大腸がんが、粘膜下層より深く、大腸の壁に食い込むほど大きくなると、腸の壁の中にある血管やリンパ管に、がん細胞が入り込むようになります。
血管やリンパ管に入り込んだがん細胞は、これらを伝って全身へ広がっていきます。
そのため、(第一の選択肢になっている)手術を行う前に、がんがどの程度まで広がっているかを調べるためにさまざまな検査を行います。
しかし、ごく小さながんを見つけるのには限界があります。
最新の技術をもってしても、5mmに満たないような、ごく小さながんを見つけるのは困難です。
そのため、手術でがんをすべて切除できたと判断されても、別の臓器に転移した少量のがん細胞が、からだの中に残っていることがあります。
再発とはなにか
手術のあと、その残っていたごく少量のがん細胞が時間がたつにつれて徐々に増えて、しこりをつくり、大きくなり、目に見えるような大きさにまで大きくなったことを、がんの「再発」といいます。
つまり、再発とは、手術のときには見えなかった小さな"転移"が、あとになって大きくなってきたものなのです。
大腸がんの手術では、再発をできるだけ防ぐために、がん細胞が潜んでいる危険性がある範囲のリンパ節を切除したり、抗がん剤を使って、残っているかもしれない目に見えないがん細胞を退治したりします。
それでも、生き残っているがん細胞がいると、それが徐々に大きくなってきて再発を起こすのです。
大腸がんの転移とは
がんが最初にできた臓器は「原発巣」と呼ばれます。大腸がんは大腸が原発巣です。
転移先のがん細胞は、原発巣のがん細胞と同じ性質を持っているので、生検で顕微鏡を介して見ると、原発巣がどの臓器のがん細胞か、見分けることができます。
そしてがんが原発巣以外の場所に"飛び火"し、定着することを「転移」といいます。
(※がん細胞が大きくなって、”隣の臓器”まで入り込んでしまったものは転移ではなく、「直接浸潤」といいます。)
転移した先で大きくなったがんを「転移巣」と呼びます。
原発巣が大腸で肝臓に転移した場合、この肝臓で増殖してしまったがんを「大腸がんの肝転移(巣)」と呼びます。
これはいわゆる"肝臓がん"(原発性肝臓がん。もともと肝臓の細胞から発生したがん)とは違います。
大腸にできたがん(大腸がん=原発巣)が肝臓に転移したものですから、「大腸がんの肝転移」(転移性肝臓がん)であり、大腸がんの細胞から成っているため、大腸がんとして治療が行われます。
転移の仕方には、大きく分けて、リンパ行性転移、血行性転移、播種の3種類があります。
大腸がんのリンパ行性転移
大腸がんでは、ほかの臓器のがんと比べると、リンパ管を通って転移する「リンパ行性転移」がよく起こるとされています。
リンパ管は、組織と組織の間をリンパ液が流れる導管で血管と同じように、体中にはりめぐらされています。リンパ液の役割は、組織中にできた老廃物や異物、細菌を運ぶことです。
リンパ管には、多数のリンパ節があり、リンパ液によって運ばれた細菌や病原菌、異物をリンパ節で(免疫機能の役割をもつ)リンパ球が食い止めて処理します。
転移先へ行く途中、リンパ球が異物を排除しようとするため、ほとんどのがん細胞は死んでしまいます。しかし、そんな過酷な条件の中で生き抜いた、いくつかのがん細胞は増殖して大きくなります。
このように、リンパ管を通ってリンパ節に転移する場合、腫瘍に近いところから、1群リンパ節、2群リンパ節、3群リンパ節、4群リンパ節と範囲を分けて呼びます。
たとえば、大腸でがんになっても、がん細胞がリンパ管を伝って移動し、首のリンパ節に転移する可能性があります。
これは4群リンパ節の範囲です。
しかし、これほど大腸から離れた場所にがん細胞が転移したということは、すでにリンパ管などを通って、ほかの臓器にも転移している可能性が大きいといえます。
このように、1群、2群、3群と腫瘍から離れたリンパ節に転移が見られるほど、ほかの臓器へ転移する可能性が高くなります。
このほか、がん細胞が血管を通ってほかの臓器に転移する場合は「血行性転移」、がん細胞が腹部に散らばって転移する場合は「播種性転移」と呼ばれます。
大腸がんの血行性転移
がん細胞が大腸の壁の中にある細い血管の中に入り、血液の流れに乗って、からだのほかの部位に移動して大きくなることを「血行性転移」といいます。
大腸の血液はまず肝臓に集まることから、大腸がんの血行性転移としては肝転移が最も多く、次に多いのが肺転移です。
そのほか、同様に血液の流れに乗って、骨や脳に転移することもあります。
このように臓器へ転移しても、最初のうちは症状がありません。
進行すると、肝転移では黄痘や鈍い痛み、腹水などがおこり、肺転移では血疾や胸痛、肺炎など、骨転移では痛みや骨折などの症状が多く見られます。
大腸がんの播種性転移
播種性の転移では、腹膜や女性なら卵巣にまでバラバラと散らばるように転移することが多く見られます。
腹膜は、腹部の内臓の表面や腹壁の内側をおおっている膜のことです。
腹膜播種が進行すると、腹部全体の痛みや腸の動きが悪くなり、がん性の腹膜炎を起こすこともあります。
なお、原発巣が見つかったときに転移巣も合わせて見つかることを「同時性転移」、原発巣を手術したあと、時を経て転移巣が見つかることを「異時性転移」といいます。
大腸がんの進行度によって再発・転移の確率も異なる
再発や転移の起こりやすさは、現時点で判明しているがんの進行度で異なります。
大腸がんの進行度は、がんが腸管粘膜の表面からどの程度まで深部に達しているかで0~44期(ステージ0~4)に分けられます。
0期~1期の粘膜下層にとどまるがんを「早期がん」、固有筋層より深部に達するがんや転移のあるがんを「進行がん」といいます。
早期がんでも10%程度にリンパ節への転移がみられます。
そのような場合は、ステージ3期に分類されます。
がんが粘膜内部にとどまっている0期では、内視鏡治療や腹腔鏡手術、開腹手術など、どのような治療・手術方法でも、完全にがんとその周囲を切除できていれば、再発が起きる確率は少ないです。
ところが、がんが粘膜下層に達している1期ではおよそ1.5%に再発がみられるというデータがあります。
同じ1期でも、がんが固有筋層にまで達していると、再発率は6.5%と高くなります。
がんが筋層よりもっと深部へ達していると、リンパ節への転移がなくても、再発率は22%とさらに高くなります。
リンパ節に転移している場合には、再発率が30%にもなります。
大腸がんステージ2・3のときの転移の可能性と確率は?
ステージ2、ステージ3に進行した大腸がんでは、初診時にすでに半数以上にリンパ節転移、15%に肝転移、5%弱に腹膜転移を認めます。
リンパ節転移が多いのは、大腸の動脈(栄養血管)に沿ってリンパ管があり、がん細胞がそのリンパ管を通ってリンパ節に向かっていくからです。
そのため進行大腸がんの手術では、基本的に原発病巣を切除すると同時に、局所のリンパ節も切除します(リンパ節郭清)。
適切なリンパ節郭清が行われていれば、リンパ節再発の頻度は低くなることが分かっています。
大腸がんの転移は肝臓と肺におきやすい
大腸がんの転移が最も起こりやすい場所は肝臓です。これは、大腸からの血液がまず肝臓に集まるためと考えられます。
2番目に多いのが肺です。
そのほか、最初にがんが見つかった場所の近くに局所転移することや、腸をつなぎ合わせた部分に吻合部転移することもあります。
頻度は少ないですが、血液の流れに乗って脳や骨に転移を起こすこともあります。
また、結腸がんと直腸がんでは、転移を起こしやすい場所が若干異なります。
結腸がんでは肝臓が最も多く、直腸がんでは、肝臓、肺、局所転移が同じくらいの頻度となっています。
大腸がんの転移治療には手術のほか化学療法や放射線療法も
大腸がんでは、可能であればがんの切除手術が基本です。手術が可能か判断する目安は次のとおりです。
1.転移は1つの臓器だけである
2.がん病巣がすべて切除できる
3.切除しても生活に支障がない程度に臓器を温存できる
4.手術に耐えられる体力がある
2つ以上の臓器に転移していても、切除が可能なら手術が行なわれることがあります。
手術が難しい場合は局所療法や全身化学療法など、他の治療法が検討されます。
局所療法
転移が局所(1つの臓器)に限られる場合の治療です。放射線治療や肝動注療法などがこれにあたります。抗がん剤による化学療法と放射線治療を組み合わせることもあります。
全身化学療法
2つ以上の臓器に転移がある場合や、手術で切除できない場合の治療法で、通常、3種類以上の抗がん剤が用いられます。手術と他の治療法を組み合わせることもあります。
転移のある大腸がんに行われる化学療法(抗がん剤治療)
基本的には最初の治療でオキサリプラチンの併用療法を行って効果がなくなった場合には、イリノテカンの併用療法を試します。
逆に、最初にイリノテカンの併用療法を施したときは、オキサリプラチンの併用療法となります。
日本ではほかに、フルオロウラシル系の経口剤であるTS-1、カペシタピン(適応外)などが利用されています。
がんが肝臓に転移したときには、動注療法を行うこともあります。
転移性大腸がんとベバシズマブ(アバスチン)
ベバシズマブは、がん細胞を直接標的とせず、がんのライフラインである腫瘍血管の新生を阻害する血管新生阻害薬で、抗体医薬のひとつです。
がんは非常に貧欲で、自分に栄養を与える血管を次々につくらせる物質を出しますが、ベバシズマブはこの物質に作用して、血管新生を妨げます。
転移性の大腸がんの患者さん813人を対象としたベバシズマブの臨床試験では、
イリノテカン(カンプト、トポテシン)、フルオロウラシル(5-FU)、ホリナート(ロイコボリン)を併用するIFL療法だけを行った群(411人)と、IFL療法にベバシズマブを併用する群(402人)を比較しました。
この試験の結果、IFL療法にベバシズマブを併用することで、有意に生存期間が延長することがわかったことで、ベバシズマブは大腸がん治療の主要な薬としてラインナップされることになりました。
大腸がんステージ4の抗がん剤治療の効果と奏効率
大腸がんから肝転移や肺転移をおこし、さまざまな条件から転移巣の切除ができない場合には、化学療法が選択されます。
肺転移は肝転移と異なり、肝動脈内注入化学療法のような局所治療が難しいため、全身に抗がん剤をまわす方法がとられます。
「5-FU」+「ロイコボリン(leucovorin)」の静脈注射や、それらと「CPT-11(塩酸イリノテカン)」の併用療法が行われますが、全体的に見ると全身化学療法の効果は低く、多くは奏効率25~50%と報告されています。