
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんの手術を受けた後、多くの患者さんが気になるのが「再発の可能性」です。手術で前立腺を摘出したとしても、すべてのがん細胞を完全に取り除けたかどうかは、術後の経過観察で確認していく必要があります。
この記事では、前立腺がん手術後の再発をどのように判断するのか、再発の可能性はどの程度あるのか、そして再発した場合にどのような治療法があるのかについて、詳しく解説します。
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前立腺がん手術後の再発判定:PSA値0.2が重要な基準
前立腺がんの手術(前立腺全摘除術)を受けた場合、前立腺が完全に摘出されていれば、PSA(前立腺特異抗原)を産生する組織がなくなるため、手術後数カ月以内にPSA値は0.1ng/ml以下まで低下します。これを「PSA検出感度以下」と呼びます。
再発の判定基準
前立腺がん手術後の再発は、主にPSA値の変化で判定されます。具体的な基準は以下のとおりです。
手術後にPSA値が0.2ng/ml未満まで下がらない場合、手術で取り切れなかったがん細胞が残存している可能性があります。これは「生化学的再発(PSA再発)」の可能性を示唆する状態です。
いったんは0.1ng/ml以下に下がったPSA値が、その後再び上昇し、連続して2回の測定で0.2ng/mlを超えた場合、「生化学的再発」と判定されます。この0.2ng/mlという数値は、国際的に広く使用されている再発の判定基準です。
PSA再発の意味
前立腺がんにおける「再発」という言葉は、他のがんとは少し意味が異なります。完治した状態から新たに前立腺がんが発生したのではなく、手術前にすでに前立腺の外に広がっていた微小ながん細胞が、検査では発見できない状態で残存しており、それが時間とともに成長して検出可能になった、と考えるのが適切です。
PSA値が上昇していても、CTやMRIなどの画像検査では病変が確認できないことが多く、このような状態を「画像陰性の生化学的再発」と呼びます。
手術後の再発検査と経過観察
手術後の経過観察では、定期的なPSA検査が中心となります。一般的な検査スケジュールは以下のとおりです。
| 時期 | PSA検査の頻度 | その他の検査 |
|---|---|---|
| 術後1年目 | 3カ月ごと | 必要に応じて画像検査 |
| 術後2年目 | 3〜6カ月ごと | PSA値の推移により判断 |
| 術後3年目以降 | 6カ月ごと | PSA値が安定していれば年1回も可 |
PSA値が上昇傾向を示した場合、より頻繁な測定が必要になります。また、PSA倍加時間(PSA値が2倍になるまでの期間)を計算することで、がんの進行速度を推定することもあります。
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ステージ別にみた手術後の再発率と再発の可能性
前立腺がんの手術後の再発率は、手術前のステージ(病期)、グリソンスコア(悪性度)、PSA値などによって異なります。
低リスク群の再発率
PSA値が10ng/ml未満、グリソンスコアが6以下、臨床病期がT1c-T2aの患者さんでは、手術後10年間の生化学的再発率は約10〜15%とされています。この群は再発リスクが比較的低く、長期的な予後も良好です。
中リスク群の再発率
PSA値が10〜20ng/ml、グリソンスコアが7、臨床病期がT2bの患者さんでは、手術後10年間の生化学的再発率は約30〜40%程度とされています。
高リスク群の再発率
PSA値が20ng/mlを超える、グリソンスコアが8以上、臨床病期がT2c以上の患者さんでは、手術後10年間の生化学的再発率は50〜70%に達することもあります。
再発のリスク因子
手術後の再発リスクを高める因子として、以下のものが知られています。
| リスク因子 | 説明 |
|---|---|
| 断端陽性 | 切除した組織の端にがん細胞が確認される状態 |
| 被膜外浸潤 | がんが前立腺の被膜を超えて広がっている |
| 精嚢浸潤 | がんが精嚢に広がっている |
| リンパ節転移 | 所属リンパ節にがんが転移している |
| 高グリソンスコア | がんの悪性度が高い(8以上) |
断端陽性と追加治療のタイミング
手術で摘出した前立腺の切除断端(切り口)を病理検査で調べた際に、がん細胞が確認されることがあります。これを「断端陽性」と呼びます。
断端陽性の場合、微小ながん細胞が残存している可能性が高いため、追加治療を検討することがあります。追加治療のタイミングについては、次の2つのアプローチがあります。
1つ目は、術後すぐに放射線治療を行う「補助放射線療法」です。2つ目は、PSA値の上昇を確認してから放射線治療を行う「救済放射線療法」です。
どちらのアプローチが優れているかについては、現在も議論が続いています。補助放射線療法は再発率を下げる可能性がある一方で、実際には再発しなかったかもしれない患者さんにも治療を行うことになります。救済放射線療法は必要な患者さんだけに治療を行えますが、治療開始が遅れることで効果が下がる可能性も指摘されています。
現在の傾向としては、断端陽性であっても、まずPSA値の経過を観察し、上昇が確認された時点で放射線治療を開始する施設が増えています。
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手術後の再発に対する治療法
手術後にPSA値の上昇が確認され、再発と判定された場合、主に以下の治療法が検討されます。
救済放射線療法
手術後の再発に対する第一選択として、多くの場合、放射線治療(外照射)が行われます。この段階での放射線治療の目標は、依然として「根治」です。
前立腺があった部位とその周辺に放射線を照射することで、残存しているがん細胞をすべて死滅させることを目指します。一般的には、60〜70グレイ程度の線量を、1日1回、週5回のペースで約6〜7週間かけて照射します。
救済放射線療法の効果は、PSA値が低いうちに開始するほど高いとされています。PSA値が0.5ng/ml未満で治療を開始した場合の方が、1.0ng/ml以上になってから開始した場合よりも、治療後の再発率が低いという報告があります。
ホルモン療法(内分泌療法)
放射線治療を行ってもPSA値が再び上昇してきた場合、あるいは患者さんの年齢や全身状態から放射線治療が適さないと判断された場合は、ホルモン療法に移行します。
ホルモン療法は、男性ホルモン(アンドロゲン)の働きを抑えることで、前立腺がんの増殖を抑制する治療法です。根治を目指すのではなく、がんの進行を抑え、症状をコントロールすることを目的とします。
ホルモン療法には、以下のような方法があります。
| 治療法 | 特徴 |
|---|---|
| LH-RHアゴニスト | 注射薬で、精巣からの男性ホルモン産生を抑制 |
| LH-RHアンタゴニスト | 注射薬で、より速やかに男性ホルモンを低下させる |
| 抗アンドロゲン薬 | 内服薬で、男性ホルモンの作用を阻害 |
| CAB療法 | 上記を組み合わせた併用療法 |
新規ホルモン療法薬
近年、従来のホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんに対して、新しいタイプのホルモン療法薬が使用できるようになっています。アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミドなどがこれにあたります。
これらの薬剤は、より強力に男性ホルモンの作用を抑えることができ、従来の治療と比べて生存期間の延長が確認されています。
治療法の選択順序と制約
前立腺がんの治療では、最初にどの治療法を選択するかが、その後の選択肢に影響を与えます。
手術を選択した場合の治療の流れ
最初に手術を選択した場合、再発時には放射線治療を行うことができ、さらにその後ホルモン療法に移行することも可能です。つまり、「手術→放射線治療→ホルモン療法」という治療の流れをたどることができます。
放射線治療を選択した場合の制約
一方、最初に放射線治療を選択した場合、その後に手術を行うことは原則としてできません。これは、放射線照射によって前立腺とその周辺組織が変化してしまい、手術が技術的に困難になるためです。
放射線治療後の再発では、選択肢は主にホルモン療法となります。一部の施設では、高線量率組織内照射(HDR brachytherapy)や限局的な治療を試みることもありますが、一般的ではありません。
なぜ放射線治療後に手術ができないのか
放射線治療後に手術が困難になる理由は、放射線が正常組織にも影響を与えるためです。
組織の変化
放射線照射を受けた組織は、線維化(硬く柔軟性がなくなる変化)が起こります。前立腺と隣接する直腸の壁や膀胱、血管なども影響を受けます。
このような状態で手術を行おうとすると、組織が非常にもろくなっているため、直腸壁に穴があいたり(直腸損傷)、血管が裂けたりするリスクが高くなります。尿道や膀胱の損傷リスクも高まります。
合併症のリスク
放射線治療後の手術(救済前立腺全摘除術)は、通常の手術と比べて、以下のような合併症のリスクが高まります。
・尿失禁の発生率が50〜90%と高い
・勃起機能の温存がほぼ不可能
・直腸損傷のリスクが10〜15%
・尿道狭窄のリスクが高い
このような高いリスクのため、放射線治療後の救済手術を実施している施設は限られており、一般的な選択肢とはなっていません。
小線源療法後の手術
密封小線源療法(ブラキセラピー)後の救済手術については、一部の施設で試みられていますが、やはり合併症のリスクは高く、慎重な症例選択が必要です。国内外での実施例は限られており、長期的な成績はまだ十分に確立されていません。
再発後の手術ができない理由
手術後に再発した前立腺がんを、さらに手術で治療することも困難です。これには以下のような理由があります。
がんの局在が不明
PSA値の上昇として検出される再発がんは、多くの場合、画像検査では確認できません。CTやMRIでも映らない微小ながんの集まりであることが多く、どこに再発しているのかを正確に特定することができません。
手術は「目に見えるがんを切除する」治療法ですので、がんの位置が分からなければ、どこを切除すればよいのか判断できません。
再手術の技術的困難さ
すでに前立腺を摘出した後の骨盤内は、手術による癒着(組織同士がくっついてしまうこと)が起きており、再度手術を行うことは技術的に非常に困難です。
また、最初の手術で前立腺は完全に摘出されているため、再発しているがんは前立腺床(前立腺があった場所)やその周辺、あるいはリンパ節や骨などに存在していると考えられます。このような状態では、手術による完全な切除は現実的ではありません。
再発を早期に発見するための注意点
手術後の再発を早期に発見し、適切な治療につなげるためには、定期的なPSA検査を欠かさないことが重要です。
予定された検査日を守ること、PSA値に変化があった場合は速やかに主治医に相談することが大切です。また、PSA値だけでなく、排尿の状態や全身の体調にも注意を払い、気になる症状があれば報告するようにしましょう。
再発の早期発見により、より効果的な治療を行える可能性が高まります。特に救済放射線療法は、PSA値が低いうちに開始するほど効果が高いとされていますので、定期的な経過観察が重要な意味を持ちます。
参考文献・出典情報
National Cancer Institute - Prostate Cancer
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology - Prostate Cancer
European Association of Urology - Prostate Cancer Guidelines

