がん治療専門のアドバイザー、本村です。
当記事では食道胃接合部がんについて解説します。
「食道胃接合部がん」とは、胃がんとも食道がんとも異なる特徴を持ったがんです。
具体的にどの部分に発生したがんを指すのかというと、日本の基準では「食道と胃の境目にある筋層を中心に、上下2㎝の範囲に発生したがん」とされています。
胃がん、食道がんとは何が違うのか
まず「食道がんには扁平上皮がんが多い」「胃がんには腺がんが多い」とそれぞれ特徴的ながんのタイプがみられます。しかし、食道胃接合部がんにはこのようなはっきりとした分類ができない、とても多様ながんが発生することが特徴です。
食道胃接合部には扁平上皮がんや腺がんはもちろん、タイプ的には稀ながんである「胃底腺がん」「噴門腺がん」「バレット腺がん」なども発生します。がんとしての悪性度は様々で、見た目での分類が非常に難しいことが多いのです。
つまり、扁平上皮がんだから食道がんだ、腺がんだから胃がんだ、と単純に分類できず、食道胃接合部には独特ながんが発生すると考えなければならないということです。
ところが長い間、世界的に食道胃接合部がんの診断や治療方針には統一した見解がなく、「どちらかといえば食道がんに近いから食道がん」「胃に近いほうにあるから胃がん」などとあいまいな診断に基づいて治療が行われてきました。
しかし食道がんと胃がんでは、がん細胞が持つ特徴や治療に対する考え方も異なります。がん治療はまず「それがどこのがんか」を特定できないと治療をスタートすることができないのですが、食道胃接合部がんではスタートライン自体がはっきりしないものだったのです。
そのため、食道胃接合部がんにおいてもきちんと診断基準を作り、どういう治療が適切なのかが検討されることになりました。
食道胃接合部がんは増加傾向。その原因は?
近年、食道胃接合部がんが増えている原因と考えられているのが「胃酸の逆流」です。逆流性食道炎という言葉は一般にも広がりつつありますが、その「炎症」が食道胃接合部がん発生の原因ではないかといわれています。
本来、胃酸は胃に留まるものであり、食道の組織に触れることはありません。食道の扁平上皮がんは酸に弱いので構造的に「食道は胃酸に触れないように」噴門部の括約筋や横隔膜によって下から上へ(胃から食道へ)は、逆流しないようになっています。
しかし括約筋の力が弱くなったり、胃酸が増えすぎると逆流を起こして食道に炎症を起こします。
長期間酸にさらされ、炎症が続くと食道の表面にがん細胞が生まれやすくなります。
また、胃がんの要因であるピロリ菌も食道胃接合部がんに関わっています。
日本では胃がん発生率は減少傾向にあります。ピロリ菌除去の技術が進んでいることもありますが、一番の要因は衛生環境の向上により、若い世代ほど「そもそも体内にピロリ菌がない、あるいは少ない」状況になっていることです。
実はピロリ菌には胃酸を中和させる働きがあり、胃粘膜を萎縮させることで胃酸の分泌量も減らす作用があります。
ピロリ菌がいない、あるいは少なくなると胃酸の量が増え、酸が強くなり、食道への逆流の要因になります。
胃がん予防のためにピロリ菌を除去することで、その近くにある食道胃接合部ではがんになりやすい、という別の問題を起こすことになるのです。
食道胃接合部がんの治療法とは
まず、胃がん、食道がんのそれぞれの学会で過去の治療について大規模な調査が行われました。その結果、直径4㎝までのがんならば、胃がんとして手術をしても、食道がんとして手術をしても従来の方法では切除範囲が大きすぎる、ということが分かりました。
食道胃接合部において、直径4㎝までのがんの場合、胃がんとして扱えば胃の全摘手術が適応となります。また、食道がんとして扱えば右わき腹から開胸手術をして食道を摘出するダメージの大きい手術が適応でした。
しかし、それほど大きな手術をせずに接合部を中心にこれまでより狭い範囲での手術を行えばよいという結論になったのです。
現在では「直径4㎝までの食道胃接合部がんであれば、胃の上部部分(噴門側)の切除と、下部食道の切除を行えば手術の目的は達成でき、治療としてはそれでじゅうぶんだとされています。
また2014年5月に発行された「胃癌治療ガイドライン」では、胃・食道周辺の「リンパ節郭清」範囲についても触れられています。
明確な治療方針の前に、がんの性質を把握することが重要
このように食道胃接合部に発生したがんを、胃がんや食道がんとは別に固有のがんとして扱おうという風潮が強くなり、様々な研究や取り組みが進んでいます。
そのためには複雑な特徴を持つがんをより細かく分析し、できるだけ具体的に特徴を把握することが重要になってきます。
例えば、食道胃接合部に発生したがんが扁平上皮がんの特徴を持つ場合、それは下部食道に起きる扁平上皮がんとどの部分が違うのかという分析です。扁平上皮がんだが腺がんの特徴も混在している、ということが分かれば、それに対して治療方針を考えることになります。
もし化学療法(抗がん剤など薬をつかった治療)が必要な場合、現在は扁平上皮がんなら食道がんに準じて5ーFUやシスプラチンなどの抗がん剤が使われます。いっぽう腺がんなら胃がんに準じてTS-1が使われます。
しかしさらに細かいがんの組織型や性質が分かれば、薬の組み合わせを変えるなどして個別の状況に合わせた化学療法ができるということです。
欧米ではピロリ菌感染者が少ないため、胃がんは稀ながんだといえます。日本でもピロリ菌感染者は減る傾向にあるので胃がん患者は減少傾向にあります。
いっぽう欧米で食道胃接合部がんは増えており、これは胃酸の逆流などが原因と考えられていますが、日本でも逆流性食道炎は珍しい症状ではなくなってきています。おのずと国内でも食道胃接合部がんは増加傾向となっています。
以上、食道胃接合部がんについての解説でした。