がんの標準治療(手術、放射線、薬物療法)が実施できない、あるいは出来うる治療法がない、となった場合は緩和ケア(疼痛・苦痛対策の治療)のみ実施することになります。
そのときの選択肢としては、緩和ケア外来へ通う、通えない場合は緩和ケア病棟のある病院への入院、あるいは在宅ケアという形になります。
ここでは、緩和ケア病棟へ入院する場合の費用の平均と、在宅ケアに関する費用の平均的な金額について解説します。
ホスピスや緩和ケアに入院した場合の費用
ホスピスや緩和ケア病棟に入院したときの費用は一般の病院の診療費とは異なります。
認可を受けた緩和ケア病棟では、検査や治療の内容や薬の種類、病状にかかわらず、入院・治療費は一律1日約3万8000円です。
これらは高額療養費制度の対象になるため、患者さんに平均的な収入があれば自己負担額は1カ月に9万円程度となります。
そのほかに食費の一部(1日780円)、部屋によっては差額ベッド代、さらに家族がつき添う場合には滞在費が必要になります。(いずれも保険や高額療養費の対象とはならない)
定額制は、患者さんや家族にとっては経済的に安心感が得られる制度ではありますが、最近、問題点も浮かび上がってきました。
定額制にすると、ケアの質を抑えなければ医療施設側が経営的に成り立たないこともあります。
つまり医療側が患者さんによりよいケアを提供したくとも、医療費の制約から、ケアに携わる人数を最少限に抑えたり、薬の量や種類を少なくせざるを得ないことがあるとされているのです。
そこで日本ホスピス緩和ケア協会は、ホスピスの緩和ケアについて評価の指針を作成し、各ホスピスや媛和ケア病棟に対して、よりよいケアが実現されているかどうか自己評価するように求めています。
他方で、このような医療の定額制度は見直すべきだとする声もあります。
がんの在宅ケアにかかる費用は
在宅ケアの費用は入院より安価にすむことが多いようです。
在宅ケアで必要になるのは、実際には、医師の訪問診療や看護師の訪問看護、ヘルパーなどの派遣費用、薬代や指導料、交通費などです。
患者さんの病状や介護保険を利用できるかどうかにもよりますが、在宅ケアの場合、1カ月の療養費用(自己負担分)は10万円程度のことが多いようです。
費用は患者さんの病状によってかなり異なり、患者さんの容態が悪いときには全体として入院より高額になることもあります。
なお、以前までは末期がんの患者さんは介護保険の対象とはなりませんでした。
しかし2006年から、40歳以上の末期がん患者さんの在宅ケアでも介護保険を利用できるようになりました。
介護保険において末期とは、医師が患者さんについて「治癒は難しい、もしくは不可能」と判断したときと定義され、余命がどのくらいかや患者さんが自分の病状をきちんと認識しているかどうかは問いません。
末期がん患者さんに対しては、介護に関する費用や介護施設などでの短期滞在(ショートステイ)には介護保険が適用されます。
また、自宅の改修費用や介護用品の購入費・レンタル料の一部も介護保険が負担することがあります。
しかし医師の訪問診療や看護師の訪問看護は、介護保険ではなく、医療保険の対象となります。
たとえ疼痛治療のみでも、末期のがん患者さんには十分な医療体制が必要になるためです。
70歳未満の患者さんや70歳以上でも一定の収入がある患者さんの場合、医療保険では医療費の3割が自己負担となり、介護保険では介護費用の1割負担となります。
医療費や介護費が高額になるときには、高額療養費制度や高額医療・高額介護合算制度により、自己負担分の一部が返還されます。
くわしい在宅ケアの療養費に関しては、がん拠点病院の相談支援センターや、訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどにたずねるとよいでしょう。
日本では現在、医療費抑制のために末期がんの在宅ケアを推進する方向にあります。これは、末期がん患者さんに対する介護制度を充実させることにつながっているようです。
反面、近くに往診する医師がいなかったり、24時間対応できる訪問看護ステーションがないなど、在宅ケアの環境が十分に整っていない患者さんに対しても、在宅ケアがうながされる例もあります。
患者さんや家族は在宅ケアの利点と問題点をよく知ったうえで、在宅で療養するかどうかを選択すべきです。
なお、患者さんが65歳以上で容態が落ち着いているときには、特別養護老人ホームなどに入所し、そこで在宅ケアとほぼ同様の訪問看護を受けられる可能性もあります。