膵臓は血糖の調節や消化吸収に重要な臓器です。膵臓は胃の後ろにあって、頭は十二指腸、尾は脾臓に接しています。
重さは約70グラム。そんなに大きな臓器ではなく、昔は脂肪と間違えられていたため「五臓六腑」には入っていません。
膵臓の働きは大きく分けて二つあります。
ひとつはホルモンの分泌です。
膵臓は、血糖値を調節するインスリンという非常に大切なホルモンを分泌しています。
もうひとつの働きは、アミラーゼやトリプシン、リパーゼといった、糖やタンパク、脂肪を分解する重要な消化酵素を分泌しています。
このように、膵臓は血糖の調節や消化吸収に不可欠な、重要な働きをしています。
増加する膵臓がんの患者数
膵臓がんの患者数は確実に増えています。
日本における膵臓がんの死亡者数は、悪性腫瘍の死亡順位で4~5番めですが、アメリカでは2番めか3番めに位置しています。
悪性腫瘍の羅患率でいえば、大腸がんや胃がんのほうが圧倒的に高いのですが、検査法や治療法の進歩により死亡率は減少傾向をたどっています。
それらに比べて膵臓がんには決定的な治療法がないため、膵臓がんとわかったときには手遅れの状態になっていることが多く、それが死亡者数に現われています。
膵臓がんの原因とは?
膵臓がんにかかりやすい人がどのような人かまだ十分解っていません。
現状で膵臓がんに注意が必要な病気や因子とされているのは次のとおりです。
1 糖尿病
2 慢性すい炎、急性すい炎にかかったことがある
3 大量の喫煙
4 高脂肪食や肉の食べ過ぎ
5 家族や親戚に膵臓がんにかかった人がいる
たとえば肝臓がんの場合は肝炎ウイルスがリスクファクター(危険因子)であることがわかっていますが、膵臓がんの場合はそのようなリスクファクターの存在が確認されていないのが現状です。
疫学的調査をしてみると、へビースモーカーが膵臓がんになる率が若干高いことから、喫煙が膵臓がんと関係があるのではないかといわれていますが、それでも肺がんと喫煙ほど強い因果関係があるわけではありません。
食事や生活習慣でもはっきりしたものは出ていません。また、遺伝的な背景で膵臓がんが多発する家族も、ごく少数派にすぎません。
ただ、慢性膵炎のなかで石灰化膵炎という、膵臓に石が溜まったような状態になる病気がありますが、石灰化膵炎の人は割合高い頻度で膵臓がんになることがわかっています。
その点では、石灰化膵炎が膵臓がんのハイリスク・グループといえます。
膵臓の病気といえば糖尿病が代表的ですが、糖尿病と膵臓がんの因果関係にしても肯定的な意見と否定的な意見があって、はっきりしていません。糖尿病の治療で入院しても、膵臓がんの検査は治療プログラムの対象外になっています。
膵臓がんの症状
膵臓がんは症状が出にくく、症状が現れたとしても膵臓がんの症状であると気がつくのに時間がかかります。
膵臓がんの症状はがんのできる部位により異なります。
医学の世界では膵臓を頭部、体部、尾部の三つに分けていますが、それは部位によって症状が違うからです。頭部は、胆管と膵管が一緒になって十二指腸に入っていくところをふくんでいます。
ですから、頭部にできたがんのいちばんの特徴は「黄疸症状」が出ることです。
頭部にがんができると黄疸が出ますが、体部や尾部にがんができてもなかなか症状が出にくいため、かなり進行してから発見されることが多いのが特徴です。
症状としては食欲不振、腹痛、体重減少、背部痛などがありますが、なかでも特徴的なのが背部痛です。
膵臓の尻尾は後腹膜に包まれています。つまり、背中のほうにあります。そして周囲には多くの神経が走っています。
しかも、わずか2センチ程度の薄い組織であり、がんができるとすぐに背中のほうの神経に浸潤してしまいます。そのため非常に頑固な背部痛は体部や尾部のがんの特徴といえます。
また、膵臓がんが大きくなると、お腹に手を当てただけで直接シコリに触れるようになります。
体部や尾部のがんで注意しなければいけないのは、不定症状が多いことです。
なんとなくお腹が痛いと感じたとしても、それが必ずしも膵臓がんの症状というわけではありません。そのため腹痛を訴えた患者さんは胃の検査をすることになり、胃は異常なしとの診断が下され、気休めに胃薬をのんでいるあいだに膵臓がんがどんどん進行してしまう、ということがあります。
膵臓がんの死亡者数と死亡率
統計的には、日本で膵臓がんで亡くなる患者さん現在では約2万人以上、がんの死亡率の第5位で必ずしも多いものではありませんが、かかった患者の中で亡くなられる割合は95%以上と非常に高く、罹患すると治らないことでは第1位です。
外科的に切除できた膵臓がんの患者の5年生存率(手術後5年経過した時点で生存している確率)は、全国集計では10~15%ときわめて低く、消化器(胃、大腸、肝臓、すい臓)のがんの中ではもっとも不良です。
これは膵臓がんが早期にリンパ節、周囲の神経、肝臓などに転移浸潤をおこすためです。
治療成績を向上させるために手術後に放射線療法や薬物療法(抗がん剤の投与) を追加して行う試みもありますが満足できる結果には及んでいません。
膵臓がんに対する内科的治療法はまだまだ十分に確立されているとは言えません。
既存の抗がん剤に新たに開発されつつある分子標的治療薬を含め、種々の薬剤を組み合わせた臨床試験が進められています。