肝臓がんでは日本で開発された肝動脈塞栓法なども含め、さまざまな治療が行われてきましたが、他のがんでは広く行われている「化学療法(抗がん剤などの薬物による治療)」はほとんど行われてきませんでした。
それは、肝臓がんの抗がん剤治療は毒性だけがでて有効なものがなかったことが原因です。
ところが、2009年5月、分子標的治療薬「ネクサバール(一般名:ソラフェニブ)」が肝臓がんでも承認され、手術で切除できない進行肝臓がんに対する治療法のオプションのひとつとなっています。
分子標的治療薬は「毒をもって毒を制す抗がん剤」とは違い、がん細胞を選択的に、そして効率よく攻撃するので正常細胞を傷つけることが少ない、とされているタイプの薬です。ネクサバールの場合は、①がん細胞が栄養を摂るための新生血管のできるのを阻害する、②がん細胞の増殖を抑える、という2つの働きがあります。
この薬が承認される後押しをしたのが欧米で行われた臨床試験のデータです。進行肝臓がん患者を対象にして、299人にネクサバールを投与、一方、プラセボ(偽の薬)投与群は303人。ネクサバールを投与した299人中がんが消失した人はゼロ。がんが半分以下と小さくなった人は2.4%。そして、肝臓がんが増大も縮小もしないで経過した人が約70%存在しました。
ネクサバール投与群の生存期間中央値は10.7か月、一方、プラセボ投与群は7.9か月でした。7.9か月が10.7か月に延びたということがこのデータではいえます。
つまり、がんを攻撃して減少させるのではなく、肝臓がんを進行させずに現状維持できることができる薬だといえます。この結果が評価され、日本での肝臓がん治療では"手術ができない、ラジオ波焼灼療法もできないが、まだ肝機能が良い肝臓がん患者"を対象として使われるようになりました。
ただ、薬の使い方としては副作用も強いので使い方が難しいという問題点はあります。
■ネクサバールの副作用と発生確率
・皮膚症状
手足症候群(55.2%)
発疹(40.7%)
脱毛(36.6%)
・消化器症状
下痢(35.2%)
食欲不振(14.5%)
・呼吸器症状
嗄声(11.0%)
疲労感(15.9%)
以上、肝臓がんの化学療法についての解説でした。