
肺がんのCT検査とMRI検査について
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
肺がんの診断や病期の判定において、画像検査は欠かせない検査です。胸部エックス線検査、CT検査、MRI検査など複数の検査方法がありますが、それぞれの検査には異なる役割と特徴があります。
2025年4月に国立がん研究センターが「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン2025年度版」を公開しました。これは2006年版以来19年ぶりの大幅な改訂となり、特に低線量CT検査の推奨について大きな変更がありました。
この記事では、肺がんの検査で広く使われるCT検査とMRI検査について、それぞれの検査で何が分かるのか、どのような違いがあるのかを詳しく解説します。
胸部エックス線検査の位置づけ
まず、最も一般的な胸部エックス線検査について説明します。
胸部エックス線検査は、肺に照射したエックス線の影絵を見るようなものです。撮影された肺の影から、医師は異常を読み取ります。この検査は簡便で広く普及しており、健康診断やがん検診でも用いられています。
しかし、胸部エックス線検査には限界があります。肋骨や横隔膜に重なっている部分や、非常に小さな肺がんは見つけにくく、肺の60~70%程度しか観察できないとされています。また、心臓の陰や横隔膜との重なりによって見えづらくなる病変も存在します。
2025年度版のガイドラインでも、胸部エックス線検査は喫煙状況にかかわらず推奨グレードAとされ、対象年齢は40~79歳、検診間隔は年1回が推奨されています。
CT検査の仕組みと特徴
CT検査は「コンピュータ断層撮影(Computed Tomography)」の略称で、エックス線を使って体の断面を画像化する検査です。
胸部エックス線検査が1枚の影絵であるのに対し、CT検査はエックス線を一度に何本も照射して、肺を輪切りにしたときの状態を映し出すことができます。その結果、胸部エックス線検査よりもはっきりとした画像で、肺の異常を診断できます。
CT検査で撮影された写真は、患者さんが仰向けに寝た状態を足元の方から見た形で撮影されています。体を輪切りにした断面図として、約1ミリごとの高解像度な画像が作成されます。
ヘリカルCTとは
従来のCT検査は1回にひとつの横断面しかスキャンすることができませんでしたが、新たに開発された「ヘリカルCT」では3次元的に連続して撮影することが可能となりました。
「ヘリカル」とは「らせん」という意味です。エックス線管球が連続回転している中を、患者さんの寝台が連続的に移動することで、エックス線ビームが体に対してらせん状にスキャンします。これにより、これまでよりもずっと速く、そしてより詳しい画像を撮ることができるようになりました。
最新の多列ヘリカルCTでは、0.5ミリ×80列、0.35秒回転という超高速スキャンにより、広範囲を高速かつ高画質に撮影できます。検査時間が短縮され、息を止める時間も短くなるため、患者さんの負担も軽減されています。
低線量CT検査の重要性
近年、肺がん検診では「低線量CT検査」が注目されています。
低線量CT検査は、通常の胸部CT検査の10分の1程度の被ばく線量に抑えた撮影方法で、被ばく線量は1mSv(ミリシーベルト)以下です。被ばく線量が低いCT撮影のため、多くの方が受診しやすくなっています。
2025年度版のガイドラインでは、50~74歳で喫煙指数600以上の重喫煙者に対して、年1回の低線量CT検査が推奨グレードAとして新たに推奨されました。米国のNLST研究では、胸部エックス線検査と比較して死亡リスクが16%減少したことが報告されています。
| 検査方法 | 対象年齢 | 対象者 | 検診間隔 | 推奨グレード |
|---|---|---|---|---|
| 低線量CT検査 | 50~74歳 | 重喫煙者(喫煙指数600以上) | 年1回 | A(推奨) |
| 胸部エックス線検査 | 40~79歳 | 喫煙状況にかかわらず | 年1回 | A(推奨) |
| 重喫煙者以外への低線量CT | - | 非喫煙者・軽喫煙者 | - | I(対策型検診では推奨しない) |
※喫煙指数は「1日の喫煙本数×喫煙年数」で計算します。禁煙したことがある方は喫煙年数から禁煙した年数を引いて計算します。
CT検査で分かること
CT検査では、がんが肺のどの部分にあるのか、どのくらい広がっているのかなどの確認に役立ちます。
具体的には以下のような情報を得ることができます。
病変の大きさと位置
CT検査によって、がんの大きさや広がりを詳細に把握できます。胸部エックス線検査では見つけにくい淡い陰影の病巣や、直径1センチ以下の小さな陰影も発見することができます。また、心臓や横隔膜との重なりによって見えにくい病変も、断面画像として観察できるため発見が可能です。
リンパ節への転移
肺がんは縦隔(左右の肺を隔てる部分)のリンパ節に転移しやすい特徴があります。CT検査では、リンパ節の腫大や異常を確認し、転移の有無を判断する重要な情報を得ることができます。
周囲の臓器への広がり
がんが肺だけでなく、周囲の臓器に広がっていないかを確認できます。胸壁、気管、食道、大血管などへの浸潤の有無を評価することで、病期(ステージ)の判定に必要な情報が得られます。
CT検査の種類と方法
CT検査には「単純CT検査」と「造影CT検査」の2種類があります。
単純CT検査
造影剤を使用せずに行う検査です。検査時間は5~10分程度で、患者さんは検査台に仰向けに寝て、アナウンスに合わせて息を吸い、肺を膨らました状態で撮影します。
単純CT検査でも、肺の病変や骨の状態などは十分に観察できます。
造影CT検査
造影剤を静脈に注射しながら撮影する検査です。
造影剤を使用することで、血管や臓器のコントラストが強調され、単純CT検査では判断が難しい病変の性質や広がり、血管との関係などをより正確に診断できます。特に、がんの進展範囲や血管への浸潤、リンパ節転移の評価に有用です。
造影CT検査では、事前に腎機能を確認する血液検査が必要です。また、造影剤を注入するために点滴の針を刺入し、検査中に造影剤を注入します。検査時間は30分程度かかる場合があります。
CT検査の費用と時間
| 検査の種類 | 費用(保険診療3割負担の目安) | 検査時間 |
|---|---|---|
| 単純CT検査 | 約4,500~6,000円 | 5~10分程度 |
| 造影CT検査 | 約12,000~15,000円 | 30分程度 |
※費用は医療機関により異なります。健康診断や人間ドックの場合は保険適用外となり、全額自己負担となります。
CT検査の限界
CT検査は肺がんの診断に非常に有用な検査ですが、CT検査だけで確定診断にはいたりません。
肺がんの確定診断を行うためには、気管支鏡検査や経皮肺針生検などで採取した細胞や組織の状態を顕微鏡で確認する必要があります。CT検査で異常が見つかった場合でも、結果的に肺がんではないこともあります。肺がんと非常に紛らわしい影もあるため、組織診断が重要です。
また、CT検査による肺がんの検出感度は93~94%と高いですが、100%ではありません。小さながんや特殊な形態のがんは見逃される可能性もあります。
MRI検査の仕組みと特徴
MRI検査は「磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)」の略称で、エックス線やCTとは全く異なる仕組みで体内を観察します。
MRI検査は磁場と電磁波を利用して体内の水素原子の動きを画像化する検査です。エックス線を使用しないため、放射線被ばくの心配はありません。
横だけでなく縦や斜めなど、自由な方向から断面画像を撮影できる特徴があります。また、磁気は骨を透過するため、骨に囲まれた部位でも明瞭な画像を得ることができます。
肺がんにおけるMRI検査の役割
肺がんの診断において、MRI検査はCT検査ほど頻繁には使用されません。これは、肺そのものの観察にMRIが適していないためです。
肺の中には水素原子よりも酸素や窒素の方が多く存在します。MRIは水素原子の信号を利用して画像を作るため、肺野(空気の部分)の信号強度が低く、結節性病変や炎症性病変の検出能力に限界があります。また、肺は呼吸によって動く臓器であるため、心拍によるアーチファクト(ノイズ)が大きく、石灰化の存在診断も困難です。
このため、肺がんの病変そのものを観察する場合は、CT検査の方が優れています。
MRI検査が役立つ場面
しかし、MRI検査は肺がんの診断において重要な役割を果たします。主な用途は転移の検出です。
脳転移の検出
MRI検査が最も有用なのは脳転移の検査です。脳は動きが少なく、水分が十分にあるため、MRIで明瞭な画像が得られます。
肺がんは脳に転移しやすいがんのひとつです。脳転移があると、頭痛、吐き気、手足のまひ、めまい、けいれんなどの症状が現れることがあります。これらの症状から脳転移が発見されることもありますが、症状が出る前に発見することが重要です。
肺がんや乳がんと診断された場合は、症状がなくても造影MRI検査を行うことが常識になってきています。PET検査では脳転移の診断には使用できないため(脳は正常でもブドウ糖を多く使うため)、脳の評価にはMRIが必須です。
骨転移の検出
MRIは骨への転移の有無を確認するのにも使用されます。磁気は骨を透過するという特性を利用して、骨の内部の異常を検出できます。
肺がんの骨転移は、肋骨、胸椎、腰椎などに好発します。骨転移が起こると、転移した部位に強い痛みを感じたり、骨折したりすることがあります。
縦隔リンパ節転移の評価
縦隔のリンパ節転移の検査にもMRIが使用されることがあります。リンパ節は比較的動きが少なく、水分が十分にあるため、MRIで観察可能です。
ただし、縦隔リンパ節は造影CT検査で十分な情報を得られるため、MRIの使用は限定的です。
MRI検査とCT検査の比較
| 項目 | CT検査 | MRI検査 |
|---|---|---|
| 撮影方法 | エックス線 | 磁場と電磁波 |
| 放射線被ばく | あり(低線量CTで約1mSv) | なし |
| 検査時間 | 5~30分程度 | 30~60分程度 |
| 肺病変の検出 | 優れている | 限界がある |
| 脳転移の検出 | 可能だが精度は劣る | 優れている |
| 骨転移の検出 | 骨の変化を確認 | 骨内部の異常を検出 |
| 空間分解能 | 優れている(細かく見える) | CTより劣る |
| 濃度分解能 | MRIより劣る | 優れている(コントラストがよい) |
| 体内金属への制限 | ほとんどない | 制限がある |
MRI検査の注意点と制限
MRI検査には以下のような注意点があります。
検査時間
MRI検査はCT検査に比べて検査時間が長く、30分から60分程度かかります。検査中は大きな音が発生するため、耳栓やヘッドホンを使用します。
金属の制限
強い磁場を利用しているため、装飾品、メガネ、時計などの金属の持ち込みは禁止されています。
また、体内に金属が入っている場合は検査を行えない場合があります。
・心臓ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)を使用している方
・脳動脈瘤のクリッピング手術を受けた方
・人工関節や骨の固定に金属を使用している方
・金属ステントの留置を受けた方
これらの場合、医師に相談が必要です。近年のペースメーカーや人工関節にはMRI対応のものもありますので、手帳などで確認してください。
インスリンポンプや持続グルコース測定器
これらの医療機器は検査前に取り外す必要があります。装着されている方は事前に医師に申し出てください。
肺がんの病期診断における検査の組み合わせ
肺がんの治療方針を決めるためには、組織型に加えて病期(ステージ)の情報が必要です。病期とは、がんの進み具合のことで、肺や胸だけでなく、全身の臓器を調べて判断します。
病期診断には、CT検査、MRI検査、PET検査、骨シンチグラフィなどを用います。
標準的な検査の流れ
1. 胸部CT検査(造影CT)で肺の病変とリンパ節転移を評価
2. 脳MRI検査で脳転移の有無を確認
3. 腹部CT検査で肝臓や副腎への転移を確認
4. PET-CT検査またはPET検査で全身の転移を評価
5. 骨シンチグラフィで骨転移を評価(PET-CTができない場合)
これらの検査を組み合わせることで、がんの広がりを正確に把握し、適切な治療方針を決定します。
放射線被ばくについて
CT検査やPET検査など、放射線を使う検査では被ばくの問題が気になる方もいるでしょう。
放射線被ばくによる健康リスクとしては、100mSv(ミリシーベルト)の積算量を超えると、以降100mSv当たり癌死亡率が0.5%上昇することが確認されています。しかし、必ずしもがんになるわけではありません。
現代のCT装置では、1回あたりの被ばく線量は5mSv以下に抑えられており、低線量CTではさらに1mSv以下となっています。検査の際には、被ばくの線量をできるだけ少なくする工夫もされています。
これらの検査は、適切な医療を行ううえで必要な検査です。被ばくを恐れるあまり検査を受けずにいると、適切な医療を受けられない場合があります。検査時の被ばくに不安がある場合には、担当医に相談しましょう。
定期検査の重要性
肺がんの治療後は、再発や転移を早めに見つけるために定期的な検査が重要です。
肺がんで再発や転移が起こりやすいのは、初回治療終了後3年以内とされています。5年を過ぎれば再発や転移はかなり少なくなるといわれていますが、5年間は再発・転移の有無をチェックするために定期的な受診が必要です。
通常、はじめは1~3か月ごとに、病状が安定してきたら6か月~1年ごとに定期的に検査を行います。検査の間隔や内容は患者さんの状態によって異なりますので、主治医に確認しておくとよいでしょう。
まとめ
肺がんの診断において、CT検査とMRI検査はそれぞれ異なる役割を持っています。
CT検査は肺の病変そのものの観察に優れており、がんの大きさ、位置、リンパ節転移、周囲への広がりを評価する主要な検査です。2025年度版のガイドラインでは、重喫煙者に対して低線量CT検査が新たに推奨されました。
一方、MRI検査は肺の病変よりも転移の検出に有用です。特に脳転移の検査には欠かせない検査であり、骨転移の評価にも使用されます。
これらの検査を適切に組み合わせることで、肺がんの正確な診断と病期判定が可能となり、最適な治療方針を決定できます。
検査について不明な点や不安がある場合は、遠慮なく担当医や看護師に質問しましょう。検査の目的や方法を理解することで、より安心して検査を受けることができます。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2025年度版公開
中外製薬「肺がんの病期診断 CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ、PET検査」
肺がんとともに生きる「MRI、骨シンチグラフィ、PET検査」

