肝臓がんは、子宮頸がんと同じように、主要な原因がウイルス感染と分かっているがんの1つです。
肝臓がんの大半は、肝細胞ががん化する肝細胞がんです。これまでは抗がん剤が効きにくいがんの1つでしたが、効果が期待できる分子標的薬の登場で治療方針が変わってきました。
進行・再発肝臓がんではソラフェニブで進行を抑える
肝臓がんの8割以上は、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染によるもので、ウイルス性慢性肝炎、肝硬変を経て発症することが分かっています。
これまで肝臓がんは抗がん剤が効きにくいがんといわれてきましたが、腎臓がんで使われていた分子標的薬のソラフェニブ(ネクサバール)が、臨床試験で肝臓がんでも生存期間を延長させることが明らかになり、2009年から使えるようになりました。
切除不能進行・再発がんは薬物療法を選択
肝臓がんは、他のがんに比べて再発しやすい特徴があります。がんだけを手術で取ったとしても、慢性肝炎や肝硬変という"がんになりやすい土壌"は残ったままだからです。
肝臓がんの病期(ステージ)は一般に、がんの大きさ、個数、がん細胞が肝臓内にとどまっているか、体のほかの部分まで広がっているかによってⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期(ⅣA、ⅣB)に分類されています。
肝臓がんの特徴は、治療方針を立てる際には、病期だけでなく、肝臓がどのくらい障害されているか(肝障害度)も評価することです。がんの治療は肝臓にも負担をかけます。肝臓の状態が悪い人にがん治療をすると、さらに状態か悪化するおそれがあるからです。
肝臓がんの治療は「手術」、「経皮的局所療法」、「肝動脈塞栓療法」の3つが中心です。このいずれかができるのであれば、まずそれをします。薬物療法は、切除不能がんまたは進行・再発がんが適応になります。
薬物療法には、一般的な使い方である「全身化学療法」と、特殊な「肝動脈内注入化学療法(動注療法)」があります。いままでは動注療法が主体でしたが、ソラフェニブの登場で全身化学療法が選ばれることが増えてきました。
肝臓の状態が思わしくないとき(肝障害度C)は、基準を満たせば肝移植も考慮されますが、状態によっては症状をとる治療(緩和ケア)が優先されます。
分子標的薬で生存期間の延長を目指す
肝臓がんは抗がん剤が効きにくいがんということもあり、抗がん剤を肝臓内の動脈に注入する肝動脈内注入化学療法がよく行われます。
肝臓内に直接抗がん剤を入れるので効果が高く、副作用が軽減できると考えられています。この動注療法は日本を中心に行われていますが、まだ延命効果が確認されているわけではなく、世界的なコンセンサスを得るには至っていません。
一方、全身化学療法では、2005年から腎臓がんで使われている分子標的薬のソラフェニブが肝臓がんに対し延命効果を示すことが、臨床試験で確かめられました。
プラチナ製剤とソラフェニブが中心
肝臓がん治療に用いる抗がん剤はそれほど多くありません。肝動脈内注入化学療法では、動注療法用につくられた低用量シスプラチン(アイエーコール)やミリプラチン(ミリプラ)、フルオロウラシルやインターフェロンなどが用いられます。
治療の第1選択の1つとなる肝動脈塞栓療法では、塞栓物質に抗がん剤を混ぜて用いることがあり、その場合はエピルビシンなどが使われます。全身化学療法では、いまのところ有効と考えられているのはソラフェニブだけです。
肝臓がんによく使われる薬
<抗がん剤>
・代謝拮抗薬
フルオロウラシル(5-FU):製品名5-FU
・抗がん性抗生物質
ドキソルビシン(DXR):製品名アドリアシン
エピルビシン(EPIR):製品名エピルビシン
ミトキサントロン(MIT):製品名ノバントロン
マイトマイシンC(MMC):製品名マイトマイシン
・プラチナ製剤
シスプラチン(CDDP):製品名アイエーコール(動注療法用)
ミリプラチン:製品名ミリプラ(動注療法用)
<分子標的薬>
ソラフェニブ:製品名ネクサバール
以上、肝臓がんの薬物療法についての解説でした。