がんの放射線治療は、いまでは広く普及しています。
日本では地域の基幹病院の大部分が、リニアック(直線型の電子加速装置)などの外部照射用の装置を備えています。その普及台数は800台以上で、アメリカについで世界で第2位です。
照射装置でがんを狙い撃つ精度も、種々の工夫が取り入れられたために格段に進歩しました。また、コンピューターの導入により、精密な照射計画を立てることも可能になりました。しかし、一見華々しいこの進展の背後には、大きな問題が残されています。こうして見ると、あたかもリニアックのあるすべての医療施設で、これまでに述べたような治療が可能になっていると思われがちですが実際には、どの施設でも最高水準の放射線治療ができるかというと、そうではありません。
放射線治療には、主として装置の選択の問題と、それを動かす人間の問題がつきまといます。個々のがんに対してどんな放射線治療を行うかは、患者が治癒に向かうかどうか、あるいは重い副作用や後遺症を起こさずにすむかを左右する重要な問題です。
しかし現実には、放射線治療に熟練した放射線腫瘍医はいまのところ少なく、常勤医がいる医療施設も多くはありません。さらに、装置の精度管理などを担うはずの「医学物理士」に至っては、ほとんどいない状況です。
実際に日本のがん医療では放射線が使われる比率が低く、欧米では平均して6O%の患者が放射線治療を受けているのに、日本は25%から3O%程度にとどまっています。
その理由は、なんといっても放射線治療の専門医が少ないことにあり、たとえばアメリカでは3億人の人口にたいして約45OO人の専門医がいるのに、日本には1億2OOO万人の人口にたいして約800人の放射線科治療医しかいません。
だから高額の治療機器があっても現状では十分に使いこなせる病院は多くはありません。それでも、このような状態はしだいに改善されていくはずです。放射線治療は患者にとって、大きなメリットがあるからです。