
乳がんのリンパ節郭清とは
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの手術において、リンパ節の郭清は長年にわたって標準的な治療として行われてきました。
リンパ節郭清とは、リンパ節が含まれる脂肪組織をひとかたまりに切除する手術です。切除したあとで、脂肪の中に埋まっているリンパ節を取り出し、転移の有無を病理検査で調べます。
リンパ節に転移がある場合は、転移がない場合と比べてがん細胞が他の臓器に転移する危険性が高いことを示します。このため、リンパ節の状態を調べることは、手術後の治療方針を決めるうえで重要な情報となります。
乳がん細胞が最初にたどり着くリンパ節は、わきの下にある腋窩リンパ節です。腋窩リンパ節郭清は約1世紀にわたり標準治療として行われてきましたが、1990年代後半から状況が変わり始めました。
センチネルリンパ節生検という新しい方法が普及したことで、不必要なリンパ節郭清を避けられるようになったのです。
現在の治療方針
現在では、手術前に腋窩リンパ節への転移がないと診断された早期乳がんの患者さんでは、まずセンチネルリンパ節生検を行います。この検査で転移がない場合は腋窩リンパ節郭清を省略し、転移があった場合にのみ腋窩リンパ節郭清を行うのが一般的です。
一方、手術前に腋窩リンパ節転移があると診断された場合には、最初から腋窩リンパ節郭清が行われます。このように、患者さんの状態に応じて適切な方法を選択することで、不必要な治療による後遺症を減らすことができるようになりました。
センチネルリンパ節生検とは
センチネルリンパ節生検は、腋窩リンパ節の中でも最初にがん細胞がたどり着くと考えられるリンパ節に、がん細胞があるかどうかを調べる検査です。センチネルリンパ節とは「見張り」や「前哨」という意味で、乳がんからこぼれ落ちたがん細胞が最初に流れ着くリンパ節のことを指します。
センチネルリンパ節生検が開発された背景
従来、腋窩リンパ節郭清には転移の有無を診断する意味はありましたが、転移がないのであれば治療としての意味はありません。リンパ節郭清をして調べてみたら、リンパ節にがん細胞がみつからなかったという場合には、患者さんにとってリンパ節郭清は必要なかったことになります。
また、腋窩リンパ節郭清は以下のような後遺症を引き起こすことがあります。
| 後遺症の種類 | 発生率 | 内容 |
|---|---|---|
| リンパ浮腫 | 11~50%程度 | 腕や手にリンパ液がたまり、むくんだ状態になる |
| 感覚異常 | 80%程度 | 上腕の内側や肩甲骨周囲のしびれ感 |
| 運動障害 | 一定数 | 肩関節の可動域制限、腕が上がりにくくなる |
| リンパ液の貯留 | 多数 | 手術後のわきへのリンパ液の貯留 |
このような後遺症があることから、リンパ節郭清を省略できる方法の開発が求められました。その結果、リンパ節を郭清することなしに、リンパ節転移の有無を調べる方法としてセンチネルリンパ節生検が開発され、世界中で実施されるようになったのです。
センチネルリンパ節生検の方法
通常、センチネルリンパ節生検は乳房の手術の際に行います。乳房に微量の放射性同位元素と色素の両方、あるいは片方を注射すると、リンパ管を流れてセンチネルリンパ節に集まります。2026年現在では、蛍光色素を用いた蛍光法も普及しており、インドシアニングリーンを皮下注射し、赤外線カメラで観察する方法が多くの施設で採用されています。
放射線が検出されたり、色に染まったり、蛍光を発したりしたリンパ節がセンチネルリンパ節です。このリンパ節を切除して、がん細胞があるかどうかを顕微鏡で調べます。がん細胞がみつからなければ腋窩リンパ節は郭清せずに残し、みつかったときは腋窩リンパ節郭清を行うかどうかを慎重に検討します。
なお、センチネルリンパ節生検は確立された標準的な方法ですが、具体的な手技については各施設でかなりばらつきがあります。例えば、センチネルリンパ節をみつけるのに使う薬剤や、それらを乳房のどこに注射するかも施設によってさまざまです。また、熟練した医師が行っても、センチネルリンパ節がみつからない場合もあります。特に年齢が高く乳腺組織の少ない方や、診断のために腫瘍を切除した方などでは発見できる確率が下がります。
センチネルリンパ節生検の信頼性
センチネルリンパ節生検は多くの施設で実施されており、十分信頼できる方法であることが報告されています。充分な経験のある施設では、センチネルリンパ節生検により95%以上の精度でリンパ節転移の有無が診断できます。
大規模な臨床試験の結果、センチネルリンパ節への転移の有無で腋窩リンパ節郭清をするかどうかを決めた患者さんと、センチネルリンパ節への転移の有無にかかわらず腋窩リンパ節郭清を受けた患者さんでは、生存率が変わらないということが報告されています。
2025年の新しいガイドライン
2025年4月、米国臨床腫瘍学会から新しいガイドラインが発表され、一部の早期乳がん患者さんにおいては、センチネルリンパ節生検自体を省略できる可能性があることが示されました。これはSOUND試験やINSEMA試験などの研究結果に基づくもので、一定の条件を満たす低リスクの患者さんでは、センチネルリンパ節生検を行わなくても再発率や生存率に差がないことが確認されています。
日本でも、この数年以内に同様のガイドラインが導入され、センチネルリンパ節生検の省略が選択肢として提示されるようになると考えられています。
センチネルリンパ節生検の合併症
センチネルリンパ節生検に用いる色素で、まれにアレルギー症状が出ることがあります。また、皮膚に色素の跡が残りますが、数週間で消えます。一方、放射性同位元素を使用する場合、その量は微量なため、人体への悪影響はほとんどありません。
センチネルリンパ節生検でもリンパ浮腫や、腕やわきのしびれや痛みなどが起きる可能性はありますが、腋窩リンパ節郭清によるものと比べて明らかに少ないことが報告されています。センチネルリンパ節生検のみで腋窩リンパ節郭清をしていない場合は、リンパ浮腫についてほとんど気にする必要はありません。
リンパ節郭清の目的
腋窩リンパ節を郭清する目的は大きく2つあります。
診断の目的
1つは腋窩リンパ節への転移の有無、およびリンパ節の転移の個数を調べるという診断の目的です。腋窩リンパ節への転移の有無の診断は、リンパ節郭清を行わなくとも、センチネルリンパ節生検によってできるようになりました。
ただし、センチネルリンパ節に転移がある場合は、リンパ節郭清を行うことでリンパ節転移個数がわかります。転移個数に応じて再発の危険性が高くなるため、術後の治療方針を決めるうえで腋窩リンパ節郭清は重要な情報を提供します。
乳がんの予後を判断する因子として、最も有力なものは腋窩リンパ節転移の有無です。リンパ節に転移のある患者さんは転移のない患者さんに比べ、将来再発する危険性が高いため、再発を防止するためにより強力な術後の治療が必要となります。
治療の目的
もう1つは再発を防ぐという治療の目的です。腋窩リンパ節郭清を行ったあとの腋窩リンパ節からの再発はまれであることから、腋窩リンパ節の再発予防としての目的は達成されています。
しかし、腋窩リンパ節以外の臓器、例えば骨、肺、肝臓などの遠隔転移を予防する効果があるかどうかについてはさまざまな議論があります。過去に行われた多くの臨床試験を検討すると、腋窩リンパ節郭清を行わないと、術後の再発の危険性が高くなることも示されています。
ただし、腋窩への放射線治療が腋窩リンパ節郭清の代わりになる可能性があり、現在臨床試験で検討されています。
腋窩リンパ節郭清省略の新しい知見
2011年に発表されたZ-11試験と呼ばれる臨床試験では、センチネルリンパ節生検で1~2個の転移を認めた患者さんで、乳房温存手術と放射線照射を行う場合、リンパ節郭清を行っても再発率や生存率の改善に貢献しないという結果が示されました。
この結果を受けて、現在では乳房温存手術を行う患者さんにおいて、センチネルリンパ節に転移が2個までであれば、術後放射線治療や標準的薬物療法も行う場合に限り、腋窩リンパ節郭清を省略することが可能になっています。
| 状況 | リンパ節郭清の必要性 |
|---|---|
| 手術前に転移が確認されている | 腋窩リンパ節郭清を実施 |
| センチネルリンパ節に転移なし | 腋窩リンパ節郭清を省略 |
| センチネルリンパ節に1-2個転移あり(乳房温存手術+放射線治療+薬物療法の場合) | 腋窩リンパ節郭清を省略可能 |
| センチネルリンパ節に3個以上転移あり | 腋窩リンパ節郭清を実施 |
リンパ節郭清の範囲
腋窩リンパ節郭清の範囲は、わきの下から鎖骨に向かって、レベルⅠからⅢに分けられます。リンパ節転移はレベルⅠからレベルⅡ、Ⅲへと順に進んで行くと考えられています。
したがって、腋窩リンパ節郭清は一番転移しやすいレベルⅠから順に行います。リンパ節郭清では、切除したリンパ節の個数より郭清した範囲が重要です。例えば、レベルⅠからⅡまでを郭清すると、通常10数個のリンパ節が切除されます。
しかし、その個数は患者さんによって異なるため、数が多く取れたからよいというわけではなく、レベルⅠからⅡの範囲がきれいに取りきれているということが重要視されます。
郭清範囲の変遷
以前は、レベルⅠからⅢまで郭清することが一般的で、ときに乳房の内側部にある胸骨傍リンパ節や鎖骨の上にある鎖骨上リンパ節も郭清することがありました。しかし、このように広く郭清しても再発の危険性に変わりはなく、むしろ腕のむくみなどの合併症が出ることが多いため、現在ではレベルⅠまたはⅡまでの郭清にとどめ、腫大したリンパ節がある場合のみにレベルⅢの郭清を追加します。
なお、リンパ節は脂肪に埋め込まれるように存在しているため、ごく小さな転移も逃さず切除できるように、周囲の脂肪組織も一緒に切除します。
非浸潤がんの場合のリンパ節郭清
がん細胞が乳管の中にとどまっている非浸潤がんの場合には、理論的にはリンパ節転移は起こらないため、腋窩リンパ節郭清はもちろんのこと、センチネルリンパ節生検すら行う必要はないと考えられます。
ただし、非浸潤がんかどうかを手術前に正確に診断することは困難です。手術前の針生検で非浸潤がんと診断されても、しこりが触れる場合や範囲が広い場合などには小さな浸潤が含まれている可能性があります。
非浸潤がんでのセンチネルリンパ節生検の適応
浸潤がんの可能性がある場合には、センチネルリンパ節生検を行ったほうがよいと考えられます。一方、浸潤がんの可能性がない場合には、まず腫瘍切除術を行い、病理検査の結果、浸潤がんが認められた場合には、後日改めてセンチネルリンパ節生検を行うのがよいと考えられます。
ただし、乳房切除術が行われる場合、後日センチネルリンパ節生検を行うことが技術的に難しいため、乳房切除術と同時にセンチネルリンパ節生検を行うべきであると考えられます。
リンパ節郭清の合併症と後遺症
腋窩リンパ節郭清を行うと、さまざまな合併症や後遺症が起こる可能性があります。
リンパ浮腫
リンパ浮腫は、腋窩リンパ節郭清後の最も代表的な合併症です。わきの下のリンパ節は、腕や乳房から心臓へと流れていくリンパ液の通り道であり、流れてきたリンパ液に含まれる老廃物を除去する働きをしています。
それを切除したことにより、腕や乳房から心臓へと流れていくリンパ液の流れが悪くなることがあります。腕にリンパ液がたまってくると、腕の浮腫が生じてきます。これをリンパ浮腫といいます。
腋窩リンパ節郭清を行った場合、術後のリンパ浮腫の発症率は11~50%程度と報告されています。リンパ浮腫は、術後数ヶ月から2年くらいたって起こる場合があります。なかには10年以上たっておこる場合もあり、一生を通じて注意する必要があります。
術後、上肢のリンパ浮腫発症までの平均期間は3.9年とされています。リンパ浮腫を生じた患者さんの8割が術後3年以内に発症しているとの報告があることからも、特に術後3年目くらいまではリンパ浮腫予防の強化期間と考え、しっかり予防対策を行うことが大切です。
リンパ浮腫の危険因子
2025年に更新された研究によると、リンパ浮腫の危険因子は主に肥満と上肢の蜂窩織炎などの感染です。以前は腋窩リンパ節郭清をした側の腕で採血や血圧測定を避けるよう指導されていましたが、現在ではこれらがリンパ浮腫のリスクにならないことがわかっています。
肥満はリンパ浮腫のリスクだけでなく、乳がんの再発のリスクも上げると言われています。適切な体重管理が重要です。
その他の合併症
リンパ節郭清をしたときには、切断されたリンパ管からリンパ液が漏れ、脇の下に溜まります。そのためリンパ液を吸引するドレーンという管が挿入されます。ドレーンを抜いたあとも脇の下にリンパ液が溜まるため、外来で注射器で抜くことがあります。
また、脇の下から上腕の内側に行く知覚神経が傷つくことがあります。それによって、上腕の内側や肩甲骨のしびれ感が生じることがあり、その発生率は約80%と高率です。
リンパ浮腫の予防と対策
リンパ浮腫は、予防と早期発見が大切です。2025年に発行された「患者さんのためのリンパ浮腫ガイドライン2025年版」では、科学的根拠に基づいた予防法と治療法が詳しく解説されています。
日常生活での注意点
リンパ浮腫の発症や悪化のきっかけとなりやすいけがなどの炎症を予防し、皮膚を保護する日頃のセルフケアが大切です。以下のような点に気をつけましょう。
スキンケア:肌の乾燥や角化を防ぎ、皮膚の保湿を心がけましょう。保湿クリームは、香料などの刺激物が少ないものを選びましょう。
感染予防:患側の腕はリンパの流れが低下しているため、感染や炎症を起こしやすくなっています。土いじりなどのときは手袋をしたり長袖を着用しましょう。虫にさされたときには、ひっかいたりして皮膚に傷をつけないようにかゆみ止めの薬を塗りましょう。日焼けの炎症でむくみが悪くなることがありますので、日焼け止め対策を心がけましょう。
適度な運動:手術した側の腕をまったく使わないのは、かえってよくありません。筋力を使ったトレーニングがリンパ浮腫の予防につながることが報告されています。無理なトレーニングは禁物ですが、日常生活の中で適度に腕を使うことは大切です。
衣類の選択:下着などは、できるだけ締め付けないゆったりしたものを選びましょう。肩ひもが細くワイヤーの入ったブラジャーの使用は避けましょう。乳がん専用のブラジャーも発売されています。
リンパ浮腫の治療
リンパ浮腫が発症した場合には、弾性着衣による圧迫療法と、運動療法、スキンケアなどの治療を複合的に行います。早期に発見して対処していくことが大切です。
弾性着衣は、リンパ浮腫の進行度がⅠ期以降の患者さんが対象です。リンパ浮腫を発症していない患者さんでは、弾性着衣は原則として使わないようにします。弾性着衣を選ぶ際には、自分で適当なサイズの弾性着衣を買わないことが重要です。リンパ浮腫に詳しい医療者に必ず相談しましょう。
装着方法やサイズが適切でないと部分的な食い込みが生じて、浮腫を発症させたり悪化させる場合があります。
リンパドレナージュという専門の理学療法士による手技療法も効果的です。リンパ液を手動で排出するマッサージ技術で、リンパ液の流れを手助けし、腫れを軽減する効果があります。ただし、強くやりすぎると逆効果なので、リンパ浮腫の治療を専門にした医師やトレーニングを受けた看護師、理学療法士に正しい方法を指導してもらいましょう。
術前化学療法を受ける場合
術前化学療法を行う患者さんに対するセンチネルリンパ節生検については、いくつかの注意点があります。
術前化学療法前の画像診断などにより腋窩リンパ節転移がないと判断された患者さんでは、術前化学療法の前あるいは後のいずれでも実施可能です。
一方、術前化学療法前に腋窩リンパ節転移があった患者さんでは、たとえ術前化学療法後の画像診断で腋窩リンパ節転移が消失したと考えられても、通常のセンチネルリンパ節生検の信頼性は不十分である可能性があります。現時点では腋窩リンパ節郭清省略が標準的な方法とはいえません。
センチネルリンパ節生検の信頼性を向上させるために、もともと転移と診断されたリンパ節に目印をつけてそれを確実に摘出する、通常のセンチネルリンパ節生検よりも多めにリンパ節を摘出するといった工夫が必要とされています。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」
- 日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」
- 乳がん.jp「腋窩リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検」
- おしえて 乳がんのコト「腋窩リンパ節郭清」中外製薬
- 大阪ブレストクリニック「センチネルリンパ節生検に関する最新ガイドライン」
- 金原出版「患者さんのためのリンパ浮腫ガイドライン2025年版」
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「リンパ浮腫のリハビリテーション」
- 聖路加国際病院ブレストセンター「腋窩郭清をされた方へ」
- 近畿大学医学部 外科学教室「腋窩リンパ節郭清の省略とセンチネルリンパ節の摘出」
- 乳がんinfoナビ「リンパ浮腫の治療とその予防」

