乳がんでは、乳房の内部から放射線を当てるAPBIという方法の開発が進んでいます。
現在は、主に「乳房温存治療」が行われるとき、手術のあとに放射線を外部から当てる方法が標準的な治療として定着しています。
しかし外から乳房に放射線を当てると、皮膚はやけどを負った状態に近くなります。治療が長引けば皮膚が赤くなったり、強い痒みを伴ったりします。また、毛穴が損傷して汗や脂がでなくなって乾燥し皮膚が固くなったりすることもあります。
こういった副作用のダメージを軽減し、より腫瘍だけを攻撃できることを主な目的として開発されたのが「APBI(加速乳房部分照射)」という方法です。
そもそも、外部からの放射線治療の効果は?
現在、広く行われているのが乳房の温存手術後、手術した乳房全体に対して放射線を当てる方法です。この治療の目的は切除した乳房から乳がんが再発しないよにする、いわば「再発予防」であるといえます。
しかし、この「乳房全体への放射線照射」が本当に必要なのか?再発予防にどれくらいの効果があるのか?ということは、長く議論されてきました。
最近の国内の臨床データによると、乳房に再発するケースのほとんどは、「元々のがん(原発巣)があった周辺に発生する」ことが分かっています。逆にいえば原発巣から離れた乳房内では再発は起きにくく、乳房全体へ放射線治療を行っても行わなくてもほとんど関係がない(再発率が0.5%~4.0%と同じ)ことが明らかになってきました。
つまり、原発巣に近い部分に当てる放射線治療は効果がみられるが、少し離れた部分に照射しても再発予防の効果はあまりないのでは、ということが結論に近い認識だといえます。
そのため「広い範囲の外部照射は効果が薄く、後遺症を残すだけになる可能性があるので、もっと原発巣に近い場所に絞って放射線を照射できないか」と考えられてきました。
そこで開発されたのがAPBIという、乳房内に放射線を出す小線源(0.9mmほどの放射線イリジウム)を短時間埋め込み、放射線を原発巣に集中して当てようとする方法です。
乳房内に放射線物質を埋め込むAPBIの仕組み
まず、対象となるのは「乳房温存療法(乳房温存手術+放射線治療)」が対象となる人です。
乳房温存手術の術中か術後に、アプリケーターと呼ばれる直径2mmほどのプラスチックチューブを数本、がんを摘出した部位(原発巣)近くに刺し、そのまま留置したままにします。
手術中にチューブを留置する方法は手術が一回で済むというメリットがあります。いっぽう術後にチューブを留置する方法は、温存手術の終了後、再度後日に麻酔をかけて行うためにもう一度入院しなければなりません。しかし、術後の病理検査で「APBIに向かないか、効果が薄い」と判定される場合もあります。このようなとき、術中にチューブを入れているとすぐに除去することになります。
そのため、病理検査をしてからチューブを留置する方法のほうがよいのでは、と考えるのが一般的です。
APBIの進め方と治療期間
APBIでは留置したチューブのなかに放射線を出す小線源(放射線イリジウム)を数分から15分程度とどめておき、その時間が経過したら取り出します。(チューブは残っているが、放射線物質は摂り出す)
このときの一回の放射線量は6グレイほどです。これを一日二回行い、治療は3~4日間の計6回で終わりとなります。
治療終了とともにチューブは除去されますので、治療開始から終了まで一週間ほど入院することになりますが、治療に一か月以上かかる外部照射とは患者さんの負担の面で大きなが差があります。
乳房の外から放射線を当てる従来の方法は、正常な組織にまで放射線が当たってしまうために一回に照射する線量は低く抑えられています。そのため毎日照射をしても一か月くらいの期間が必要となるのです。
APBIでは放射線物質が原発巣付近の限定した部位にのみ当たるため、一度に多めの線量を照射しても副作用が少なく、問題が起きにくいと考えられています。
なお、チューブを入れるときにできる傷跡が2mm強残りますが、時間とともに傷はほとんど消えるレベルになるとされています。
APBIのメリット
外部照射では避けられなかった皮膚への障害が防げるという点と、肺や心臓など乳房周辺の重要な臓器に放射線が及ばないという点がメリットだといえます。
また、化学療法(ホルモン・抗がん剤などの薬を使った治療)を行う場合、放射線治療が長引けば、そのぶん化学療法の開始が遅れますが、放射線治療を短期で終わらせることで早く化学療法に入れることもメリットだとされています。
以上、乳がんの放射線治療についての解説でした。