がんの手術でがん組織を完全に取りきれたかどうかは、手術のあと(予後)に大きな影響を及ぼします。がんが一部残っていれば、時間の経過とともに大きく発育して再発する可能性がとても高いからです。
手術の評価として、日本ではがんを完全に取りきれたと判断される場合は根治度A、多少疑いがある場合は根治度B、取りきれず明らかに残したと判断される場合は根治度Cと表現するようルールがあります。あまり一般的なルールではないですが、手術後には必ず医師に確認するようにしましょう。
根治度Aの場合は「目に見えるがんは取りきれた」といえますが、あくまでも手術中の、しかも肉眼的判断であり、顕微鏡的には取り残しや血管内などに入っているがんもあるため、それで「がんが治った」といえるとは限りません。
また、がんが進みすぎて大きく、切除することができない場合もあります。そのときは根治目的でがんを切除することを考えず、がんによって起きた症状を改善する目的の手術(対処的な手術。姑息手術といいます)を行います。
たとえば腸閉塞を起こした場合のバイパス手術や、人工肛門の手術などがそれにあたります。
結腸がんの手術
早期で腫瘍が小さければ、内視鏡を使って腫瘍を切除するポリペクトミーや粘膜切除(EMR)で対応ができます。ダメージの大きい開腹手術よりも内視鏡を使うことが一般的です。しかしポリープの茎が太かったり、扁平なものなら直径が2センチを超えると内視鏡での治療が難しくなります。また腸が屈曲したところでは、操作が困難になります。
最近では、腹壁に3~4ヵ所に孔を開けて、そこから腹腔鏡などの械器を挿入し、モニター画像を見ながら切除する腹腔鏡下手術が行われるようになりました。これだと腹部の傷は小さくてすみます。外科的手術より少し時間がかかりますが、痛みも少なくて回復も早く、術後4~5日で退院できます。ただし術野が狭いので周辺のリンパ節郭清が必要な進行がんには向きません。
内視鏡治療が困難な場合は回復手術が必要です。どのがんでも同じですが、目に見えている腫瘍を切除するだけでなく、がんが周辺に広がっている可能性を考慮して取り残しのないようにある程度広い範囲の組織やリンパ節をも含めて切除するのが一般的です。
直腸と異なって結腸は大きく切除した場合、一時的に下痢や軟便などが起こりますが、半年あまりで回復し、あまり後遺症はないのが特徴です。
がんが比較的早期なら、がんをふくめて腸を10センチぐらい切除することになります。進行がんでは周辺のリンパ節を切除する必要があり、ある程度広範囲の結腸を切除します。手術が決まったら、どの範囲の切除をするのかを必ず確認しましょう。
がんが進行すると、周囲の臓器にも進んだり、がん性腹膜炎といって腹腔内に広がって、手術では取りきれずに残ることになります。この場合、抗がん剤などの薬剤を用いた化学療法や放射線治療の追加が行われますがそれも限界があり、有効とされる治療法がないのが現状です。
結腸がんは肝臓に転移していることが少なくありませんが、ほかの部位に別の転移がなければ、大腸のがんと同時に肝臓の転移巣を切除します。転移があっても切除するのは、大腸がんは進行が遅く、化学療法が効きにくいという特徴のためです。
直腸がんの手術
結腸がんと同じく手術が第一の治療法です。直腸は手術方法によって、術後の生活の質(生命の質、QOL)にかなり影響を与えるので、様々な工夫が行われます。
1990年台までは直腸がんといえば直腸、肛門を切除し(直腸切断)、S状結腸を左下腹部に誘導して外に出し、人工肛門を作るのが標準手術でした(腹会陰式直腸切断術)。
しかし、この数年、がんの切除だけでなく術後の生活の質を考慮して、できるだけ肛門の機能を温存するように配慮がされるようになりました。しかし、「目に見えるがんは切除」するとう考えは変わっていないため、大きな負担がかかる手術が行われることがあります。直腸がんに関する手術について具体的には以下のような方法があります。
・早期直腸がんを対象とした局所的切除。
・肛門(排便)機能の温存を目ざした肛門括約筋温存術。
・排尿、性機能の温存を目ざした機能(自律神経)温存術。
・従来の直腸切断術の切除郭清をいっそう拡大した拡大直腸切断術。
・隣接臓器(膀胱、前立腺、子宮、膣、仙骨など)に広がったものに対する骨盤臓器全摘術(骨盤内臓全摘術)、仙骨合併切除。
などです。
・早期直腸がんの局所的切除
ごく早期(深達度が粘膜内)のがんなら、その部分だけの切除が行われます。がんの位置が肛門から12~15センチまでは開腹手術は不要で、腰椎麻酔をしたあと肛門から、または尾骨・仙骨の側方に切開を入れ、局所部分の切除が行われます。この方法は手術の傷害も少なく、排便機能にはほとんど影響ありません。
・肛門括約筋温存術
肛門の排便機能を残すためには、肛門を閉める機能を持つ「肛門括約筋」の温存が必要です。進行がんでは、がんが肛門から5センチぐらい離れたところまでにある場合は肛門を温存する手術が検討されます。
早期がんでは、肛門から3~4センチぐらいの部分にあるがんでも温存手術が検討されますが、がんがある程度広がっている場合は肛門から6~7センチ離れていても、肛門括約筋を温存すると局所再発の危険が高いので、この手術は行われません。
温存手術を行う場合、結腸を残った直腸・肛門と吻合しなければなりませんが、その方法によって肛門括約筋温存術は、前方切除(高位、低位)、経仙骨吻合法、肛門吻合法などの術式があります。残された直腸の長さによりどのような術式で実施するかが検討されます。
・機能(自律神経)温存術(排尿・性機能温存)
排尿・性機能は骨盤の交感神経、副交感神経、さらに陰部神経(体性神経系)がそれぞれからみあって支配を受けています。
直腸がんの手術時に下腹神経、骨盤神経、骨盤神経を確認して選択的に温存することによって、排尿・性機能の温存が可能です。神経を完全に残す場合と、がんが広がっているために一部しか残せない場合とがあります。
機能温存の面からいえば、神経の完全温存が望ましいのですが、そのことによって周辺が十分に取りきれず、がん細胞が残ることになれば、再発のリスクが高くなります。しかし、再発のリスクが高くてもこれらの機能が十分残っているほうが良い、という人も中にはいます。これはその個人の選択にゆだねられます。
満足な性機能の温存には、神経の完全温存が必要です。左右どちらか片側の骨盤および下腹神経を温存すると、勃起能力の温存はもちろんのこと、一部に射精機能も温存されることがわかっています。また、排尿機能は、神経の部分温存でもある程度は保たれます。
・直腸切断術(腹会陰合併切除術、マイルス術)
下部直腸進行がんに対して最近までほとんどの直腸がんに行われていました。ただ、直腸、肛門を切除し、S状結腸の断端を左腹壁に誘導して外に出し、永久的な人工肛門を作る術式なので、患者の生活には多大な影響を与えます。
今は、比較的早く発見されるようになって進行がんも減っているのでこの手術が対象になるのは1~2割です。
・ハルトマン手術
患者に既往症があったり、高齢者で全身状態が悪いなどの状況があったりする場合は手術の時間を短くし、負担(ストレス)を少なくすることが重視されます。そのため直腸を十分に残しながら、腸管を吻合しないで、残った直腸は縫合して先端を閉じたままとし、口側の結腸をそのまま腹壁へ誘導して人工肛門とします。この方法はしばしば行われます。
・骨盤内臓全摘術
がんが隣接臓器(膀胱、前立腺、子宮、膣、仙骨など)に進展したものに対して、これらの骨盤臓器を一括して切除し(骨盤内臓全摘術)、さらに骨まで進んでいれば、仙骨合併切除などが行われます。この場合、左腹に人工肛門だけでなく、右の腹に尿の出口を作るので、おなかに2つの孔が開くことになってしまいます。
このように手術といっても目的や手段は様々です。何のためにどんな手術をするのかを医師にしっかりと確認して、理解したうえで治療に臨むことが大切です。
以上、大腸がんの手術についての解説でした。