
| 発見時の進行度 | 3~4期が60~70% | 1期が約50% | 早期が多い | 1期が40~60% |
| 化学療法の効果 | 高い | 低い | 比較的高い | 低い |
| 予後 | 進行例が多く不良 | 早期発見例は良好 | 最も良好 | やや不良 |
| 両側性発生 | 多い(1期でも約30%) | 少ない | 約30% | 比較的少ない |
| 子宮内膜症との関連 | なし | なし | 約30%で合併 | 50%以上で合併 |
| 特徴的な遺伝子変異 | TP53、BRCA1/2 | KRAS | ARID1A、PIK3CA | ARID1A、PIK3CA |
2025~2026年の最新治療動向
卵巣がん治療は、近年大きな進歩を遂げています。
治療ガイドラインの改訂
2025年に5年ぶりの改訂となる「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2025年版」が発刊されました。
この改訂版では、最新のエビデンスに基づいて薬物療法の内容が大幅にアップデートされています。また、遺伝学的検査の活用、高齢患者さんの薬物療法、再発患者さんの手術、緩和ケアにおける留意点、治療後の生活指導、維持療法中・後の再発などの実践的な内容が新たに加えられました。
維持療法の進歩
初回化学療法後の維持療法として、PARP阻害薬(オラパリブ、ニラパリブ)が使用されるようになっています。これらの薬剤は、BRCA遺伝子変異や相同組換え修復欠損(HRD)を持つ患者さんに特に有効です。
また、血管新生阻害薬であるベバシズマブも維持療法として使用されています。
免疫療法の開発
2025年には、プラチナ抵抗性再発卵巣がんに対するペムブロリズマブ(キイトルーダ)と化学療法の併用療法について、米国食品医薬品局(FDA)が優先審査の対象として受理しました。日本でも適応拡大の申請が行われています。
カルボプラチン腹腔内投与の承認
2025年12月、カルボプラチンの腹腔内投与が卵巣がんの1次化学療法として承認され、保険診療で実施可能になりました。これにより、腹膜播種を持つ進行卵巣がんの患者さんに対する治療選択肢が広がりました。
組織型を知ることの重要性
卵巣がんと診断された場合、組織型を正確に把握することは治療戦略を考えるうえで非常に重要です。
組織型によって、化学療法の効果、予後、再発のリスク、必要な経過観察の内容が異なります。また、遺伝子検査の必要性や、将来的に使用できる可能性のある分子標的治療薬も組織型によって変わってきます。
診断時には、主治医から組織型について詳しく説明を受け、自分のがんの性質を理解することが大切です。また、セカンドオピニオンを求める際にも、組織型の情報は重要な判断材料となります。
卵巣がんの治療は、手術と化学療法を組み合わせた集学的治療が基本となります。組織型に応じた適切な治療を受けることで、より良い治療成績が期待できます。
参考文献・出典情報
この記事は以下の信頼できる医療機関および学術資料を参考に作成しました。
- 国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん」
- 日本癌治療学会「卵巣がん治療ガイドライン」
- 日本婦人科腫瘍学会「治療ガイドライン」
- 大阪医療センター「卵巣がん(婦人科)」
- 済生会「卵巣がん (らんそうがん)とは」
- 京都済生会病院「卵巣がん・悪性卵巣腫瘍」
- がん研有明病院「卵巣がん」
- がんプラス「卵巣がんの基礎知識」
- GMCL「卵巣がん治療の全て~ステージ別治療法から2025年の治療まで」
- Medical Tribune「ペムブロリズマブが再発卵巣がんの疾患進行/死亡リスクを低下」
※この記事の内容は2026年2月時点の情報に基づいています。治療方針については、必ず主治医にご相談ください。