食道がんの浸潤
がん細胞は、食道の内側の表面にある粘膜に発生します。はじめのうちは粘膜の表面にとどまっていますが、やがて食道の壁の深いところまで食い込み、組織を破壊しながら大きくなっていきます。これを「浸潤(しんじゅん)」といいます。
がん細胞は、粘膜内(粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板)から、粘膜下層、固有筋層(食道には内輪層と外縦層の二層の筋層があります)、食道外膜、さらには食道の壁を越えて、周囲の臓器へと増殖を続けていくことがあります。
粘膜内にがん細胞がとどまっている食道がんを「早期食道がん」と呼び、粘膜下層までにとどまるものを「表在食道がん」と呼びます。そして、筋層にまで食い込んだ食道がんは「進行食道がん」といわれます。
食道がんの転移
食道は臓器の厚みが薄く、胃や大腸のように奬膜という強い膜がないので、がんが食道の壁の外の組織や近くの臓器に広がりやすいという特徴があります。しかも、食道の壁の中や周囲にはリンパ網が豊富に張り巡らされているために、リンパ節や遠くの臓器へ「飛び火」していきやすいといえます。
一般的に、はじめにがんが発生した場所を「原発巣」と呼びます。食道がんでは、食道が原発巣となります。原発巣のがんはその場所で次第に大きくなっていきますが、やがて、がんがリンパ管や血管を通って「飛び火」」を起こして、遠くのリンパ節や臓器に定着します。
このことを、「転移」といいます。転移してがんとなった場所を、原発巣に対して「転移巣」と呼びます。
例えば、原発巣が食道(食道がん)で、肺に転移した場合、肺で大きくなったがんを「食道がんの肺転移(巣)」と呼びます。これは、肺を原発とする「原発性肺がん」とは異なる性格を持ちます。
この場合、肺にあるけれども食道のがんなので、肺がんに用いる薬ではなく、食道がんの治療に用いる薬を選択して治療します。転移の仕方には、リンパ行性転移、血行性転移、播種性転移の3種類があります。
食道がんのリンパ行性転移
食道がんの進行とともに、がん細胞は、食道の壁の中にあるリンパ管に入り込んでいきます。さらに、リンパ管を通って食道周囲のリンパ節に流れ込んでいきます。
リンパ節は、からだに入り込んできた病原体や異物を、免疫力によって排除する働きを持っていますが、リンパ節に到達したがん細胞がこの攻撃に打ち勝つと、リンパ節の中で増殖を始めます。これを「リンパ節転移」といいます。
食道は縦に長い臓器で、頸部・胸部・腹部に及びます。原発巣付近のリンパ節に流れ込んだがん細胞は、リンパ管の流れによって頸部・胸部・腹部のリンパ節へ流れ込み、そこに定着して増殖しようとします。
このように、がん細胞がリンパの流れを利用して、次々とリンパ節に転移していくことを「リンパ行性転移」といいます。食道の壁や食道の周囲にはリンパ管が豊富に存在するため、食道がんは、胃がんや大腸がんなどと比較すると、早い段階からリンパ行性転移を起こしやすいという特徴を持っています。
食道がんの血行性転移
がん細胞が、食道の壁にある細い血管に入り込み、血液の流れを利用して、ほかの部位(臓器)に到達し、そこで大きくなることを「血行性転移」といいます。食道がんの血行性転移としては、肺、肝臓、骨、脳などへの転移が起こります。
食道がんの播種性転移
「播種」という言葉は、あまり一般的ではありませんが、文字通り田畑などに"種を播く"ことを意味しています。食道の外膜を食い破ったがんは、そこから種まきをしたように散らばり始めます。
胸部食道がんが、胸腔内(胸の中の空間)に散らばったものを「胸膜播種」、腹腔内(おなかの空間)に散らばったものを「腹膜播種」といいます。こうして転移を起こすことを「播種性転移」と呼びます。がん細胞が、小さなかたまり(結節)や、しこり(腫瘤)をつくり、多量のたんぱくを含む胸水や腹水が出現します。
以上、食道がんに関する解説でした。