
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
大腸がんは進行すると、血液の流れに乗ってがん細胞が他の臓器に移動し、転移を起こすことがあります。肝臓への転移に次いで多いのが肺転移です。
肺転移が見つかると、患者さんやご家族は「もう治らないのではないか」と不安を感じることが多いですが、近年の医療の進歩により、適切な治療を選択することで、長期生存や治癒が期待できるケースも増えています。
ここでは、大腸がんの肺転移について、症状、診断方法、治療の選択肢、そして予後について、最新の情報をもとに詳しく解説します。
大腸がんの肺転移とは~血行性転移のメカニズム
大腸がんの肺転移は、がん細胞が血液の流れに乗って肺に到達し、新たな腫瘍を形成する「血行性転移」によって起こります。
大腸から吸収された栄養は、門脈という血管を通って肝臓に運ばれます。がん細胞も同じ経路をたどるため、大腸がんはまず肝臓に転移しやすく、その後、血流がさらに進むことで肺へと転移するケースが多く見られます。
肺は呼吸で取り入れた酸素を全身に送る臓器であり、肺の末梢にある肺胞には酸素を運搬する血液が集まってきます。そのため、肺胞にがん細胞が引っかかりやすく、血行性転移が起こりやすくなります。
大腸がんの遠隔転移の中で、肺転移は肝転移に次いで多く、ステージ4の診断基準の一つとなります。
大腸がんの肺転移で現れる症状
肺への転移は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。定期検査の画像診断で偶然発見されるケースが多いため、大腸がんの治療後は定期的な経過観察が重要です。
しかし、肺転移が進行すると、呼吸に関係するさまざまな症状があらわれてきます。
進行時に見られる主な症状
- せき(1週間以上続く場合は注意が必要)
- たんの増加
- 血たん(気管の粘膜が侵されることで出現)
- 息苦しさ、呼吸困難
- 胸の痛み
- 食べ物を飲み込む時の違和感
肺転移のがん病巣が増大すると、気管支や気管が圧迫され、狭窄や閉塞が生じます。そのため、息苦しさを感じたり、横になって寝ることが困難になることもあります。
風邪の場合、せきは2~3日程度で良くなるのが一般的ですが、1週間以上続くせきや血たんが出る場合は、肺転移だけでなく他の重大な疾患の可能性もあるため、すぐに医療機関を受診することをお勧めします。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
大腸がん肺転移の診断と検査方法
肺への転移が疑われる場合は、以下のような検査で詳しく調べます。
主な検査方法
| 検査名 | 検査内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 胸部X線検査 | 胸部のレントゲン撮影 | 簡便な初期スクリーニング検査 |
| 胸部CT検査 | X線を用いた断層撮影 | 転移巣の位置、大きさ、個数を詳細に確認可能 |
| PET-CT検査 | 放射性薬剤を用いた全身検査 | 他の臓器への転移の有無も同時に確認可能 |
| 血液検査(腫瘍マーカー) | CEA、CA19-9などの測定 | 補助的な診断、治療効果の判定に使用 |
CT検査は、転移巣の位置や大きさを詳細に把握するための基本的な検査です。造影剤を使用することで、病変をより鮮明に描き出すことができます。
PET-CT検査は、がん細胞がブドウ糖を多く取り込む性質を利用した検査で、1回の撮影で全身のがんを調べることができます。大腸がんの肺転移の診断においては有用性が高く、他の検査で診断が難しい場合や、腫瘍マーカーの上昇から転移や再発が疑われる場合に行われます。
大腸がん肺転移の治療方針の決定
肺に転移が見られた場合、まず以下の点を総合的に検討して治療方針を決定します。
治療方針決定の際の検討項目
- 肺のどの部分に転移巣がいくつあるか
- 転移巣がすべて取り切れるかどうか
- 肺以外に転移している臓器がないか
- 手術後の生活に支障がないだけの肺機能が残せるか
- 患者さんが手術に耐えられるかどうか(耐術能)
これらの条件を満たし、手術が可能と判断された場合には、転移巣のある部分の肺を切除する手術が検討されます。
大腸がん肺転移の手術療法
手術の適応条件
大腸がん肺転移に対する手術は、以下のような条件を満たす場合に適応となります。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 原発巣の状態 | 原発巣が切除可能、または切除済みであること |
| 転移の個数 | 一般的には3個以内が望ましい(保険適用は3個以内) |
| 転移の大きさ | 直径5cm以内 |
| 肺以外の転移 | 肺以外に転移がない、または制御されていること |
| 肺機能 | 切除後も十分な肺機能が維持できること |
| 全身状態 | 手術に耐えられる体力があること |
胸腔鏡手術の普及
最近では、胸に小さな穴を数か所あけて、そこから内視鏡と手術器具を入れ、モニターに映る映像を見ながら手術を行う「胸腔鏡手術」が主流となっています。
この方法によって、小さな傷で肺を部分的に切除することができ、手術後の痛みも少なく、回復も早くなりました。身体にかかる負担が少ないため、高齢の患者さんでも受けられるケースが増えています。
手術の時期と方法
大腸がん研究会のガイドラインによると、同時性肺転移(大腸がんと同時期に発見された肺転移)の場合は、原発巣の切除を先行し、局所の根治性を評価することが望ましいとされています。そのため、原則的に同時性肺転移は異時切除(時期をずらして切除)となります。
転移巣の数、大きさ、部位および気管支内進展を評価し、切除断端距離を確保した転移巣の完全切除ができる術式を決定します。
大腸がん肺転移の手術後の予後と生存率
完全に切除されれば改善するケースも比較的多く、切除可能であれば積極的に切除すべきだという考え方が一般的です。
肺切除後の生存率
大腸がん研究会プロジェクト研究の多施設集計によると、以下のような結果が報告されています。
| 項目 | 生存率 |
|---|---|
| 肺切除例の5年生存率 | 46.7% |
| 肺切除例の5年無再発生存率 | 33.7% |
| 非切除例の5年生存率 | 3.9% |
| 肺切除例の3年生存率 | 53.8% |
初めての再発転移で肺だけに転移していた場合、手術で切除した患者さんの5年生存率は約40~50%というデータもあり、他の臓器への転移がない限局した肺転移であれば、手術による長期生存が期待できます。
手術が困難なケース
ただし、肺の左右両葉に5個以上の転移巣がある場合は、切除しても1年以内に再発がみられることが多く、治療成績が良いとはいえません。
また、肝臓と違って肺には再生能力がありません。したがって、切除後もう1度肺に再発が確認された場合でも、それ以上切除したら肺機能を維持できないと判断されれば、手術ができないこともあります。
大腸がん肺転移の化学療法(薬物療法)
手術でがんをすべて取り切ることができない場合、または肺以外にも転移がある場合には、化学療法(抗がん剤などの薬物による治療)が提案されます。
使用する薬剤
肺転移で切除手術ができない場合には、複数の抗がん剤による全身化学療法を行うのが一般的です。
重要な点として、使用する抗がん剤は、原発部位が肺である場合の肺がんの治療に用いられるものとは種類が異なります。あくまで大腸がんとして、大腸がん用の薬が使われます。
現在、保険診療が認められている主な抗がん剤や分子標的薬には、以下のようなものがあります。
- 5-FU系抗がん剤(5-FU、UFT/LV など)
- オキサリプラチン
- イリノテカン
- 分子標的薬(ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブなど)
- 免疫チェックポイント阻害剤(一部の患者さん)
切除不能な進行再発大腸がんへの化学療法の目標は、腫瘍の増大を遅延させて延命と症状コントロールを行うことです。最近の化学療法の進歩により、生存期間中央値は約2年まで延長してきました。化学療法が奏効して切除可能となることもあります。
大腸がん肺転移の放射線治療
転移のできた場所や転移巣の数、患者さんの体の状態によっては、放射線治療が行われる場合もあります。
定位放射線治療(SBRT)
化学療法の効果が不十分な時や、転移がんの数が少ない場合(3個以内)には、定位放射線治療(体幹部定位放射線治療:SBRT)が行われることがあります。
SBRTは、病巣にピンポイントで高線量の放射線を短期間に照射する治療法で、2020年現在、以下の条件で保険適用となっています。
| 対象 | 条件 |
|---|---|
| 転移性肺がん | 3個以内で、他病巣のないこと |
| 腫瘍の大きさ | 直径5cm以内 |
SBRTの特徴は、がん細胞に集中的に放射線を照射しながら、周囲の正常な肺組織への影響を最小限に抑えられることです。治療は通常4回から8回程度で、1回あたりの治療時間は約15~30分です。
京都大学医学部附属病院の報告によると、転移性肺がんに対してSBRTを行った場合、2年の局所制御割合は90%と優れた成績が示されています。
重粒子線治療
また、重粒子線(炭素線)という特殊な放射線を用いた治療が行われることもあります。重粒子線治療は、従来のX線よりも高い線量をがん細胞に集中させることができ、より効果的な治療が期待できます。
予後に影響する因子
大腸がん肺転移の予後に影響する因子として、以下のようなものが報告されています。
- 転移個数(少ないほど予後良好)
- 両側肺転移の有無(片側のみの方が予後良好)
- 肺門・縦隔リンパ節転移の有無
- 肺切除前血清CEA値(低いほど予後良好)
- 原発巣の深達度(T因子)
- 原発巣のリンパ節転移(N因子)
- 無病期間(DFI:原発巣治療から肺転移発見までの期間が長いほど予後良好)
これらの因子を総合的に評価して、個々の患者さんに最適な治療法を選択することが重要です。
治療選択における重要なポイント
大腸がんの肺転移に対する治療は、以下のような優先順位で検討されます。
- 手術による完全切除が可能であれば、手術を優先的に検討
- 手術が困難な場合、または肺以外にも転移がある場合は全身化学療法
- 転移個数が少なく限局している場合は、SBRTなどの放射線治療も選択肢
- 症状緩和を目的とした緩和的放射線治療
治療法の選択にあたっては、患者さんの年齢、全身状態、併存疾患、治療に対する希望なども考慮して、総合的に判断されます。
定期的な経過観察の重要性
大腸がんの治療後は、肺転移を含む再発や転移の早期発見のため、定期的な経過観察が重要です。
一般的な経過観察のスケジュールは、以下の通りです。
- 術後1~3年:3~6か月ごとのCT検査と腫瘍マーカー測定
- 術後4~5年:6か月~1年ごとのフォローアップ
肺転移は初期段階では症状がないため、定期的な画像検査によって早期に発見することが、治療の選択肢を広げ、予後の改善につながります。
まとめ
大腸がんの肺転移は、肝転移に次いで多い遠隔転移ですが、適切な治療により長期生存や治癒が期待できる場合もあります。
治療の選択肢には、手術療法、化学療法、放射線治療(SBRT)などがあり、転移の個数、大きさ、位置、患者さんの全身状態などを総合的に評価して、最適な治療法が選択されます。
特に、肺のみに限局した転移で、個数が少なく完全切除が可能な場合は、手術により良好な予後が期待できます。また、近年の化学療法や放射線治療の進歩により、手術が困難な場合でも、生活の質を維持しながら長期生存を目指すことができるようになっています。
大腸がんの治療後は、定期的な経過観察を継続し、肺転移を含む再発や転移を早期に発見することが重要です。気になる症状がある場合は、自己判断せず、すぐに主治医に相談しましょう。