転移のない「浸潤性膀胱がん」の標準的な治療法は膀胱を摘出する膀胱全摘手術です。
この手術では膀胱だけではなく広範囲の骨盤内リンパ節の郭清(かくせい。切除すること)と膀胱周囲の脂肪を十分に切除することも含まれます。
根治的な効果(がんを全て取り除くこと)を目指して、補助的にシスプラチンを含んだ多剤併用の抗がん剤治療もおこなわれています。放射線はあまり効果がないので行われません。
かつては、膀胱の全摘手術を行うと、様々な合併症や後遺症が起こり性機能の喪失どころか合併症による手術関連死すら稀ではありませんでした。
しかし、近年では管理技術の進歩とともに合併症は減少し、性機能の温存手術や自然排尿型の新膀胱造設術の開発により、性機能の維持や自然な排尿も可能となるケースが多くなっています。また、腹腔鏡手術などの体へのダメージが比較的少ない手術方法も進歩しています。
膀胱全摘手術が行われるケースとは
膀胱の筋層へ浸潤しており、転移のない場合に適応となります。また、筋層への浸潤がなくても、膀胱内注入療法に抵抗性の上皮内がんや、表在性腫瘍に対しても行われます。転移がある場合でも、状況により血尿のコントロールなどの症状緩和目的で、尿路変向と合わせて行われることもあります。
膀胱全摘手術の合併症
手術の影響で命を落とす「手術関連死亡率」はいまだに1~3%あります。合併症は25~35%に起こります。
いくつか起こる合併症のうち、呼吸器合併症の予防には、術前の禁煙と早期離床、静脈血栓症の予防には早期離床、抗凝固療法、弾性ストッキングなどの着用など、リスクに応じて様々な対処がされます。
また腸管を利用する尿路変向では便が通過する腸を再建する必要があり、それに伴う腸閉塞や縫合不全が起りえます。
男性の勃起不全に関しては、神経温存前立腺全摘術により40代の若年者においては、60%程度の性機能温存が可能だとされています。
治療成績・効果
化学療法や放射線治療などの補助療法を実施したケースも含むと、筋層にとどまっている場合に膀胱全摘出を行ったとき、リンパ節転移がなければ80%程度の5年生存率が報告されています。
しかし周囲の脂肪に浸潤していたり、リンパ節転移がある場合の予後は厳しいものになっています。
以上、膀胱がんの手術についての解説でした。