02.がんについて

がん細胞を自殺(アポトーシス)させる遺伝子治療とは

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p53

私たちの体は60兆個ともいわれる細胞からできています。

これらの細胞は傷ついたら死にます。また、寿命をもつ細胞もあるので、平均すると毎日3000億個も死んでいると考えられています。

細胞の種類によって寿命は違うものの、もっとも短い皮膚細胞や血液細胞(血球)は数日~数カ月で老化して死に、新しく生まれた細胞がこれにとって代わります。

しかし体内で生まれた「がん細胞」はこれとは大きく異なります。

がん細胞には寿命がないうえ、抗がん剤などで攻撃しても容易には死なず、分裂をくり返してますます数を増やしていくように見えます。では、正常な細胞とがん細胞はどこが違うのでしょうか。

正常な細胞の遺伝子には"自殺のプログラム"が組み込まれています。このプログラムが実行されて起こる細胞の死を「アポトーシス(予定細胞死)」といいます。

アポトーシスの役割のひとつは、私たちの体を危険にさらす細胞を排除するというものです。たとえばウイルスに感染した細胞は、感染の被害を他の細胞に広げないうちに自殺します。細胞内の遺伝子の本体であるDNAが自ら修復できないような傷を受けたときも自殺プログラムが動き出し、細胞は増殖しないうちに死にます。

また、体の組織をつくっている細胞は、隣りの細胞との結合が切れたときにも死んでしまうことがあります。これは、細胞が本来所属すべき組織を離れて体内にさまよい出さないようにするプログラムが存在するためです。

しかしこれは、がん細胞にはあてはまりません。がん細胞の多くは、こうした本来の自殺システムを回避することができるのです。ある種のがんに対して化学療法や放射線治療の効きめが小さい理由のひとつは、このためと見られています。

現在使われている抗がん剤や放射線は、遺伝子DNAを切断したりその構造を変えたりして、細胞に自殺プログラムを実行させます。しかし自殺プログラムを失ったがん細胞は、本来なら致命的なはずの傷をDNAに受けても死なずに生き続け、増殖をくり返して数を増やしていきます。

自殺しないがん細胞では、多くの場合、「p53」と呼ばれる遺伝子がはたらかなくなっていることがわかっています。p53遺伝子の役割は、DNAが傷ついたときに細胞の増殖を止め、そのDNAの修復が不可能なときには細胞を自殺させることです。

また正常な細胞は血液から酸素が供給されなければまもなく死にますが、このときもp53遺伝子が役割を果たすと見られています。そのためp53遺伝子を失ったがん細胞は増殖し続けて固まりになり、中心部に血液が届かなくなってもしばらく生きて、ふたたび血液が供給されるまでじっと待つことができるといわれています。

こうした細胞のはたらきを逆に利用し、がん細胞を自殺させることができれば、それががんの治療につながると考えられ、一部についてはすでに実験的治療も行われています。

そのひとつは、がん細胞にp53遺伝子を入れる「遺伝子治療」です。簡単に言うと、まず毒性を取り除いたウイルスのDNAにp53遺伝子を組み込んで"遺伝子の運び屋(ベクター)"に仕立てます。そしてこのウイルスを患者のがんに注入します。

こうすると、ウイルスはがん細胞に感染し、自分のもつDNAをp53遺伝子ごと細胞の内部に運び込みます。その結果、がん細胞の中でp53遺伝子が指定するたんぱく質がつくられるようになり、自殺プログラムが実行されてがん細胞は死ぬはずです。

この手法による遺伝子治療はすでに20年近くにわたって各国で試みられています。日本でも全国の大学病院で治験として行われました(約25例。現在は行われていない)。遺伝子治療先進国であるアメリカでは、すでに2000例以上が試験的に実施されています。

遺伝子治療の目的はおもに、まずがんを縮小させてがんによる痛みや呼吸困難などの症状を和らげ、患者を少しでも延命させることです。これまでのところがんが著しく縮小した例は報告されているものの、海外の報告では、それが必ずしも延命にはつながっていないということです。そこで現在では、放射線治療や抗がん剤と組み合わせて治療を行う方法も研究されています。

細胞の自殺に関係する遺伝子はp53だけではありません。たとえば「BCL1」という遺伝子の仲間は、アポトーシスを引き起こしたり逆にアポトーシスを抑制することで知られています。

がん細胞の中でこの仲間の「BCL1-X1」という遺伝子が発現すると、そのがん細胞は抗がん剤では容易には死ななくなります。また「ハラキリ」と名づけられた遺伝子は、逆にアポトーシスを誘導するらしいことも知られています。そこで、これらの遺伝子やその生産物のはたらきを抑えることによってがんを治療する薬も研究されています。

他方、近年次々に登場している「分子標的薬」の中には、がん細胞のアポトーシスを誘導するものがあります。

たとえば、代表的な分子標的薬である「イマチニブ(商品名グリベック)」は、このようなしくみによって慢性骨髄性白血病を治療するためにアメリカで開発されたものです。この薬は2001年にアメリカで承認され、その後日本でも承認、現在では慢性骨髄性白血病の標準的な治療薬となっています。

いまでは多くのがん研究者が、がん細胞を自殺に導くしくみを利用する治療薬の研究開発に取り組んでいますが、まだその答えは出ていません。

以上、がんに関するお話でした。

がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。

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本村ユウジ

「がんの研究と、患者さんのサポート」を2008年から続けています。現在まで、3,000名を超えるがん患者さんやご家族をサポートしてきました。詳しいプロフィールはこちら。

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