甲状腺はホルモン産生臓器であり、気管の前面に位置し蝶が羽を広げた形をしています。甲状腺がんは女性に多いがんで、女性3~5に対して男性は1の割合です。
組織学的には、分化がん(乳頭がん、ろほうがん)、髄様がん、未分化がんに分類されます。
甲状腺外科研究会のデータベースによれば、日本における各々の頻度は乳頭がん80.3%、ろほうがん11.9%、髄様がん1.3%、未分化がん1.8%となっており、殴米と比べ乳頭がんが非常に多く、ろほうがん及び未分化がんが少ないことが特徴です。
しかし、性質がおとなしい乳頭がんの約10%は、悪性度の高い未分化がんに変わります。
甲状腺がんの初期症状と自覚症状
甲状腺は頭部の表在性臓器であるため、視診および触診がまず重要です。
かたく、痛みのないしこりに触れることが多く、ほとんどは表面に凹凸があります。しこり以外の自覚症状はないのがふつうです。
腫瘍が大きくなると、のどに圧迫感や異物感があらわれ、外見からもはれがわかるようになります。頸部リンパ節転移に気づくこともあります。
甲状腺に接している反回神経が侵されると声がかすれ、水などを飲むときにむせるようになります。進行すると、気管や食道を圧迫して、呼吸困難、食べ物が飲み込みにくい、血たんなどの症状があらわれます。
甲状腺がんの検査と診断
良性か悪性かを確かめるために、超音波、X線、X線CT、MRIなどの画像検査を行ないます。髄様がんの場合は、腫瘍マーカーの検査でCEAとカルシトニン濃度が高く出ます。
腫瘍に細い針を刺して細胞を採取して調べる穿刺吸引細胞診では、95%くらいまで診断がつきます。
未分化がん以外の甲状腺がんは、がんの広がり、リンパ節転移の程度、遠隔転移の有無によって、Ⅰ期~Ⅳ期の4段階に分類されます。未分化がんには病期分類がありません。
病変の詳細な評価には超音波検査と穿刺吸引細胞診が有用です。
また甲状腺機能検査として甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン値などがあります。
腫瘍マーカーの1つである、サイログロプリンは良性悪性の鑑別には必ずしも有用ではありませんが、術前に高値が見られる甲状腺がん症例において術後血中サイログロブリン値の変動は、再発や転移のよい指標となります。
同じく腫瘍マーカーであるカルシトニンとCEAは、髄様がん症例において高頻度に上昇します。
甲状腺がんの予後を予測する因子として、年齢、遠隔転移の有無、甲状腺被膜外浸潤の有無、腫瘍サイズの4つが重要で、それぞれの頭文字からAMESと表現されます。
国際対がん連合(UICC)の臨床病期分類にあるように年齢は45歳以上、腫傷サイズは4cmを超えるという基準が普通用いられます。これらの因子の有無により、高危険群と低危険群に分けられます。
他の臓器のがんと異なりリンパ節転移の有無は予後に影響する因子にあげられていませんが、リンパ節転移自体は非常に高頻度にあります。
甲状腺がんの基本的な治療方法と予後(5年生存率)
甲状腺がんに対する治療法には、外科的切除、放射性ヨード療法、外照射、甲状腺ホルモン療法があります。このうち、根治が期待できるのは外科的切除であり、その他は補助療法として使用されます。
したがって、切除が可能であれば治療の第1選択は手術療法です。切除術式には葉切除術、亜全摘出術、全摘出術があります。これらの術式の選択には、予後因子を参考にします。
頚部リンパ節転移の頻度は非常に高率ですが、予後決定因子とならないという報告がほとんどであり予防的リンパ節郭清術は一般に甲状腺と気管周囲のリンパ節に行います。
その他のリンパ節は明らかな転移がみられる場合に、その部位に応じて保存的な郭清(切除)を行います。
遠隔転移や腫瘍残存例では、可能ならば放射性ヨード治療を行います。
その適応は遠隔転移を有する甲状腺分化がんで、甲状腺全摘後に検査で放射性ヨードの取り込みが認められる場合です。
全摘例および甲状腺機能低下例では術後に甲状腺ホルモン剤の内服による補充療法を必要とします。また、甲状腺の近くには体のカルシウムを調節する副甲状腺が一般に4腺あります。
甲状腺全摘例で副甲状腺機能低下例を来たすことがあり、この場合はビタミンD製剤とカルシウム剤の投与が必要とされます。
未分化がんはもっとも予後不良のがんで、標準的な治療法は確立されていないのが現状です。
一般に甲状腺がんの予後は良好で、乳頭がんと濾胞がんのⅠ期、Ⅱ期では、ほぼ根治可能です。
いっぽう予後不良のタイプである未分化がんの約90%は半年から1年以内に死亡していますが、最近は化学療法で延命効果がみられるとの報告が出ています。
あるがんセンターにおける甲状腺乳頭がんの5年全生存率(1973-1989年)は92%でした。