がん治療では抗がん剤や分子標的薬、ホルモン薬などが使われますが、その効果はどう評価するのでしょうか。
その判断の目安となるのが、臨床試験のデータとして示される「生存期間中央値」と「無増悪生存期間」です。
生存期間中央値とは、薬を投与されたすべての患者さんのうち、半数の人が亡くなるまでの期間を指します。その薬を使うことでどのくらいの期間生き延びられるかという、延命効果を示す1つの指標となります。
例えば、「この新しい抗がん剤は、従来のものに比べて、生存期間中央値を3カ月延長させた」といった場合、すべての患者さんの余命が3カ月延びるわけではないものの、患者さんが亡くなるまでの平均的な期間が3カ月延長する効果が認められたということになります。
無増悪生存期間とは、がんが進行せずに安定した状態である期間のことをいいます。
進行がんの患者さんにとっての目標は、治療により生存期間が延びることですが、それが見込めない場合、長期間にわたり病状が安定してQOL(生活の質)を保った生活を送ることも重要になってきます。この指標は、進行がんの人に対する治療効果を見るときによく使われます。
奏効率とは?奏効率は延命は比例しない
いっぽうで「奏効率」という指標も使われます。
これは「治療(薬)がどのくらい有効か」を表す指標で、治療実施後にがんの大きさが、画像上で30%以上縮小し、その状態が4週間以上続いた患者さんが何%いたかを示します。
がんが完全に消える「完全奏効」と、完全には消えないが、がんの大きさが30%以上縮小する「部分奏効」の人を足して算出されます。奏効率20%は、薬の承認の目安の1つとされます。
ただ、奏効率と延命効果は必ずしも比例していないことが分かっています。奏効率が低くても(腫瘍が小さくならなくても)長生きできる場合もあるので、最近はあまり重視されなくなっています。
その一方で、近年注目されているのが、QOL(生活の質)による評価です。多くの研究で、抗がん剤治療ががんにともなうさまざまな不快な症状を取り除き、治療前よりもQOLを高めることが明らかにされています。そのため、がんの進行による症状をやわらげることを目的に、抗がん剤治療をすることもあります。
薬を長く使うケースが増えてきており、今後はさらに、効果判定の尺度の1つとして、QOLが重視されるようになるでしょう。
治療効果や副作用の判定に使われる基準
なお、治療中に薬物療法の効果が認められなかったり、薬の副作用で治療が続けられなくなったりしたときなどは、薬の種類を変えたり、中止したりしなければなりません。
1.薬物療法の効果判定
治療中は血液検査(腫瘍マーカーなど)、X線やCT、超音波などによる画像検査を定期的に行い、がんの状態を調べて、どのくらい薬が効いているかを確認します。その際の基準となるのが、効果判定です。
薬の効果判定はがんの種類によって変わりますが、肺がんや大腸がんなどの固形がんについては、世界的にはEORTC(欧州癌研究治療学会)による「RECISTガイドライン」が用いられています。
このガイドラインでは効果判定をCR(完全奏効)、PR(部分奏効)など4段階で示しています。CRやPRとなれば有効と判断するのはもちろんですが、進行がんではSD(安定)でも延命や症状緩和が認められれば、効果があると考えます。
薬物療法はターゲットとなるがんだけでなく、胸水や腹水、画像で確認できない病変などにも効果を発揮します。そこでガイドラインではターゲット以外の病変(非標的病変)や新しくできた病変(新病変)も評価に含め効果を判定します。
2.副作用の判定
がんで使われる薬、とくに抗がん剤では多かれ少なかれ、副作用が出てしまいます。したがって、薬物療法の1番のポイントは、「効き目をもたらし、かつ副作用をできるだけ抑える」ことにあります。
ところが、場合によっては副作用が強く現れてしまい、薬物療法を中止せざるを得なかったり、他の薬に変更しなければならなかったりすることもあります。その基準となるのが、NCI(米国国立がん研究所)の「CTCAEガイドライン」です。
副作用などの有害事象をグレード0からグレード5までの6段階に分け、グレード2なら薬の量などを減らすなどして対応し、グレード3、4なら治療をいったん中止、回復しない場合はその治療をストップします。
CTCAEガイドライン
・グレード0
有害事象が観察されない、または検査値が正常範囲である
・グレード1
症状がないが、画像所見の異常や検査値の異常はある。治療を必要としない
・グレード2
部分的な治療や手術(侵襲的治療)以外の治療を必要とする
・グレード3
入院や手術、輸血、内視鏡洽療などを必要とする
・グレード4
代謝性、心血管系の合併症などで、命に関わる、あるいは体に重い障害が残るような有害事象。集中治療や緊急処置を必要とする
・グレード5
死亡
治療効果の目標となる「5年生存率」とは?
がんの予後を判定する重要な目安に、「5年生存率」があります。これは「対象となる患者のうち、どれくらいの割合の人が5年後に生存しているか」を示したもので、多くのデータをもとにしています。
5年という数字が使われるのは、治療を開始してから5年以内に再発することが多いからです。逆にいうと、ほとんどのがんでは5年以上再発がみられない場合は、あくまで便宜上「がんが治った」とみなされます。しかし、乳がんのように10年以上たってから再発するがんもあります。
以上、がん薬物療法の治療効果についての解説でした。