
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの手術を受ける際、多くの患者さんが気になるのが「リンパ浮腫」という後遺症です。特にセンチネルリンパ節生検を受ける場合、「リンパ浮腫のリスクは本当にあるのか」「どの程度の確率で起こるのか」といった疑問を持つ方が多くいらっしゃいます。
この記事では、センチネルリンパ節生検とリンパ浮腫の関係、発症率、予防方法について、2026年時点の最新情報を交えながら詳しく解説します。
センチネルリンパ節生検とは何か
センチネルリンパ節生検は、乳がんの手術において、腋窩(わきの下)のリンパ節への転移を調べる検査方法です。「センチネル」とは「見張り」という意味で、乳房からのリンパ液が最初に流れ着くリンパ節を指します。
従来は、乳がん手術の際に腋窩リンパ節郭清といって、わきの下のリンパ節を広範囲に切除する方法が標準的に行われていました。しかし、リンパ節郭清はリンパ浮腫などの後遺症を引き起こすリスクがあります。
そこで開発されたのがセンチネルリンパ節生検です。この方法では、手術中に放射性物質や色素を使ってセンチネルリンパ節を特定し、そのリンパ節のみを摘出して病理検査を行います。センチネルリンパ節に転移がなければ、それより先のリンパ節にも転移がないと判断できるため、不必要なリンパ節郭清を避けることができます。
センチネルリンパ節生検でもリンパ浮腫は起こる
「センチネルリンパ節生検なら、リンパ浮腫の心配はない」と考える方もいらっしゃいますが、残念ながらこれは正確ではありません。
センチネルリンパ節生検は腋窩リンパ節郭清に比べて切除するリンパ節の数が少ないため、リンパ浮腫の発症リスクは確かに低くなります。しかし、リスクがゼロになるわけではありません。
複数の医療機関の報告によると、センチネルリンパ節生検を受けた患者さんでも、少数ながらリンパ浮腫を発症することが確認されています。わずか数個のリンパ節を切除しただけでも、リンパ液の流れに影響が出る可能性があるのです。
リンパ浮腫の発症率・確率について
リンパ浮腫の発症率は、調査方法や診断基準によってデータにばらつきがありますが、現在報告されている主な数値は以下の通りです。
| 手術方法 | リンパ浮腫発症率 | 備考 |
|---|---|---|
| 腋窩リンパ節郭清 | 約10% | 一般的な発症率として報告されている数値 |
| センチネルリンパ節生検 | 数%程度 | 郭清に比べて発症率は低いが、ゼロではない |
| センチネルリンパ節生検+放射線療法 | やや高くなる | 複数の治療を組み合わせた場合はリスクが上昇 |
過去の研究では、日本乳癌学会の調査でリンパ節郭清を行った患者さんの約54%、センチネルリンパ節生検を受けた患者さんの約34%にリンパ浮腫の症状が出たというデータも報告されています。ただし、この数値については「検査して初めてわかるような軽微なリンパ浮腫まで含めた結果」という指摘もあり、日常生活に支障をきたすような重症のリンパ浮腫の頻度はこれより低いとされています。
重要なのは、センチネルリンパ節生検を受けた場合でも、リンパ浮腫が起こる可能性があることを理解し、予防とケアに努めることです。
リンパ浮腫が起こる仕組み
リンパ浮腫は、リンパ節を切除したことでリンパ液の流れが滞り、腕や手にリンパ液が溜まることで起こります。
私たちの体内には、血管と同じようにリンパ管が全身に張り巡らされています。リンパ液は、老廃物やタンパク質などを運ぶ重要な役割を果たしており、リンパ節は関所のような働きをしています。
手術でリンパ節を切除すると、たとえ数個であってもリンパ液の流れが妨げられます。切除したリンパ節の機能が低下し、リンパ液の循環が悪くなるため、腕や手にむくみが生じるのです。
また、放射線療法を受けた場合、周辺のリンパ節の機能が低下することがあり、これもリンパ浮腫のリスクを高める要因となります。
リンパ浮腫の発症時期
リンパ浮腫は、手術直後に起こるとは限りません。術後数か月から数年経過してから発症するケースも少なくありません。
報告によっては、手術後10年以上経過してから発症した例もあります。そのため、手術直後だけでなく、一生を通じて注意とケアを続けることが重要です。
術後3~4年経ってから起きることもあるため、「もう大丈夫だろう」と油断せずに、定期的な自己チェックと予防を心がけましょう。
リンパ浮腫予防のための注意点
リンパ浮腫は一度発症すると完治が難しいという特徴があります。そのため、予防が何よりも重要です。日常生活で以下のような点に注意しましょう。
| 注意項目 | 具体的な対策 |
|---|---|
| スキンケア | 皮膚を清潔に保ち、入浴後はローションやクリームで保湿する。乾燥すると細菌感染のリスクが高まる |
| 傷の予防 | ガーデニングや料理の際は手袋を使用する。虫刺されや日焼けにも注意 |
| 圧迫を避ける | 時計や指輪は手術した側の腕につけない。きつい下着や衣服を避ける。バッグを肘にかけない |
| 重いものを避ける | 手術した側の腕で長時間重い荷物を持たない。買い物の際は両手に分散させる |
| 適度な休憩 | 疲れを感じたら日中でも横になって休む。長時間同じ姿勢をとらない |
| 体重管理 | 肥満はリンパ浮腫の重要なリスク要因。特にBMI30以上は要注意 |
| 適度な運動 | 筋力トレーニングがリンパ浮腫予防につながることが報告されている。無理のない範囲で腕を使う |
| 睡眠時の姿勢 | 就寝時はクッションなどを使って腕を心臓より高くする。手術した側を下にして寝ない |
体重管理の重要性
リンパ浮腫のリスク要因として、特に注意が必要なのが肥満です。
術後にホルモン療法を受ける患者さんは、ホルモン剤の副作用で食欲が増進することがあります。いつの間にか食べる量が増えて体重が増加してしまうケースが少なくありません。
リンパ液の流れが滞っている状態で皮下脂肪が増えると、脂肪がさらにリンパの流れを悪くさせることがわかっています。ホルモン療法を受ける場合は、副作用について主治医に確認し、自分で意識して体重管理をすることが大切です。
リンパ浮腫の早期発見が重要
リンパ浮腫は早期に発見することで、重症化を防ぐことができます。
早期発見のポイントとして、手術前に腕の太さを測っておくことをお勧めします。測定する場所は、手首、肘の少し下、肘の少し上の3か所程度です。術後は定期的に同じ場所を測定し、手術前と比べて10mm以上太くなっている場合は、リンパ浮腫の可能性があります。
また、以下のような症状が現れたら、早めに主治医に相談しましょう。
- 腕や手が重い、だるいと感じる
- 皮膚のしわがなくなっている
- 皮膚がつまみにくい、硬くなっている
- 指で押すと跡が残る
- 袖口や下着、アクセサリーの跡が残りやすい
リンパ浮腫が発症した場合の治療法
リンパ浮腫が発症した場合、完全に治すことは難しいですが、適切な治療とケアにより症状の改善が期待できます。
治療の基本は「複合的治療」と呼ばれる方法で、以下の4つを組み合わせて行います。
- 圧迫療法:弾性着衣(スリーブやグローブ)や弾性包帯を使って腕を圧迫し、リンパ液を流れやすくする
- 運動療法:圧迫した状態で適度な運動を行い、筋肉の動きでリンパの流れを促す
- 用手的リンパドレナージ:専門的な技術を持つ医療従事者が行うマッサージ
- スキンケア:尿素配合の保湿クリームなどで皮膚の保護と保湿を行う
なお、美容目的のリンパドレナージやマッサージは、かえってリンパ液の流れを滞らせる可能性があるため、手術をした側の腕には絶対に行わないようにしましょう。リンパ浮腫の治療に特化した専門的なものとは異なります。
蜂窩織炎に注意
リンパ浮腫で特に注意が必要なのが「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」です。これは、皮膚や皮下組織に起こる急性の細菌感染で、リンパ浮腫が重症化する原因となります。
虫刺されのような赤い斑点が出たり、腕全体が赤くなって高熱が出たりする症状があらわれた場合は、速やかに受診しましょう。蜂窩織炎になった場合は、赤い部分を冷やして腕を高い位置に維持し、医師が完全に治ったと判断するまで抗生物質を飲み続けることが重要です。
2025年の最新ガイドライン情報
2025年4月、米国臨床腫瘍学会(ASCO)から、センチネルリンパ節生検に関する新しいガイドラインが発表されました。
このガイドラインでは、一部の早期乳がん患者さんにおいて、センチネルリンパ節生検そのものを省略できる可能性が示されています。SOUND試験やINSEMA試験などの研究結果に基づき、一定の条件を満たす低リスクの患者さんでは、検査を行わなくても再発率や生存率に差がないことが明らかになっています。
センチネルリンパ節生検は比較的負担の少ない検査ですが、リンパ浮腫、腕の痛み、しびれなどの後遺症を伴うことがあります。リスクの低い患者さんにとっては、検査を行わないという選択肢が身体的負担を軽減することにつながります。
日本でもこの数年以内に同様のガイドラインが導入され、センチネルリンパ節生検の省略という選択肢が広がると考えられています。
まとめとして
センチネルリンパ節生検は、腋窩リンパ節郭清に比べてリンパ浮腫の発症リスクは低いものの、完全にゼロではありません。発症率は約10%程度、またはそれ以下とされていますが、個人差があり、術後数年経ってから発症するケースもあります。
リンパ浮腫は一度発症すると完治が難しいため、予防が何よりも重要です。日常生活でスキンケア、体重管理、適度な運動、圧迫を避けるなどの注意点を守り、早期発見に努めましょう。
もし腕の太さが術前より10mm以上増加したり、重さやだるさを感じたりした場合は、早めに主治医に相談しましょう。

