
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がんが進行すると、最初に発生した部位(原発巣)から他の臓器に転移することがあります。脳は転移が起こりやすい部位の一つであり、がん患者さんの約10%が脳転移を発症するとされています。
脳に転移したがんを「転移性脳腫瘍」と呼びます。これは脳そのものから発生する原発性脳腫瘍とは区別されます。転移性脳腫瘍は全脳腫瘍の17.4%を占めており、近年はMRI検査が頻繁に実施されるようになったことや高齢化の影響で増加傾向にあります。実際、米国では脳腫瘍全体の40%が転移性脳腫瘍という報告もあります。
この記事では、がんの脳転移について、症状、検査方法、最新の治療法、そして予後や生存期間について、2026年時点の最新情報を基に詳しく解説します。
脳に転移しやすいがんの種類
脳転移の原因となる原発がんには偏りがあります。東京大学医科学研究所附属病院のデータによると、脳転移をきたしやすいがんとして以下が報告されています。
| 原発がんの種類 | 脳転移全体に占める割合 |
|---|---|
| 肺がん | 約60% |
| 消化器系がん | 約15.7% |
| 乳がん | 約10.6% |
| 腎泌尿器系がん | 約6.4% |
肺がんは脳転移の原因として最も多く、全体の半数以上を占めています。これは肺が全身から血液が集まる臓器であり、がん細胞が血流に乗って脳に到達しやすいためです。
特に肺がんの中でも腺がんや小細胞肺がん、乳がんは脳転移のリスクが高いことが知られています。肺がん患者さんの頭蓋内転移率は40.8%、乳がん患者さんでは50.8%と報告されています。
また、原発巣の診断から脳転移の診断までの期間は、肺がんで平均7ヶ月、乳がんでは42~60ヶ月とされています。ただし、5年以上経過してから脳転移が見つかるケースも約7.4%存在するため、長期的な経過観察が重要です。
脳転移のメカニズムと転移しやすい部位
がん細胞が脳に転移する主な経路は「血行性転移」です。原発巣から離れたがん細胞が血管に侵入し、血流に乗って体内を循環します。この過程で多くのがん細胞は免疫系によって破壊されますが、一部は生き残り、脳の血管に到達します。
脳には通常、「血液脳関門」と呼ばれるバリア機能があり、細菌や毒素などの異物の侵入を防いでいます。しかし、がん細胞はこの関門をすり抜ける性質を持っており、脳の内部に入り込んで転移を起こすことがあります。
2024年の国際学術誌『Developmental Cell』には、肺がんが脳に転移するために重要な役割を担うタンパク質が突き止められたという研究が掲載されました。このタンパク質を標的とすることで、脳転移したがんの増殖を抑えられる可能性が示されており、今後の治療法開発が期待されています。
脳転移巣の多くは大脳半球に発生し、小脳への転移は約15%程度です。転移の形態は、単発性(1箇所)が約60%、多発性が約35%とされています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
脳転移の症状
がんが脳に転移した初期段階では、目立った症状が現れないことも少なくありません。無症状で画像検査により偶然発見されるケースが約15.5%あります。
しかし、腫瘍が大きくなると、転移したがんが周囲の脳組織を圧迫し、脳浮腫(脳のむくみ)を引き起こします。これにより、次第にさまざまな症状が現れるようになります。
脳圧亢進症状
脳は頭蓋骨という限られた空間に収まっているため、腫瘍ができると頭蓋内の圧力が上昇します。これにより以下のような症状が現れます。
- 頭痛
- 吐き気・嘔吐
- めまい
- 意識障害
頭痛は脳転移の症状として約21.7%の患者さんに認められます。
局所神経症状
脳のどの部位に転移したかによって、さまざまな神経症状が現れます。約48.6%の患者さんに局所症状が認められます。
- 体の一部の麻痺やしびれ
- 言語障害(失語症、失読、失書)
- 視覚異常(目のかすみ、視野欠損)
- 運動障害(足のふらつき、歩行困難)
- けいれん発作
- 記憶障害や認知機能の低下
- 性格変化
たとえば、手を動かす指令を出す部位に転移が起これば手のしびれや動かしにくさが、言語処理を担う領域に転移すれば言葉の理解や表出が困難になるといった具合です。
小さな転移巣でもけいれん発作などの症状が出ることがある一方で、相当大きくなるまで無症状のこともあります。
未治療の場合、無症状であっても一般に1~2ヶ月で神経症状が発現し、3ヶ月程度で生命に関わる状態になるとされています。
脳転移の検査・診断
脳転移の診断には、画像検査が中心となります。
CT検査
X線CTによる撮影が行われます。脳内出血との鑑別は比較的容易ですが、脳梗塞と誤診されるケースもあるため、必ず造影検査を行うべきとされています。
MRI検査
造影剤を用いたMRIは、脳転移の診断において最も有用な検査です。CTで脳転移の診断がついた後、治療方針を決定するために造影MRIが実施されます。CTを行わず、最初からMRIのみで診断することも可能です。
転移巣の数、大きさ、位置を正確に把握することで、適切な治療法を選択することができます。
全身検査の重要性
脳転移が見つかった場合、脳以外の臓器にも転移している可能性が高いため、全身のがん転移の検査が必要です。原発巣の状態や他臓器への転移の有無は、治療方針の決定に大きく影響します。
脳転移に対する治療法
脳転移の治療は、転移巣の個数、大きさ、部位、原発がんの種類と状態、患者さんの全身状態などを総合的に判断して選択されます。主な治療法として、手術、放射線治療、薬物療法、対症療法の4つがあります。
手術(開頭腫瘍摘出術)
以下の条件を満たす場合、手術による腫瘍摘出が検討されます。
| 手術適応の条件 | 詳細 |
|---|---|
| 転移の数 | 単発性、または単一術野で全摘出可能 |
| 腫瘍の大きさ | 大脳転移で直径3~4cm以上、小脳転移で3cm以上 |
| 原発がんの状態 | 制御されているか制御可能 |
| 他臓器転移 | 脳以外に転移がない、または制御されている |
| 全身状態 | 手術に耐えられる状態 |
| 予後 | 6ヶ月以上の生存が見込める |
手術は症状の改善が早い点で有意義です。大きな腫瘍(直径3cm以上)の場合、放射線治療だけでは症状をうまくコントロールできないことがあるため、まず手術で腫瘍を摘出し、その後で放射線治療を行うのが一般的です。
手術単独の場合の再発率は約70%ですが、術後に放射線治療を組み合わせることで再発率を約18%にまで抑えられるという報告があります。
ただし、小細胞肺がん、リンパ腫、白血病などは、生検手術以外は通常行われません。
放射線治療
放射線治療には、定位放射線治療と全脳照射の2つの方法があります。
1. 定位放射線治療(ピンポイント照射)
定位放射線治療は、腫瘍に対して多方向から放射線を集中させる方法です。脳の正常な部分に当たる放射線を最小限に抑えることができます。
代表的な装置として以下があります。
| 治療装置 | 特徴 |
|---|---|
| ガンマナイフ | 201個のコバルト線源からガンマ線を病巣に集中。ヘルメット状の装置を頭部に装着 |
| ライナックナイフ | 金属製リングで頭部を固定し、X線を照射 |
| サイバーナイフ | ロボットアームが自動制御で動きながらX線を照射 |
定位放射線治療の適応は、転移巣の数が概ね4~10個以内で、それぞれの大きさが直径3cm以下(できれば2.5cm以下)の場合です。
近年の研究で、転移数が概ね4個までであれば、定位放射線治療単独でも定位放射線治療と全脳照射の組み合わせとほぼ同等の治療成績が得られることがわかってきました。
定位放射線治療は、手術や全脳照射に比べて副作用が少ないとされますが、照射後に脳が腫れたり、周囲の正常組織が壊死を起こすなどの副作用が起こることもあります。
2. 全脳照射
全脳照射は、多発性脳転移における標準的治療方法の一つです。脳全体に放射線を照射します。
基本的な照射方法は、1日1回、週5日の照射で、以下のいずれかが行われます。
- 30Gy/10回分割/2週間(1回3Gy)
- 37.5Gy/15回分割/3週間(1回2.5Gy)
- 40Gy/20回分割/4週間(1回2Gy)
1回の線量が少ないほど(治療期間を延長するほど)、白質脳症(晩期有害事象)の発生リスクが下がるとされています。
治療期間中の一時的な副作用として、倦怠感、食欲低下、吐き気、ふらつき、めまいなどの放射線宿酔症状があります。照射開始から2週間ほどで徐々に脱毛が始まりますが、照射終了後、数ヶ月で再び生え始めます。
全脳照射の晩期有害事象として、白質脳症による認知機能障害が問題となっています。高齢者や特定の薬剤との併用により発生頻度が上昇し、通常1年以降に発生する不可逆的な障害です。
このため、近年は全脳照射をできるだけ避ける、または遅らせる治療戦略が採られています。全脳照射は生涯で一度しか実施できない「切り札」として位置づけられています。
3. 予防的全脳照射
現段階で脳転移がなくても、将来的に転移が出現する可能性が高いと判断される場合、予防的治療として全脳照射を行うことがあります。
代表的な対象疾患は、限局型小細胞肺がんです。治療によってがんが制御された症例では、予防的全脳照射により脳転移発生のリスクを減らし、3年生存率が15.3%から20.7%に増加するという報告があります。
新しい標準治療:サルベージ定位放射線治療
2018年に国立がん研究センターが実施したJCOG0504試験の結果、転移性脳腫瘍の治療に新たな選択肢が加わりました。
従来は、腫瘍摘出術後に全脳照射を行うのが標準治療でしたが、手術で残存した腫瘍や再発した腫瘍のみに定位放射線治療を行う「サルベージ定位放射線治療」が、全脳照射と同等の生存期間を保ちながら、認知機能障害の発生割合を16.4%から7.7%に低減できることが確認されました。
転移性脳腫瘍の個数が1~4個で手術が必要な場合には、腫瘍摘出術後のサルベージ定位放射線治療が新たな標準治療として推奨されています。
薬物療法(化学療法)
脳には血液脳関門があるため、脳内に入ることのできる薬剤は限られています。しかし、転移がんの場合、がん細胞が血液脳関門を壊したり血管壁を溶かして転移を引き起こすため、薬物療法が効果を示す例もあります。
従来の抗がん剤
原発がんに対する化学療法がそのまま継続されるか、または脳内に入りやすいニトロソウレア剤(ニムスチンなど)を含む多剤併用療法が行われます。
小細胞肺がん、乳がん、胚細胞性腫瘍など化学療法が効きやすい腫瘍による脳転移の場合は、原発巣と同様に腫瘍が小さくなることが期待できます。
分子標的治療薬
近年、脳転移に有効性が示された分子標的薬が登場しています。
| がんの種類 | 遺伝子変異・受容体 | 有効な薬剤 |
|---|---|---|
| 非小細胞肺がん | EGFR変異陽性 | ゲフィチニブ、エルロチニブ |
| HER2陽性乳がん | HER2陽性 | トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)、トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)、ラパチニブ |
EGFR変異陽性の肺がん患者さんでは、定位放射線治療後にEGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)を投与した場合、最も生存期間が長いという研究結果が報告されています。
免疫チェックポイント阻害薬
2015年以降、非小細胞肺がんにおける脳転移に対して、ニボルマブ(オプジーボ)やアテゾリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の有効性が報告されています。
2021年の研究では、ニボルマブとイピリムマブ(ヤーボイ)の併用により、無増悪生存期間が対照群の10.7ヶ月に比べて14.1ヶ月に延長し、全生存期間も3.5ヶ月延長したという結果が示されています。
対症療法
積極的な治療を行っても延命効果が限定的と考えられる場合や、患者さんの全身状態が不良の場合は、対症療法が実施されます。
主な対症療法として以下があります。
- ステロイド投与:脳浮腫を軽減し、症状を和らげる
- 浸透圧利尿薬(グリセオール、マンニトール):脳圧を下げる
- 抗てんかん薬:けいれん発作の予防・治療
- 脳室腹腔シャント術:水頭症に対する処置
これらの治療により、患者さんの症状を緩和し、生活の質(QOL)を維持することが目的です。
がんが脳転移したときの予後・余命・生存期間
脳転移が確認された場合の予後は、原発がんの種類、転移の数や位置、全身状態、治療の有無などによって大きく異なります。
無治療の場合
治療を行わない場合、余命は1~3ヶ月程度とされています。
治療を行った場合
適切な治療を行うことで、生存期間を延長できる可能性があります。
| 治療法 | 生存期間中央値 |
|---|---|
| 全脳照射単独 | 4~7ヶ月 |
| 手術単独 | 約10ヶ月 |
| 定位放射線治療単独 | 約10ヶ月 |
| 原発巣制御良好+単発脳転移 | 10~16ヶ月 |
近年の観察研究では、原発巣がコントロールされ、脳転移に対して定位放射線治療や手術などの局所治療を行った非小細胞肺がん患者さんの生存期間中央値が19.7ヶ月(範囲6.8~52ヶ月)と報告されています。
また、特定の遺伝子異常を有するがん(ALK/EGFR陽性肺腺がん、HER2陽性乳がんなど)では、適切な分子標的薬治療により24ヶ月以上の生存期間が得られるケースもあります。
長期生存の可能性
脳以外の臓器に転移していない、または制御されている場合、2年以上生存することも少なくありません。積極的な治療と原発がんの適切な管理により、長期生存例も増加しています。
転移性脳腫瘍全体の5年生存率は約12~24%と報告されていますが、個々の患者さんの状況により大きく異なります。
予後予測指標
SperdutoらによるGraded Prognostic Assessment(GPA)やDiagnostic-specific GPA(DS-GPA)という予後因子解析が開発されています。これらは、全身状態(KPS)、脳転移数、年齢、頭蓋外転移の有無などの因子から生存期間を予測するものです。
原発がんの種類別に予後因子と点数が決められており、治療方針の決定に役立てられています。
治療を受けるうえで知っておきたいこと
治療の目的
脳転移に対する治療の最大の目標は、神経症状を改善することと出現を予防すること(神経機能温存)です。次に、脳転移が原因で死亡すること(神経死)を防ぎ、生存期間を延長することです。
転移性脳腫瘍の患者さんの転帰を調べると、脳転移による中枢神経死の割合は約3分の1であり、残りは原発巣や他臓器転移が原因です。このため、予後予測には原発巣と他臓器転移の評価が重要です。
集学的治療の重要性
脳転移の治療は、手術、放射線治療、薬物療法などを組み合わせた集学的治療が必要です。脳神経外科医、放射線腫瘍医、腫瘍内科医などの専門医が協力して治療方針を決定することが重要です。
定期的な経過観察
定位放射線治療単独の場合、腫瘍の再増大や髄膜播種(がん細胞が脳脊髄液中にばらまかれる状態)が起こりうるため、2~3ヶ月ごとに造影MRIで定期的な経過観察を行うことが必要です。
生活の質(QOL)の維持
治療により局在症状や脳圧亢進症状を除去することで、より良い生活を回復・維持することが可能です。日常生活に障害を持ちながらの闘病生活や緩和治療は、患者さん本人にとっても、介護するご家族にとっても負担が大きくなります。
適切な治療により神経症状を改善することは、患者さんとご家族のQOL向上に大きく貢献します。
まとめ
がんの脳転移は、治療の進歩により予後が改善されつつあります。特に定位放射線治療の技術革新、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により、治療の選択肢が広がり、生存期間の延長とQOLの向上が期待できるようになりました。
脳転移が見つかった場合でも、転移の数や大きさ、原発がんの状態、全身状態などを総合的に評価し、患者さんごとに最適な治療法を選択することで、症状の改善と生存期間の延長が可能です。
肺がんや乳がんなど脳転移のリスクが高いがんの患者さんは、定期的な画像検査による早期発見が重要です。脳転移が疑われる症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医に相談しましょう。
参考文献・出典情報
- 東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科|転移性脳腫瘍
- 国立がん研究センター|転移性脳腫瘍の新たな標準治療として「腫瘍摘出術後のサルベージ(救援)定位放射線照射療法」の有効性を確認
- 日本肺癌学会|EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2017年版
- 日本乳癌学会|患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版|Q45 脳転移について
- 千葉大学大学院医学研究院 脳神経外科学|ガンマナイフ(転移性脳腫瘍)
- 徳洲会グループ|脳神経外科の病気:転移性脳腫瘍
- 慶應義塾大学病院脳神経外科|転移性脳腫瘍
- 今日の臨床サポート|転移性脳腫瘍
- 日本医科大学付属病院|転移性脳腫瘍
- 肺がんが脳に転移する仕組みと治療法を解説