肝動注療法で使われる抗がん剤は一般に、2種類以上を併用します。肝細胞がんでは、長時間使用することで効果をあげる薬と、濃度が高いほど治療効果が高くなる(しかし副作用も強くなる)薬を組み合わせます。
前者には、代謝拮抗剤であるフルオロウラシル、後者には、抗がん性抗生物質のマイトマイシンやドキソルビシン(別名アドリアマイシン)、エピルビシン、プラチナ製剤のシスプラチンなどがあります。
肝細胞がんに対してはいまのところ、治療効果が高いことが科学的に立証されている薬の組み合わせは見つかっていません。とはいえ、治療を受けた患者の数はまだ少ないものの、ある種の薬の組み合わせは治療効果が高いとする報告もあります。
ただし、ある人に対して効果の高い薬の組み合わせでも、別の人にはほとんど効果がないこともあります。これは、がん細胞の性質がそれぞれ異なるからです。また、1つの腫瘍にさまざまな性質のがん細胞が混じっていることも少なくありません。
以下は、肝細胞がんに対してよく用いられる薬の組み合わせです。
①低用量FP(FC)療法
代謝拮抗剤のフルオロウラシル(F)とプラチナ製剤のシスプラチン(P)を組み合わせます。低用量というように、少ない量の抗がん剤を時間をかけて体内に注入します。
一般に抗ガン剤は3~4週間に1回の割合で投与しますが、低用量FP療法では、ほぼ毎日抗がん剤を注入し、ときどき薬の投与を休む期間を設けます。
半数以上の患者に高い治療効果がある(奏功率50~60パーセント)という報告もあり、この組み合わせを治療の最初の選択肢としている病院も少なくありません。ただし、シスプラチンは脾臓に対する毒性が強いため、腎臓に障害をもつ患者には、別の組み合わせを選択します。
②FEM療法/FAM療法
FEM療法は、代謝拮抗剤のフルオロウラシル(F)と抗がん性抗生物質のエピルビシン(E)、およびマイトマイシン(M)を使用する方法です。比較的よく用いられる組み合わせの1つです。
エピルビシンの代わりに、やはり抗がん性抗生物質のドキソルビシン(アドリアマイシン:A)を用いる例(FAM療法)もあります。また、フルオロウラシルとエピルビシンのみ、マイトマイシンとエピルビシンのみの場合もあります。
エピルビシンやドキソルビシンはアンスラサイクリン(アントラサイクリン)系と呼ばれる抗がん性抗生物質ですが、これらはまれに、心臓に障害を与えるおそれがあります。そのため、心臓疾患をもつ人に対しては、慎重に使用されます。
③エピルビシン+リピオドール療法(リピオドール動注療法)
リピオドリゼーションともいいます。これは、抗がん剤を油性の造影剤であるリピオドールと混ぜて注入する手法です。抗がん性抗生物質のエピルビシンがしばしば用いられますが、ドキソルビシンやシスプラチンを使用することもあります。
リピオドールは腫瘍に長く停滞する性質があるため、抗がん剤も腫瘍にとどまって、効果的にがん細胞を殺すことができます。またときには、リピオドールが腫瘍に栄養を与える血管を詰まらせて、肝動脈塞栓療法と同じ効果をもたらすこともあります。
④ジノスタチンスチマラマー+リピオドール療法
ジノスタチンスチマラマー(商品名スマンクス)は、日本で開発された油性の抗がん剤です。リピオドールと混ぜて肝動脈に注入します。ジノスタチンスチマラマーはリピオドール同様、腫傷にとどまりやすい性質をもつため、効果的にがん細胞を殺すことができると考えられています。
⑤マイトマイシン+DSM療法
デンプンの微小な粉末DSM(商品名スフェレックス)に抗がん性抗生物質のマイトマイシンを混ぜ、肝動脈に注入する方法です。
DSMは、動脈内に入ると一時的に血管をふさぎます。そのため、腫揚が抗がん剤をとり込む効果を高め、その他の場所に抗がん剤が流れ出すことを防ぎます。DSMは血液中では1時間ほどで分解するので、肝臓の血流が不足するおそれはほとんどありません。
⑥インターフェロン併用療法
最近注目されている治療法の1つです。通常の抗がん剤を動注し、その後に加えてインターフェロンを全身投与します。この治療を行う施設はまだ限られていますが、患者の半数に治療効果があると報告されています。
インターフェロンはもともと生物の体内に存在し、免疫のはたらきを担う物質の1つです。ウイルス感染症に対する薬(抗ウイルス剤)として開発されましたが、後に一部のがんに対しても治療効果をもつことがわかりました。
インターフェロンには、アルファ型、ベータ型、ガンマ型の3種類があります。現在、肝細胞がんの治療で使用されているのはアルファ型です。これは、肝細胞がんの原因となるB型肝炎やC型肝炎の治療でも用います。
インターフェロンと組み合わせる抗がん剤としては、いまのところフルオロウラシルがもっとも治療効果が高いようです。
以上、肝臓がんの動注療法についての解説でした。