筋層に浸潤した「筋層浸潤膀胱がん」は、1cmでも2cmでも3cmでも膀胱を全て摘出することが従来の膀胱がんの標準治療でした。
しかし膀胱を失うことなく、膀胱がんの治療ができないかと考案されたのが「膀胱温存療法」といわれる方法です。
現在もアメリカや日本の様々なところで、この温存療法の研究が進められていますが、いずれにしてもすべての浸潤がんに適用できるものではなく、
・他の臓器への転移や広がりがない(T2~T3まで)
・腫瘍が1つに限られる(ただし、これは原則であり少数であれば複数腫瘍でも可能な場合もある)
・大きさが3~4cm以下である
といった条件を満たす場合に適応となります。
筋層浸潤がんに対する膀胱温存療法は、原則として、腫瘍をできるだけ内視鏡で切除することから始まります。筋層浸潤がんでは、腫瘍のすべてを切除することはできないばかりでなく、内視鏡で腫瘍が確認できる以外のところにも小さな腫瘍病変が存在する可能性が高いのです。そこで内視鏡を含めて次の3つを行ないます。
1.内視鏡による腫瘍の切除
2.抗がん剤の全身投与
3.膀胱がん部分への放射線治療
全ての治療が無事に終わったケースでは、腫瘍の大きさが3~4cm以下であれば、9割以上の症例で膀胱を温存することが可能であり、また、5年生存率も膀胱を全摘出した症例と変わらないというデータもあります。
膀胱温存療法の課題
温存療法は国内外で様々な工夫のもとに試みられていますが、長く研究と実践を行ってきた筑波大学では次のような方法が採用されています。
まず、抗がん剤の投与方法について一般には静脈投与のところを動脈内(膀胱を環流する膀胱動脈が分かれている内腸骨動脈)に直接カテーテルを挿入して抗がん剤を投与するという特殊な方法を採用しています。
これは、腫瘍に直接、高濃度の抗がん剤を最初に流し込む効果を狙ったものです。同時に、周辺のリンパ節(所属リンパ節)にも最大の効果を期待しています。
また、放射線治療も、初めは、膀胱全体に「小骨盤腔」という膀胱周辺の領域も含めて、広範囲にコバルト照射(放射線治療の1つ)を行ない、最後の仕上げは、ピンポイントで腫瘍が存在した部位に陽子線照射をするという二段構えの照射を行ないました。
これらは、単に泌尿器科だけではなく、放射線診断部と治療部との密接な共同作業が必要です。
この治療後ではほとんど健康な膀胱と同じように機能させることが可能ですが、温存療法は、通常2~3週間といわれる全摘手術に比べると入院期間はかなり長く、2~3カ月かかります。
またコバルト照射と陽子線照射を二段構えで行なう治療上の特殊性のため、なかなか一般の治療として普及するのが容易ではないという課題があります。陽子線を使える施設はまだ限られていますし、保険も適用されていません。
一般に普及した機器を使って膀胱温存療法を実現させることが今後の医療の課題だといえます。
以上、膀胱がんの治療法についての解説でした。