腫瘍マーカー検査の普及によって、前立腺がんが早期に発見される頻度が高くなってきました。
「早期がん」と診断されれば、だれもが早いうちに治療をしなければと思いますが、あえて治療をしないで当面は経過を観察していくという選択肢が、PSA監視療法(待機療法)です。
前立腺がんは、無症状のまま経過し、死亡の原因とはならない種類のがん(潜伏がん)であることが少なくありません。PSA監視療法の場合、がんが増大すれば治療をしますが、顕著な変化が見られないときは経過を見守ります。その結果、無治療のまま天寿を全うできる可能性もあります。
また、どのような治療でも、合併症に悩まされることがあります。前立腺全摘除術をすれば、勃起障害(ED)や尿失禁などが考えられ、放射線療法では直腸炎や下血、尿道狭窄、勃起障害、尿失禁などを招くことがありえます。
ホルモン療法では、性欲減退や勃起障害、むくみ、発熱、乳房の膨大などの副作用を伴うこともあります。それらのリスクを回避でき、QOL(生活の質)を低下させないでいられるという点では、検討すべき方法だといえます。
潜伏がんは80歳以上なら45%が持っている
潜伏がんとは、がん以外の原因で亡くなった人を解剖したときに、初めて発見されるがんのことです。前立腺がんの場合、50歳を超える男性の20%に、80歳以上なら35~45%に潜伏がんが認められるといわれています。
潜伏がんは、"悪さ"を始めるまでに、まだ時間があると判断されるおとなしいタイプのがんです。しかし、今までは、すぐに悪さを始めるタイプの前立腺がんと区別することができず、ただちに手術や放射線治療などがすすめられてきました。
しかし、これからもっとPSA監視療法が普及すれば、不要な治療を避けられる人が増えてくる可能性もあります。
臨床試験では有効性が認められている
厚生労働省研究班の調べによると、PSA監視療法の臨床試験で、PSA監視療法が適切と診断された前立腺がん患者118人のうち、実に84人(71.2%)が治療不要と判定されつづけ、その多くが、5年以上たっても無治療のまま経過観察を続けているという報告もあります。
早期がんならだれでも受けられるわけではない
PSA監視療法は早期がんの人が対象ですが、そのほかに細かい条件があります。
1.血液中のPSA値が10ng/ml以下。
2.前立腺組織の異常構造の程度から、がんの悪性度を見るグリソンスコアが6以下。
3.病期はT2aまで。
4.針生検でがん細胞の見つかる針(陽性コア)が2本以下。
5.陽性コアの中のがんの占める割合が50%以下。
ここまで厳密に限定する理由は、診断直後に手術等の積極的治療の機会を逃し、がん死を招くリスクを回避するためです。
PSA監視療法を受ける患者さんは当然、手遅れになるリスクを背負うことになります。そのことを十分に理解する必要があります。
2~3カ月ごとにPSA値を測定する
PSA監視療法は、2~3カ月ごとにPSA検査を行い、1年ごとに生検をするというサイクルで行われます。
PSA検査によって、その値が2倍になるのに要すると推定される時間(PSA値倍加時間=ダブリングタイム)を計算します。この時間の算出は、がんの悪性度をはかる目安となります
。
PSAの増加とがんの分裂・増殖スピードはある程度相関しているので、PSA値が2倍になる時間が長いほどがんの悪性度は低く、短いほど悪性度は高いとされます。6カ月ごとに、直近の1年間と全観察期間の2種類のPSA値倍加時間を算出します。
PSA監視療法の継続か中止(積極的な治療を開始する)かを判断する基準は2年とされています。PSA値が2倍になるまでの時間が2年未満ならば、悪性度の高いがんと判断され、手術など何らかの治療がすすめられます。2年以上なら、悪性度は低いとみなされ、無治療のまま経過観察がつづけられます。
以上、前立腺がんの待機療法についての解説でした。