
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
ラパチニブ(タイケルブ)とはどんな薬か
ラパチニブ(商品名:タイケルブ)は、HER2過剰発現が確認された乳がん患者さんに使用される経口の分子標的薬です。2009年4月に日本で承認されて以来、HER2陽性乳がんの治療において重要な選択肢の一つとなっています。
ラパチニブの大きな特徴は、同じHER2陽性乳がんに使用されるトラスツズマブ(ハーセプチン)とは異なる作用の仕方をする点です。トラスツズマブが注射薬であるのに対し、ラパチニブは錠剤として服用できるため、通院の負担が軽減されるというメリットもあります。
ラパチニブの作用機序と特徴
ラパチニブは、上皮増殖因子受容体(EGFR:ErbB1)およびHER2(ErbB2)という2つの受容体のチロシンキナーゼ活性を選択的に阻害します。これにより、がん細胞の増殖シグナルが遮断され、腫瘍細胞の増殖を抑制する効果を発揮します。
この薬が画期的なのは、HER2とEGFRの両方を標的とする「二重チロシンキナーゼ阻害剤」である点です。がん細胞の増殖に関わる複数の経路を同時に遮断することで、より効果的にがん細胞の成長を抑えることができます。
ラパチニブは、ノバルティスファーマ社から販売されています。元々はグラクソ・スミスクライン社が開発しましたが、2015年にオンコロジー事業の譲渡に伴い、販売会社が移管されています。
対象となるがんの種類
ラパチニブが保険適応となるのは、「HER2過剰発現が確認された手術不能または再発乳がん」の患者さんです。ただし、すべての乳がん患者さんが対象となるわけではありません。
HER2陽性乳がんは、乳がん患者さん全体の約2~3割を占めるタイプで、がん細胞の表面にHER2というタンパク質が多く存在します。このタイプの乳がんは進行が早く、再発しやすい傾向があるとされてきましたが、分子標的薬の登場により治療の選択肢が広がっています。
ラパチニブを使用する前には、病理医または検査施設における専門的な検査により、HER2過剰発現が確認されていることが必須条件となります。
投与方法と投与スケジュール
併用療法の種類
ラパチニブは単独では使用せず、必ず他の薬剤と併用します。主な併用療法は以下の2つです。
| 併用薬 | ラパチニブの投与量 | 対象となる患者さん |
|---|---|---|
| カペシタビン(ゼローダ) | 1250mg/日 | アントラサイクリン系、タキサン系、トラスツズマブによる前治療後の患者さん |
| アロマターゼ阻害剤 | 1500mg/日 | ホルモン受容体陽性かつ閉経後の患者さん |
服用方法の重要なポイント
ラパチニブを服用する際には、いくつかの重要な注意点があります。
まず、食事との関係です。ラパチニブは食事の影響を強く受ける薬剤で、食後に服用すると血中濃度が大幅に上昇してしまいます。研究によると、低脂肪食(5%脂肪、500kcal)と一緒に服用すると血中濃度が約2.7倍、高脂肪食(50%脂肪、1000kcal)では約4.3倍にまで増加することが分かっています。
そのため、必ず食事の1時間以上前、または食後1時間以降に服用する必要があります。
次に、分割投与の禁止です。1日の投与量を2回に分けて服用すると、これもまた血中濃度が上昇し、副作用が強くなる可能性があります。カペシタビンとの併用の場合、タイケルブ250mg錠を5錠(合計1250mg)を1日1回まとめて服用します。
併用するカペシタビンの投与方法
カペシタビンとの併用療法では、カペシタビンは1000mg/㎡を朝食後と夕食後の30分以内に1日2回、14日間連続で服用し、その後7日間休薬するというサイクルを繰り返します。
ラパチニブの効果と奏効率
臨床試験で示された効果
ラパチニブの効果は、複数の臨床試験で確認されています。
国内で行われた第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験では、アントラサイクリン系、タキサン系、トラスツズマブによる前治療後の患者さん51名を対象として、ラパチニブとカペシタビンの併用療法が実施されました。その結果、臨床効果(完全奏効、部分奏効、および24週間以上持続する病勢安定の割合)は58.8%という結果が得られています。具体的には、部分奏効(PR)が12例(24%)、24週以上持続する病勢安定(SD)が18例でした。
海外臨床試験との比較
| 評価項目 | ラパチニブ+カペシタビン併用 | カペシタビン単独 |
|---|---|---|
| 無増悪生存期間(中央値) | 36.9週(約9.2ヶ月) | 19.7週(約4.9ヶ月) |
| 奏効率 | 22~23.7% | 14% |
海外で実施された第Ⅲ相臨床試験では、トラスツズマブが効かなくなった患者さんに対して、ラパチニブとカペシタビンの併用群とカペシタビン単独群を比較しました。併用群では無増悪生存期間が単独群の約2倍に延長し、奏効率も約1.6倍高いという結果が得られました。
この試験は当初528人で行う予定でしたが、324人目の中間解析で両群の効果に明確な差が出たため、倫理的な配慮から399人で登録が中止されています。
脳転移に対する効果
ラパチニブは、乳がんの脳転移に対しても効果が期待されています。トラスツズマブが効かなくなり、脳転移に対して放射線治療を受けた患者さんを対象とした臨床試験では、約20%の患者さんで脳転移巣が50%以上縮小し、約40%の患者さんで病勢が安定または軽度の縮小が見られました。合計すると約60%の患者さんに何らかの効果が認められています。
主な副作用とその対処法
重大な副作用
ラパチニブには、注意が必要な重大な副作用があります。
肝機能障害は最も注意すべき副作用の一つで、発現頻度は約25%です。AST、ALT、γ-GTP、ALP、血中ビリルビンなどが著しく上昇する重篤な肝機能障害が起こることがあり、死亡例も報告されています。そのため、投与開始前および投与中は定期的な肝機能検査が必須です。
間質性肺疾患も重篤な副作用として知られており、死亡例の報告もあります。息切れ、呼吸困難、咳、発熱などの初期症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
左室駆出率(LVEF)の低下を伴う心不全は約8%の患者さんに見られます。投与開始前および投与中は定期的に心機能検査を実施し、患者さんの状態を注意深く観察します。
QT間隔延長も報告されており、投与前および投与中は適宜心電図検査を行う必要があります。
高頻度で見られる副作用
| 副作用 | 発現頻度 | 対処のポイント |
|---|---|---|
| 下痢 | 65~73% | 止瀉薬の服用、水分補給。改善しない場合は受診 |
| 手足症候群 | 76% | 保湿ケア、刺激の少ない靴・衣服の使用 |
| 口内炎 | 35~41% | 口腔ケアの徹底、刺激物の回避 |
| 発疹 | 67% | 保湿、紫外線対策、処方された外用薬の使用 |
| 悪心・嘔吐 | 頻度高い | 制吐剤の使用、少量頻回の食事 |
国内臨床試験では、ほぼ全例(100%)で何らかの副作用が認められています。ただし、多くの副作用はグレード1~2(軽度から中等度)であり、適切な対処により管理可能です。
日常生活での注意点
下痢への対応は特に重要です。自分の排便パターンを把握し、下痢が始まったら早めに処方された止瀉薬を服用します。止瀉薬を服用しても症状が改善しない場合や、脱水症状が心配される場合は、すぐに医療機関を受診してください。水分補給を十分に行うことも大切です。
皮膚症状への対策として、予防的なスキンケアが推奨されます。保湿剤を使用して皮膚の乾燥を防ぎ、紫外線を避けるための対策(日焼け止め、帽子、長袖の着用など)を行います。手足症候群が出現した場合は、手足への圧迫や摩擦を避け、柔らかいクッション性のある靴を選びます。
爪囲炎などの皮膚症状が出現した場合は、早めに医療スタッフに報告することが重要です。
費用と保険適応について
薬価と自己負担額の目安
タイケルブ錠250mgの薬価は、2025年11月時点で1錠あたり908.2円です。
カペシタビンとの併用療法の場合、1日の投与量は1250mg(250mg錠×5錠)となるため、1日あたりのタイケルブの薬価は約4,541円です。これに加えて、カペシタビンの費用も必要になります。
| 期間 | 薬価(タイケルブのみ) | 3割負担の場合 |
|---|---|---|
| 1日 | 約4,541円 | 約1,362円 |
| 1ヶ月(30日) | 約136,230円 | 約40,869円 |
| 1年 | 約1,657,465円 | 約497,239円 |
※上記は薬剤費のみの概算です。診察料、検査費用などは含まれません。
高額療養費制度の活用
ラパチニブは高額な薬剤ですが、日本の医療保険制度では高額療養費制度が利用できます。この制度により、月々の医療費の自己負担額には上限が設けられています。
例えば、70歳未満で年収約370万円~約770万円の方の場合、月の自己負担上限額は80,100円+(総医療費-267,000円)×1%となります。年収約370万円以下の方であれば、上限額は57,600円です。
複数月にわたって高額療養費の支給を受ける場合は、4ヶ月目からさらに負担が軽減される「多数回該当」の仕組みもあります。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができ、便利です。お住まいの地域の健康保険組合や市区町村の窓口で申請できます。
投与時の注意事項と慎重投与が必要な患者さん
以下のような状態の患者さんには、特に慎重な投与が求められます。
肝機能障害のある患者さんは、ラパチニブが主に肝臓で代謝されるため、血中濃度が上昇する可能性があります。投与前および投与中の肝機能検査がより重要になります。
間質性肺疾患(放射線性肺臓炎を含む)の既往がある患者さんでは、症状が増悪する可能性があるため、呼吸器症状の観察が必要です。
心不全症状の既往がある患者さん、左室駆出率が低下している患者さん、コントロール不能な不整脈のある患者さん、臨床上重大な心臓弁膜症のある患者さんでは、症状が悪化する可能性があります。
妊娠可能な女性には、投与中および投与終了後一定期間は適切な避妊を行うよう指導が必要です。動物実験では胎仔への影響が確認されており、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌です。
高齢の患者さんは、一般に生理機能が低下しているため、患者さんの状態を観察しながら注意して投与します。
薬物相互作用について
ラパチニブは主にCYP3A4という酵素で代謝されるため、この酵素を阻害または誘導する薬剤との併用には注意が必要です。
CYP3A4を強力に阻害する薬剤(グレープフルーツジュース、一部の抗真菌薬、マクロライド系抗生物質など)と併用すると、ラパチニブの血中濃度が上昇し、副作用が強くなる可能性があります。
逆に、CYP3A4を誘導する薬剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトインなど)と併用すると、ラパチニブの血中濃度が低下し、効果が減弱する可能性があります。
また、ラパチニブ自体もP糖タンパク質やBCRPなどのトランスポーターを阻害するため、これらの基質となる薬剤の血中濃度に影響を与える可能性があります。
他の薬剤を使用している場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
服薬管理のポイント
ラパチニブは経口薬であるため、在宅での服薬管理が重要になります。
まず、服用時間を一定にすることをお勧めします。食事との関係を守りつつ、毎日同じ時間帯に服用する習慣をつけると、飲み忘れを防ぐことができます。
飲み忘れた場合の対処法については、事前に医師や薬剤師に確認しておきましょう。一般的には、次の服用時間が近い場合は1回飛ばし、次回から通常通り服用します。2回分を一度に服用してはいけません。
副作用の記録をつけることも有用です。いつどのような症状が出たか、程度はどうだったかを記録しておくと、医療スタッフとの情報共有がスムーズになり、適切な対処につながります。
定期的な検査(肝機能検査、心機能検査、心電図など)は必ず受けるようにしてください。自覚症状がなくても、検査値の異常が早期に発見されることがあります。
参考文献・出典情報
タイケルブ錠250mgの基本情報 - 日経メディカル処方薬事典
タイケルブ(一般名:ラパチニブ)ハーセプチンに効果不十分なHER2陽性患者さんに新たな希望 - がんサポート
タイケルブ(一般名:ラパチニブ)ハーセプチンが効かなくなった患者さんに2次治療として期待される - がんサポート
ラパチニブ(タイケルブ)の特徴と副作用 - 抗がん剤ドットコム
タイケルブ(ラパチニブ)の作用機序:抗がん剤 - 薬剤師の情報

