乳がんの局所治療として行われている手術には「乳房温存術」と「乳房切除術」があります。その手術法の選択で乳房温存術が無理と診断されると、乳房切除術(全摘)となります。
乳房切除術は乳房を全体的に切除する方法です。過去には胸筋をもすべて切除して、胸の肋骨がむき出しになるような胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)も行われていましたが、今はそのような過剰な手術は行われていません。ただし、乳房温存術と乳房切除術の選択には様々な問題点が残されています。
現在、乳房を温存できる、という大きなメリットに焦点が当たっていることで、乳房温存術が大きく支持されています。しかし、無理に温存術にすると、術後に乳房の変形が起こり、最終的に美容性の面で患者は辛い思いをします。
何を失うのが最も嫌なのか、それをしっかり考えるべきだといえます。乳房の形を失うのが嫌なのであれば、「同時再建(全摘出と同時に人工的な乳房をつくる)」という方法も選択肢としてはあります。
乳房温存術は欧米から日本に入ってきて広がった手術法ですが現在、欧米諸国では、乳房再建術の進歩により、まずは安全面に配慮して全摘出し、失った乳房は再建術で取り戻す、というのが考え方として大きく支持されてきています。
無理に乳房温存術を行うことが多かった日本では再発が増えてきていることもあり、もっと乳房再建術を注目すべき、の声があがってきています。
では、その乳房再建術とは具体的にどういったものでしょうか。
再建術には2種類の方法が行われています。第1は、患者自身の腹部の筋肉や脂肪という「自家組織」を移植して行う「自家再建」。第2は、人工物である「インプラント」による再建です。
次にその再建を行う時期的な問題もあります。乳房切除術と再建を同時に行うのが「同時再建」です。いっぽう、乳房切除術を終え、その後、半年から2年くらいの期間を置いて再建術を行うのが「Ⅱ期再建」です。
再建の技術の向上とともに、何が何でも乳房を残そうと乳房温存術にこだわるのではなく、確実に乳がんを治療する方法を選択し、その結果、乳房を失う乳房切除術になった場合は、乳房を再建する乳房再建術を選択する道を進むべきなのではないか、と考える医師が増えてきているのです。
主流となりつつあるインプラントによる再建のネックは保険適用ではなかったことですが、2013年7月から健康保険の適用になりました。
また、術後の美容的再建を乳房切除術を行う時点から考え、内視鏡を使った「皮下乳腺全摘術」も施設によっては行われています。この内視鏡手術では乳頭や乳輪を残すことができるので美容的な面での意味合いが大きいといえるでしょう。
ただし、内視鏡手術、乳房再建術は共にそれを行う医師が少なく、同時に施設も少ないといった状況にあります。
以上、乳がんの手術についての解説でした。