
イホスファミド(イホマイド)とは
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
イホスファミド(商品名:イホマイド)は、アルキル化剤と呼ばれる抗がん剤の一種です。体内で代謝されて活性化された後、がん細胞のDNA合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。
ナイトロジェンマスタード系のアルキル化剤に分類され、構造的には同じアルキル化剤であるシクロホスファミド(エンドキサン)と似ています。シクロホスファミドで効果が得られなくなった患者さんにも効果が認められることがある一方で、効力がやや弱いため、シクロホスファミドの約4倍の投与量が必要とされています。
製造・販売は塩野義製薬が行っており、WHO(世界保健機関)の必須医薬品モデル・リストにも収載されている重要な抗がん剤です。
対象となるがんの種類
イホスファミドは、複数のがん種に対して保険適応が認められています。2026年現在、以下のようながんの治療に使用されます。
主な適応疾患
| がんの種類 | 投与方法 | 備考 |
|---|---|---|
| 肺小細胞がん | 単剤または併用療法 | 標準的治療として確立 |
| 前立腺がん | 単剤または併用療法 | 進行例に使用 |
| 子宮頸がん | 併用療法(IFM+CDDP) | シスプラチンとの併用が多い |
| 骨肉腫 | 単剤または併用療法 | 骨軟部腫瘍の標準治療 |
| 再発・難治性胚細胞腫瘍 | 併用療法(VeIP、VIP、TIP) | 精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍 |
| 悪性リンパ腫 | 併用療法(ICE療法) | 難治例に使用 |
| 悪性骨・軟部腫瘍 | 併用療法または単剤 | ドキソルビシンとの併用が多い |
| 小児悪性固形腫瘍 | 併用療法 | ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、網膜芽腫、肝芽腫、腎芽腫など |
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
作用機序と代謝経路
イホスファミドは、投与後に主に肝臓の代謝酵素(CYP3A4)によって代謝され、活性型に変換されます。この活性化された代謝物が、がん細胞内に入り込んでDNAに結合し、DNA合成を阻害することで細胞の増殖を抑制します。
体内に入ったイホスファミドは、主に腎臓から排泄されます。未変化のイホスファミドの尿中排泄率は24時間で投与量の約6%であり、大部分は代謝物として排泄されます。このため、腎機能に障害がある患者さんでは使用に注意が必要です。
投与方法とスケジュール
投与経路と投与速度
イホスファミドは、点滴静注または静脈内注射で投与されます。点滴の場合は、通常2時間かけてゆっくりと投与します。血管外に漏れた場合の皮膚障害リスクは「中程度」とされており、投与時には慎重な管理が必要です。
がん種別の投与スケジュール
| がんの種類 | 1日投与量 | 投与日数 | コース間隔 |
|---|---|---|---|
| 肺小細胞がん、前立腺がん、子宮頸がん、骨肉腫 | 1.5〜3g(30〜60mg/kg) | 3〜5日間連日 | 3〜4週間ごと |
| 再発・難治性胚細胞腫瘍 | 1.2g/㎡(体表面積) | 5日間連日 | 3〜4週間ごと |
| 悪性リンパ腫 | 0.8〜3g/㎡(体表面積) | 3〜5日間連日 | 3〜4週間ごと |
| 骨・軟部腫瘍(ドキソルビシン併用) | 1.5〜3g/㎡(体表面積) | 3〜5日間連日 | 3〜4週間ごと |
| 小児悪性固形腫瘍 | 1.5〜3g/㎡(体表面積) | 3〜5日間連日 | 3〜4週間ごと |
投与スケジュールは、患者さんの年齢、体調、併用する他の抗がん剤、骨髄機能の回復状況などによって調整されます。
期待される効果について
イホスファミドの効果は、がんの種類や病期、併用する薬剤によって異なります。承認時の国内臨床試験では、固形がんに対して一定の奏効率が報告されています。
特に、他の化学療法で効果が得られなくなった患者さんに対しても、新たな治療選択肢として効果を示す場合があります。ただし、効果の判定には個人差があり、すべての患者さんに同じように効果が現れるわけではありません。
治療効果は、定期的な画像検査や腫瘍マーカーの測定によって評価されます。担当医と相談しながら、治療方針を決めていくことが重要です。
主な副作用とその対策
骨髄抑制
イホスファミドの最も重要な副作用の一つが骨髄抑制です。白血球、赤血球、血小板などの血液細胞が減少し、感染症のリスクが高まったり、貧血や出血傾向が現れたりします。
投与後1〜2週間で最も低下し、通常3〜4週間で回復します。定期的な血液検査でモニタリングを行い、必要に応じて顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与や輸血などの対策が取られます。
出血性膀胱炎と泌尿器系障害
イホスファミドの代謝物であるアクロレインなどが尿中に排泄される際、尿路粘膜を障害して出血性膀胱炎を引き起こすことがあります。これはイホスファミドの用量規制因子(DLF)の一つとされています。
予防策として、以下のような対策が必須です。
- 投与1時間前から、できるだけ頻回に大量の経口水分摂取を行う
- 投与終了の翌日まで1日尿量3000mL以上を確保する
- 投与第1日目は、投与終了直後から2000〜3000mLの輸液を投与する
- メスナ(ウロミテキサン)を必ず併用する
排尿の性状(血尿の有無)や排尿時の違和感には常に注意を払う必要があります。
イホスファミド脳症
近年、特に注目されているのがイホスファミド脳症です。投与法によって異なりますが、10%から30%の患者さんに発生するとされており、用量規制因子の一つとなっています。
イホスファミドの代謝物の一つであるクロロアセトアルデヒドが原因と考えられています。
脳症の症状
症状の重症度は様々で、以下のように分類されます。
| 重症度 | 主な症状 |
|---|---|
| 軽度 | 集中困難、倦怠感、傾眠 |
| 中等度 | せん妄、錯乱、気分変動・興奮、精神病様症状 |
| 重篤 | 非痙攣性てんかん重積状態、昏睡 |
小児では、神経系の発達を妨げる可能性があるため、特に注意が必要です。また、脳だけでなく末梢神経系に影響を与えることもあります。
脳症の対策
多くの場合、症状は72時間以内に自然回復します。点滴途中に症状が出現した場合は、直ちに点滴を中止することが推奨されます。
重篤な症状(グレードIIIからIV)の治療には、メチレンブルー(メチルチオニニウム)の静脈内投与が効果的とされています。症状の持続時間を短縮する効果が報告されていますが、その機序は完全には解明されていません。
高用量のイホスファミドを投与する場合には、メチレンブルーを予防的に用いることもあります。その他、アルブミン、チアミン、デクスメデトミジンなどの投与も行われます。
また、研究によれば、シスプラチンの投与歴が脳症の危険因子として報告されており、血中アルブミン低値も脳症の存在を示唆するとされています。
その他の重大な副作用
- アナフィラキシーショック
- 心筋障害、不整脈
- 間質性肺炎、肺水腫
- 急性腎不全
- 意識障害
- 膵炎
- 脱毛
- 性機能障害(精巣機能障害)
メスナの併用が必須である理由
イホスファミドを使用する際には、必ずメスナ(ウロミテキサン)という薬剤が併用されていることを確認する必要があります。
メスナは、急速に腎臓を通して排泄され、尿中でイホスファミドの代謝物であるアクロレインと結合して無毒化します。これにより、出血性膀胱炎などの泌尿器系障害を予防します。
大量の水分補給や尿のアルカリ化(炭酸水素ナトリウム投与)だけでは予防効果が十分とはいえないため、メスナの併用が標準的な治療法として確立されています。
費用と保険適応
薬価
2025年12月時点での薬価は以下のとおりです。
| 製品名 | 規格 | 薬価(円) |
|---|---|---|
| 注射用イホマイド | 1g1瓶 | 2,155円 |
実際の治療費は、投与量、投与日数、併用する他の薬剤、入院の有無などによって大きく異なります。体表面積1㎡あたり2〜3gを3〜5日間投与する場合、薬剤費だけで数万円から十万円以上になることもあります。
保険適応
イホスファミドは、前述の適応疾患に対して公的医療保険が適用されます。患者さんの自己負担は、通常3割(70歳未満の場合)ですが、高額な治療費となる場合には高額療養費制度を利用することで、さらに負担を軽減できます。
高額療養費制度の活用
イホスファミドを使用したがん治療では、医療費が高額になることが一般的です。そのような場合、高額療養費制度を利用することで、自己負担額を大幅に軽減できます。
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、1か月(同じ月の1日から末日まで)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が、自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が後から払い戻される制度です。公的医療保険に加入している方であれば、誰でも利用できます。
自己負担限度額の目安(70歳未満の場合)
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当(4回目以降) |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770万円〜約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370万円〜約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
※2026年8月以降、制度改正により自己負担限度額や所得区分が変更される可能性があります。最新の情報は、加入している医療保険または厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。
限度額適用認定証の活用
事前に「限度額適用認定証」を取得し医療機関に提示すれば、窓口での支払いを最初から自己負担限度額までに抑えることができます。一時的な高額支払いを避けられるため、入院治療などで医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、認定証の取得をお勧めします。
また、マイナ保険証を利用すれば、事前申請なしで窓口での同意のみで限度額適用を受けることができます。
多数回該当と世帯合算
過去12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目からは「多数回該当」として自己負担限度額がさらに引き下げられます。長期にわたる治療を受ける患者さんにとって、経済的負担を軽減する重要な制度です。
また、同じ医療保険に加入している家族の医療費を合算できる「世帯合算」の仕組みもあります(70歳未満の場合は、1回につき21,000円以上の自己負担のみ合算可能)。
日常生活での注意点
水分摂取と排尿管理
イホスファミド投与中および投与後は、泌尿器系障害を予防するために十分な水分摂取が不可欠です。投与開始1時間前から積極的に水分を取り始め、投与終了の翌日まで継続してください。
尿の色や排尿時の痛み、違和感には常に注意を払い、異常があればすぐに医療スタッフに報告することが重要です。
感染予防
骨髄抑制により免疫力が低下するため、感染症にかかりやすくなります。手洗い、うがい、マスク着用などの基本的な感染予防策を徹底し、人混みを避けるなどの配慮が必要です。
発熱、悪寒、咳、のどの痛みなどの症状が現れたら、すぐに担当医に連絡してください。
脳症の早期発見
投与後に、普段と違う眠気、集中力の低下、気分の変動などを感じた場合は、軽症であっても医療スタッフに伝えることが大切です。早期に対応することで、重症化を防げる可能性があります。
妊娠・授乳への影響
イホスファミドは催奇形性が報告されているため、妊娠中または妊娠の可能性がある女性への投与は避けるべきです。また、小児や生殖可能な年齢の患者さんに投与する場合には、性腺への影響を考慮する必要があります。
授乳中の使用も避けることが推奨されています。
併用禁忌・併用注意の薬剤
併用禁忌
ペントスタチン(コホリン)との併用は絶対に避けなければなりません。イホスファミドの類似薬であるシクロホスファミドとペントスタチンの併用により、心毒性が発現し死亡した症例が報告されています。
併用注意
- アロプリノール:尿酸値のコントロールに注意
- フェノバルビタール:イホスファミドの代謝に影響
- 血糖降下薬(SU薬、インスリン):血糖値の変動に注意
- メスナ:併用必須だが、投与タイミングに注意
慎重投与が必要な患者さん
以下のような状態の患者さんでは、特に慎重な投与が必要です。
- 肝機能障害または腎機能障害のある方
- 膀胱に障害のある方
- 骨髄抑制のある方
- 感染症を合併している方
- 水痘(水ぼうそう)にかかっている方
- 高齢の方
- 小児
その他の重要な情報
発がん性について
イホスファミドは、国際がん研究機関(IARC)により「発がん性を示す」分類に指定されています。医療従事者による取り扱いは、シクロホスファミドに準じた厳重な管理が必要です。
溶解後の保存
イホマイド1g(1瓶)に生理食塩液または注射用水25mLを加えて溶解します。溶解後はできるだけ速やかに使用し、保存する必要がある場合には、冷所保存で24時間以内、室温保存で6時間以内に使用する必要があります。