超音波は、腹部臓器の検査や心機能の評価、妊娠中の胎児の観察など、現代の医療の分野で不可欠な要素です。通常の検査では、超音波を対象の臓器に均等に当てています。
いっぽう、これを一点に収束させると、虫メガネで太陽の光を一点に集めたときのように高熱が発生します。この原理を応用して、がん細胞を焼き殺してしまおうという治療法が、HIFU(ハイフ)です。
一般に超音波は、人間の耳で聞こえる範囲の音波と定義されます。通常の検査に使用される超音波の強さは0.093W/cm2ですが、HIFUの超音波の強さは1300~2000W/cm2に達します。
このエネルギーを約3×3×12mmの小さな焦点領域に集めると、80~98℃の高熱を発し、正常な細胞よりも熱に弱いがん細胞は、数秒で焼ききられてしまうのです。
早期前立腺がんが対象。高齢者向き
この治療法が適用されるのは、病期でいえばT1~T2で、がんが前立腺内にとどまっており、転移のない早期がんであることが前提です。かつ、術前のPSA値が20ng/ml以下であることも重要です。
また、前立腺の容積が40mlまでが対象で、それ以上になると治療に時間がかかるため、適用外となります。前立腺の中に結石がある人も、超音波が反射してしまうので向いていません。
この治療法は比較的新しく、長期的なデータがないため、確立していないのが現状で、前立腺がんを根治するまでには至っていません。年齢に制限はありませんが、50代~60代の若い人には、標準的治療である前立腺全摘除術か放射線療法の根治治療が提案されるのが一般的です。
しかし身体的につらいという高齢者などには、HIFUも選択肢の1つとなります。ただし、保険が適用されないため、治療費は100万円前後と高額になります。
前立腺がんでHIFU(ハイフ)が適応となる人(まとめ)
・病期T1~T2で、ほかの臓器に転移がない
・術前のPSA値が20ng/ml以下
・前立腺の容積が40mlまで
・前立腺の中に結石がない
・直腸の手術を受けたことがない
・根治療法が身体的につらい高齢者
HIFU(ハイフ)のメリット
・繰り返し治療が可能
再発しても、またHIFUで治療ができる
・体への負担が少ない
体を切開することはない
・抗血液凝固薬を服用中でもOK
いわゆる血液をサラサラにする薬を服用していても、治療を受けることができる
・短期間の入院ですむ
施設によって違うが、3日くらいで退院できる
・退院後は、すぐに社会復帰できる
自宅療養する必要も特にはない
・合併症が少ない
尿道狭窄や尿閉などがあるが、発症は多くない
肛門から超音波を発信。出血や痛みはない
HIFU(ハイフ)は、体をメスなどで傷つけることなく、治療中に出血する心配もありません。前立腺全摘除術や放射線療法などと比べると、体の負担が比較的軽い治療法といえます。
治療を受ける当日、患者さんは胃の中を空っぽにするために、朝から絶食します。腰椎麻酔をしたあと、仰向けになった姿勢で足を広げて手術台に寝ます。
事前の検査で、前立腺の形や大きさなどをくわしく調べて、照射範囲を設定。小さな焦点領域600~2000力所をコンピュータコントロールで移動させながら、目的とするがん部分のみを照射できるように調整します。
プローブを肛門から挿入し、そこから前立腺に向かって超音波が発信されます。モニター画面上に前立腺が映し出され、位置がずれていないか、治療部位の温度が上がりすぎていないか、便やガスが邪魔していないかなどを医師がチェックしながら、がん細胞を焼灼します。
この際、焦点領域以外の部位や、途中にある皮膚や臓器に影響を及ぼすことはありません。
前立腺がむくむため、尿道に管を入れる
治療が終了すると、前立腺がやけどを起こして一時的にむくんだ状態になります。そのため、前立腺の中を通る尿道が圧迫されて、自力で排尿することができません。
そこで、プローブを肛門から抜いたあとは、尿を出すための管(カテーテル)が留置されます。ここまでにかかる時間は、1~2時間程度です。
入院期間は3日間くらいが通常です。ただし、尿道のカテーテルは2週間程度入れておく必要があります。
治療後約6カ月は、1カ月に1回の割合で排尿の状態やPSA値などを調べます。6カ月を経過したら、生検を行ってがん細胞が残っていないか確認します。問題なければ、その後の検査のサイクルを2カ月ごと、3カ月ごとと延ばしていきます。
HIFU(ハイフ)の主な合併症
HIFUにも合併症はありますが、発症はそれほど多くはありません。気になる症状が出たら、すぐに主治医に相談しましょう。
・尿道狭窄(尿道の粘膜がやけどのあとのように引きつる)
・尿閉
・尿路感染症(前立腺炎、精巣上体炎)
・尿道直腸ろう(直腸に孔があく)
・肛門出血
以上、前立腺がんのHIFUについての解説でした。