がんの多くは早期であれば症状がないものですが、甲状腺がんの場合も同じで早期に身体の不調を感じることはまずありません。
早期の甲状腺がんが発見されるのは主に人間ドックで、受信者が増加してきた最近では症状がない段階で発見されるケースは増えてきているそうです。とはいえ、ある程度進行して発見されることが多いのが現状です。
甲状腺がんは、進行してくるとのど仏の下にある甲状腺の「しこり」や「首の腫れ」が出て、触れてわかるようになってきます。
甲状腺は首の気管の前、のど仏の下にあって、蝶が羽を広げたような形をしています。大きさは約5センチ、重さは15グラム程度と、とても薄い臓器のため正常な甲状腺は触れてもわかりません。
ではこの甲状腺はどのような働きをしているのでしょうか。甲状腺は摂取した食材の中のヨードを取り込み、それを材料にして甲状腺ホルモンを作って分泌します。体の新陳代謝を盛んにするため、活力がアップします。子供の場合は成長を促進させます。このように重要な働きをしている甲状腺ホルモンの分泌をコントロールしているのは脳の「下垂体」です。
甲状腺の疾患の中で最も多いのは「橋本病(慢性甲状腺炎)」です。甲状腺に慢性の炎症が起き、進行すると機能低下が起こり倦怠感、気力低下、手足のむくみ、冷え、便秘などの症状がでます。次いで多いのが「甲状腺腫瘍」です。これには良性と悪性があり、悪性腫瘍が「甲状腺がん」です。甲状腺がんを含めた甲状腺の病気は男女比1対4で圧倒的に女性が多いのが特徴です。
甲状腺がんの大きな特徴は2点あります。第1点は、20代から発症し、30代から50と患者は多少増えますが、年齢による大きな差はありません。
第2点は、若い人では他のがんだと進行が速いなど性質が悪いのですが、甲状腺がんは逆です。若い人の方が性質が良く、男性は45歳以上、女性は50歳以上の方が性質が悪いです。年齢が「予後」や「悪性度」を決めるという点が甲状腺がんの特徴だといえます。
その甲状腺がんは「乳頭がん」「濾胞がん」「未分化がん」「髄様がん」「悪性リンパ腫」の5種類に分けられます。圧倒的に乳頭がんが多く全体の約85%を占めます。次いで濾胞がんが約10%。残り約5%がその他の3つのがんです。
患者の多い乳頭がん、濾胞がんは40代が最も多く、次いで30代、20代の順です。まれではありますが、10代の人にも発生することがあります。
悪性といっても乳頭がん、濾胞がんはきわめて性質の良いがんだとされています。髄様がんと悪性リンパ腫は中等度、最も性質が悪いのは未分化がんです。
未分化がんは発見された時点から余命1年以内というのが現状という厳しさです。性質の良い乳頭がんは進行が遅いことが知られています。周囲のリンパ節への転移はあるものの、遠く離れた臓器への転移は極めてまれです。
濾胞がんも性質の良いがんですが、時に肺や骨への転移がみられます。髄様がんは遺伝性のものが約30%を占めています。
親がこの病気になった場合は、がん遺伝子(RETがん遺伝子)を調べることが重要です。それが陽性であれば、60~70歳までに髄様がんになる可能性があります。
そのため該当る人は1年に1回は髄様がんの腫瘍マーカーである「カルシトニン」のチェックをしたほうがよいでしょう。そして、甲状腺から発生する悪性リンパ腫は橋本病(慢性甲状腺炎)のある人に起こることがほとんどです。橋本病の人は悪性リンパ腫への注意が必要だといえます。
以上、甲状腺がんについての解説でした。