
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がんの治療が難しくなり、標準治療である手術、放射線治療、薬物療法が実施できない状況になった場合、あるいは治療効果が見込めない段階に至った場合、患者さんとご家族は緩和ケアという選択肢を検討することになります。
緩和ケアとは、がんによる痛みや息苦しさ、吐き気などの身体的な苦痛を和らげるとともに、不安や抑うつといった精神的な苦痛にも対応する医療です。治療を目的とするのではなく、患者さんの生活の質を可能な限り維持し、穏やかに過ごせるようにすることを目指します。
緩和ケアを受ける場所としては、主に次の3つの選択肢があります。
- 緩和ケア外来に通院する
- 緩和ケア病棟(ホスピス)に入院する
- 自宅で在宅ケアを受ける
患者さんの病状や生活環境、ご家族の希望などによって、どの選択肢が最適かは異なります。そして、選択を考える際に重要な要素の一つが「費用」です。
この記事では、緩和ケア病棟へ入院する場合の費用と、在宅ケアを受ける場合の費用について、2026年時点の最新情報をもとに具体的な金額や利用できる助成制度を解説します。
緩和ケア病棟(ホスピス)入院にかかる費用の実際
緩和ケア病棟やホスピスに入院する場合、一般の病棟とは異なる料金体系が適用されます。厚生労働省が認可した緩和ケア病棟では、「緩和ケア病棟入院料」という定額制の診療報酬制度が導入されています。
緩和ケア病棟入院料の仕組み
緩和ケア病棟入院料は、患者さんの病状、実施する検査や処置の内容、使用する薬剤の種類や量にかかわらず、1日あたりの料金が定額となっています。2026年現在、この入院料は1日あたり約38,000円から43,000円に設定されています。
この料金には、診察、看護、薬剤、検査、処置など、緩和ケアに必要なほとんどの医療行為が含まれています。つまり、痛み止めの薬を多く使ったからといって追加料金が発生することはなく、患者さんやご家族にとっては費用の見通しが立てやすい制度です。
患者さんの実際の自己負担額
日本の医療保険制度では、70歳未満の方は医療費の3割を自己負担することになっています。仮に1日の入院料が40,000円であれば、3割負担で12,000円が自己負担となり、1カ月(30日)では360,000円になります。
しかし、高額療養費制度が適用されるため、実際の負担額はこれよりかなり少なくなります。高額療養費制度とは、1カ月の医療費が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度です。
自己負担限度額は、患者さんの所得区分によって異なります。以下の表は、2026年時点の70歳未満の方の自己負担限度額です。
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
| 年収約770万円~約1,160万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
| 年収約370万円~約770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 |
| 住民税非課税世帯 | 35,400円 |
平均的な収入(年収約370万円~約770万円)の患者さんの場合、1カ月の自己負担額は約87,000円から90,000円程度になります。さらに、同じ医療機関での入院が長期にわたる場合、4カ月目からは「多数回該当」として自己負担限度額がさらに引き下げられます。
入院料以外にかかる費用
緩和ケア病棟への入院では、定額の入院料以外にも以下の費用が必要になることがあります。これらは高額療養費制度の対象外です。
| 費用項目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 食事療養費 | 1食あたり490円(1日1,470円) | 標準負担額、所得により減額あり |
| 差額ベッド代 | 1日あたり5,000円~30,000円 | 個室や特別室を希望した場合のみ |
| 家族滞在費 | 施設により異なる | 家族が病室に泊まる場合 |
| おむつ代・日用品 | 月額10,000円~20,000円 | 必要に応じて |
多床室(大部屋)を選択すれば差額ベッド代は発生しません。個室を希望する場合は、施設によって料金が異なりますので、入院前に確認することが重要です。
緩和ケア病棟の定額制度における課題
定額制は患者さんやご家族にとって費用の予測がしやすいというメリットがありますが、医療提供側にとっては課題もあります。
定額制では、どれだけケアに時間や資源をかけても収入は変わりません。そのため、医療施設によっては、経営を維持するために看護師や薬剤師などのスタッフ数を最小限に抑えたり、使用する薬剤の種類や量を制限せざるを得ない状況が生じることがあります。
この問題に対応するため、日本ホスピス緩和ケア協会は、緩和ケアの質を評価する指針を作成し、各施設に自己評価を求める取り組みを行っています。また、医療報酬制度自体を見直すべきだという議論も続いています。
患者さんやご家族としては、緩和ケア病棟を選ぶ際に、費用だけでなく、スタッフの体制や提供されるケアの内容についても情報を集め、可能であれば事前に見学することをお勧めします。
在宅緩和ケアにかかる費用の内訳と実際
自宅で緩和ケアを受ける在宅ケアは、多くの場合、入院よりも費用を抑えられる選択肢です。住み慣れた環境で家族とともに過ごせるという精神的なメリットもあります。
在宅ケアで必要となる医療・介護サービス
在宅で緩和ケアを受ける場合、以下のようなサービスを利用することになります。
| サービス内容 | 提供者 | 保険の種類 |
|---|---|---|
| 訪問診療 | 医師 | 医療保険 |
| 訪問看護 | 看護師 | 医療保険または介護保険 |
| 訪問介護(身体介護・生活援助) | ホームヘルパー | 介護保険 |
| 訪問薬剤管理指導 | 薬剤師 | 医療保険または介護保険 |
| 訪問入浴介護 | 介護事業者 | 介護保険 |
| 福祉用具のレンタル | 介護事業者 | 介護保険 |
在宅ケアの月額費用の目安
在宅ケアにかかる費用は、患者さんの病状やどのサービスをどの程度利用するかによって変わります。一般的な目安としては、月額の自己負担額は80,000円から120,000円程度です。
具体的な内訳の例を示します。
| 費用項目 | 月額費用(自己負担分の目安) |
|---|---|
| 訪問診療(週1回程度) | 15,000円~25,000円 |
| 訪問看護(週2~3回) | 20,000円~40,000円 |
| 訪問介護(週3~4回) | 10,000円~20,000円 |
| 薬剤費 | 10,000円~30,000円 |
| 福祉用具レンタル(介護ベッドなど) | 3,000円~8,000円 |
| その他(訪問入浴、交通費など) | 5,000円~15,000円 |
| 合計 | 63,000円~138,000円 |
病状が安定している時期は費用が抑えられますが、痛みのコントロールが難しくなったり、全身状態が悪化して訪問回数が増えたりすると、月額150,000円を超えることもあります。
医療保険と介護保険の使い分け
在宅ケアでは、医療保険と介護保険の両方を利用することになります。それぞれの適用範囲を理解しておくことが大切です。
医療保険が適用されるのは、医師の訪問診療、看護師の訪問看護(医療処置が必要な場合)、薬剤費などです。70歳未満の患者さんは3割負担、70歳以上で一定所得以下の方は1割または2割負担となります。
介護保険が適用されるのは、訪問介護(入浴介助、食事介助、掃除、洗濯など)、訪問看護(医療処置を伴わない場合)、福祉用具のレンタル、住宅改修費用などです。利用者の自己負担は原則1割(一定以上の所得がある方は2割または3割)です。
がん患者さんが利用できる介護保険制度
2006年の制度改正により、40歳以上の末期がん患者さんは、65歳未満であっても介護保険を利用できるようになりました。これは在宅ケアを選択する患者さんにとって重要な制度です。
末期がんの定義と認定基準
介護保険における「末期がん」の定義は、医師が「治癒が困難である」と判断した状態を指します。余命が何カ月かという具体的な期間は問われず、また患者さん自身が自分の病状をどこまで理解しているかも問われません。
主治医が「末期がん」と診断し、意見書を作成すれば、市区町村の認定調査を経て要介護認定を受けることができます。通常の介護認定では申請から認定まで1カ月程度かかりますが、末期がんの場合は迅速な審査が行われることが多く、2週間程度で認定されるケースもあります。
介護保険で利用できるサービス
要介護認定を受けたがん患者さんは、以下のようなサービスを介護保険で利用できます。
- 訪問介護(ホームヘルパーによる身体介護・生活援助)
- 訪問入浴介護
- 通所介護(デイサービス、体調が許せば)
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 福祉用具のレンタル(介護ベッド、車いす、歩行器など)
- 住宅改修費(手すりの設置、段差の解消など、上限20万円)
ただし、医療行為である訪問診療や訪問看護は、介護保険ではなく医療保険の適用となります。末期がんの患者さんには痛みのコントロールなど十分な医療管理が必要であるためです。
高額療養費制度と高額医療・高額介護合算制度の活用
在宅ケアでも、医療費や介護費が高額になった場合には、負担を軽減する制度を利用できます。
高額療養費制度
医療保険から支払う医療費が1カ月の自己負担限度額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。在宅での訪問診療や訪問看護、薬剤費などが対象となります。
入院の場合と同じく、所得区分によって自己負担限度額が決まります。平均的な所得の方であれば、月額約8万円から9万円が上限となります。
高額医療・高額介護合算制度
医療保険と介護保険の両方で自己負担がある場合、年間(毎年8月1日から翌年7月31日まで)の合算額が一定額を超えると、超えた分が払い戻される制度です。
| 所得区分(70歳未満) | 自己負担限度額(年額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 212万円 |
| 年収約770万円~約1,160万円 | 141万円 |
| 年収約370万円~約770万円 | 67万円 |
| 年収約370万円以下 | 60万円 |
| 住民税非課税世帯 | 34万円 |
在宅ケアでは医療と介護の両方のサービスを長期間利用することが多いため、この制度を活用することで年間の負担を軽減できます。
自治体独自の助成制度と相談窓口の活用
国の制度に加えて、都道府県や市区町村が独自に実施している助成制度もあります。
自治体独自の医療費助成
一部の自治体では、がん患者さんに対する医療費助成制度や、在宅療養への支援金を設けています。内容は自治体によって異なりますので、お住まいの市区町村の福祉課や保健所に問い合わせることをお勧めします。
また、がん患者さんとご家族のための「がん患者サロン」や「ピアサポート」などの活動を行っている自治体もあります。費用に関する情報交換や相談ができる場として活用できます。
相談できる窓口
在宅ケアの費用や制度について詳しく知りたい場合、以下の窓口に相談できます。
- がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」
- 地域包括支援センター
- 訪問看護ステーション
- ケアマネジャー(介護支援専門員)
- 市区町村の福祉課・介護保険課
- 加入している健康保険組合の相談窓口
これらの窓口では、患者さんの状況に応じた具体的な費用の見積もりや、利用できる制度の案内を受けることができます。
在宅ケアを選択する際の検討ポイント
現在、日本では医療費抑制の観点から、在宅での療養を推進する政策がとられています。それに伴い、末期がん患者さんに対する介護保険の適用拡大など、在宅ケアの環境整備が進められています。
しかし一方で、地域によっては24時間対応できる訪問看護ステーションがなかったり、往診可能な医師が近くにいなかったりと、在宅ケアの体制が十分に整っていない地域もあります。
患者さんとご家族が在宅ケアを選択する際には、以下の点を検討することが重要です。
在宅ケアのメリット
- 住み慣れた自宅で、家族とともに過ごせる
- 自分のペースで生活できる
- 面会時間の制限がない
- 費用が入院より抑えられる場合が多い
在宅ケアの課題
- 家族の介護負担が大きくなる
- 24時間対応の医療・看護体制が必要
- 急変時の対応に不安がある
- 住環境の整備(バリアフリー化など)が必要な場合がある
- 地域によっては在宅医療の提供体制が不十分
これらのメリットと課題を理解したうえで、患者さんとご家族がよく話し合い、無理のない選択をすることが大切です。
特別養護老人ホームでの看取り
患者さんが65歳以上で、病状が比較的安定している場合には、特別養護老人ホームへの入所も選択肢の一つです。特別養護老人ホームでは、施設内で訪問看護や訪問診療を受けることができ、在宅ケアとほぼ同様の医療・介護サービスを受けながら最期を迎えることも可能です。
特別養護老人ホームの入所には要介護3以上の認定が原則として必要ですが、地域や施設によって入所基準や待機状況が異なりますので、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談することをお勧めします。
まとめとして
がんの緩和ケアにかかる費用は、選択する療養の場所やサービスの内容によって異なります。緩和ケア病棟への入院では定額制により月額約9万円程度の自己負担が標準的で、在宅ケアでは月額8万円から12万円程度が目安となります。
高額療養費制度や介護保険、自治体独自の助成制度など、利用できる制度を活用することで、経済的な負担を軽減できます。費用だけでなく、患者さんの希望、ご家族の状況、地域の医療・介護体制などを総合的に考慮し、最適な選択をすることが大切です。
不明な点や不安なことがあれば、遠慮せずに医療機関の相談窓口やケアマネジャーに相談してください。納得できる選択をするために、十分な情報を得ることが重要です。

