
ナベルビン(ビノレルビン)とは、どのような薬か
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
ナベルビン(一般名:ビノレルビン酒石酸塩)は、非小細胞肺がんや手術不能または再発した乳がんの治療に使用される抗がん剤です。植物由来のビンカアルカロイド系に分類され、がん細胞の増殖を抑える働きがあります。
この薬は、ニチニチソウという植物から抽出される成分を基に開発されました。協和キリン株式会社から「ナベルビン」という商品名で、日本化薬株式会社からは後発医薬品として「ロゼウス」という商品名で販売されています。
投与方法は点滴静注で行われ、外来通院での治療も可能です。ただし、血管への刺激が強いため、投与時には十分な注意が必要となります。
ナベルビンの作用機序と特徴
ナベルビンは、がん細胞の分裂を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。具体的には、細胞分裂時に重要な役割を果たす「微小管」という構造に作用します。
微小管は、チュブリンというタンパク質が重合(結合)することで形成されます。ナベルビンはこのチュブリンに選択的に結合し、微小管の重合を阻害します。その結果、細胞分裂の中期で分裂が停止し、がん細胞の増殖が抑えられます。
ナベルビンの主な特徴は次の通りです。
脂溶性が高く、肺組織への移行が良好
ビンカアルカロイド系の薬剤の中で、ナベルビンは脂溶性が最も高い薬剤です。この特性により、肺組織への薬剤の移行が良好で、非小細胞肺がんに対して効果的に作用します。
神経毒性が少ない
同じビンカアルカロイド系の薬剤であるビンクリスチン(オンコビン)と比較して、ナベルビンは神経に対する影響が少ないことが確認されています。このため、末梢神経障害などの副作用が比較的軽いとされています。
ただし、他のビンカアルカロイド系薬剤と同様に、便秘やイレウス(腸閉塞)といった消化器症状には注意が必要です。
対象となるがんの種類
ナベルビンの保険適応は以下の通りです。
非小細胞肺がん
肺がんは大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分けられます。非小細胞肺がんは肺がん全体の約85%を占め、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどが含まれます。
ナベルビンは、非小細胞肺がんに対して単独で使用される場合と、シスプラチン(CDDP)などの他の抗がん剤と併用される場合があります。進行期や再発例、手術が適応とならない患者さんに対して使用されます。
手術不能または再発乳がん
乳がんにおいては、手術ができない進行した状態や、手術後に再発した場合に使用されます。特に、アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシンなど)やタキサン系薬剤(パクリタキセルなど)による治療を受けた後に病状が進行した、あるいは再発した患者さんが対象となります。
ナベルビンは、タキサン系薬剤と比較して神経毒性が軽く、投与時間も短時間で済むというメリットがあります。
ナベルビンの効果と奏効率
臨床試験の結果から、ナベルビンの効果について以下のことが分かっています。
非小細胞肺がんにおける効果
非小細胞肺がん患者さんに対してナベルビンを単独で使用した臨床試験では、奏効率(がん細胞が縮小したり、消失したりする割合)は約30.6%でした。
他の抗がん剤と併用した場合には、奏効率はさらに向上します。シスプラチンやマイトマイシンCと併用した場合、奏効率は58.6%に達したという報告があります。
乳がんにおける効果
アントラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤による前治療を受けた転移・再発乳がん患者さんを対象とした第II相試験では、一定の効果が認められています。
ただし、パクリタキセル(PTX)とドセタキセル(DTX)の両方による治療歴がある患者さんでは、ナベルビンへの反応が限定的であったとの報告もあります。前治療がドセタキセルのみの患者さんでは奏効率37.5%、パクリタキセルのみの患者さんでは10.0%でした。
投与方法とスケジュール
ナベルビンの投与方法は、がんの種類によって異なります。
| がんの種類 | 投与量 | 投与スケジュール |
|---|---|---|
| 非小細胞肺がん | 1回20〜25mg/m² (最高用量は25mg/m²) |
1週間間隔で静脈内に緩徐に注射 |
| 手術不能または再発乳がん | 1回25mg/m² | 1週間間隔で2週連続投与し、3週目は休薬 (3週間を1サイクルとする) |
投与量は体表面積(m²)に基づいて計算されます。患者さんの年齢や症状によって適宜増減されることがあります。
投与時の重要な注意点
ナベルビンは血管刺激性が強い薬剤です。pH3.3〜3.8で酸性であり(人間の血液のpHは7.35〜7.45)、このため血管痛が起こりやすくなっています。
投与は10分以内に終了させ、投与後は補液により血管内の薬液を十分に洗い流すことが推奨されています。血管外漏出が生じないよう、投与中は穿刺部の安静保持と観察が必要です。
投与前の白血球数が2,000/mm³未満の場合には投与を延期し、2,000/mm³以上に回復するのを待って投与します。
主な副作用と対策
ナベルビンの使用に際して、以下の副作用に注意が必要です。
骨髄抑制
最も注意が必要な副作用は骨髄抑制です。特に白血球減少と好中球減少が高頻度で見られます。
臨床試験では、白血球減少は80%以上、好中球減少は74〜92%の患者さんで認められました。白血球や好中球が減少すると、感染症にかかりやすくなります。
白血球数が1,000/mm³以下、好中球数が500/mm³以下になった場合は、感染症のリスクが高まるため、投与を1回休んだり、投与量を80%に減らしたりします。
発熱や喉の痛み、咳などの感染症の症状が現れた場合には、速やかに医師に連絡する必要があります。
血管炎・静脈炎・血管痛
ナベルビンは強い血管刺激性を持つため、注射をした血管に痛みを感じたり、赤く腫れたりする血管炎が起こりやすい薬剤です。
血管痛や静脈炎を予防するため、関節に近い橈側皮静脈や肘正中皮静脈など、血流が良く太い静脈からの投与を検討することもあります。投与前に手を温めたり、投与後にマッサージをしたりすることで、血管が出やすくなります。
血管外漏出
ナベルビンが血管外に漏れると、注射部位に硬結や壊死を起こすことがあります。このため、起壊死性抗がん薬として分類されており、血管外漏出には十分な注意が必要です。
投与中に疼痛や発赤などの異常を感じたら、すみやかに医療スタッフに報告してください。
万が一漏出した場合は、患部を冷やさずに温める方が良いとされています。
消化器症状
便秘やイレウス(腸閉塞)が起こることがあります。便秘が続く場合や腹痛がある場合は、早めに医師に相談しましょう。
その他、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢などの症状が現れることもあります。ただし、ナベルビンの催吐リスクは最小レベルとされています。
間質性肺炎
まれではありますが、間質性肺炎を起こすことがあります。間質性肺炎は、肺が硬くなって呼吸機能が低下する病気で、重症化する場合があります。
投与後に息苦しさや歩行時の息切れがある場合は、すみやかに医師に相談してください。
その他の副作用
肝機能障害(AST上昇、ALT上昇、Al-P上昇、LDH上昇)、腎機能障害(BUN上昇、クレアチニン上昇)、末梢神経障害などが報告されています。
日常生活への影響
ナベルビンによる治療中は、以下の点に注意して日常生活を送ることが大切です。
感染予防
骨髄抑制により免疫力が低下するため、感染予防が重要です。手洗いやうがいをこまめに行い、人混みを避けるなどの対策を心がけましょう。
発熱(38℃以上)、喉の痛み、咳、下痢などの症状が現れた場合は、速やかに医療機関に連絡してください。
出血・貧血への対応
血小板減少により出血しやすくなることがあります。歯磨きは柔らかい歯ブラシを使用し、鼻を強くかまないようにしましょう。
貧血により、めまいや息切れ、動悸などを感じることがあります。無理をせず、休息を取りながら活動することが大切です。
便秘対策
便秘予防のため、水分を十分に摂取し、食物繊維を含む食品を積極的に取り入れましょう。便秘が続く場合は、医師に相談して緩下剤の処方を受けることもできます。
保険適応と治療費用
ナベルビンは、非小細胞肺がんと手術不能または再発乳がんに対して保険適応があります。
薬価
2025年の薬価は以下の通りです。
| 製品名 | 規格 | 薬価 | 製造販売元 |
|---|---|---|---|
| ナベルビン注10mg | 10mg1mL1瓶 | 3,275円 | 協和キリン(先発品) |
| ロゼウス静注液10mg | 10mg1mL1瓶 | 2,398円 | 日本化薬(後発品) |
| ロゼウス静注液40mg | 40mg4mL1瓶 | 8,014円 | 日本化薬(後発品) |
後発医薬品(ロゼウス)を使用することで、薬剤費を抑えることができます。
治療費の概算
体表面積を1.6m²と仮定した場合、非小細胞肺がんに対する1回の投与量は25mg(25mg/m² × 1.6m² = 40mg)となります。
ロゼウス40mgを使用した場合、薬剤費は約8,014円です。これに点滴手技料や診察料などが加わります。週1回の投与であれば、月4回で薬剤費は約32,000円となります。
実際の自己負担額は、患者さんの年齢や所得によって異なります。
高額療養費制度の活用
がんの治療では医療費が高額になることがあります。このような場合、高額療養費制度を利用することで、自己負担額を軽減できます。
高額療養費制度とは、1か月(1日から月末まで)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が自己負担限度額を超えた場合、その超えた額が後から支給される制度です。
自己負担限度額の例(70歳未満の場合)
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当 |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円〜 (標準報酬月額83万円以上) |
252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770〜約1,160万円 (標準報酬月額53万〜79万円) |
167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370〜約770万円 (標準報酬月額28万〜50万円) |
80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 〜年収約370万円 (標準報酬月額26万円以下) |
57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
多数回該当とは、過去12か月以内に3回以上、自己負担限度額に達した場合、4回目からは上限額がさらに下がる仕組みです。長期療養が必要な患者さんにとって重要な制度です。
限度額適用認定証の利用
事前に「限度額適用認定証」を取得し、医療機関の窓口に提示することで、支払いを最初から自己負担限度額までにとどめることができます。
マイナ保険証を利用すれば、限度額適用認定証の事前申請も不要になります。
2026年以降の制度見直しについて
高額療養費制度については、2026年8月以降に段階的な見直しが予定されています。自己負担限度額の引き上げが検討されていますが、多数回該当の仕組みは据え置かれる見込みです。
詳細は今後の国会審議で決定されますので、最新の情報については、加入している健康保険組合や自治体の窓口で確認することをお勧めします。
治療を受ける上でのポイント
ナベルビンによる治療を受ける際は、以下のポイントを心がけましょう。
医師や看護師とのコミュニケーション
副作用や体調の変化について、些細なことでも医療スタッフに伝えることが大切です。特に発熱、息苦しさ、投与部位の痛みや腫れなどは、すぐに報告してください。
定期的な検査の受診
治療中は定期的に血液検査や画像検査を受け、効果や副作用の程度を確認します。検査結果を理解し、治療方針について医師と相談しましょう。
生活習慣の見直し
バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動など、基本的な生活習慣を整えることで、治療効果を高め、副作用を軽減できる可能性があります。
ただし、免疫力が低下している時期は、無理な運動や人混みへの外出は避けましょう。
サポート体制の活用
治療に関する不安や悩みがある場合は、がん相談支援センターなどの相談窓口を利用することもできます。経済的な問題、仕事との両立、家族のサポートなど、様々な相談に対応しています。
まとめ
ナベルビン(ビノレルビン)は、非小細胞肺がんや手術不能・再発乳がんの治療に用いられる抗がん剤です。微小管の重合を阻害することでがん細胞の増殖を抑え、肺組織への移行が良好で、神経毒性が比較的少ないという特徴があります。
主な副作用として骨髄抑制、血管炎、血管外漏出などがあり、特に感染予防と投与時の血管管理に注意が必要です。高額療養費制度を活用することで、経済的負担を軽減できます。
治療効果を最大限に引き出し、副作用を最小限に抑えるためには、医療スタッフとの良好なコミュニケーションと、患者さん自身の体調管理が重要です。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者さんの治療方針は、主治医の判断に基づいて決定されます。治療に関する具体的な疑問や不安がある場合は、必ず担当医に相談しましょう。
参考文献・出典情報
- がん情報サイト「オンコロ」ナベルビン(ビノレルビン)
https://oncolo.jp/drugs/navelbine - 日経メディカル処方薬事典 ナベルビン注40の基本情報
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/42/4240407A2024.html - HOKUTO レジメン Vinorelbine
https://hokuto.app/regimen/Gb0ek4U2NpjEhN20h6Wi - KEGG MEDICUS 医療用医薬品: ロゼウス
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00057976 - 厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - ファイザー がんを学ぶ 高額療養費制度
https://www.ganclass.jp/support/medical-cost/hight-cost - GemMed 高額療養費制度、長期療養者等に配慮し「多数回該当」を据え置きながら、自己負担限度額引き上げへ
https://gemmed.ghc-j.com/?p=71792 - 国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html - 小野薬品 がん情報 高額療養費制度
https://p.ono-oncology.jp/support/system/01_highcost/01.html - 日本経済新聞 高額療養費、自己負担の上限4〜38%引き上げ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA245ER0U5A221C2000000/

