乳がんの内視鏡手術は乳房温存手術の1つです。
最大の特徴は手術時の傷が小さく目立たないことにあります。通常の温存手術(直視下手術)では、センチネルリンパ節生検あるいはリンパ節郭清のために腋窩を切開し、さらにがんのある位置を大きく開いて部分切除を行います。
これに対して内視鏡手術では、がんが乳房のどの部位にあっても、
1.乳輪の約半周を切開。
2.腋窩を2~5cm切開。
3.外側乳房線を切開。
という小さな切開を組み合わせて行います。
切開後、わきの下の切開創から内視鏡と機器を入れ、乳腺と大胸筋の間に切開を入れて、そこに二酸化炭素を入れてふそこに機器を入れ、内視鏡で見ながらがんを切除、さらに乳輪を切開し、乳輪側のがんを切除するのがベースとなる方法です。
ただ、内視鏡手術の方法は施設によって若干の違いはあります。
乳がん内視鏡手術が行えるケースは?
基本的には「温存手術ができる=内視鏡手術も可能」と考えられています。
手術の方法をふまえると、皮膚浸潤がある場合は皮膚をある程度の範囲を切除しなければならないので、内視鏡にするメリットがありません。
また、乳頭に近いところにがんがある場合は、乳房のふくらみの真ん中が凹んでしまうので、内視鏡はもちろん、温存手術をすると美容性を保つことができないので、難しいといえます。
乳がん内視鏡手術のメリットは
何よりも傷が小さい、ということにあります。
傷が大きいと、傷に向かってのひきつれなどが起こり、時間が経つにつれ乳房の変形が生じやすくなります。
ただし、内視鏡手術をするだけで美しい形で乳房が残せるわけではありません。外科的には「切除範囲を小さくすること」「傷を小さく目立たなくすること」「欠損部分を再建すること」の3つが条件になりますが、内視鏡手術で解決できるのは2番目の傷を小さくすることのみだといえます。ほかの2つに関しては別の工夫が必要です。
内視鏡手術をすれば、元通りの乳房のままで手術ができる、と考えている人もいますが内視鏡手術だけだとある程度の変形は起こります。
そのため欠損部分の再建を行うことも、内視鏡手術の一環だといえます。
乳がん内視鏡手術と乳房の再建
内視鏡手術の再建では、残った乳腺と脂肪組織を欠損した部分にもってきて、形を整えます。乳房内組織のみでは質量が不足してしまうため、乳房外組織、特に鎖骨下から乳房の上のラインまでの皮下脂肪をもってくるのが基本です。
乳房の上側や鎖骨下の凹みは立位では比較的目立ちにくいのに対して、乳房下部はボリュームがなくなると乳頭が下を向き、変形が大きくなってしまうので、土台になる乳房下部にしっかりボリュームをもたせられるよう工夫して再建されます。どのように再建するかは、がんの位置や脂肪の量、血管の走行などを見て考えられます。
がんを取り残すリスクは?
内視鏡手術であっても、通常の温存手術と同様、がんを取り残さないよう必要かつじゅうぶんな範囲を切除することになります。
その意味では温存手術と同じだといえ、実際にがんを取り残すリスクも予後も変わりません。手術費用も変わらないので患者側のデメリットはあまりないといえます。ただし、手術する側には、慣れるまで労力も時間もかかるため、広く普及していないといえます。
以上、乳がんの内視鏡手術についての解説でした。