
エトポシド(ラステット)とはどんな薬か
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
エトポシドは、がん細胞の増殖を抑える抗がん剤の一つです。商品名としてラステット、ベプシド、エトポシドなどの名称で使用されています。
この薬は主に小細胞肺がん、悪性リンパ腫、急性白血病、胚細胞腫瘍などの治療に用いられます。点滴静注と経口投与の両方が可能な薬剤で、多くの場合は他の抗がん剤と併用して使用します。
エトポシドは「トポイソメラーゼⅡ阻害薬」という種類の抗がん剤です。トポイソメラーゼⅡは、がん細胞が増殖するときに必要なDNAの複製を助ける酵素です。エトポシドはこの酵素の働きを邪魔することで、がん細胞の増殖を防ぎます。
具体的には、トポイソメラーゼⅡと結合し、切断されたDNAの再結合を阻害して細胞死を招くことで抗腫瘍効果を発揮します。細胞周期のS期後半からG2/M期という、細胞が分裂する準備をしている時期に作用します。
対象となるがんの種類
エトポシドが保険適応となる主ながんの種類は以下の通りです。
| がんの種類 | 主な使用方法 |
|---|---|
| 肺小細胞がん | シスプラチンまたはカルボプラチンとの併用療法 |
| 悪性リンパ腫 | 他の抗がん剤との併用療法 |
| 急性白血病 | 寛解導入療法、地固め療法 |
| 胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍) | BEP療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン) |
| 子宮頸がん | 化学療法後に増悪した場合 |
| 小児悪性固形腫瘍 | ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、網膜芽腫、肝芽腫、腎芽腫など |
中でも小細胞肺がんの治療では、エトポシドは標準的な治療薬として広く使用されています。
効果と奏効率について
エトポシドの効果は、対象となるがんの種類や併用する薬剤によって異なります。
小細胞肺がんでは、シスプラチンやカルボプラチンとエトポシドの併用療法が標準治療となっています。肺がん診療ガイドラインによると、PE療法(シスプラチン+エトポシド)の奏効率は約78%と報告されています。
2025年に報告された最新の臨床試験では、進展型小細胞肺がん患者さんに対してイミフィンジ(デュルバルマブ)+カルボプラチン+エトポシドの3剤併用療法を行った結果、50.9%の患者さんで治療に奏効したというデータがあります。
また、国立がん研究センターの情報によると、進展型小細胞肺がんの治療では、プラチナ製剤とエトポシドに抗PD-L1抗体(テセントリクまたはイミフィンジ)を組み合わせた治療で、がん病巣が治療前と比較して明らかに小さくなる割合は10人中7-8人とされています。
胚細胞腫瘍に対しては、BEP療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)やEP療法(エトポシド+シスプラチン)として使用されます。
ただし、奏効率は患者さんの全身状態、がんの進行度、過去の治療歴などによって個人差があります。
投与方法と投与スケジュール
投与方法の選択
エトポシドは点滴静注と経口投与の2つの方法があります。皮下注射や筋肉注射は行いません。
点滴静注の場合は、他の薬剤との混注は避けます。また、高濃度で使用する場合はセルロース系のフィルターを溶解する可能性があるため、1.0mg/mL以上の高濃度ではセルロース系フィルターの使用を避ける必要があります。
経口投与の場合は、カプセル剤(ラステットSカプセル25mg、50mg)を使用します。
代表的な投与スケジュール
がんの種類によって投与スケジュールが異なります。
| がんの種類 | 投与量 | 投与期間 | 休薬期間 |
|---|---|---|---|
| 小細胞肺がん(点滴) | 1日量60-100mg/㎡ | 5日間連続 | 3週間 |
| 胚細胞腫瘍(点滴) | 1日量100mg/㎡ | 5日間連続 | 16日間 |
| 小細胞肺がん(経口) | 1日175-200mg | 5日間連続 | 3週間 |
| 子宮頸がん(経口) | 1日50mg | 21日間連続 | 1-2週間 |
小細胞肺がんの標準的な治療では、3週間を1サイクルとして投与と休薬を繰り返します。通常は4サイクル(約3か月)の治療を行います。
併用療法の例
小細胞肺がんでよく用いられる併用療法には以下のようなものがあります。
PE療法:シスプラチン(CDDP)+エトポシド(ETP)
カルボプラチン+エトポシド療法
イミフィンジ+カルボプラチン+エトポシド療法(2025年現在の標準治療の一つ)
テセントリク+カルボプラチン+エトポシド療法
胚細胞腫瘍ではBEP療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)が標準的です。
主な副作用と対処方法
重大な副作用
エトポシドの用量制限毒性は骨髄抑制です。これは最も注意が必要な副作用です。
骨髄抑制:白血球、赤血球、血小板などが減少する状態です。白血球が減少すると感染症にかかりやすくなります。血小板が減少すると出血しやすくなります。定期的な血液検査でモニタリングを行います。
肝機能障害:AST、ALT、ビリルビンなどの数値が上昇することがあります。
腎機能障害:BUN、クレアチニンの上昇、尿蛋白などが見られることがあります。
間質性肺炎:発現率は低いですが、重大な副作用です。咳、息切れ、発熱などの症状が出現した場合は速やかに医師に報告する必要があります。
アナフィラキシー様症状:まれにショックやアナフィラキシー様症状が起こることがあります。
その他の副作用
脱毛:発現率は50%以上です。治療開始前に説明を受け、ウィッグなどの準備を事前に行うことが推奨されます。治療終了後には回復します。
悪心・嘔吐:点滴静注では軽度(催吐リスク:軽)、経口投与では中程度(催吐リスク:中)の催吐性があります。制吐剤の使用で対処します。
食欲減退:約20%の患者さんで見られます。
疲労感:約21%の患者さんで報告されています。
発熱:比較的よく見られる副作用です。
日常生活への影響と注意点
骨髄抑制により白血球が減少する時期(投与後7-14日頃)は、感染予防が重要です。人混みを避ける、手洗い・うがいを徹底する、発熱や咳などの症状が出たらすぐに医療機関に連絡するなどの対応が必要です。
血小板減少時は、出血しやすくなるため、転倒や打撲に注意が必要です。歯磨きも柔らかい歯ブラシを使うなど工夫します。
腎障害を予防するために、シスプラチンとの併用時には1日2L程度の輸液を投与します。水分補給も大切です。
使用時の注意点と禁忌
禁忌(使用できない場合)
重篤な骨髄抑制がある患者さん
妊婦または妊娠している可能性のある患者さん
本剤に対する過敏症の既往がある患者さん
慎重投与が必要な場合
肝機能異常がある患者さん:投与量の調整が必要になります。
腎機能障害がある患者さん:エトポシドは尿中に平均50%が未変化体として排泄されるため、腎機能障害がある場合は投与量の調整が必要です。
骨髄抑制がある患者さん(重篤でない場合):骨髄抑制を増悪させる可能性があります。
小児や生殖可能な年齢の患者さん:性腺に対する影響を考慮する必要があります。
妊娠する可能性のある女性には、適切な避妊をするよう指導します。パートナーが妊娠する可能性のある男性にも、適切な避妊が推奨されます。
保険適応と費用について
薬価と治療費
エトポシドは保険適応となる薬剤です。
2025年5月時点の薬価は以下の通りです。
ラステット注100mg/5mL:3,133円(1瓶)
ラステットSカプセル25mg:薬価収載品
ラステットSカプセル50mg:薬価収載品
実際の治療費は、使用する投与量、投与日数、併用する薬剤によって異なります。
例えば、小細胞肺がんの標準治療であるカルボプラチン+エトポシド療法を3週間ごとに4サイクル行う場合、薬剤費だけで数十万円になることがあります。
ただし、日本には高額療養費制度があるため、実際の自己負担額は所得に応じて上限が設けられています。
高額療養費制度について(2026年最新情報)
高額療養費制度は、1か月の医療費が一定額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。
2025年12月に決定された見直しにより、2026年8月から段階的に自己負担限度額が引き上げられる予定です。
| 所得区分 | 2026年7月まで | 2026年8月以降 | 2027年8月以降(予定) |
|---|---|---|---|
| 年収約370万-770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 約86,000円 | 所得区分の細分化により変動 |
| 年収約770万-1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 引き上げ予定 | 所得区分の細分化により変動 |
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 引き上げ予定 | 所得区分の細分化により変動 |
また、2026年8月からは年間上限額も新設される予定です。年収約200万-770万円の層では年間上限53万円が設定される見込みです。
多数回該当(直近12か月の間に3回以上高額療養費制度を利用した場合、4回目から限度額が下がる仕組み)は据え置かれる予定です。
実際の自己負担額の例
例えば、年収500万円の患者さんが小細胞肺がんの治療で1か月に100万円の医療費がかかった場合:
3割負担で窓口支払額は30万円
高額療養費制度適用後の自己負担額は約87,430円(2026年7月まで)
2026年8月以降は約93,000円程度
このように、高額療養費制度により実際の負担は大きく軽減されます。
ただし、差額ベッド代、食事代、先進医療の技術料などは高額療養費制度の対象外です。
治療を受けるうえでの判断材料
エトポシドによる治療を受けるかどうかを考える際、以下の点を整理しておくと良いでしょう。
治療の目的を理解する
小細胞肺がんの場合、限局型か進展型かで治療の目的が異なります。限局型では根治を目指した治療、進展型では症状の緩和と生活の質の維持が主な目的となります。
担当医から、自分のがんの状態、治療の目的、期待される効果、予想される副作用について十分な説明を受けることが大切です。
副作用への対処法を確認する
脱毛が起こる可能性が高いため、ウィッグや帽子の準備を事前に考えておくことができます。
骨髄抑制による感染症リスクに備えて、日常生活での注意点を理解しておきます。
吐き気や食欲不振への対処法(制吐剤の使用、食事の工夫など)を確認しておきます。
治療スケジュールと生活への影響
通常は3週間を1サイクルとして4サイクル行うため、約3か月間の治療期間となります。
入院が必要か、外来通院で可能かを確認します。
仕事や家庭生活への影響を考え、必要な調整を行います。
費用面の準備
高額療養費制度の申請方法を確認しておきます。限度額適用認定証を事前に取得しておくと、窓口での支払いが自己負担限度額までで済みます。
年間を通じた治療費の見通しを立てておくことで、経済的な不安を軽減できます。
セカンドオピニオンの活用
治療方針について不安がある場合、他の医療機関でセカンドオピニオンを受けることも一つの選択肢です。
現在の主治医に相談すれば、必要な資料を準備してもらえます。
まとめにかえて
エトポシド(ラステット)は、小細胞肺がんをはじめとする様々ながんの治療に用いられる重要な抗がん剤です。
トポイソメラーゼⅡという酵素の働きを阻害することでがん細胞の増殖を抑え、多くの場合は他の抗がん剤と併用して使用されます。
治療効果は高く、小細胞肺がんでは70-80%の奏効率が報告されていますが、骨髄抑制や脱毛などの副作用にも注意が必要です。
2026年以降、高額療養費制度の見直しにより自己負担限度額が段階的に引き上げられる予定ですが、それでも制度を利用することで医療費負担は大きく軽減されます。
治療を受けるかどうかの判断は、治療の目的、期待される効果、予想される副作用、生活への影響、費用などを総合的に考えて行います。不明な点や不安なことがあれば、遠慮なく担当医や看護師、薬剤師に質問することが大切です。
この記事が、エトポシドによる治療について考えを整理する一助となれば幸いです。最終的な治療方針の決定は、必ず担当医と十分に相談したうえでおこないましょう。
参考文献・出典情報
ラステット注100mg/5mLの基本情報 - 日経メディカル処方薬事典
PS不良の進展型小細胞肺がんに対するイミフィンジ+カルボプラチン+エトポシド併用療法の検討 - オンコロ
高額療養費制度の見直しについて(令和7年1月23日) - 厚生労働省
高額療養費制度の見直しについて(令和7年12月25日) - 厚生労働省
高額療養費、自己負担の上限4〜38%引き上げ - 日本経済新聞

