肺がんは「小細胞がん」と「非小細胞がん(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)」という種類(タイプ)に分けられ、それぞれで治療法が異なります。
進行が非常に早い小細胞がんは"性質が悪いがん"といわれるものの化学療法(抗がん剤・分子標的薬など薬を使った治療)が効きやすいのが特徴です。そのため、小細胞がんは他と区別して治療が行われてきました。また、非小細胞がんでも化学療法は進歩しています。
化学療法の基本は、1種類の抗がん剤を使うのではなく、2種類の抗がん剤を併用する「併用化学療法」です。
ベースになる抗がん剤は「シスプラチン」、もしくは「カルボプラチン」が一般的です。これに「イリノテカン」「ドセキタキセル」「パクリタキセル」「ゲムシタビン」「ビノレルビン」「S-1」「ペメトレキセド」などを組み合わせ、2剤を併用する形が標準的な化学療法です。
最近では抗がん剤のペメトレキセドは腺がん、大細胞がんに非常によく効くことが分かってきました。シスプラチン+ペメトレキセドで初期治療を行い、その後ペメトレキセドを継続する維持療法も有効性が証明されています。
具体的な投与の流れは次のとおりです。まず治療開始日に「シスプラチン」と「ペメトレキセド」を投与。次に投与するのは8日目で「ペメトレキセド」のみ。3週目は休む。これを1コースとして4コースから最大6コースまで行います。
このように新しい抗がん剤や、新しい組み合わせが次々と開発されています。その背景には、肺がんの化学療法が患者個人に合った薬剤を選択して使う"個別化治療"の時代を迎えているということもあります。
そして個別化治療の中心的な存在になるのが、新しいタイプの抗がん剤である分子標的薬です。
分子標的薬とは、がん細胞の増殖に重要な働きをしている分子だけを標的にして、情報の流れを遮断することで、がん細胞を死滅させる薬です。抗がん剤は正常細胞まで叩いてしまうが、分子標的薬は、がん細胞だけを攻撃します。
肺がんで使われているのは「ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)」「エルロチニブ(商品名:タルセバ)」「ベバシズマブ(商品名・アバスチン)」です。
肺がんの中の非小細胞がん(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)の細胞の表面には「EGFR(上皮成長因子受容体)」というたんぱく質があります。このEGFRが別のたんぱく質と結合すると、がん細胞の増殖を促進する信号を出します。ゲフィニチブとエルロチニブはEGFRを標的として増殖を阻止する薬なのです。
そのEGFRという遺伝子に変異のある患者さんには、ゲフィニチブがとても有効だということが分かっています。一方、ベバシズマブは血管内皮細胞の増殖機能を持つVEGF(血管内皮増殖因子)というたんぱく質を標的とします。がん細胞は増殖するために酸素と栄養を必要とするので、新しく血管をつくるのですが、その時に働くのがVEGFなのです。ベバシズマブはVEGFの働きを抑えることでがん細胞を死滅させます。この薬は非小細胞がんの中の腺がんと大細胞がんに対して有効です。
進行した非小細胞がんに対しては、EGFR遺伝子に変異があれば、ゲフィニチブ、エルロチニブが効果を発揮することがわかっています。これまではがん細胞の組織型を確定するだけで、その後の抗がん剤はやってみなければ分からない部分もありました。
今では遺伝子を調べることで、事前にどの薬が有効なのか判別できるのです。分子標的薬にも副作用はありますので注意は必要ですが、分子標的薬が使われて数年経過しているので、医療機関側にもデータが蓄積され、活かされれるようになってきています。
以上、肺がんの化学療法についての解説でした。