前立腺がんの薬物療法は主に進行がん、転移がんで行われますが、高齢者では限局がんでも使うことがあります。この場合はメインはホルモン法になり、その目的はがん細胞の増殖を防いで、生存期間を延ばすところにあります。
前立腺がんはほかのがんと違って比較的おとなしいがんで、がんと共存しながら寿命をまっとうできることも少なくありません。
がんの広がりや悪性度、患者さんの全身状態によっても異なりますが、実際、骨転移がある場合でも5年、10年とホルモン療法の効果が持続している場合もまれではありません。
LH-RHアゴニスト製剤で男性ホルモンの分泌を阻害
前立腺がんは精巣と副腎から分泌される男性ホルモンの影響で増殖するタイプがほとんどです。そのためホルモン療法では、男性ホルモンの分泌やはたらきを阻害することで、がん細胞の増殖を抑えます。手術で精巣を摘出する方法(去勢術)もありますが、最近はホルモン剤を用いることが多くなりました。
ホルモン療法の中心となるのは、LH-RHアゴニスト(アナログ)製剤です。精巣でつくられる男性ホルモン(テストステロン)は、脳の視床下部でつくられるLH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)と下垂体でつくられるLH(性腺刺激ホルモン)によってコントロールされています。LH-RHアゴニストは、LHを過剰に分泌させることで、結果的にLHを枯渇させ、テストステロンの合成を阻害します。
このほか、抗男性ホルモン剤もよく使われます。がん細胞にある男性ホルモン(アンドロゲン)の受容体をふさぎ、がん細胞の増殖を抑えます。非ステロイド性抗アンドロゲン剤とステロイド性抗アンドロゲン剤があります。
ホルモン療法を長く続けていると、骨破壊が起こって骨密度が低下し、骨粗しょう症になるリスクが高まります。そのため、骨破壊を防ぐ作用があるビスホスホネート製剤の投与も推奨されています。
骨転移の治療薬で注目されている新薬は、RANKL阻害薬です。骨吸収に重要な役目を果たすRANKLと呼ばれるタンパクのはたらきを阻害して、骨吸収を阻害します。ホルモン療法にともなう骨粗しょう症や骨折・骨痛のほか、がんの骨転移にも有効です。
抗がん剤では、ドセタキセルが使われています。単独で使うというよりも、エストラムスチンやプレドニゾロンと併用することが多くなります。エストラムスチンは女性ホルモンのエストラジオールと、抗がん剤のナイトロジェン・マスタードを合成した薬、プレドニゾロンはステロイド薬の1つです。
ホルモン剤単剤のほかMAB療法を使うケースも増加
初回治療の第1選択とされるのが、LH-RHアゴニスト製剤の単独療法です。運動している人などでは、非ステロイド性抗アンドロゲン剤の単独療法を選択することもあります。筋力を低下させず、性機能障害などの副作用は少ないですが、乳房の腫れや痛み、肝機能障害などがみられることがあります。
LH-RHアゴニスト製剤と非ステロイド性抗アンドロゲン剤を組み合わせた「MAB療法」を第1選択とするところも増えています。
ホルモン療法を続けて行っていると効果が得られなくなり、がんが再び大きくなることがあります。これを「再燃」といいます。そのような兆候がみられたら「交替療法」といって、ホルモン剤を別の種類のホルモン剤やステロイド薬に変更する方法が試みられます。
一方、抗がん剤による治療では、ドセタキセルとプレドニゾロン、ドセタキセルとエストラムスチンの併用療法などが行われています。
以上、前立腺がんの薬物療法についての解説でした。