がん治療で放射線治療を行った際、さまざまな副作用・後遺症が起ります。
そのうち「早期障害」といわれるものは、「放射線照射中に起こる有害事象(副作用、合併症などのダメージ)」のことを指します。
この有害事象は照射部位に限って発生し、全身的な症状が現れることはありません。しかし、中には照射途中で全身倦怠感や食欲不振が現れる人もいます。この原因には、照射野が大きい場合や1回線量に関係しますが、たいてい、症状は1週間程度で改善してきます。
以下に、治療部位ごとの有害事象について解説します。「早期障害」なので基本的には短期的、一時的な症状です。治療が終了すれば徐々に治療前の状態に戻っていきます。
1.頭部へ照射した際の早期障害
脳腫瘍やがんの脳転移などで頭部に照射をおこなった場合には、頭痛、耳痛、めまい、吐き気、嘔吐などの症状が出ることがあります。脳の照射では、一時的に脳浮腫が起こることもあります。
このような症状が出た場合には、脳内圧降下剤を使いながら治療をおこなうこともあります。また、照射を重ねていくと線量が増えますので、脱毛や頭皮の発赤が見られます。この症状も照射が終了すれば徐々に元に戻っていきます。
2.口腔や頸部へ照射した際の早期障害
口腔がん、咽頭がん、喉頭がんの照射で、粘膜炎や嗄声(させい。声のかすれ)が起こることがあります。食べ物が飲みにくいとか、飲み込む時に痛みがでるとか、声がかすれる、という症状がよく起きます。この原因は放射線照射で炎症が起こるためです。
通常、この症状は一過性ですから、元にもどります。症状がひどい場合には、治療中には粘膜保護剤や鎮痛剤などを服用したりすることもあります。
このような薬は症状を軽減するために用いられますが、完全に症状が改善されるとは限りません。また、人によっては口内が乾いたり、食べ物の味覚が変わったりします。そのため、食事が取りにくくなってきます。
3.肺、縦隔へ照射した際の早期障害
肺がん、縦隔腫瘍などの治療では「肺野」が必ず照射を受けます。
そのため、放射線肺臓炎(はいぞうえん)と肺繊維症(せんいしょう)が必ず起こってきます。放射線肺臓炎に罹れば、まれにですが、咳、発熱、息切れの症状がでます。放射線肺臓炎に罹っているかどうかは、エックス線写真で診断がつきます。それだけでなく、照射が終わって1~3か月後に症状が現れることもあります。
また、胸部の縦隔部に照射する場合には、食道にも放射線が照射されます。その場合には、食道炎の症状が現れ、飲み込みにくさや飲み込む時に痛みがでることがあります。この症状は放射線照射が原因ですので、照射が終われば元通りに回復します。
4.乳房、胸壁へ照射した際の早期障害
乳がんの温存療法や胸壁部の照射では、乳房だけでなく肺野にも放射線が当たります。放射線肺臓炎の症状が起きれば咳、発熱、息切れがでることがあります。
5.腹部、骨盤へ照射した際の早期障害
悪性リンパ腫や子宮頸がんの治療では、照射野が広くなることがあります。
この場合には、胃や腸が照射されるために吐き気、嘔吐、腹痛、下痢といった症状がみられます。
また、膀胱が照射された場合には、頻尿、排尿困難がでてきます。膀胱炎の症状と同じですが、原則として放射線治療はそのまま継続します。
以上、がんの放射線治療についての解説でした。
がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。