
乳がんの放射線治療を理解する
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの治療において、放射線治療は手術後の再発予防や転移巣の症状緩和に重要な役割を果たします。この記事では、放射線治療の基本的な仕組みから最新の照射方法、実際の治療スケジュール、副作用への対処法、そして治療費用まで、患者さんが知っておくべき情報を詳しく解説します。
放射線治療は、高エネルギーのX線やガンマ線、電子線などを用いて、がん細胞のDNAを破壊し、増殖を抑えたり死滅させたりする治療法です。がん細胞は正常な細胞に比べて放射線によるダメージを受けやすく、また回復しにくい特性があります。この性質を利用して、がん細胞を効果的に破壊しつつ、正常な細胞への影響を最小限に抑えるように治療が行われます。
乳がんで放射線治療が必要となるケース
乳がんにおける放射線治療は、主に以下の2つの場面で使われます。
術後の再発予防を目的とした放射線治療
手術後の放射線治療は、乳房温存手術後の乳房への照射と、乳房切除術後の胸壁や鎖骨上窩リンパ節への照射に分けられます。
乳房温存療法では、手術で取り残された可能性のあるがん細胞を根絶するため、術後の放射線治療が基本となっています。この治療を追加することで、乳房内の再発率が約3分の1に減少することが明らかになっています。
腋窩リンパ節に転移が多数認められた場合には、乳房だけでなく鎖骨上窩リンパ節にも放射線を照射することがあります。近年の研究では、陽性リンパ節が1個以上でも領域リンパ節への照射が遠隔再発を抑える効果があると報告されており、再発リスクが高いと判断された患者さんには領域リンパ節への照射が推奨されています。
ただし、再発リスクの低い早期の非浸潤がんや高齢の患者さんの場合、温存療法後の放射線治療を省略できる可能性について議論されることもあります。どのような場合に放射線治療を省略できるかについては、まだ明確な基準が確立されていないため、主治医とよく相談する必要があります。
乳房切除手術後の放射線治療については、胸壁や鎖骨上窩リンパ節への再発・転移のリスクに基づいて判断されます。腋窩リンパ節転移が4つ以上あった場合や、腫瘍が大きかった場合には再発予防効果が期待できます。一方、腫瘍が小さく、リンパ節転移がなかった場合は再発リスクが低いため、放射線治療を行うメリットは限られるとされています。
転移・再発時の症状緩和を目的とした放射線治療
すでに転移や再発が起きている場合、放射線治療は症状を和らげる目的で使用されます。特に骨転移による痛みや、脳転移による神経症状に対して効果的です。転移巣の進行を抑え、患者さんの生活の質を維持するために重要な治療選択肢となっています。
乳がん放射線治療のスケジュールと照射方法
標準的な治療スケジュール
乳がんの放射線治療は、ほとんどの場合、外来通院で受けることができます。ただし、平日は毎日通院する必要があることが多いため、仕事や家庭のスケジュールは早めに調整しておくことが大切です。
治療開始の時期については、以前は術後8週間以内に開始すべきとされていましたが、現在は術後20週を超えないことが推奨されています。急いで始める必要はないため、術後の傷の回復状況を見ながら、主治医と相談して決めることができます。
従来の照射方法
従来の乳房温存手術後の放射線治療では、1回あたり1.8~2グレイの線量を週5回、5週間にわたって照射します。これにより計25回、総線量は45~50グレイとなります。患者さんによっては、5~8回の追加照射(ブースト照射)を行うこともあります。
1回の照射時間は約1分程度と短時間ですが、通院回数が多いため、患者さんの負担は大きくなります。
寡分割照射による治療期間の短縮
近年、治療期間を短縮する「寡分割照射」を採用する医療機関が増えています。この方法では、1回の線量を2.66グレイに増やすことで、治療回数を16回、総線量を42.56グレイとし、治療期間を約3週間に短縮できます。
通院回数が従来の約3分の2になるため、患者さんの負担は軽減されます。効果は従来の方法と同等であり、副作用についても少ないというデータが報告されています。2024年に欧州臨床腫瘍学会で発表された研究では、リンパ節領域を照射する場合でも、寡分割照射は通常の5週間分割と同等の効果があり、腕のリンパ浮腫の発生率にも差がないことが示されました。
日本乳癌学会の診療ガイドライン最新版でも「乳がんの寡分割放射線治療は通常分割照射と同等の治療として推奨する」と記載されており、今後は寡分割照射が標準治療となる可能性が高まっています。
治療スケジュールの遵守が重要
放射線治療のスケジュールは、体への負担を抑えつつ治療効果を最大限に引き出すように設定されています。途中で長期間の休みを入れてしまうと、効果が薄れる可能性があります。体調が悪いときに数日休むのは問題ありませんが、できるだけスケジュール通りに治療を進めることが重要です。
| 照射方法 | 1回線量 | 照射回数 | 総線量 | 治療期間 |
|---|---|---|---|---|
| 通常分割照射 | 1.8~2グレイ | 25回 | 45~50グレイ | 約5週間 |
| 寡分割照射 | 2.66グレイ | 16回 | 42.56グレイ | 約3週間 |
最新の放射線治療技術
深吸気息止め照射(DIBH)
左側の乳がんに対する放射線治療では、心臓への放射線の影響が懸念されます。心臓に放射線が照射されると、数年後に心血管疾患のリスクが上昇する可能性があることが研究で報告されています。
そこで開発されたのが深吸気息止め照射です。患者さんに大きく息を吸ってもらい、息を止めている間に照射することで、物理的に乳房と心臓の距離を離し、心臓への線量を低減します。通常の呼吸状態では心臓の約20%の体積に高い線量が照射される患者さんでも、深吸気息止め照射を行うことで、高い線量が照射される心臓の体積を1%未満にできることが報告されています。
体表面画像誘導放射線治療(SGRT)
深吸気息止め照射の課題である呼吸の再現性を改善するため、体表面画像誘導放射線治療が導入されています。この技術では、患者さんの体表面形状をリアルタイムに3次元画像として再構成し、現在の呼吸状態と目標の吸気量までの一致度を映像で確認しながら治療を行います。
これにより、毎回同じ位置で息を止めることが容易になり、治療の精度が向上します。また、従来は体表面に描いていた位置合わせの印や線を最小化できるため、患者さんのストレス軽減にも貢献しています。
強度変調回転放射線治療(VMAT)
最先端の照射技術として、強度変調回転放射線治療が一部の医療機関で導入されています。この方法では、CT画像を用いて三次元で照射範囲を特定し、多分割コリメータと呼ばれる装置で強弱をつけて放射線を照射することで、がん細胞を狙い撃ちできます。正常細胞への影響を最小限に抑えながら、より高い治療効果が期待できます。
乳がん放射線治療の副作用と対処法
放射線治療は重い副作用が出ないように工夫された治療法ですが、次のような症状が現れることがあります。
治療中から治療直後に現れる急性期副作用
治療を開始してしばらくすると、照射部位の皮膚が赤くなってヒリヒリしたり、かゆみが出たりすることがあります。これは皮膚が過敏になっているためです。自己判断で市販の絆創膏を貼ったり、軟膏を塗ったりせず、必ず医師に相談しましょう。
冷やすと症状が楽になる場合は冷やしてもよいとされていますが、冷やしすぎには注意が必要です。皮膚の赤みや痛みは治療が終わると治まることがほとんどです。
治療の後半になると疲労感やだるさを感じることがありますが、それほど強いものではないことが多いです。普段通りに家事や仕事を行いながら通院できますが、術後で体力が十分に回復していないこともあるため、疲労感があるときは無理をせず、しっかり休むことが大切です。
治療後に現れる晩期副作用
治療が終わった後、皮膚が黒ずんだり、硬くなったり、熱っぽく感じたりする症状が現れることがあります。これらの症状は日常生活に支障がないことが多く、次第に回復しますが、気になる場合には医師に相談しましょう。
乳房の線維化(乳房の組織が硬くなること)が起こり、それに伴って授乳障害が生じることもあります。また、発汗障害(汗が出なくなること)が起こる場合もあります。
まれに、治療後数か月経ってから放射線性肺炎が起こることがありますが、100人に1~2人ほどの頻度であり、適切に治療すれば回復します。一時的に喉や食道が炎症を起こすこともあります。
二次がんのリスクについて
放射線治療による被ばくの影響で、反対側の乳房や肺に二次がんが発生する頻度は極めて低く、それほど心配する必要はありません。放射線治療によって他のがんが発生するリスクは極めて限られています。
リンパ浮腫について
リンパ節領域を照射する場合、治療後に上腕のリンパ浮腫が発生することがあります。最新の研究データによると、寡分割照射でも通常分割照射でも、5年間の累積発生率は約33%と同程度です。肩関節可動域障害も両方の治療法で約20%の患者さんに発生します。
リンパ浮腫と肩の可動域障害の発生率は依然として高いため、今後の治療戦略ではこれらの副作用を減らすことが重要な課題となっています。
| 副作用の種類 | 主な症状 | 発生時期 | 対処法 |
|---|---|---|---|
| 皮膚症状 | 赤み、痛み、かゆみ、皮膚炎 | 治療中~治療直後 | 医師に相談、処方された軟膏の使用 |
| 疲労感 | だるさ、倦怠感 | 治療中~治療直後 | 無理をせず休息をとる |
| 乳房の線維化 | 乳房が硬くなる | 治療後数か月~ | 経過観察、気になる場合は相談 |
| 放射線性肺炎 | 咳、息苦しさ | 治療後数か月~ | 適切な治療で回復 |
| リンパ浮腫 | 腕のむくみ | 治療後~ | リンパドレナージなど専門的ケア |
乳がん放射線治療の費用
保険適用と自己負担額
乳がんの放射線治療は、保険適用される場合がほとんどです。自己負担額は1割~3割となり、1か月の治療にかかる費用は5万円~10万円程度に抑えられます。
寡分割照射による16回の照射の場合、治療費の総額は15万円前後となり、3割負担では約4万5千円~5万円程度の自己負担となります。通常分割照射の25回の場合は、総額で20万円前後となることが多いです。
ただし、通院回数が多い場合は、毎回の診察代や検査代も別途かかります。1回の放射線治療で5,000円~8,000円程度、診察代で6,000円程度が必要です。
高額療養費制度の活用
月の治療費が一定の上限額を超えた場合、高額療養費制度を利用することで、超過分が払い戻されます。自己負担上限額は、患者さんの年齢や所得によって異なります。
過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合には、4回目から「多数回」該当となり、上限額がさらに引き下げられます。手術や薬物療法と組み合わせて治療を受ける場合、この制度を活用することで経済的な負担を軽減できます。
先進医療について
一部の先進医療を使用した放射線治療は、自由診療となり保険適用されず全額負担となる場合があります。治療を受ける前に、保険適用の有無を確認しておくことが重要です。
また、民間のがん保険に加入している場合、放射線治療の給付金が受け取れる可能性があります。ただし、保険の中には「放射線治療の保険適応は総線量が50Gy以上」という規定がある場合もあります。寡分割照射では総線量が42.56グレイとなるため、契約内容を事前に確認することをお勧めします。
放射線治療を受ける際のポイント
治療施設の選択
放射線治療は、専門的な設備と経験豊富なスタッフが必要な治療です。寡分割照射や深吸気息止め照射などの最新技術を導入している施設を選ぶことで、より効果的で副作用の少ない治療を受けられる可能性があります。主治医と相談し、適切な治療施設を選びましょう。
通院スケジュールの調整
放射線治療は平日毎日の通院が必要になることが多いため、仕事や家庭の都合を早めに調整することが大切です。寡分割照射を選択できる場合は、治療期間が短縮されるため、スケジュール調整がしやすくなります。
副作用への心構え
副作用は個人差がありますが、多くの場合は軽度で日常生活に支障をきたすことは少ないです。症状が現れた場合は、自己判断せず医師や看護師に相談し、適切な対処を受けましょう。
保湿と栄養管理
副作用をできるだけ軽度にするためには、治療中や治療後の皮膚の保湿と栄養管理が重要です。医師の指示に従って、適切なスキンケアを行いましょう。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」
- 日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」
- がんプラス「乳がんの放射線療法 治療の進め方は?治療後の経過は?」
- 済生会熊本病院「日々の生活に寄り添う、乳がん放射線治療の新たな選択肢~寡分割照射」
- にしはら乳腺クリニック「乳がん手術後の放射線治療」
- アクトがんクリニック「人にやさしい放射線治療~乳がん放射線治療における最新技術(DIBH / SGRT)」
- 広島大学病院 広島がん高精度放射線治療センター「乳がん」
- がん研有明病院「乳がんの放射線治療」
- 横浜市立みなと赤十字病院「放射線治療の費用」
- 乳がん.jp「高額療養費制度について」

