集団検診や人間ドックなどで前立腺がんが疑われ、精密検査をすすめられた際には、病院選びを慎重に行うことが治療成功の鍵となります。PSA検査の普及により、現在発見される前立腺がんの10%前後は診断時に骨への転移を伴っており、まだPSA検診の普及が十分ではないと考えられています。このような状況だからこそ、適切な病院選びが一層重要になっています。
前立腺がんの診断から治療まで、一連して通い続けることができる病院を選ぶことが基本です。前立腺がんの場合「泌尿器科」を標榜している病院を選択します。信頼できる病院との出会いには、事前の情報収集が不可欠となります。
特に高齢者の場合は利便性も重要な考慮要素です。年齢を重ね、足腰が弱っている上にがんで体調不良となった場合、定期的に通うことに無理がない立地の病院を選ぶことは、治療継続のために欠かせないポイントです。
前立腺がん病院選びの基本条件
適切な前立腺がん治療を受けるための病院選びでは、以下の基本条件を満たすことが重要です。
選択条件 | 重要度 | 詳細説明 |
---|---|---|
泌尿器科の設置と専門医 | 必須 | 泌尿器科専門医が在籍している病院であること |
通いやすい立地 | 高 | 定期的な通院に負担がない場所にあること |
がん拠点病院の指定 | 推奨 | 質の高いがん医療を提供する体制が整備されていること |
総合病院か専門病院か | 中 | 持病がある場合は総合病院が望ましい |
医師との相性 | 高 | 何でも相談しやすく、長期間の治療関係を築けること |
病院とは長期間の付き合いになることが多いため、何でも相談しやすく、相性の良い医師を選ぶことも重要な要素です。持病がある場合は、かかりつけ医とよく相談して病院を紹介してもらう方法も検討するべきでしょう。
治療実績と症例数を重視した病院選び
2025年現在、前立腺がん診療では患者数の急増に加え、治療オプションの多様化により、診療科の垣根を越えたよりきめ細かい集学的診療体系が求められています。そのため、多様な治療選択肢に対応できる病院を選ぶことが重要です。
最近では、各病院のホームページに治療法ごとの症例数が公開されています。前立腺がんは治療法も幅広いため、例えば手術数は多いのに放射線治療は極端に少ないなど、治療に偏りがある病院はなるべく避けることが推奨されます。
どの治療もまんべんなく、数多く実施している病院かどうかを選択の目安にすることが大切です。東京女子医科大学病院では年間約250人の患者さんが前立腺生検検査を受け、そのうち約100人の患者さんが新たに前立腺癌の診断を受けていますといった具体的な実績数を確認することができます。
病院ランキングの活用方法
病院ランキングや症例数が多い病院を紹介している書籍や雑誌は人気があり、情報源として参考にすることは有効です。しかし、「何が何でもこの病院」と固執する必要はありません。自分の症状に適合するか、医師との相性が良いかなど、多面的に検討することが重要です。
2024年度公表の関西がん手術件数病院ランキングなどの情報を参考にしながらも、総合的な判断を行うことが大切です。また、名医のいる病院2024で前立腺がんのロボット手術件数で全国、関東共に2位になったといった最新の実績情報も参考になります。
がん拠点病院という選択肢
「がん拠点病院」は、正確には「がん診療連携拠点病院」と呼ばれます。これは都道府県の推薦に基づいて、厚生労働省が指定する制度です。信頼できる病院がなかなか見つからない場合、がん拠点病院を選ぶことも有効な選択肢となります。
全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう、全国にがん診療連携拠点病等を463箇所(都道府県がん診療連携拠点病院51箇所、地域がん診療連携拠点病院352箇所(うち、12箇所が(特例型))、特定領域がん診療連携拠点病院1箇所、地域がん診療病院59箇所)指定しています(令和7年4月1日現在)。
がん拠点病院の種類と特徴
主ながん拠点病院には「都道府県がん診療連携拠点病院」と「地域がん診療連携拠点病院」があります。いずれもがんの専門的治療と診療の連携、患者さんへの支援を担う病院です。前者は都道府県に原則として1カ所指定され、後者は複数の市区町村に1カ所を目安に指定されています。
また、東京都では、がん拠点病院と同等の病院として「認定がん診療病院」を独自に指定しています。そのほかに、がんを専門に扱う「がんセンター」のような専門病院も存在します。
がん専門病院と総合病院の選択
がん専門病院と総合病院のどちらが良いか迷う患者さんは少なくありません。それぞれに特徴と利点があります。
がん専門病院はがん治療に優れていますが、他の病気を合併している場合、十分に対応できない場合があります。特に前立腺がんは高齢者に多いがんのため、高血圧や糖尿病などの持病を抱えている患者さんが多く、そのような場合は総合病院が推奨されます。
持病がある患者さんは、かかりつけ医に相談して適切な病院を紹介してもらう方法も有効です。総合病院であれば、がん治療と並行して持病の管理も継続できる利点があります。
2025年最新の前立腺がん治療技術と対応病院
2025年現在、前立腺がん治療には革新的な技術が導入されています。これらの最新技術に対応している病院を選ぶことで、より良い治療成果を期待できます。
最新の放射線治療技術
2025年1月からは主にC期までの前立腺がんの方を対象として、国産の最新鋭高精度放射線治療装置であるOXRAYによる治療を開始しています。このような最新設備を導入している病院では、より精密で体への負担が少ない治療が可能です。
当院で用いている15分割の治療法(高度寡分割照射)は、この二つ分割法のちょうど中間に位置し、中等度寡分割照射より短い3週間で治療を完了し、同時に超寡分割照射で必要となる侵襲的な前処置は不要というメリットを両立する優れた方法として、治療期間の短縮と安全性の両立が図られています。
革新的な治療技術の動向
大阪大学では、標準治療抵抗性の前立腺がんを対象とした新たな医師主導治験を2024年6月より開始し、アスタチン標識薬を用いた革新的アルファ線治療の研究が進んでいます。
タルサ治療は2019年10月より治療運用開始し、2025年6月10日の時点で100人の患者様に治療を実施されており、切らない治療として注目を集めています。これは尿道より治療器を挿入し、前立腺内部から病変部を超音波により加熱する低侵襲治療です。
さらに、東海大学医学部付属病院では「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」が厚生労働省の「先進医療B」に認定され、2月1日から適用されました。このような先進的な治療選択肢を提供している病院も増えています。
治療選択肢の多様性を重視した病院選び
前立腺がんの治療には、監視療法、フォーカルセラピー(前立腺がん局所療法:監視療法と手術などの根治的治療の中間に位置する治療)、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法などがあります。
治療選択肢が豊富な病院では、患者さんの病状、年齢、生活スタイルに最適な治療方法を提案できます。前立腺がんの治療は選択肢が増え、自分で判断して決めなければならないことが多くなっていますため、十分な説明と選択肢を提供してくれる病院を選ぶことが重要です。
リスク分類に基づいた適切な治療提供
前立腺がんのリスク分類は主にNCCN(National Comprehensive Cancer Network)のリスク分類が用いられ、転移のない前立腺がんでは、がんが前立腺内にとどまっている限局性がんと、前立腺の外に広がって進行している局所進行性がんに分類され、さらに限局性がんは、5つの因子を用いて、超低リスク、低リスク、中間リスク、高リスクに分類されます。
このようなリスク分類に基づいて適切な治療を提案できる専門性の高い病院を選ぶことで、過不足のない最適な治療を受けることができます。
PSA検査普及時代の病院選びの注意点
前立腺がんの罹患者が増加している理由は主に3つです。①高齢化、②食生活の欧米化。この2つはほかのがんとも共通します。注目すべきは3つ目の理由「PSA検査の普及」です。
PSA検診が普及することで、早い段階で発見される前立腺がんが増えています。このため、早期発見されたがんに対して適切な治療選択ができる病院を選ぶことがより重要になっています。
自覚症状が出てから泌尿器科外来を受診し、発見される前立腺がんの約40%は他の臓器に転移しており、一方、PSA検査などの検診で発見された前立腺がんの約60%は早期のがんという状況を踏まえ、早期がんから進行がんまで幅広く対応できる病院を選択することが大切です。
患者さんの年齢と治療方針を考慮した病院選び
前立腺がんは高齢者に多いがんのため、患者さんの年齢と全身状態を十分考慮した治療方針を立ててくれる病院を選ぶことが重要です。患者が高齢の場合や、悪性度が低く、すぐに治療の必要がない場合には、定期的に経過観察を行う「監視療法」を行うケースもあります。
このように、画一的な治療ではなく、個々の患者さんの状況に応じた柔軟な治療選択ができる病院を選ぶことで、生活の質を保ちながら適切な治療を受けることができます。
セカンドオピニオンの活用
前立腺がんの治療選択は複雑であるため、複数の医師の意見を聞くセカンドオピニオンを積極的に活用することも重要です。特に治療方針について迷いがある場合や、手術、放射線治療、薬物療法などの選択肢で悩んでいる場合には、異なる専門医の意見を参考にすることが有効です。
がん拠点病院では、セカンドオピニオン体制も整備されているため、このようなサービスを利用することも病院選びの参考になります。
治療実績データの見方と活用法
病院の治療実績を評価する際には、単純な症例数だけでなく、治療成績も重要な指標となります。5年生存率、再発率、合併症の発生率などの情報が公開されている病院を選ぶことで、より客観的な判断が可能になります。
また、QST病院では1995年6月に臨床試験として前立腺がんの重粒子線治療を開始し、2003年11月には先進医療の承認を得、さらに2018年4月からは保険診療として治療を継続していますといった長期間の治療実績があることも、病院選びの重要な参考情報となります。
治療成績の透明性
優良な病院では、治療成績を積極的に公開し、学会発表や論文発表を通じて治療の質を向上させる努力を続けています。このような学術的な活動が活発な病院を選ぶことで、最新の知見に基づいた治療を受けることができます。
病院選びでよくある質問と対処法
遠方の有名病院か近所の病院か
前立腺がんの治療は長期間にわたることが多いため、通院の利便性も重要な要素です。遠方の有名病院であっても、定期的な通院が困難になっては治療継続に支障をきたします。地元で質の高い治療を受けられる病院があれば、それが最良の選択となることも多いのです。
紹介状が必要かどうか
多くの病院では紹介状なしでも受診可能ですが、紹介状があることで初診時の情報共有がスムーズになり、待ち時間の短縮や適切な診療科への案内が期待できます。かかりつけ医がいる場合は、紹介状を書いてもらうことをお勧めします。
費用面での考慮事項
がん拠点病院であれば、高額療養費制度などの相談支援体制も整備されています。治療費の心配がある場合は、医療ソーシャルワーカーに相談できる病院を選ぶことで、経済的な不安を解消しながら治療に専念できます。
情報収集の方法と注意点
病院選びのための情報収集には、複数の情報源を活用することが重要です。病院のホームページ、厚生労働省の病院情報公表制度、患者会の情報、医療従事者からの情報など、多角的に情報を収集し、総合的に判断することが大切です。
ただし、インターネット上の口コミ情報については、個人的な体験に基づく主観的な内容も多いため、参考程度に留めることが賢明です。医学的な根拠に基づいた客観的な情報を重視することが、適切な病院選びにつながります。
まとめ
前立腺がんの病院選びは、患者さんの治療成果と生活の質に大きな影響を与える重要な決定です。泌尿器科専門医の在籍、多様な治療選択肢の提供、アクセスの良さ、そして医師との相性など、複数の要素を総合的に考慮して選択することが必要です。
2025年現在、前立腺がん治療は進歩しており、最新技術に対応した病院を選ぶことで、より良い治療成果を期待できます。がん拠点病院の活用、治療実績の確認、セカンドオピニオンの利用などを通じて、自分に最適な病院と治療方針を見つけることが重要です。
参考文献・出典情報
- 京都大学医学部附属病院 放射線治療科「前立腺がん」
- がん研有明病院「前立腺がん」
- 介護の三ツ星コンシェルジュ「【前立腺がん】2024年度公表 関西がん手術件数 病院ランキング」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「前立腺がん 治療」
- 厚生労働省「がん診療連携拠点病院等」
- 東京女子医科大学病院 泌尿器科「前立腺がんの手術と実績」
- 東京国際大堀病院「名医のいる病院2024 前立腺がんのロボット手術件数で当院が全国、関東共に2位になりました」
- 同友会メディカルニュース「前立腺がんのPSA検診について」
- がんプラス「前立腺がんのステージ診断と推奨される治療法」
- 医療法人社団進興会「前立腺がんの検査はいつするべき?」