
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
食道がんは、他のがんと比較して転移しやすいという特徴があります。
この転移のしやすさは、食道という臓器の構造的な特徴と深く関わっています。
食道がんと診断された患者さんやご家族の方にとって、「どこに転移しやすいのか」「転移した場合の予後はどうなるのか」という疑問は切実なものです。
この記事では、食道がんの転移メカニズム、転移しやすい場所、転移が起きた場合の生存率と余命について、2026年時点での最新データをもとに詳しく解説します。
食道がんはなぜ転移しやすいのか
食道がんが他のがんと比べて転移しやすい最大の理由は、食道の壁の構造にあります。
食道の壁は、内側から外側に向かって、粘膜層、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層で構成されています。
粘膜層はさらに細かく分けると、粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板の3層から成り立っています。
食道には漿膜がない
胃や腸などの多くの消化器臓器は、最も外側に漿膜という丈夫な膜で覆われています。
この漿膜は、がんの広がりを一定程度抑える働きをします。
しかし、食道には漿膜がありません。
そのため、がんが食道の壁を越えると、周囲の臓器に直接広がりやすいのです。
食道の周囲には、気管、気管支、大動脈、心臓、肺といった重要な臓器が近接しています。
がんがこれらの臓器に浸潤すると、治療が難しくなり、生命に関わる状況となります。
リンパ管と血管が豊富に分布している
食道の粘膜下層と固有筋層の間には、多くのリンパ管と血管が張り巡らされています。
がん細胞がこれらのリンパ管や血管に入り込むと、リンパ液や血液の流れに乗って体の他の部分に運ばれます。
食道はリンパ系が発達した臓器であり、比較的早期の段階から頸部、胸部、腹部という広い範囲のリンパ節にがんが転移することが知られています。
粘膜下層まで進むと転移のリスクが高まる
食道がんは粘膜の表面を覆う扁平上皮細胞から発生します。
日本人の食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。
がん細胞は増殖を続けながら、周囲の組織を破壊し、食道壁の奥深くへと広がっていきます。
| 深達度 | 分類 | リンパ節転移の頻度 |
|---|---|---|
| 粘膜内 | 早期食道がん | ほとんどない |
| 粘膜下層(浅い部分) | 表在食道がん | 10~20% |
| 粘膜下層(深い部分) | 表在食道がん | 40%以上 |
| 固有筋層以上 | 進行がん | 高頻度 |
がんが粘膜内に留まっている段階では、リンパ節転移はほとんどありません。
この段階で発見されれば、内視鏡的切除による治療が可能で、予後も良好です。
しかし、リンパ管や血管が豊富に走っている粘膜下層まで進むと、転移のリスクが高まります。
粘膜下層の浅い部分までの浸潤であれば、リンパ節転移は10~20%程度ですが、粘膜下層の深い部分まで達すると、40%以上の患者さんにリンパ節転移が認められます。
食道がんは、胃がんや大腸がんと比較して、比較的浅い段階からリンパ節転移を起こしやすいという特徴があります。
食道がんのリンパ節転移が起こりやすい部位
食道は喉から胃までをつなぐ縦長の臓器です。
そのため、食道がんのリンパ節転移は、広い範囲に及ぶことが特徴です。
転移しやすいリンパ節の部位は、がんが発生した食道の場所によって異なります。
頸部食道がんの場合
食道の上部(喉に近い部分)に発生したがんの場合、頸部のリンパ節への転移が多くみられます。
具体的には、鎖骨上窩リンパ節や頸部の深頸リンパ節などです。
頸部食道がんでは、首の腫れや声のかすれといった症状が現れることがあります。
胸部食道がんの場合
食道がんの約50%は胸部食道の中央部分に発生します。
胸部食道がんは、転移するリンパ節の範囲が最も広くなる傾向があります。
食道周囲のリンパ節(傍食道リンパ節)をはじめ、以下のようなリンパ節に転移しやすいことが知られています。
- 反回神経周囲リンパ節(特に右反回神経リンパ節は転移頻度が高い)
- 気管周囲リンパ節
- 縦隔リンパ節
- 頸部リンパ節
- 腹部のリンパ節
反回神経は声帯の動きを司る神経です。
この神経の周囲にあるリンパ節は、食道がんにおいて比較的早期から転移が起こりやすい場所とされています。
反回神経周囲リンパ節に転移が起きると、声のかすれ(嗄声)という症状が現れることがあります。
腹部食道がんの場合
食道と胃の境界部分(食道胃接合部)に近い腹部食道にがんが発生した場合、胃周辺のリンパ節への転移が多くなります。
具体的には、噴門周囲リンパ節、小弯リンパ節、大弯リンパ節、腹腔動脈周囲リンパ節などです。
遠隔転移(血行性転移)が起こりやすい臓器
がん細胞が血管内に入り込むと、血液の流れに乗って体の他の部分に運ばれます。
これを血行性転移といいます。
食道がんの血行性転移が起こりやすい臓器は、以下の順に多いとされています。
肺への転移
食道がんの遠隔転移で最も多いのが肺転移です。
肺に転移した場合、長く続く咳、血痰、胸部の痛み、呼吸困難などの症状が現れることがあります。
肝臓への転移
肝臓も食道がんの転移が起こりやすい臓器です。
肝臓に転移した場合、腹部の張り、腹痛、黄疸、腹水、食欲不振などの症状がみられることがあります。
骨への転移
骨転移も食道がんでは比較的多くみられます。
骨に転移した場合、転移した部位周辺に痛みを感じます。
特に背骨(椎骨)や骨盤への転移が多いとされています。
脳への転移
頻度は少ないものの、脳への転移も報告されています。
脳転移が起きた場合、頭痛、吐き気、けいれん、神経症状などが現れることがあります。
播種性転移
がんが食道の外膜を破って大きくなると、胸腔や腹腔内にがん細胞が散らばる播種性転移が起こることがあります。
この場合、胸水や腹水が貯まることがあります。
食道がんの転移とステージ別生存率
食道がんの予後は、発見時のステージによって大きく異なります。
ステージは、がんの深達度(どこまで深く浸潤しているか)、リンパ節転移の有無と程度、遠隔転移の有無によって決定されます。
| ステージ | 状態 | 5年生存率 |
|---|---|---|
| ステージ0 | がんが粘膜内に留まり、リンパ節転移なし | 約90%以上 |
| ステージI | がんが粘膜下層まで、リンパ節転移なし | 約70~78% |
| ステージII | がんが筋層まで、または近くのリンパ節転移あり | 約40~50% |
| ステージIII | がんが食道外に広がる、または広範なリンパ節転移 | 約20~30% |
| ステージIV | 遠隔転移あり、または切除不能な周囲臓器浸潤 | 約8~15% |
食道がん全体の5年生存率は約40~48%とされており、これは胃がん(約65%)や大腸がん(約70%)と比較すると低い数値です。
この数値の低さは、食道がんの転移しやすさと、発見時に既に進行していることが多いという特徴を反映しています。
実際、食道がん患者さんのうち、比較的早期の段階で診断される割合は約30%程度に留まっています。
ステージIVの詳細
ステージIVは、さらにIVaとIVbに分けられます。
ステージIVaは、がんが食道周囲の大動脈や気管などの重要臓器に浸潤しているが、遠隔転移はない状態です。
ステージIVbは、肺、肝臓、骨などへの遠隔転移がある状態を指します。
ステージIVbの5年生存率は約9~10%と報告されています。
転移が起きた場合の余命について
余命については、個々の患者さんの状態によって大きく異なるため、一概に述べることは困難です。
しかし、統計的なデータとして以下のような報告があります。
手術を受けることができた患者さんに限定した場合、ステージ別の平均余命は以下のように報告されています。
- ステージIおよびII:7年以上
- ステージIII:約2年4か月
- ステージIV:約1年
手術を受けられなかった患者さんも含めた全体のデータでは、ステージIVの平均余命は約7か月程度とされています。
再発した場合の予後
食道がんの根治手術を受けた後でも、30~50%の患者さんに再発が認められます。
欧米の報告では50%以上と、さらに高い再発率が報告されています。
再発の形式としては、リンパ節再発が20~70%、遠隔臓器転移が10~50%、両者が複合した再発が7~27%と報告されています。
リンパ節再発では頸部や上縦隔の再発が多く、遠隔臓器再発では肺、肝臓、骨、脳の順に多いとされています。
食道がん根治切除後に再発した場合の予後は厳しく、再発診断時からの生存期間は5~10か月と報告されています。
ただし、長期生存または完治する症例も少なからず報告されており、個々の状態によって予後は異なります。
食道がんの再発の多くは、初回治療から1年以内に発見されることが多いため、この期間は特に注意深い経過観察が必要です。
早期発見の重要性
食道がんは初期段階では自覚症状がほとんどありません。
症状が現れた時点では、既に進行していることが多いのが現実です。
食道がんのステージ別の生存率データからも明らかなように、早期発見できれば予後は良好です。
ステージ0や1で発見できれば、5年生存率は70~90%以上と高い数値を示します。
しかし、ステージが進むにつれて生存率は低下し、ステージIVでは10%以下となります。
食道がんのリスク因子
食道がんの発症には、喫煙と飲酒が最も重要な危険因子とされています。
特に、喫煙と飲酒の両方の習慣がある人は、リスクが高まることが知られています。
また、日本人の多くは、アルコールが体内で分解されてできるアセトアルデヒドを分解しにくい体質を持っています。
この体質の人は、お酒を飲むと顔がすぐに赤くなります。
顔がすぐに赤くなる体質で、アルコールを大量に飲む習慣があり、なおかつ喫煙もしている中高年男性は、食道がん発症のリスクが特に高いといえます。
早期発見のための検査
食道がんの早期発見には、内視鏡検査が最も有効です。
バリウムによる透視検査では早期発見が困難なことが多く、内視鏡検査によってのみ、治癒可能な早期がんを発見できることがほとんどです。
特にリスクの高い方(喫煙者で飲酒習慣がある方、お酒で顔が赤くなる方)は、定期的な内視鏡検診を受けることが推奨されます。
近年、NBI(狭帯域光観察)拡大内視鏡という新しい技術により、従来発見が困難であったごく初期の小さな食道がんも発見できるようになっています。

