さまざまな治療法がある乳がんの場合、治療をする病院や主治医選びは、長くならざるをえない治療生活を考えると非常に大切なプロセスです.第一歩でありながら、もっとも重要なポイントのひとつだといえます。
たとえば検診で乳房にしこりが見つかった場合、検診医が患者に、どこか心当たりの病院があるかどうか質問し、ない場合は地域のがん診療連携拠点病院での診断をまず勧めてくれるはずです。
厚生労働省の定めているがん診療連携拠点病院の数は、全国に397施設(2014年時点)となっていますが、ここには乳がんを専門に診る「乳腺科」あるいは「乳腺外科」が必ずあります。
また、乳腺科には、乳がん治療を専門に研究している医師が集まる日本乳癌学会が定めた独自の認定制度によって、学会歴や症例数などを検討して専門医と認定を受けた専門医が勤務しています。
自分でしこりに気づいて病院に行った場合も同様です。
乳がんであると確定診断がつくと、その病院で治療を受けることもできますが、今はインターネットや乳がん関連書籍で調べて、複数の病院で診察を受けてから決めることもできます。
もちろん、確定診断がついても、セカンド・オピニオンを他の病院の医師に求めることもできます。セカンド・オピニオンとは、がんなど重篤な病気にかかった場合、最初にかかった医師以外の医師に、診断と治療方針について意見を求めることを言います、
その結果、セカンドオピニオンを受けた病院の医師に治療を受けたいと申し出ることもできます。
乳がん治療は「外科」、なかでも「乳腺科」が専門
病院選びの第一のポイントは、乳がん治療について詳しい医師がいることです。
乳がんは、多くの場合、女性のかかる病気なので、受診するのは婦人科と思っている人が多いようですが、これは大きな間違いで、乳がんを診るのは一般に「外科」です。しかし「外科」では一般の人にはわかりにくいため、最近では「乳腺科」や「乳腺外科」、あるいは「ブレストセンター」という名称を掲げる病院も増えてきました。
ただし、「ブレストセンター」とついている場合は、乳がん検診を専門に行う検診センターの場合もあるので、きちんと確認してから受診しましょう。
2011年からは、日本乳癌学会の認定施設、関連施設として治療を行うには、日本乳癌学会への乳癌登録が必須となっています。
基本的に行われる治療は統一された「標準治療」
現在行われている乳がんの治療は、多数の臨床試験として計画され、医療者、科学者、法律や人権に関する專門家などから構成される倫理審査委員会などで審査されて、妥当性安全性が証明されたものを「標準治療」とし、治療の選択肢のひとつとして提示されています。
標準治療は信頼できる根拠がもとになったもので、その根拠のことを「エピデンス」と呼び、しばしば医療現場ではどのような根拠に基づいて判断したかということを明確にしながら診療を進めていくことを「エビデンス(EBM)に基づいた医療」という説明がなされます。
乳がんの治療については、日本乳癌学会が医療者向けに定めたガイドラインがありますので、乳腺専門医がいる医療機関であれば、日本全国どこでも同じ治療が受けられることになっています。
また、最近は5年以上という長期にわたって治療が続くことも多くなってきたため、外科の医師だけでなく、放射線専門医や薬物療法の専門家である腫瘍内科医や薬剤師、心の専門家である精神腫瘍医や緩和ケア医も加わるようになりました。
そして、がん看護のための教育を受けたがん看護專門看護師や乳がん看護認定看護師、あるいは医療ソーシャルワーカーや栄養士といったさまざまな職域の医療スタッフがひとつのチームを組んで、総合的に患者のケアにあたるようになっています。これを「チーム医療」と呼びます。
ここ数年、各病院ではチーム医療の実現に向けて、熱心に取り組むようになってきています。
乳がん治療に詳しい医師を探す
医療の研究開発のスピードは驚くほど速く、新薬も次々と登場しますので、外科の医師であっても、必ずしも乳がんに詳しいかどうかはわかりません。
そのため「乳がん専門医」として認定されている医師を探すのが基本になります。日本乳癌学会のホームページに、全国の専門医リストが掲載されています。これらの情報を活用して病院選びをするのが基本です。
がん診療連携拠点病院、乳腺科があること、乳がん専門医がいることを前提に自宅から近い病院を当たることからスタートするのがよいといえます。
以上、乳がんと病院探し、医師探しについての解説でした。