
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの治療では、乳房温存手術の後に放射線治療を行うことが標準的な治療法として確立されています。しかし、従来の外部照射による放射線治療には、皮膚への負担や治療期間の長さといった課題がありました。
そこで注目されているのが、APBI(Accelerated Partial Breast Irradiation:加速乳房部分照射)という治療法です。
この方法は、乳房の内部から直接放射線を照射することで、治療期間を大幅に短縮し、副作用を軽減できる可能性があります。
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→がんを治すための「たった1つの条件」とは?
APBIとは何か
APBIは、乳房温存手術後に行う放射線治療の一つで、乳房全体ではなく、がんがあった部位とその周辺に限定して放射線を照射する方法です。
従来の放射線治療では、乳房全体に外部から放射線を当てるため、治療期間が5週間から6週間ほど必要でした。これに対してAPBIは、乳房内部に放射線源を直接留置することで、3日から5日程度の短期間で治療を完了できます。
具体的には、直径約2mmのプラスチック製のチューブ(アプリケーター)を乳房内のがんがあった部位近くに数本留置し、その中に放射線を放出する小線源(イリジウム192)を短時間挿入して照射を行います。
なぜAPBIが開発されたのか
乳房温存手術後の放射線治療に関する長年の研究により、いくつかの重要な事実が明らかになってきました。
まず、乳房内での再発の大部分は、元のがん(原発巣)があった部位の周辺で起こることが分かっています。日本国内の臨床データによると、原発巣から離れた部位での再発率は0.5%から4.0%程度と非常に低く、乳房全体に放射線を照射しても、遠隔部位での再発予防効果はほとんど変わらないことが示されています。
つまり、原発巣周辺への集中的な照射で十分な効果が得られる可能性が高く、広範囲への照射は必要以上に正常組織を傷つけているだけかもしれないという考え方が出てきたのです。
また、外部照射による従来の方法では、以下のような問題点がありました。
皮膚への影響として、やけどに近い状態になり、赤みや強い痒みが生じます。また、毛穴が損傷することで汗や皮脂の分泌が減少し、皮膚が乾燥して硬くなることがあります。
さらに、心臓や肺といった重要な臓器にも少量ながら放射線が及ぶリスクがあり、特に左側の乳がんの場合は心臓への影響が懸念されていました。
治療期間の長さも大きな負担です。毎日の通院が必要で、仕事や家事との両立が困難になる患者さんも少なくありません。
こうした課題を解決するために開発されたのがAPBIです。
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APBIの適応条件
APBIは全ての乳がん患者さんに適用できるわけではありません。この治療法が適しているのは、以下のような条件を満たす場合です。
腫瘍の大きさが3cm以下であることが基本的な条件となります。より小さい腫瘍、特に2cm以下の場合により適しているとされています。
リンパ節への転移がないことも重要な条件です。リンパ節に転移がある場合は、より広範囲の治療が必要となるため、APBIの適応外となります。
切除断端が陰性、つまり手術で摘出した組織の縁にがん細胞が残っていないことが確認されている必要があります。断端陽性の場合は、再発リスクが高いため、より広範囲の照射が必要になります。
年齢については、一般的に50歳以上の患者さんが対象となることが多いです。若年の患者さんは再発リスクが高い傾向があるため、慎重な判断が必要です。
組織型も重要で、浸潤性乳管がんや非浸潤性乳管がん(DCIS)で、グレードが低から中程度のものが適しています。特殊な組織型や悪性度の高いものは適応外となることがあります。
ホルモン受容体の状態も考慮されます。エストロゲン受容体陽性の場合は、比較的良好な予後が期待できるため、APBIの良い適応となります。
広範な乳管内進展がないことも条件の一つです。乳管内に広くがん細胞が広がっている場合は、部分照射では不十分な可能性があります。
APBIの治療の流れ
APBIの治療は、いくつかの段階を経て進められます。
アプリケーターの留置
まず、乳房温存手術の際、または手術後に、放射線を照射するためのチューブ(アプリケーター)を留置します。
手術中に留置する方法では、がんを摘出した直後に、その部位の周辺にアプリケーターを刺し込みます。この方法の利点は、手術が一回で済むことです。ただし、術後の病理検査の結果、APBIの適応外と判定された場合には、すぐにアプリケーターを除去する必要があります。
手術後に留置する方法では、病理検査の結果を確認してから、改めて麻酔をかけてアプリケーターを留置します。この場合、再度の入院が必要になりますが、確実に適応があると判断されてから治療を開始できるという利点があります。
一般的には、病理検査の結果を確認してから留置する方法が推奨されています。
照射の実施
アプリケーターが留置されたら、実際の放射線照射を開始します。
留置したチューブの中に、放射線を放出する小線源(イリジウム192)を挿入します。この小線源は直径約0.9mmと非常に細く、遠隔操作によって正確に位置決めされます。
1回の照射時間は、数分から15分程度です。照射が終わると、小線源は自動的に取り出されます。チューブは残ったままですが、放射線源が体内にない間は放射線被曝の心配はありません。
照射は1日2回行われ、2回の照射の間隔は6時間以上空けることが推奨されています。これは、正常組織の回復時間を確保するためです。
治療は3日から4日間で、合計6回から10回の照射を行います。1回あたりの線量は、外部照射と比較して多めに設定されており、通常は4グレイから7グレイ程度です。
治療の完了
すべての照射が完了したら、アプリケーターを除去します。除去は簡単に行え、特別な処置は必要ありません。
アプリケーターを刺し込んだ部位には、2mm程度の小さな傷跡が残りますが、時間とともにほとんど目立たなくなります。
入院期間は、アプリケーターの留置から除去まで、おおよそ5日から1週間程度です。
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APBIと従来の外部照射の比較
APBIと従来の外部照射による全乳房照射を比較すると、以下のような違いがあります。
| 項目 | APBI | 従来の外部照射 |
|---|---|---|
| 照射範囲 | 原発巣周辺のみ | 乳房全体 |
| 治療期間 | 3〜5日 | 5〜6週間 |
| 通院回数 | 入院1回(5〜7日) | 25〜30回 |
| 1回の照射時間 | 数分〜15分 | 数分 |
| 総照射回数 | 6〜10回 | 25〜30回 |
| 皮膚への影響 | ほとんどなし | 赤み、乾燥、色素沈着 |
| 心臓・肺への影響 | ほぼなし | わずかにあり |
| 適応範囲 | 限定的(条件を満たす場合) | 広範囲に適応可能 |
APBIの効果
APBIの効果については、国内外で多くの臨床研究が行われています。
再発予防効果に関しては、適切に選択された患者さんにおいて、従来の全乳房照射と同等の効果が得られることが複数の研究で示されています。5年から10年の追跡調査において、局所再発率は5%以下と良好な成績が報告されています。
生存率についても、全乳房照射と比較して差がないことが確認されています。つまり、治療範囲を限定しても、患者さんの予後に悪影響を与えることはないということです。
副作用の軽減効果は明確です。皮膚の障害が大幅に減少し、治療後の乳房の整容性(見た目の美しさ)が保たれやすくなります。また、心臓や肺への放射線の影響がほとんどないため、長期的な合併症のリスクも低くなります。
治療期間の短縮により、患者さんの生活の質が向上します。仕事や家事への影響が最小限に抑えられ、精神的な負担も軽減されます。
また、化学療法やホルモン療法といった他の治療を早期に開始できることも重要です。放射線治療が短期間で完了すれば、その分早く次の治療段階に進むことができます。
APBIのデメリットと注意点
APBIにはいくつかのデメリットや注意すべき点もあります。
まず、適応が限られることです。前述の条件を満たす患者さんのみが対象となるため、多くの乳がん患者さんにとって選択肢にならない可能性があります。
長期的な効果のデータが、従来の外部照射と比較するとまだ少ないという点も懸念材料です。特に20年、30年といった超長期の追跡データは限られています。
アプリケーターの留置に伴う合併症のリスクがあります。感染、出血、血腫形成などが起こる可能性があり、その頻度は5%から10%程度と報告されています。
乳房内の脂肪壊死が起こることがあります。これは、高線量の放射線により脂肪組織が損傷を受けて硬いしこりを形成する現象で、がんの再発と区別が難しい場合があります。発生率は10%から15%程度とされています。
治療後の痛みや不快感が、一時的に生じることがあります。多くは数週間から数か月で改善しますが、患者さんによっては長期間続くこともあります。
さらに、実施できる医療機関が限られていることも問題です。APBIには専門的な技術と設備が必要なため、日本国内でも対応できる施設は一部に限られています。
APBIの費用と保険適用
APBIの治療費については、いくつかの要素によって変動します。
日本においては、APBIは特定の条件下で保険適用となっています。小線源治療として認められており、保険診療として受けることが可能です。
治療費の総額は、入院費用を含めて概ね50万円から80万円程度となります。ただし、実際の自己負担額は、患者さんの収入や加入している保険の種類によって大きく異なります。
高額療養費制度を利用することで、自己負担額を大幅に軽減できます。例えば、年収が約370万円から約770万円の方の場合、月額の自己負担上限は約8万円となります。より収入が低い方は、さらに自己負担額が少なくなります。
| 年収の目安 | 月額自己負担上限(概算) |
|---|---|
| 約370万円未満 | 約5万7千円 |
| 約370万円〜約770万円 | 約8万円 |
| 約770万円〜約1,160万円 | 約16万7千円 |
| 約1,160万円以上 | 約25万2千円 |
入院期間が5日から7日程度と短いため、従来の外部照射で長期間通院する場合と比較して、交通費や時間的なコストは大幅に削減できます。
ただし、施設によって費用設定が異なる場合があるため、事前に詳細を確認することが重要です。
日本におけるAPBIの現在の活用状況
日本国内でのAPBIの実施状況は、限定的ではあるものの、徐々に広がりを見せています。
実施可能な医療機関は、主に大学病院やがん専門病院などの高度医療機関に限られています。小線源治療の設備と専門的な技術を持つ放射線治療医が必要なため、すべての病院で受けられる治療ではありません。
放射線治療を専門とする医療機関や、乳腺外科との連携が強い施設で実施されているケースが多いです。
治療件数としては、年間数百例程度と推定されます。乳房温存手術全体の中では、まだ少数派の治療法といえます。
日本乳癌学会のガイドラインでは、APBIは適切な条件下で選択可能な治療法として位置づけられていますが、標準治療としての推奨には至っていません。これは、長期的なデータがまだ蓄積中であることが主な理由です。
臨床研究も継続的に行われており、より多くの日本人患者さんのデータが集積されることで、将来的には適応範囲が拡大される可能性もあります。
APBIを受けられる施設の探し方
APBIを検討する場合、まず現在治療を受けている主治医に相談することが第一歩です。
主治医がAPBIの適応について判断し、必要であれば実施可能な施設への紹介状を作成してくれます。
また、日本医学放射線学会や日本乳癌学会のウェブサイトでは、放射線治療を専門とする医療機関のリストを確認できます。
がん診療連携拠点病院の相談支援センターに問い合わせることも有効です。各地域でAPBIを実施している施設の情報を提供してもらえる場合があります。
ただし、施設があるからといって、すべての患者さんが受けられるわけではありません。必ず適応条件の評価が行われ、その結果によって治療法が決定されます。
APBIと他の治療法の選択
乳房温存手術後の放射線治療には、APBIの他にもいくつかの選択肢があります。
従来の全乳房外部照射は、最も一般的で確立された方法です。長期的な効果と安全性のデータが豊富にあり、多くの患者さんに適用できます。
寡分割照射という方法もあります。これは1回の照射線量を増やすことで、治療回数を減らす方法です。通常の30回前後の照射を、15回から16回程度に短縮できます。治療期間は3週間程度となり、APBIほどではありませんが、負担の軽減が期待できます。
術中照射という方法では、手術中に一度だけ放射線を照射します。専用の機器が必要で、実施できる施設は非常に限られていますが、治療期間を最も短縮できる方法です。
それぞれの方法にメリットとデメリットがあり、患者さんの状態、がんの特性、生活環境、希望などを総合的に考慮して、最適な方法を選択することが重要です。
治療後の経過観察
APBIを受けた後は、定期的な経過観察が必要です。
治療直後は、アプリケーターを留置した部位の傷の確認や、感染の有無をチェックします。通常、傷は数週間で治癒します。
その後は、3か月から6か月ごとに診察を受け、乳房の触診、マンモグラフィ、超音波検査などで再発の兆候がないか確認します。
最初の2年から3年は特に注意深く観察し、その後は年1回の検査に移行することが一般的です。
また、反対側の乳房についても、定期的なスクリーニングが重要です。
何か気になる症状や変化があれば、検診の時期を待たずに、すぐに主治医に相談することが大切です。
よくある質問
APBIを受けても美容面での影響は少ないのでしょうか
APBIは外部照射と比較して、乳房の整容性を保ちやすい治療法です。皮膚への直接的な影響が少ないため、色素沈着や皮膚の硬化といった問題が起こりにくくなります。
ただし、脂肪壊死が起こった場合は、しこりや変形が生じることがあります。また、アプリケーターの挿入部位に小さな傷跡が残りますが、通常は目立たないレベルです。
治療後の痛みはどの程度続きますか
多くの患者さんでは、治療直後から数週間、乳房の違和感や軽い痛みを感じることがあります。これは正常な反応で、徐々に軽減していきます。
痛みが強い場合や、数か月経っても改善しない場合は、主治医に相談してください。必要に応じて、痛み止めの処方や、理学療法などの対処法が検討されます。
治療後、どのくらいで日常生活に戻れますか
入院期間は5日から7日程度ですが、退院後すぐに通常の生活に戻れる方が多いです。
ただし、重いものを持ったり、激しい運動をしたりすることは、最初の2週間から4週間は控えることが推奨されます。
仕事への復帰時期は、仕事の内容や体調によって異なりますが、デスクワークであれば退院直後から可能な場合もあります。
治療の効果はどのくらいの期間で分かりますか
放射線治療の効果は、がんの再発を予防することですので、すぐに目に見える変化があるわけではありません。
効果を判断するには、少なくとも5年から10年の長期的な経過観察が必要です。定期的な検診を継続することが重要です。
APBIに関する今後の展望
APBIは比較的新しい治療法であり、今後さらなる発展が期待されています。
技術的な改良により、より精密な照射が可能になり、副作用をさらに減らせる可能性があります。
また、画像診断技術の進歩により、適応の判断がより正確になることも期待されます。
長期的なデータが蓄積されることで、どのような患者さんに最も適しているかが、より明確になっていくでしょう。
さらに、実施可能な医療機関が増えることで、より多くの患者さんがこの治療法を選択できるようになることも望まれます。
乳がん治療は個別化が進んでおり、患者さん一人ひとりの状態に最も適した治療法を選択することが重要です。APBIは、その選択肢の一つとして、今後も重要な役割を果たしていくと考えられます。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html - 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン」
https://jbcs.xsrv.jp/guidline/ - 日本医学放射線学会「放射線治療について」
https://www.radiology.jp/member_info/saferad/20210512_01.html - がん研究会有明病院「乳がんの放射線治療」
https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/breast/treatment_002.html - 国立がん研究センター東病院「乳房温存療法」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/breast_surgery/010/index.html - 厚生労働省「高額療養費制度について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - 日本放射線腫瘍学会「放射線治療の種類」
https://www.jastro.or.jp/customer/type.php - 国立がん研究センター「乳がん検診・治療の医療機関情報」
https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/xpSearchTop.xsp - 日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイド」
https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2022/index/guideline-p-2022/ - がん情報サイト PDQ「乳がんの治療」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/breast/breast01.html

