放射線治療の効果はどのように表れ、どのように評価するのでしょうか。
腫瘍の組織型、腫瘍の大きさ、放射線の種類、温熱効果、細胞周期、回復、増感剤などさまざまな要因が、がん細胞の損傷や放射線感受性の良し悪しに関係します。
がんの組織型によって効果が異なる
まず「がんの組織型」とは、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんや小細胞がんなどがん病巣を作る細胞の形の違いのことです。がんは、この組織型の違いによって手術、放射線治療、化学療法をおこなった場合の治療成績が変わってきます。
放射線治療の場合、一般的に細胞分裂の激しい小細胞がんの方が扁平上皮がんよりも放射線感受性は高く、がんの致死効果も大きくなります(感受性が高い=反応しやすい=効果が表れやすいといえます)。
しかし、そうであるからといって治療成績が必ずしも良いというわけではありません。治療成績は、がんの放射線感受性の違いだけでなく、所属リンパ節への浸潤や遠隔転移など他の要因の大きく関係しています。単に「小細胞がんの方が扁平上皮がんよりも治療成績が優れている」とはいえないのです。
がん腫瘍が大きいと効果が薄れる
また、がんの大きさは、その体積が大きくなればなるほど放射線治療の治療効果は薄れます。理由は、がんが大きくなれば、病巣内には放射線に効きにくい領域が増えてくるからです。その結果、放射線による殺傷効果が薄れてきます。
がん病巣と放射線の関係にこのような特徴があることを無視して、がんを根絶させようと大量の放射線を病巣に照射していけば、正常組織自体も放射線損傷を受けることになります。
がん病巣は放射線によって損傷を受けますが、正常組織も同じように損傷を受けます。その結果、放射線が原因で重篤な副作用を起こすことになります。したがって、放射線治療でがんの根治をめざそうとするあまり、大量に放射線を照射すれば、副作用の発生によって患者の生活の質が低下することは目に見えています。これでは適切な治療法とはいえません。
血流と温熱との関係について
「血流量」は、がん病巣に運ばれる酸素と栄養の量に関係します。
通常、がんは栄養血管を通じて栄養分を補給して増殖していきます。その栄養血管が塞がれても、がんは新生血管を別のルートで作り、栄養分を新たに吸収して粘り強く増殖していくのです。
例を挙げると、肝臓がんには「塞栓療法」という治療があります。この方法は血管内に塞栓用スポンジなどを詰めてがんに通じる血流をわざと遮断する方法です。
肝臓には栄養分を運ぶ血管があります。その血管を通じてがん病巣も栄養を補給しています。通常、動脈塞栓療法でがんに補給する栄養分の兵糧攻めをおこなったとしても、がんは時間をかけてじわりじわりと自分自身の力で栄養分を補給する道を作っていきます。
がんは、兵糧攻めの治療法で一時的に縮小しますが、時間が経つにつれて治療効果は徐々に薄れてきます。このように、がんは新生血管を作り出していくとともに、塞栓術による薬剤効果がなくなるにつれて、再び栄養分を補給して再増殖していきます。
温熱の効果は、がんの部分の温度を上げていけば、組織のタンパク質が変化し、がん病巣が損傷を受けるという現象です。人間の体温は約36度です。人間は健康状態では体温は一定です。
温熱療法は局部的にがんの温度を上昇させ、がん細胞を損傷するための方法です。
温熱療法では、マイクロ波、ラジオ波、超音波のいずれかの原理を利用して人体の表面から深部までのがんを加温することができます。がんの温度が43度以上になればがん細胞が損傷することは分っています。温熱療法でのがん病巣の標的は、放射線治療のDNAと違い、タンパク質です。タンパク質が温熱で損傷を受ければ、細胞自体が死滅するということになります。
がん腫瘍の内部には、血流の多い部分と少ないところができます。特に、がんが大きくなれば、がんの中心部の血流量は流れが悪くなります。通常、温熱療法では、がん病巣の血流の悪い組織の温度を43度以上に上げます。がん病巣の温度が43度以上になれば、がんは損傷を受けます。
逆に、がん病巣の表面などの血流量の多いところは、血流が冷却ポンプの役目を果たすので、がん病巣全体の温度はいっこうに上がることはありません。
温熱療法で温度が低い部分は血流量が多いところと考えられます。この部分は、血流によって酸素量が豊富になるところです。したがって、酸素が多いところは放射線治療で優れた治療効果が期待でき、血流の悪いところは温熱療法の治療効果が現れます。
このように、放射線治療と温熱療法を組み合わせてがん治療に用いれば、両方の相乗効果で全体的にがん病巣を損傷させることができます。
しかし、温熱療法がおこなわれた全盛期は今から1990年代まででした。熱でがんを叩くという方法は思うような成果をあげられず、現在では温熱療法をおこなっている病院はわずかになりました。
正常組織へのダメージを抑えることが課題
放射線治療では、できるだけ正常組織の損傷を避け、がん病巣だけに放射線が集中するようにします。正常組織の損傷を防ぐことができれば、がん病巣に目的以上の処方線量を照射することができるようになるからです。
しかし、外部照射法では、身体の外部から放射線を当てるため、正常組織には必ず放射線が当たります。したがって、がん病巣に照射できる総線量には限界が生じます。
放射線が当たる照射野は、がん病巣の大きさに関係します。照射野とは放射線が人体に照射される範囲のことです。当然、がん病巣が小さければ照射野は小さくてすみます。逆に照射野が大きくなれば、正常組織に放射線が当たることになります。
たとえば、肺がんの外部照射法では、がん病巣以外の肺に放射線が照射されることが多く、そのため肺炎や肺繊維症などの有害事象(合併症、後遺症)の発生頻度が高くなります。治療中もしくは治療後にこの有害事象はほとんどのケースで起こります。
外部照射法では、正常組織への照射線量は可能な限り下げなければなりません。照射野が大きくなれば、がんを制御できる可能性は低くなります。
また、線量の配分も重要な要素です。
放射線をかける場合、1回の放射線量はどのくらいなのか、1週間に何日間の照射をおこなえばよいのか、総線量はどのくらいにするのがよいのか、毎日の照射は1回にするのか、それとも間隔を空けて2回以上実行するのがベストなのかということを検討します。この放射線のかけ方の違いでがんの治療効果は変わります。
なお線量率によってもがんの治療効果は変わります。線量率とは、単位時間あたりにどのくらいの線量が治療装置から放出されるのかということです。線量率を雨にたとえれば、同じ量の雨でも、一気にザーと降る雨なのか、小雨みたいに長時間にわたりシトシト降る雨なのかというようなことです。
その他、放射線治療の効果を左右する要因としては、がんに罹った場合、年齢、性別、栄養状態、免疫能なども関係します。一般的に年齢は幼児の方が大きな治療効果が期待できます。細胞分裂が盛んにおこなわれているからです。高齢者になるほど細胞分裂が緩やかになるので感受性が下がります。
以上、がんの放射線治療についての解説でした。
がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。