子宮頸がんにおける抗がん剤治療の基本的な位置づけ
子宮頸がんの治療の中心となっているのは、手術と放射線治療です。これらは、がんのある部分を直接的に狙って治療する「局所療法」と呼ばれています。一方で、抗がん剤を使用する化学療法は、薬剤が血液を通じて全身に行き渡るため、「全身療法」として重要な役割を担っています。
2022年に、免疫チェックポイント阻害薬であるリブタヨとキイトルーダが承認され、子宮頸がんの薬物療法が数十年ぶりに大きく変わりました。これにより、従来の抗がん剤治療に加えて、新しい治療選択肢が増えています。
抗がん剤は、活発に分裂を繰り返すがん細胞の分裂・増殖を阻害する働きを持っています。この特徴を利用して、化学療法は以下のような目的で実施されます:
- 手術前にがんを縮小させる目的(術前化学療法)
- 手術後の再発予防目的(術後補助化学療法)
- 放射線療法との同時併用(同時化学放射線療法)
- 再発・転移したケースでの治療
子宮頸がんの抗がん剤治療が行われるケースと最新の治療選択肢
子宮頸がんで化学療法が実施される具体的なケースは以下の通りです:
1. 術前化学療法
がんを小さくしてから手術を行うことで、より効果的な治療が期待できる場合に実施されます。ただし、最近では行われることは少なくなっています。
2. 術後補助化学療法
手術の結果、リンパ節への転移があったり、浸潤が深かったりして再発リスクが高いと判断された場合、再発予防を目的として実施されます。
3. 同時化学放射線療法
治療の第一選択肢として、同時化学放射線療法が行われます。化学療法と放射線治療を組み合わせることで、放射線治療の効果をさらに高めること、また全身に広がる目には見えない小さながん細胞を根絶することが期待されます。
4. 再発・転移がんの治療
再発や転移が発見された場合、症状の緩和や病状の制御を目的として化学療法が実施されます。
最新の治療薬情報
2025年5月21日、抗悪性腫瘍薬チソツマブベドチン(遺伝子組換え)(商品名テブダック点滴静注用40mg)が薬価収載と同時に発売された。これは子宮頸がん初の抗体薬物複合体として、二次治療に新たな選択肢をもたらしています。
抗がん剤の種類と特徴:プラチナ製剤を中心とした治療
子宮頸がんの化学療法では、プラチナ製剤と呼ばれる抗がん剤を中心にした治療が一般的です。これらの薬剤は、がん細胞のDNAに結合して、DNAの複製を阻害し、がん細胞の分裂・増殖を防ぐ働きを持っています。
主要なプラチナ製剤
薬剤名 | 特徴 | 主な副作用 |
---|---|---|
シスプラチン | 最も強力な抗がん効果を持つ | 吐き気・嘔吐、腎機能障害、神経障害 |
カルボプラチン | シスプラチンより副作用が軽い | 血小板減少、貧血 |
シスプラチンはDNAなどの生体成分と結合して抗がん効果を発揮する抗がん剤です。白金原子を持っていることから、抗がん剤の中では「白金製剤」に分類されています。
多剤併用療法による副作用軽減
現在の子宮頸がん治療では、「多剤併用療法」という方法が一般的に採用されています。これは、作用の異なる複数の抗がん剤を組み合わせて使用する方法で、以下のメリットがあります:
- 副作用の軽減
- 薬剤の効果の向上
- 薬剤耐性の防止
投与は主に点滴で行われ、外来での治療が可能です。副作用による体への負担を考慮して、一定の期間をおいて治療を繰り返します。初回の投与時のみ入院して経過観察を行う場合もあります。
抗がん剤治療による主な副作用とその詳細な対処法
抗がん剤は、がん細胞を攻撃すると同時に正常な細胞にもダメージを与えるため、様々な副作用が起こります。子宮頸がんの治療に用いられる細胞障害性抗がん薬の主な副作用には、吐き気や嘔吐、脱毛、白血球減少、末梢神経障害(しびれ、感覚低下、痛み)などがあります。
1. 消化器系の副作用
吐き気・嘔吐
抗がん剤によって脳内の神経が刺激されることで起こります。治療開始当日から症状が現れ、通常2~3日間続きます。
対処法:
- 抗がん剤投与前の制吐剤の予防投与
- 消化の良い食事を少量ずつ摂取
- 体を締め付けない服装の選択
- リラックスできる環境作り
- つらい時には処方される吐き気止めの服用
食欲不振
治療により味覚の変化や胃腸の機能低下が起こることで食欲が減退します。
下痢
腸の粘膜がダメージを受けることで、下痢や腹痛が起こります。
対処法:
- 消化の良い食品の摂取
- 刺激の少ない料理の選択
- 常温のスポーツドリンクや温かいスープでの水分補給
- 冷たい飲み物を避ける
- 処方される整腸剤や下痢止めの服用
2. 血液系の副作用(骨髄抑制)
造血機能を持つ骨髄の働きが低下することで、白血球、赤血球、血小板が減少します。
白血球減少
免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなります。
対処法:
- 人込みをできるだけ避ける
- 手洗い・うがいの徹底
- 38℃以上の発熱時は即座に受診
- 白血球を増やす薬剤の使用(必要に応じて)
赤血球減少(貧血)
酸素運搬能力が低下し、疲労感や息切れが起こります。
対処法:
- 鉄剤の処方
- 重度の場合は輸血の実施
- 無理な運動を避ける
血小板減少
血が止まりにくくなり、あざができやすくなります。
対処法:
- 小さなケガにも注意を払う
- 歯磨きは優しく行う
- 鼻を強くかまない
- 重度の場合は血小板の輸血
3. その他の重要な副作用
脱毛
治療開始後2~3週間で髪の毛が抜け始めます。体毛や眉毛も抜けることがあります。
対処法:
- ウィッグ(かつら)や帽子の使用
- 刺激の少ないシャンプーの選択
- 治療終了後3~6ヶ月で再び生えてくることを理解する
末梢神経障害
手足のしびれ、痛み、感覚低下が起こります。特にプラチナ製剤使用時に多く見られます。
4. シスプラチン特有の副作用
シスプラチンは、高い腫瘍収縮効果を持つものの、激しい副作用があるのが特徴です。もっとも深刻なものは腎不全などの腎臓機能の障害で、投与上の大きな問題とされています。
腎機能障害
シスプラチンの最も重要な副作用で、適切な管理が必要です。
対処法:
- 大量輸液による腎保護(1〜2リットル)
- 利尿薬の使用
- 定期的な腎機能検査
- 十分な水分摂取
聴器障害
難聴や耳鳴りが起こることがあります。
副作用の予防と管理:最新のサポーティブケア
現在では、副作用を予防・軽減するための「サポーティブケア」が大幅に進歩しています。
制吐療法の進歩
セロトニン5-HT3受容体拮抗薬、ステロイド、NK1受容体拮抗薬の3剤併用により、吐き気・嘔吐の管理が大幅に改善されています。
感染予防対策
G-CSF製剤(顆粒球コロニー刺激因子)により、白血球減少期間の短縮が可能になっています。
腎保護対策
シスプラチンによる腎臓へのダメージを減らすため、シスプラチンの点滴前後には1リットルから2リットルの輸液を点滴し、尿量を増やすようにします。
最新の免疫療法と分子標的治療の進展
最近では、化学療法と免疫療法、分子標的薬など、異なる作用の薬を組み合わせる併用療法が行われることもあります。
免疫チェックポイント阻害薬
2022年に承認されたペムブロリズマブ(キイトルーダ)とセミプリマブ(リブタヨ)は、免疫システムを活用してがんを攻撃する新しい治療選択肢です。
特徴:
- 従来の化学療法とは異なる作用機序
- 比較的軽い副作用プロファイル
- 長期間の効果持続の可能性
分子標的薬
ベバシズマブ(アバスチン)などの血管新生阻害薬が、特定の条件下で使用されています。
治療中の生活の質(QOL)向上のポイント
栄養管理
副作用により食事摂取が困難になることがありますが、以下の工夫が効果的です:
- 少量頻回の食事
- 栄養価の高い食品の選択
- 管理栄養士との相談
- 必要に応じた栄養補助食品の使用
感染予防の実践
免疫機能が低下している期間は、特に注意が必要です:
- マスクの着用
- 手洗い・うがいの徹底
- 人込みを避ける
- 生ものの摂取を控える
心理的サポート
緩和ケアチームは緩和ケア医やサイコオンコロジスト(精神腫瘍医)、心理士のほか、抗がん剤治療に精通した薬剤師や看護師、あるいは管理栄養士、理学療法士、医療ソーシャルワーカーなどの多職種で構成されています。
今後の治療展望と2025年の最新動向
二次治療以降に使われる新薬が現在承認申請中です。もし承認されれば、2025年にはこのように変わっていると思います。新しい治療選択肢の開発が進んでおり、患者さんの予後改善が期待されています。
注目される治療薬
- 抗体薬物複合体(ADC)の更なる開発
- HER2陽性がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)
- 新しい免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせ
治療を受ける際の重要なポイント
抗がん剤治療を受ける際には、以下の点を心がけることが大切です:
- 副作用について事前に十分理解する
- 症状が現れた時は迷わず医療チームに相談する
- 定期的な検査を欠かさず受ける
- 自己判断で治療を中断しない
- 家族や周囲のサポートを積極的に受ける
副作用の現れ方には個人差がありますので、つらい場合は我慢せず、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。
まとめ
子宮頸がんの抗がん剤治療は、近年大きな進歩を遂げています。従来のプラチナ製剤を中心とした化学療法に加えて、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などの新しい治療選択肢が利用可能となっています。
治療を受ける際は、自分の状態や治療内容について十分に理解し、疑問や不安があれば積極的に医療チームに相談することが重要です。