
がん患者さんに胸の痛みが起きる主な原因
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がん闘病中の症状として胸の痛み(胸痛)が生じることがあります。
胸痛は、胸部に起こる疼痛や不快感のことを指します。主観的な感覚であるため、患者さんによって感じ方は異なります。
がん治療を受けている患者さんに胸の痛みが生じた場合、その原因はさまざまです。原因や可能性のある疾患について知識がないと、不安が募ることになります。
主治医の診察を受けるのが前提ですが、この記事では胸が痛くなる主な原因と、一般的にとられる対策について解説します。
胸の痛みが起きる原因の分類
がん患者さんに胸の痛みが起きる原因は、大きく分けて次の5つに分類できます。
がん(腫瘍)が直接的な原因となるもの
がんの進行や転移によって生じる胸の痛みには、次のようなものがあります。
がん性胸膜炎は、がん細胞が胸膜に転移または直接浸潤することで引き起こされます。肺がん、乳がん、悪性リンパ腫などが原因となることが多く、胸水が貯留して呼吸困難や胸痛を引き起こします。2024年の報告では、がん性胸膜炎に対する治療選択肢として、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の使用が増えてきています。
Meigs(メーグス)症候群は、卵巣腫瘍に伴って胸水や腹水が貯留する症候群です。
肋骨転移では、がん細胞が肋骨に転移することで、咳や深呼吸、体を動かす際に痛みが生じます。
手術に関連して起きるもの
胸部や腹部の手術後には、創部の痛みが生じることがあります。また、手術後の長期臥床により下肢に血栓が形成され、それが肺動脈に詰まる肺塞栓症が発生する可能性があります。肺塞栓症では突然の胸痛や呼吸困難が現れます。
化学療法(抗がん剤治療)によって起きるもの
抗がん剤による副作用として、心臓や肺に障害が生じることがあります。
心毒性では、薬剤が心筋にダメージを与えることで、動悸、息切れ、呼吸困難、むくみ、胸痛などの症状が現れます。アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン、エピルビシンなど)は特に心毒性を起こしやすいことが知られています。近年の研究では、アントラサイクリン系抗がん剤を投与した患者さんの約1割に心毒性が発生し、その大半は化学療法終了から1年以内に発生すると報告されています。
肺毒性では、薬剤による直接的な肺胞上皮細胞障害や免疫性細胞の活性化により、間質性肺炎や肺線維症が発生します。初期症状として咳、息切れ、軽い発熱などがあり、風邪と間違われやすいため注意が必要です。
また、薬剤によるアレルギー反応(過敏症)や、分子標的治療薬の投与に伴うインフュージョンリアクションでも胸の痛みが生じることがあります。
放射線治療によって起きるもの
放射線治療を行った場合、照射した部位に応じた副作用が現れます。
放射線食道炎は、食道に放射線が照射されることで粘膜に炎症が起き、飲み込みにくさ、飲み込むときの痛み、胸が焼けるような痛みが生じます。症状は治療開始後2週間程度から現れ、治療終了後1か月ほどで改善することが多いとされています。
放射線肺臓炎は、肺に放射線が照射された範囲に起こる肺炎で、空咳、発熱、息苦しさなどの症状が現れます。症状は治療の半ばから終了後にかけて出現することが多く、重症化すると呼吸困難を引き起こすことがあります。
その他の原因によるもの
精神的、心理的な刺激(緊張、不安など)によって胸の痛みが起きることがあります。
その他、気管支炎、乳腺炎、急性冠症候群、胃食道逆流症(GERD)、大動脈解離、緊張性気胸、食道破裂、肋間筋の筋肉痛、肋骨や脊椎などの関節の痛みなどが原因となることもあります。
痛覚神経は壁側胸膜にのみ存在するため、壁側胸膜への刺激によって痛みが生じる可能性があります。
がん(腫瘍)によって起きる胸の痛みの詳細
痛みが起きる仕組み
胸部や腹部の臓器、組織の障害により、組織が緊張したり化学因子が産生されたりすることで、痛覚神経が刺激されて痛みが生じます。
がん関連の要因として特に重要なのは、がんの再発や進行に伴うがん性胸膜炎、骨転移、術後の肺塞栓症、Meigs症候群などです。
特に、術後の長期臥床が必要だった患者さん、肺がん、悪性リンパ腫、乳がん(上大静脈症候群を含む)の患者さんでは、痛みが発生するリスクが高くなります。上大静脈症候群の場合、胸痛をきたさないこともあります。
がん性胸膜炎の特徴と治療
がん性胸膜炎は、がん細胞が胸膜に広がることで炎症が起き、胸腔内に液体(胸水)が過剰に溜まった状態です。
主な症状は呼吸困難、胸痛、咳などで、患者さんの生活の質(QOL)に影響を及ぼします。肺がん、乳がん、悪性リンパ腫が原因の約半数を占めるとされています。
診断には、胸部X線やCT検査で胸水の有無を確認した後、胸水を採取して細胞診を行います。細胞診でがん細胞が証明できれば確定診断となりますが、結果が陰性でも疑いが残る場合は胸膜生検を行うこともあります。
治療には次のような方法があります。
| 治療法 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 化学療法 | 原発がんに対する抗がん剤治療。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も使用される | がん細胞の増殖を抑え、胸水の産生を減らす |
| 胸腔ドレナージ | 胸腔内にカテーテルを挿入し、胸水を体外に排出する | 呼吸困難などの症状を速やかに緩和する |
| 胸膜癒着術 | タルクやOK-432などの薬剤を胸腔内に注入し、胸膜を癒着させる | 胸水の再貯留を防ぐ |
2024年の世界肺癌学会で報告された研究では、胸膜癒着術に使用する薬剤として、滅菌調整タルクとOK-432を比較した結果、OK-432の胸水無再発割合は43.9%、滅菌調整タルクは29.6%でした。日本ではOK-432(ピシバニール)が一般的に使用されています。
近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により、がん性胸膜炎の治療選択肢が広がっています。これらの薬剤は、特定の遺伝子変異や蛋白発現を持つ腫瘍に対して効果を示すことがあります。
手術によって起きる胸の痛みの詳細
肺塞栓症が起きる仕組み
術後の胸痛の原因として最も注意すべきなのが肺塞栓症です。
肺塞栓症は、肺動脈に血栓や脂肪、空気、がんの腫瘍の欠片などが詰まり、肺動脈の流れが停滞・閉塞することで起こります。最も多いのが血栓による肺血栓塞栓症で、手術後の長期臥床のために下肢に形成された血栓が、起立や歩行、排便などの動作による静脈血流の変化によって遊離し、発症することがあります。
突然の胸痛、呼吸困難、動悸、冷や汗などの症状が現れた場合は、直ちに医師に連絡する必要があります。
肺塞栓症の予防と治療
深部静脈血栓症(DVT)の予防と治療では、下肢の安静と弾性ストッキングの着用が推奨されています。ただし、発症後に下肢の痛みが著しい場合には、弾性ストッキングの着用は困難になることがあります。
治療としては、抗凝固薬(ヘパリン)の持続点滴やワルファリンカリウムの経口投与が行われます。発症初期の場合は、血栓溶解療法(ウロキナーゼなど)が行われることもあります。
化学療法によって起きる胸の痛みの詳細
心毒性が起きる仕組みと症状
抗がん剤による心毒性は、心臓に悪影響を及ぼす毒性のことで、心筋障害が進展して心不全を招く可能性があります。
乳がんの治療成績が向上した結果、乳がんと診断されてから約9年を過ぎるころを境に、がんによる死亡より心疾患による死亡の方が多くなるという研究結果が示されています。これは、抗がん剤治療の副作用として心臓への影響が長期的に続くことを示しています。
心毒性の主な症状は、動悸、労作時の息切れ、呼吸困難、身体のむくみ、体重増加、胸痛などです。
アントラサイクリン系抗がん剤(ドキソルビシン、エピルビシンなど)は、用量依存性に副作用が現れやすく、一定の投与量を超えると心不全を発症する確率が急激に上昇します。
また、フルオロウラシルの投与に伴う冠動脈障害でも胸痛が起きることがあります。
最近開発された分子標的薬にも、心不全、血栓症、高血圧、不整脈などの循環器系の副作用があることがわかってきています。アントラサイクリンと分子標的薬を併用すると、それぞれを単剤で使用した場合に比べて心疾患の発症率が相乗的に上昇するという研究結果も報告されています。
過敏症とインフュージョンリアクション
過敏症は、IgE(免疫グロブリンE)を介した免疫反応によって生じることがあります。また、抗がん薬そのもの、希釈液、溶解液が引き金となって発現することもあります。
インフュージョンリアクションは、分子標的治療薬の投与(注射)に伴う症状で、投与中または投与後24時間以内に現れる可能性があります。これは細胞が障害される過程で生じるサイトカインの産生や放出が関与しています。
肺毒性が起きる仕組みと症状
薬剤による直接的な肺胞上皮細胞障害や、免疫性細胞の活性化が肺毒性を引き起こします。
間質性肺炎や肺線維症などが発生し、初期症状として咳、息切れ、軽い発熱などが現れます。風邪と間違われやすいため注意が必要です。
EGFR阻害薬(ゲフィチニブ、エルロチニブなど)、ブレオマイシンなどで発生リスクが高いとされています。非小細胞肺がんの化学療法を受けている55歳以上の患者さん、パフォーマンスステータス(PS)不良の方、喫煙歴のある方、既存の間質性肺疾患がある方、腎機能障害のある方では、特にリスクが高くなります。
胸痛のリスクがある薬剤
次の表は、胸痛を引き起こす可能性のある薬剤を分類したものです。
| 分類 | 主な薬剤 |
|---|---|
| 過敏症を起こす可能性がある薬剤 | パクリタキセル、ドセタキセル、L-アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メトトレキサート、シタラビン、ドキソルビシン、エトポシド |
| インフュージョンリアクションを起こす可能性がある薬剤 | リツキシマブ、セツキシマブ、ブレンツキシマブベドチン、トラスツズマブ、ベバシズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、モガムリズマブ、アレムツズマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、ラムシルマブ |
| 心毒性を起こす可能性がある薬剤 | アントラサイクリン系(ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン)、アルキル化薬(シクロホスファミド、イホスファミド)、代謝拮抗薬(フルオロウラシル)、微小管阻害薬(パクリタキセル、ドセタキセル)、分子標的治療薬(トラスツズマブ、リツキシマブ、ベバシズマブ) |
| 肺毒性を起こす可能性がある薬剤 | EGFR阻害薬(ゲフィチニブ、エルロチニブなど)、ブレオマイシン |
化学療法による胸痛への対処法
症状が出現した時は、直ちに医師または看護師に報告することが重要です。
過敏症(アナフィラキシー)やインフュージョンリアクションが疑われる場合は、ただちに投与している薬剤を一時中止するなどの緊急的な対処が必要です。
心不全が発症した場合は、医師の指示により酸素投与や薬剤投与が行われることが多くなっています。心毒性の予防や早期診断のため、化学療法の前後で心電図検査や心エコー、BNPやトロポニンなどのバイオマーカーをモニターするなど、心機能を定期的に評価することが重要です。
薬剤性肺障害が疑われた場合は、投与している薬剤を中止し、医師の指示により酸素投与やステロイド使用などが行われます。
放射線治療によって起きる胸の痛みの詳細
放射線食道炎の症状と経過
放射線治療では、照射した部位に応じた副作用が現れます。胸部への放射線照射では、食道に放射線があたって炎症が起こることがあり、これを放射線食道炎と呼びます。
放射線食道炎は、肺がんや食道がんなどの治療で胸部に放射線を照射した患者さんの多くが経験する副作用で、食事に関するQOLを低下させます。
症状としては、胸やけ、食べ物が喉につかえる感じ、食道がチクチク痛む、飲み込みにくさ(嚥下障害)、飲み込むときの痛み(嚥下痛)などが起こります。
典型的には放射線治療開始から2週間程度で発症し、治療終了後2週間程度の時期にピークを迎えます。抗がん剤を併用しているケースでは放射線食道炎のリスクが上昇します。
食道に照射される線量がリスク因子となり、28Gyをカットオフ値にした場合、グレード2以上の食道炎が有意に多くなると考えられています。
症状は通常、治療終了後1か月ほどで改善します。
放射線食道炎の対処法
治療では、粘膜を保護する薬や痛み止めを処方してもらうことができます。
日本の臨床現場では、粘膜保護剤であるアルギン酸ナトリウム(アルロイドG、アルクレイン)が広く使用されています。ステロイドを混合することでより効果をもたらすという報告もあります。
症状がひどいときは、鎮痛剤で症状をやわらげたり、栄養剤の点滴で栄養を補ったりします。
食事の工夫も重要です。やわらかい、刺激の少ないものを食べるように心掛けます。具体的には、水分が多くやわらかいもの、のど通りがいいもの(おかゆ、スープ、豆腐など)を選び、粘膜を刺激するもの(硬いもの、極端に熱い・冷たいもの、かんきつ類、香辛料や酸味が強いもの、炭酸飲料など)は避けます。
「丸のみ」や「早食い」は避け、ゆっくりよく噛んで、1回に飲み込む量を少なくします。食材は小さく刻んで調理し、裏ごししたり、よく煮込んだりすることも有効です。
副作用の症状が強いときは症状をやわらげる治療を行いながら、放射線治療はできるだけ休まずに継続します。治療を中断すると十分な効果が得られなくなるためです。
放射線肺臓炎について
肺に放射線が照射された範囲に起こる肺炎を放射線肺臓炎と呼びます。主な症状は空咳、発熱、息切れなどですが、無症状で経過することもあります。
照射する範囲が広い場合に、咳や熱、息切れなどの症状が、治療の半ばから治療終了後にかけて現れることがあります。
放射線肺臓炎で症状が出たり、酸素不足(低酸素血症)になったりしたときは、ステロイド等で治療を行います。高熱やひどい息切れなどがある場合は、重症化するおそれがあるため、医師の指示を受けることが重要です。
軽症であれば自然治癒することもありますが、症状によっては抗炎症薬の投与などの治療が必要です。重症化すると命に関わることもあります。
肺炎が起きた部位は、治療終了後数か月から数年かけて肺線維症(組織が硬く変化する病態)に移行しますが、多くの場合は自覚症状がなく、問題となることはありません。
その他の原因による胸の痛み
精神的・心理的要因
緊張や不安などの精神的、心理的な刺激により、胸の痛みや胸部の圧迫感を感じることがあります。がん治療中は、病気への不安や治療の負担などから精神的ストレスが高まりやすく、このような症状が現れることがあります。
急性冠症候群
急性冠症候群は、心臓の血管(冠動脈)が詰まったり狭くなったりすることで心臓への血流が減少し、胸痛や胸部の圧迫感が現れる病気です。突然の強い胸痛が現れた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。
胃食道逆流症(GERD)
胃酸が食道に逆流することで、胸やけや胸痛が起こります。抗がん剤治療や放射線治療の影響で、胃食道逆流症が悪化することがあります。
その他の疾患
気管支炎、乳腺炎、大動脈解離、緊張性気胸、食道破裂、肋間筋の筋肉痛、肋骨や脊椎などの関節の痛みなども、胸の痛みの原因となることがあります。
胸の痛みが起きた時の対応
直ちに医師に連絡すべき症状
次のような症状が現れた場合は、直ちに主治医または医療スタッフに連絡してください。
- 突然の強い胸痛
- 呼吸困難や息切れ
- 動悸や不整脈
- 冷や汗、吐き気、嘔吐を伴う胸痛
- 意識がもうろうとする
- 高熱を伴う胸痛
これらの症状は、重篤な合併症の可能性があるため、緊急の対応が必要です。
主治医の診察を受ける重要性
胸の痛みの原因はさまざまであり、正確な診断には医師の診察と検査が必要です。
症状が軽度であっても、がん治療中に胸の痛みが起きた場合は、必ず主治医に相談してください。早期に原因を特定し、適切な対応を行うことで、症状の悪化を防ぐことができます。
日常生活での注意点
胸の痛みを予防したり、症状を軽減したりするために、次のような点に注意します。
禁煙は放射線治療の効果を高め、副作用を軽減するために重要です。喫煙は放射線治療の効果を弱くすることが知られています。
規則正しい生活を心掛け、十分な休息と睡眠をとります。
ストレスを軽減するため、リラックスできる時間を持つようにします。
食事では、栄養バランスの良い食事を心掛け、刺激の強い食品は避けます。
適度な運動は体力の維持に役立ちますが、医師の許可を得てから行います。
まとめ
がん患者さんに胸の痛みが起きる原因は多岐にわたります。がん(腫瘍)そのもの、手術、化学療法、放射線治療、その他の疾患などが原因となります。
それぞれの原因に応じた対処法がありますが、最も重要なのは、症状が現れた時に速やかに主治医に相談することです。
がん治療を受けている患者さんは、定期的な診察や検査を受けながら、症状の変化に注意を払い、異常を感じたら早めに医療スタッフに伝えるようにしてください。
適切な対応により、症状を軽減し、治療を継続することが可能になります。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん」
- 国立がん研究センター「がんの統計2025」
- メディカルノート「がん性胸膜炎について」
- 肺がんとともに生きる「放射線治療で起きやすい副作用」
- 小野薬品 がん情報「食道がんの放射線療法の副作用と対策」
- 日本心エコー図学会「抗がん剤治療関連心筋障害の診療における心エコー図検査の手引」
- 日本臨床腫瘍学会「Oncocardiology ガイドライン」
- 再発転移がん治療情報「がん患者の心毒性に循環器医・腫瘍医の連携で取り組むcardio-oncology」
- SURVIVORSHIP.JP「放射線治療の副作用(有害事象)と対策」
- ClinicalSup「癌性胸膜炎 症状、診断・治療方針まで」

