
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫とR-CHOP療法
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
悪性リンパ腫には多くの種類がありますが、そのなかでも日本人に多いのが「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」です。日本では悪性リンパ腫の患者さんのうち、DLBCLは30~40%を占めています。
DLBCLは悪性度としては中悪性度に分類され、月単位で進行するアグレッシブリンパ腫です。リンパ節だけでなく、あらゆる臓器や皮膚、神経などから発生するため、がんの存在部分が広範囲に及ぶこともあります。
治療の軸となるのは化学療法(薬を使った治療)であり、なかでも「R-CHOP療法(アールチョップ療法)」と呼ばれる多剤併用の治療が標準治療として位置付けられています。
R-CHOP療法で使う薬剤の特徴
R-CHOP療法は、5種類の薬剤を組み合わせた治療法です。それぞれの薬剤名の頭文字を組み合わせて「R-CHOP」と名付けられています。
使用する薬剤とその働き
| 薬剤記号 | 一般名 | 商品名 | 分類 |
| R | リツキシマブ | リツキサン | 分子標的薬(抗CD20モノクローナル抗体) |
| C | シクロホスファミド | エンドキサン | アルキル化剤(抗がん剤) |
| H | ドキソルビシン | アドリアシン | アントラサイクリン系抗がん剤 |
| O | ビンクリスチン | オンコビン | 植物アルカロイド系抗がん剤 |
| P | プレドニゾロン | - | ステロイド薬 |
このなかで最も重要な役割を果たすのがリツキシマブです。2000年頃から使われているこの分子標的薬は、腫瘍細胞の表面にあるCD20という目印に届き、直接細胞に結合してアポトーシス(細胞死)を起こすシグナルを加えたり、体内の免疫細胞を呼び込んだりします。こうした様々な作用によって抗腫瘍効果を発揮します。
シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンは、いずれも細胞障害性抗がん剤として、がん細胞の増殖を抑える働きをします。プレドニゾロンはステロイド薬で、抗炎症作用のために加えられています。
R-CHOP療法の投与方法と治療の進め方
1コースあたりの投与スケジュール
R-CHOP療法は3週間(21日間)を1コースとして繰り返します。
| 日程 | 投与内容 | 方法 |
| 1日目 | リツキシマブ | 点滴(約3~6時間) |
| 2日目(または1日目) | シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン | 点滴・注射 |
| 1~5日目 | プレドニゾロン | 経口服用(1日1回) |
| 6~21日目 | 休薬期間 | なし |
リツキシマブは初回投与時にアレルギー反応(インフュージョンリアクション)が起こる可能性があるため、抗ヒスタミン薬と鎮痛薬を事前に服用し、少量から開始して様子を見ながら投与します。
抗がん剤の点滴は1日または2日間で完了し、プレドニゾロンは自宅で内服を続けます。その後は約2週間の休薬期間を設け、体の回復を待ちます。
治療コース数の決定
治療コース数は病気の進行度(ステージ)や病巣の大きさによって決定されます。
限局期(ステージ1・2)で10cmを超える巨大腫瘤がなく、放射線を照射しやすい部位に病巣がある場合は、「R-CHOP療法3~4コース+放射線治療」が選択されることがあります。
それ以外の場合は「R-CHOP療法6~8コース」を実施するのが一般的です。高齢の患者さんでは6コースが標準となります。放射線治療を併用するかどうかは、病巣の状況によって判断されます。
R-CHOP療法の効果と治療成績
寛解率と生存率
R-CHOP療法は、DLBCLに対して高い効果を発揮します。
計画されたコース(3~8コース)を完了することで、70~80%程度の患者さんが寛解(目視できるがんが全て消えること)に至ります。5年生存率は65~80%と報告されており、多くの患者さんが治癒する効果的な治療法といえます。
治療効果の判定は、治療終了後にCTやPET-CTを用いて行われます。病変が完全に無くなっている状態を「完全奏効・完全寛解(CR)」と呼びます。
治療中の重要な管理ポイント
治療期間中に注意する必要があるのは「骨髄抑制」、特に好中球の減少です。好中球が減ると免疫機能が低下して感染症を起こしやすくなります。肺炎などを起こすと予定どおりのコースを実施できず、結果としてがん治療は不完全に終わってしまう可能性があります。
そのため、R-CHOP療法では好中球をしっかりコントロールすることが重要です。好中球が減少した場合は、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を休薬期間中に投与することがあります。
2026年現在では、高齢の患者さんや合併症を持つハイリスクな患者さんに対しては、骨髄抑制を軽減させるために「持続型G-CSF」という薬剤を使用することが推奨されています。この薬剤をR-CHOP療法とは別の日に投与することで、白血球を増やし、発熱や重度の感染症のリスクを下げることができます。
R-CHOP療法の副作用と対策
主な副作用
R-CHOP療法では以下のような副作用が起こる可能性があります。
| 副作用の種類 | 症状 | 対策 |
| 骨髄抑制 | 白血球・好中球減少、貧血、血小板減少 | G-CSF投与、感染予防(抗菌薬予防投与) |
| 消化器症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、便秘 | 制吐剤の投与、食事の工夫 |
| 末梢神経障害 | 手足のしびれ、痛み、筋力低下 | 症状の観察、ビタミンB12などの投与 |
| 心毒性 | 動悸、息切れ | 心機能のモニタリング |
| インフュージョンリアクション | 発熱、悪寒、発疹、呼吸困難 | 予防薬の投与、段階的な投与 |
| 脱毛 | 毛髪の脱落 | ウィッグの使用、心理的サポート |
ドキソルビシンは心臓に対して毒性を持つため、治療中は心機能のチェックが行われます。この心毒性があるため、R-CHOP療法を二度目に行うことはできません。
ビンクリスチンは末梢神経障害を引き起こしやすい薬剤です。手足のしびれや痛み、感覚鈍麻、便秘、排尿障害などの症状が数週間以内に生じることがあります。有効性が明らかな治療薬はありませんが、経験的にビタミンB12、プレガバリン、デュロキセチンなどが使用されることがあります。
新しい治療選択肢:Pola-R-CHP療法
ポラツズマブベドチンを用いた治療
2020年代に入り、R-CHOP療法に代わる新しい治療法として「Pola-R-CHP療法(ポラ・アール・シーエイチピー療法)」が登場しました。
この治療法は、R-CHOP療法のビンクリスチン(O)をポラツズマブベドチン(Pola)に置き換えたものです。ポラツズマブベドチンは、悪性B細胞の表面に普遍的に発現するCD79bを標的とする抗体薬物複合体です。
POLARIX試験の結果
未治療の中リスクまたは高リスクDLBCL患者さんを対象とした国際共同第3相試験(POLARIX試験)では、Pola-R-CHP療法がR-CHOP療法と比較されました。
2年間の追跡調査では、Pola-R-CHP療法を受けた患者さんは、R-CHOP療法を受けた患者さんよりも病気が進行または再発するリスクが27%低くなりました。2年無増悪生存率は、Pola-R-CHP療法群で76.7%、R-CHOP療法群で70.2%でした。
さらに2025年に報告された5年追跡結果では、5年無増悪生存率がPola-R-CHP療法群で64.9%、R-CHOP療法群で59.1%と、長期的にも効果が持続することが確認されました。
副作用については、両群で同程度であり、ビンクリスチンによる末梢神経障害を避けられる可能性があることから、現在では18~80歳でIPIスコアが2以上の患者さんに対して、Pola-R-CHP療法も標準治療の一つとして推奨されています。
初回治療で効果が不十分だった場合の対応
救援化学療法(サルベージ治療)
予定のコースを終えても完全にがんが消えなかったり、一度消えても再発したりした場合は、別の抗がん剤を使って寛解を目指します。これを救援化学療法(サルベージ治療)と呼びます。
ドキソルビシンの心毒性があるため、R-CHOP療法を二度目に行うことはできません。代わりとして、以下のような治療法が行われます。
- R-ESHAP療法
- R-ICE療法
- R-DeVIC療法
- R-GDP療法
- R-DHAP療法
これらの治療法は、R-CHOP療法よりも骨髄抑制が強く出るため、高齢者や合併症のある患者さん以外の若い患者さんであっても、入院して治療するのが一般的です。
自家末梢血幹細胞移植
救援化学療法で寛解に至れば、いったん治療は完了します。しかし寛解に至らない場合は、自家末梢血幹細胞移植(PBSCT)を検討します。
この治療が実施できるのは、通常65~70歳未満までです。体調が良好であっても70歳を超えると適応外になることが一般的です。
自家末梢血幹細胞移植の手順は以下のとおりです。
1. 血液中から造血幹細胞を採取し、冷凍保存します(造血幹細胞とは、血液の細胞の元になる細胞です)
2. 採取後、大量の抗がん剤を体内に投与してがん細胞の殲滅を目指します
3. 大量の抗がん剤投与により、体内の造血幹細胞もほぼ死滅してしまうため、凍結していた造血幹細胞を体内に戻します
4. 体力の回復を待ちます
この治療法はかなりリスクが大きく、命に関わることもあるため、事前に治療に耐えられるかどうかを慎重に判断します。
再発した場合でも自家末梢血幹細胞移植を行うことができ、無事に体力が回復すれば50%程度の方が寛解に至ります。サルベージ療法で効果が現れた後に自家移植を実施できた場合、5年イベントフリー生存率は46%、再発率は47%と報告されています。
新しい治療選択肢
2023年以降、再発・難治性DLBCLに対して、以下のような新しい治療法が選択肢となってきました。
1. CAR-T細胞療法:患者さんの免疫細胞(T細胞)を取り出し、がんを攻撃する能力を高めるように遺伝子操作して体内に戻す治療法です。初回化学療法が効果を示さなかったり、1年以内に病気が進行した場合などに行われることがあります。
2. エプコリタマブ:二重特異性抗体薬として2023年9月に承認されました。抗CD20モノクローナル抗体製剤を含む少なくとも2つの標準的な治療が無効または治療後に再発した患者さんに対して推奨されています。
これらの治療法により、再発・難治性DLBCLの患者さんにも新たな治療の選択肢が広がっています。
R-CHOP療法の費用
治療費の目安
R-CHOP療法の1コースあたりの薬剤費は、保険適用前で約78万円とされています。6コース実施する場合、薬剤費だけで約468万円となります。
これに入院費、検査費、その他の管理費用などが加わりますが、日本の健康保険制度により、実際の自己負担額は大きく軽減されます。
高額療養費制度の活用
日本では高額療養費制度があり、1か月あたりの自己負担額には上限が設定されています。上限額は年齢や所得によって異なりますが、一般的な所得の方の場合、月額約8~9万円程度が上限となります。
例えば、悪性リンパ腫ステージ4でR-CHOP療法6コースを受けた患者さんの事例では、治療費の自己負担総額が約52万円だったという報告があります(2015年の事例)。
複数月にわたって高額な医療費がかかる場合は、「多数該当」という制度により、4か月目以降の自己負担上限額がさらに引き下げられます。
医療費控除の活用
年間の医療費が10万円を超えた場合、確定申告で医療費控除を受けることができます。通院のための交通費なども対象となりますので、領収書は必ず保管しておくことをお勧めします。
高齢者に対する治療の工夫
高齢の患者さんや心臓が弱いなど持病のある患者さんに対しては、治療の負担が強くなりすぎないよう、以下のような工夫を加えて行うことがあります。
- 減量R-CHOP療法:リツキシマブ以外の薬の量を減量(50%、70%など)したR-CHOP療法
- コース数の調整:6コースではなく、状態に応じて3~4コースに減らすこともあります
80歳以上の患者さんに対しては、減量R-CHOP療法が実施されることが多く、2年生存率は59%と報告されています。80歳未満でPS(全身状態)および臓器機能が保たれている場合は、R-CHOP療法の用量強度を保つ必要があります。
治療を受ける際の心構え
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は、適切な治療を受けることで多くの患者さんが治癒する可能性がある病気です。
R-CHOP療法やPola-R-CHP療法は確立された標準治療であり、高い効果が期待できます。副作用についても、医療チームが適切に管理し、対策を講じてくれます。
治療中は感染症に注意し、手洗いやうがいをしっかり行うこと、けがをしないように気をつけることが大切です。体調の変化があれば、すぐに医療チームに相談しましょう。
血液内科の専門医が在籍している病院で診療を受けることが推奨されます。DLBCLに対する治療は盛んに研究が行われており、新しい治療法も次々と開発されています。
参考文献・出典
1. 日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版
2. 国立がん研究センター リンパ腫の治療について
3. 国立がん研究センター がん情報サービス びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
4. がん情報サイト「オンコロ」 びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫に対するポラツズマブベドチン+R-CHP療法
5. CareNet ポラツズマブ ベドチン+R-CHPのDLBCL1次治療、5年追跡でも有効性確認
6. りんぱしゅ通信 DLBCLの治療
7. 日本造血・免疫細胞療法学会 CAR-T細胞療法の医療費について
8. Doctorbook びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療法
9. The New England Journal of Medicine 未治療のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するポラツズマブ ベドチン
10. 看護roo! R-CHOP療法(化学療法のポイント)

