肺がんを調べるための検査
・肺がんに関する最初の検査
肺がんの検査法として効果が認められているのは「胸部(きょうぶ)X線検査」と喫煙者が対象の「喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)」です。
喀痰細胞診とは、痰を採取して検査することで肺門(肺の入り口)にあるがんの有無を調べる検査です。痰には肺や気管支、咽頭などからはがれた細胞が含まれているので、痰を調べることでがん細胞があるかどうかも分かるのです。
なお、この喀痰細胞診は単独では行われず、X線検査と併せて行われます。この検査における「喫煙者」の定義は、喫煙指数=1日の本数×年数が400以上の人です。
・肺がんに関する精密検査
統計的には胸部X線検査の約3%、喀痰細胞診の約1%で異常がみつかり、精密検査が必要という判定が出ます。精密検査では疑わしい部位をCT(コンピューター断層撮影)で詳しく調べます。
また、気管支鏡検査を行うこともあります。これは気管支鏡を口から気管支に挿入して疑わしい部位を直接目視で確認する検査です。
その他、Tをみて細胞を直接採取する「生検(せいけん)」や、胸腔鏡を挿入して細胞や胸水を採取する検査も行います。
これらの検査によって「肺がんの細胞がある」と確認されたとき、肺がんの診断が下ります。この診断がついた場合、MRI、骨シンチグラフィ、PETなどにより、肺周辺や体全体においてがんの集積がないか詳しく調べます。
・肺がんの遺伝子検査
肺がんにはいくつかのタイプや特徴があります。どんな特徴を持っているのかを知ることで、その後の治療戦略に活かすことができます。
主にEGFR遺伝子や、ALK遺伝子といわれる特徴を調べ、どのような薬(分子標的薬など)が使えるかどうかを確認します。
肺がんの進行度合い(ステージ・病期)を判断する
がんの進行度(ステージ・病期)は、がんの大きさと浸潤(しんじゅん)の程度を示す「T因子(いんし)」、リンパ節転移の有無や程度を示す「N因子」、遠隔転移の有無を示す「M因子」をそれぞれ判定し、組み合わせることで判断されます。
これをTMN分類によるステージ(病期)判定といいます。
転移がみられないときはステージ1、限られたリンパ節のみに転移があるものはステージ2、がんのある同じ肺の縦隔に転移があるものはステージ3A、反対側の肺転移したり食道や気管にがんの浸潤が認められるものはステージ3B、肝臓や骨などに転移した場合はステージ4となります。
【肺がんのTMN分類によるステージ分類】
(右)転移の状況 (下)大きさ拡がり(T分類) |
リンパ節転移なし (N0) |
気管支周囲、肺門リンパ節へ転移がある (N1) |
縦隔リンパ節へ転移がある (N2) |
反対の肺、首の付け根のリンパ節に転移がある (N3) |
腹膜播種、悪性胸水や脳、肝臓などへ転移がある (M1) |
T1a、T1b | ステージ1A | 2A | 3A | 3B | 4 |
T2a | 1B | 2A | 3A | 3B | 4 |
T2b | 2A | 2B | 3A | 3B | 4 |
T3 | 2B | 3A | 3B | 3B | 4 |
T4 | 3A | 3A | 3B | 3B | 4 |
肺がんの組織型(肺がんのタイプ)
肺がんは、がん細胞が持つ特徴や様子(組織型)によって4つに分類されます。まず、小細胞がんと非小細胞がんの2つに大きく分けられます。
小細胞肺がんは肺がんの約15%~20%を占めます。増殖が速く、脳、リンパ節、骨などに転移しやすい悪性度の高いがんですが、非小細胞肺がんよりも抗がん剤や放射線治療の効果が得られやすいという特徴もあります。
非小細胞肺がんはさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」に分けられます。発生しやすい部位、進行速度、症状はそれぞれ異なり、手術を中心とした治療が主流になっています。
【肺がんの分類と組織型】
組織分類 | 好発部位 | 特徴 | |
非小細胞肺がん | 腺がん | 肺野部 | ・女性の肺がんで多い ・症状が出にくい |
扁平上皮がん | 肺門部 | 喫煙との関係大 | |
大細胞がん | 肺野部 | 増殖が速い | |
小細胞肺がん | 小細胞がん | 肺門部 | ・喫煙との関係大 ・転移しやすい |
・肺がんの遺伝子型
非小細胞肺がんのうち、扁平上皮がんでないものはさらに「遺伝子変異の違い」により分類します。
現在はEGFR遺伝子とALK遺伝子の変異が分かっており、それぞれに特化した分子標的薬が次々に開発され治療現場で使われています。
例えばEGFR遺伝子変異が陽性ならイレッサ、タルセバなどの分子標的薬が有効なタイプです。ALK遺伝子変異が陽性ならザーコリという分子標的薬が使えます。
肺がんにみられる遺伝子変異はほかにもあり、MET、RET、ROSIなどの遺伝子について研究が進められています。
肺がんの基本的な治療方法(標準治療)
・外科手術
病院で行われる治療の第一選択肢が手術です。転移のない肺がんではまずは手術が提案されます。
がんの場所や拡がりによって、がんが含まれている肺葉の切除(肺葉切除)、片方の肺全ての切除(片肺全摘)が選択されます。
体力がない人や肺の機能が悪い人、腫瘍が小さい人などは肺葉の一部のみを切除することもあります(縮小手術)。また、ほとんどの手術で肺周辺に存在するリンパ節を切除します。
・放射線治療
X線を体の外から照射してがん細胞を攻撃し、消失や縮小を狙うための治療法です。肺がんにおいては、目に見える腫瘍を消失させることを目的とした根治的放射線治療を行うことがあります。
根治的放射線治療が対象になるのは、非小細胞がんではステージ1からステージ3A、3Bまでで、小細胞がんの場合は限局型が対象となります。
保険適用のIMRT、保険適用外の重粒子線治療など高度な放射線治療も近年は活用が進んでいます。また、放射線治療は化学療法(薬をつかった治療)と同時に行うこともあります。
・化学療法
化学療法は分子標的薬や抗がん剤などの薬を使い、広い範囲のがん細胞を攻撃する治療法です。小細胞肺がんは非小細胞肺がんに比べて抗がん剤の効果が高いため、抗がん剤が治療の中心になります。
非小細胞肺がんではステージに応じて手術や放射線と組み合わせて、あるいは単独で用いられます。また、非小細胞肺がんに対する分子標的薬としてはEGFR阻害薬、ALK阻害薬、血管新生阻害薬など新しい薬が使われています。
肺がんの10年生存率は?
肺がんの予後(治療を開始したあとの経過)は他のがんと比べても厳しいものです。
2016年1月に国立がん研究センターが公表したがん種別の10年生存率では、全がん種類の平均が58.2%だったのに対し、肺がんは33.2%でした。なお、5年生存率は39.5%でした。
ステージ別の10年生存率はステージ1が69.3%、ステージ2が31.4%、ステージ3が16.1%、ステージ4は3.7%でした。統計では初期治療として手術を行えた場合の10年生存率も出しており、肺がんは57.8%でした。
以上、肺がんについての解説でした。