前立腺がんの手術「前立腺全摘除術」はダヴィンチという医療機器ロボットを使って行われることがあります。2012年4月から保険適用となっています。
先進医療で行われていたときの前立腺全摘除術に対するロボット手術の費用は、ロボット手術分の患者の自己負担分が72万円プラス検査など健康保険診療部分で、トータル約120万円が必要でした。
それが現在ではべて健康保険の適用になったので、3割負担で済みます。その3割もとりあえず患者が負担する金額で、高額療養費制度で患者の収入によって違いはあるものの、月に約8万円を超える分は全額還付されます。
欧米においては2010年のロボット手術数は約28万例で、その約35%の9万例を前立腺全摘除術が占めています。米国では前立腺全摘除術のロボット手術は約85%に実施されているのです。
手術における合併症発生の面では、開腹手術も腹腔鏡手術もロボット手術も大きな違いはありません。腹腔鏡手術もキズが小さいので前立腺全摘除術としては10%強普及しましたが、それ以上は伸びませんでした。
その理由は、腹腔鏡手術は高度な技術を必要とする難易度の高い手術であり、一定の技術的水準に達するのに時間がかかるためです。水準に達するのに100例は行わないと難しいといわれています。
いっぽう、ロボット手術は、ロボットの関節が人間の関節以上に動き、十分な前立腺手術に対する知識と技術を有する泌尿器科であれば15~20例も行うと一定の水準に達することが可能だといわれています。
医師が手術をやりやすいということは大きなメリットといえ、結果的に患者の治療成績の向上、機能予後の向上などに結びつくといえます。
日本でもダヴィンチの導入は進み、2012年時点で50台を超えています。
ロボット手術が高く評価されているのは「出血量」「合併症発生率」「入院期間」「手術の操作性」の要素です。
開腹手術などでは自己血を準備して臨みます。それは大出血という事態に対応するためです。ところが、ロボット手術では3D画像で患部を見ることができ、さらに奥深いところへも細いロボットの手が入るため、血管を傷つけるリスクが少ないのが特徴です。
また、炭酸ガスで腹腔内に圧をかけるため、その点でも出血量が少なくなります。そのためロボット手術では、自己血輸血さえもほとんど必要としません。
また、手術の操作性としてロボットアームには7つもの関節があるので、人間の手以上に自在に動くことが特徴です。奥深い骨盤内であっても確実に処置が行え、前立腺に張りついているような神経の剥離も、神経を傷つけることなく実施できます。
3つの医療機関で実施した先進医療での集計では、大きな合併症の発生もわずかに数例のみ。その代表的なものは直腸損傷が1例と深部静脈血栓症が1例でしたが、直腸損傷は術中に縫合することで完治し、深部静脈血栓症は抗凝固療法で軽快するなど、対応不能なものではありませんでした。
ある医療機関の集計では、入院期間は開腹手術が平均18日程度のところ、ロボット手術は平均16日程度でした。これも症例数が増加するにつれ、今では入院期間は約10日で日常生活や仕事への復帰が可能になってきています。手術の翌日に患者は歩くことができ、2日目からは普通に食事もできますが、尿道カテーテルは6日程度挿入しておくので、入院期間としては少し長くなるのです。
ただ後遺障害がないわけではありません。手術後には尿失禁が起こりやすく、1か月後には70~80%の人が回復しますが、開腹が長引く人もいます。
今後、技術の向上が進むことは確実であり日本も米国並みに、前立腺全摘除術の大半はロボット手術で行われるようになるでしょう。
以上、前立腺がんの手術についての解説でした。