がんを切除する手術は、早期の子宮頸がんの治療の中心となっている治療法です。手術することで、がんの広がりや組織をしっかり確認できるというメリットがあります。ただ、広い範囲を切除する手術では、長期の入院が必要になったり、排尿障害などの後遺症が起こるなど、デメリットもあります。
子宮頸がんの治療でおもに行われている手術方法には、「円錐切除術」「単純子宮全摘出術」「準広汎子宮全摘出術」「広汎子宮全摘出術」の4つがあり、円錐切除術は子宮頸部の一部を切除、広汎子宮全摘出術は子宮や子宮の支持組織と膣の上部まで広く切除と、切除する範囲がそれぞれ違います。
再発リスクがないように、子宮頸がんの浸潤しやすい部分を広く切除するのが医療における基本的な約束事です。しかし当然、体に与えるダメージは大きくなります。手術を受ける際には、方法による効果の違いや、考えられる後遺症のことなどをよく確認することが大切です。
妊娠の可能性を残す円錐切除術
子宮頸がんの4つの手術法で、子宮を残せる手術は円錐切除術だけです。ⅠA1期の場合、将来妊娠を望んでいるのであれば、まず、円錐切除術を行い、がんがとりきれて、リンパ管や血管に入り込む形態の広がりがなければ、子宮を残すことが可能です。
また、子宮頸がんが出産適齢期の若い年代に増えていることなどから、近年では、ⅠA2期~ⅠB1期に「広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)」という子宮を温存する手術も試験的に行われるようになってきました。
手術の種類と切除範囲
・円錐切除術
子宮頸部にあるがんの組織を円錐状に切除します。診断を確定するために検査として多く行われている方法ですが、この手術でがんがすべて切除できれば、追加の治療は必要なく、経過観察となります。
・単純子宮全摘出術
子宮をすべてとる手術です。子宮筋腫など良性の病気でも行う手術なので、まわりの組織を傷つけることも少なく、後遺症も比較的少なくてすみます。腹式と膣式の術式があります。
・準広汎子宮全摘出術
単純子宮全摘出術と広汎子宮全摘出術との中間の手術法です。単純子宮全摘出術より、膣壁を少し長めに、子宮のまわりの組織も少し広めに切除します。広汎子宮全摘出術より排尿障害が起こりにくいのが特徴です。リンパ節郭清を同時に行うこともあります。
・広汎子宮全摘出術
子宮だけでなく、膣壁の上部と子宮を支える基靭帯など、周囲の組織も広く切除します。通常、骨盤内のリンパ節郭清も行います。広く切除するので、膀胱や直腸につながる神経を切断することもあり、排尿障害や排便障害が後遺症としてあらわれます。卵巣は残せることもあります。
手術には膣式と腹式、そして腹腔鏡を使った手術があります
子宮頸がんの手術の方式には、膣式と、腹式があります。円錐切除術は膣から行う膣式、準広汎子宮全摘出術、広汎子宮全摘出術は開腹して行う腹式が一般的です。
単純子宮全摘出術は、膣式でも腹式でも行われていて、膣式の手術では、おなかに傷もできず、体に与える負担も小さくなります。入院期間も少なくすんで社会復帰までが短い、腸閉塞などの合併症も起こしにくいといった長所があります。
ただ、膣式は腹腔内を見ることができないため、腹腔内に癒着がある場合には行えない、子宮を膣からとり出すために、出産経験がなくて膣の伸びが悪い場合には行えないなど、手術を受けるためには、制限があります。それにくらべ、腹式の手術は広く行われていて確実性の高い方法だといえます。
腹腔鏡を使った子宮頸がんの手術
近年、腹腔鏡下でリンパ節郭清と、子宮と子宮の支持組織の切除を行い、子宮は膣からとり出すという、腹腔鏡下広汎子宮全摘出術という手術方法もあります。
腹腔鏡下手術は、おなかに何カ所か小さな穴をあけ、そこから腹腔鏡などの器具を挿入して、モニターを見ながら行う方法です。開腹手術にくらべ、傷や痛みが小さく、体にかかる負担も小さくてすみます。
ただ、設備や高い技術が必要で、手術も長時間になります。健康保険の適用にもなっておらず、限られた施設でしか行われていません。まだ十分なデータもそろっていません。
ロボットによる手術「ダ・ヴィンチ手術」
腹腔鏡下手術に手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を使う手術が行われることがあります。
ダ・ヴィンチ手術では、腹腔鏡下手術と同様に腹部に小さい穴をあけ、そこから腹腔鏡や、手術を行うアームを入れます。医師が3Dのモニターを見ながら遠隔操作の装置を動かすと、それに反応してロボットが忠実に動いて手術を行うのです。
傷口も小さく、出血も少ないため、体にかかる負担が小さくてすみます。術後の痛みも少なく、一般の腹腔鏡下手術とくらべても回復が早いのが特徴で、入院期間も短くなります。ただし子宮頸がんに対して行っている施設は少なく、健康保険適用外で費用も高額です。
手術の費用(3割負担の場合)
円錐切除術:4万~5万円
単純子宮全摘出術 腹式・膣式:25万~30万円
準広汎子宮全摘出術:50万~60万円
広汎子宮全摘出術:50万~60万円
※入院日数や、基礎疾患(持病)の有無などで違ってきます。
転移を予防するためのリンパ節郭清(かくせい)
がん細胞は周囲の組織に浸潤して広がっていくほか、血管やリンパ管を通って広がり、体のほかの部分に腫瘍をつくることもあります。
リンパ節は、リンパ管の途中にある球状の部分で、中には免疫に関連する細胞が集まっており、細菌やウイルス、がん細胞などがここを通ると攻撃し、排除します。がん細胞がリンパ管を通って、体内を流れないようにチェックする関所のような役目をしているのです。
しかし、がん細胞を排除し切れず、そこでがん細胞が増えてしまうことがあります。リンパ節への転移です。そうなると、がん細胞は次々とリンパ節に転移していき、リンパ管を通って体のあちこちに広がっていってしまいます。
通常、リンパ節転移が疑われるⅠA2期以降は、再発予防と術後の治療方針を決めるために、骨盤内のリンパ節を切除するリンパ節郭清を行い、そのリンパ節を調べることになっています。
手術後の治療方針を検討する材料にも
子宮頸がんが転移しやすいリンパ節(子宮頸部の所属リンパ節)には、総腸骨リンパ節、外腸骨リンパ節、内腸骨リンパ節、閉鎖リンパ節、仙骨リンパ節、基靭帯リンパ節があり、リンパ節郭清ではそれらをすべて切除するのが標準治療です。場合によっては、その上にある腹部大動脈周囲リンパ節(傍大動脈リンパ節)まで、切除するケースもあります。
切除したリンパ節は、転移があるかどうかひとつずつ調べます。そのうちの何個に転移があったのかは、がんの広がりを知る手がかりになり、術後の治療を検討する重要な情報になります。
転移の予防として標準治療では重視されているリンパ節郭清ですが、後遺症として、下半身のむくみやリンパ浮腫が起こる可能性があります。
手術で起こるおもな後遺症
・骨盤内の神経が傷つく:排尿障害、排便障害
・リンパ節郭清:リンパ浮腫
・卵巣切除:更年期障害のような症状
以上、子宮頸がんの手術についての解説でした。