乳がんはガイドイライン化(標準化)が進んでおり、進行度(ステージ)に応じて基本的な治療法が決められています。
また、同じ病期でもがんの広がりや性質によって治療法が違う場合があります。ここではステージごとの標準的な治療法を挙げていきます。
ステージ0期の治療
画像診断による乳房の中のがんの広がり(「乳管内進展」と言います)によって乳房(乳腺)全切除術、または乳房(乳腺)部分切除術(乳房温存術)を行います。
乳房温存術の場合は、乳房内の再発を予防するために、放射線治療を行います(術後放射線療法)。また、反対側の乳房での再発を予防するために、ホルモン療法を行うことがあります。
ステージⅠA期とステージⅠB期の治療
基本的に乳房(乳腺)部分切除術とセンチネルリンパ節生検が推奨されます。しかし、触れるシコリは小さくても、画像診断によって広範な乳管内進展がある場合には、残念ながら乳房(乳腺)全切除とセンチネルリンパ節生検が推奨されます。手術の後で、切除された標本を顕微鏡で検索します(「病理検査」の1つです)。
病理検査によって、がんの大きさ、脇の下のリンパ節への転移の有無、あるいは転移の個数、組織学的異型度、あるいは核異型度(細胞分裂の数やがん細胞の形態などによって決められる悪性度の指標です)、ホルモン受容体の有無、HER2(「ハーツー」と読みます)タンパクなどのがん遺伝子タンパク質の発現の有無などを調べて、どのくらい再発する危険性があるかを評価します。
再発の危険性が高いと判断された場合、その再発の危険性の大きさ、月経の状況、ホルモン受容体の有無、HER2タンパクの発現の有無に応じて、術後に再発を予防する目的で薬物療法(術後化学療法)を行います。また、乳房温存術やリンパ節転移の程度に応じて、術後放射線療法を行います。
ステージⅡA期の治療
現在、主に3cm以下でリンパ節転移のなさそうなⅡA期であれば、手術が優先的な選択肢とされています。シコリがもう少し大きい場合やリンパ節転移を疑う場合には、薬物療法を先行して、手術をその後に行います。これを「術前化学療法」と言います。
術前化学療法には、乳房のシコリの縮小の程度によって薬の治療効果がわかること、また、うまく小さくなれば乳房の形を残す手術(乳房温存術)が行える可能性が出てくる、という利点があります。
現在、10%以上の浸潤性乳がんの患者さんで、術前化学療法によって乳がんが完全に消滅することが確認されています。しかし、手術と薬物療法とどちらを先行しても、最終的な再発の有無や、生命の予後については影響しないこともわかっています。
ⅡA期であれば、手術の後に薬物療法を行うことも乳がんの治療として標準的ですから、担当医とよく相談して治療を選びましょう。
ステージⅡB期からⅢC期の治療
1990年代までは乳房、脇のリンパ節、胸筋をまとめて、大きく切除していた病期です。最初に手術できないことはありませんが、現在は「まず薬物療法ありき」です。
その理由は、微小ながん細胞がリンパ管や血管を介して、すでに全身に広がっている可能性が高い病期であること、薬物療法や放射線療法の進歩に伴って、手術の乳がん治療に占める意義が小さくなってきたことがあります。
もちろん、最終的には手術を行いますが、まず薬物療法です。薬物療法に際して重要な点は、化学療法を行う前に乳房のシコリを「針生検」、ないしは「生検」(シコリの一部分を採取して病理検査を行うこと)することです。
ステージⅣ期の治療
乳房のシコリか転移病巣の針生検を行います。この病期は全身に乳がんが明らかに広がっている状態なので、手術によって乳房を取ることにはあまり意味がありません。再発した乳がんと同様に、病理検査に基づいて薬物療法を行い、がんの進行を抑えて、がんによる症状が進まないようにします。
ただし、骨転移や脳転移などによる症状を和らげるため、放射線療法や手術が行われることがあります。また、薬物療法がよく効いた場合に、将来、乳房のシコリから出血したり、細菌感染して悪臭を伴うような事態をあらかじめ避けるために、乳房だけ切除することもあります。
以上、乳がんの治療法についての解説でした。