がん闘病中の症状として高血圧の症状が出ることがあります。主な原因としては化学療法(抗がん剤治療)の副作用があります。VEGF阻害薬アバスチン、サイラムザ、ザルトラップなどの薬で起きやすいです。
(他の要因で起きることもあります)
いつもよりも高血圧の症状が強ければ速やかに医師の診断を受けるべきですが、この記事ではがん闘病中におきる高血圧の主な原因と、一般的にとられる対策について、解説したいと思います。
※高血圧とは
高血圧は、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上をいいます。
至適血圧(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)を超えて血圧が高くなるほど、全身血管病、脳卒中、心筋梗塞、慢性腎臓病などの罹患リスク・死亡リスクも高まります。
高血圧が起きる原因として考えられるもの
がん(腫瘍)による高血圧
・がんの増大に伴う血管の圧迫や狭窄(心筋梗塞)
・脳腫瘍・脳転移や、腎・副腎腫瘍・転移による血圧調整因子の異常(脳梗塞)
手術による高血圧
・術後痛、発熱など
化学療法(抗がん剤などの投薬)による高血圧
・薬剤の副作用(分子標的治療薬など)
放射線治療による高血圧
・全身照射による放射線腎症、脳照射による頭蓋内圧亢進など
その他の原因による高血圧
・副腎皮質ステロイド投与
・精神的、心理的な刺激:ストレスなど
・塩分の多い食事や飲酒・喫煙、運動不足、排便習慣、遺伝要因
共通する基本的なケアのポイント
・生活習慣の改善、降圧薬治療を行う。
・自己血圧測定を習慣化する
※高血圧を改善できる食生活
・食塩6g/日(小さじ1杯が5g)
・野菜、果物、魚の積極的摂取
・BMI25未満。まずは体重約4kgの減量を目標にする
・30分以上の有酸素運動を取り入れる
・節酒・禁煙、ストレス管理ができるようにする。
化学療法による高血圧の原因と対策
高血圧が生じる理由
・VEGF阻害薬によって高血圧が起こる原因は明確に解明されていないが、血管内皮の一酸化炭素合成の低下と、末梢細小血管床の減少などによる末梢血管抵抗の増加が考えられている。
(VEGFがレニンーアンジオテンシン系(アンジオテンシン1.2受容体を介して血圧にかかわると考えられる)
・リスクの高い薬は、ベバシズマブ、ラムシルマブ、アフリベルセプト
症状が現れたときに行われる対処法
・無症状の場合は、降圧薬を使うことが多い。
・症状(随伴症状)がある場合は症状が消失するまで休薬し、降圧薬を開始することが多い。
・降圧薬としてはACE阻害薬とARB (アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)が推奨されている。(利尿薬は下痢、体液量減少のリスクが増加するため控えるべきとされている)
※ACE阻害薬:エナラブリル、リシノプリル、テモカブリルなど。
※ARB:カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタンなど
VEGF阻害薬の作用機序と高血圧
・がん細胞は増殖を活発に行うために、多くの栄養や酸素を必要とする。既存の血管から栄養と酸素を得るために、新たに血管を作り始めることを血管新生という。
・血管新生には、VEGF(血管内皮増殖因子)が必要であり、VEGFにはA、B、C、Dと種類がある。
・このVEGFが結合する場所(受容体:レセプター)を血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)といい、こちらも1、2、3と種類があり、主に血管新生にかかわるのはVEGFR-2といわれている。
・現在、VEGF阻害薬として発売されているのは、以下の3種類である。
1.ベバシズマブ(アバスチン): VEGF-AがVEGFR-1、VEGFR-2に結合することを阻害する。
2.ラムシルマブ(サイラムザ) : VEGF-A、VEGF-C、VEGF-DがVEGFR-2に結合することを阻害する。
3.アフリベルセプト(ザルトラップ) : VEGF-A、VEGF-BとさらにPlGF(胎盤増殖因子)がVEGFR-1、VEGFR-2に結合することを阻害する。
ちなみに、正常時のVEGFは、月経時の子宮内膜修復や創傷治癒のときに血管新生を行い組織に栄養と酸素を与える役割を担う。