がんと痛みは我慢してはいけない重要な理由
がんの治療において、薬を使ってがんの痛みを止めることはとても大切な要素です。痛みをつらく感じない状態にすることにより、前向きな治療を行うことができたり、日常生活の質を回復させることができます。緩和ケアを受けたことで生存期間が延長し、生活の質が向上するという研究報告もあります。
積極的に痛みを取り除く治療を受けることが大切です。痛みの緩和には主に薬を使いますが、種類には飲み薬、貼り薬、坐薬、注射などいろいろあります。症状に合った薬を選ぶことができます。
2025年現在、がんの痛み治療は大きく進歩しており、適切な治療により多くの患者さんの痛みを和らげることが可能になっています。がんによる痛みは、80%以上の人の痛みが和らいだという報告もあります。我慢する必要は全くありません。
がんによる痛みとその種類
がんの痛みとは、がん自体が原因となった痛み、がんに関連した痛み(骨への転移など)、がん治療に関連して起こる痛み(放射線治療の副作用、抗がん剤の副作用による口内炎の痛みなど)、がんに併発した病気の痛み(変形性関節炎など)が原因となって起こることが考えられます。
これらの痛みの原因や強さなどについて正しい診断を受け、治療を受けることが大切です。痛みは患者さん本人しかわからないものなので、我慢せず医療者に伝えなければなりません。いつから、どこが、どのように、どんなときに痛むのか、痛みの性質はどのようなものなのか(ずきずき痛いのか、重苦しい痛みか、びりびり痛いのかなど)を医師・看護師・薬剤師に伝えるようにしましょう。
がんが進行すると、できた部位によっては脊髄圧迫や神経障害など、苦痛を伴うさまざまな症状が出てきます。苦痛の程度には個人差がありますが、そのほとんどは一時的なものではなく、長期にわたって続きます。
がんの痛みの発症頻度と特徴
がんの患者さんの半数以上は末期がんよりも前の進行がんの段階から痛みが出現します。その痛みの多くが一日中続く持続性の痛みで、日常生活に支障をきたします。これらの痛みを適切に管理することで、患者さんの生活の質を大幅に改善することができます。
がんはある程度進むと痛みが発生し、末期には約7割の患者さんが主なる症状として痛みを体験し、その約8割は激痛であると言われています。しかし、現在の医療技術により、これらの痛みは適切に管理できるようになっています。
がんと痛み治療に使用する薬と最新の治療法
がん性疼痛治療には消炎鎮痛薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン(カロナールなど)、オピオイドと呼ばれる医療用麻薬を使います。2025年現在では、従来の薬剤に加えて新しいタイプの鎮痛薬も開発されており、治療選択肢が大幅に拡大しています。
麻薬と聞くと、習慣性があるのでは?幻覚や幻聴が出るのでは?さらに痛みが増したときに使う薬がなくなってしまうのでは?命が縮むのでは?など、いろいろな不安がよぎるかもしれませんが、これらはすべて間違いです。
"医療用の"麻薬ではこのようなことは起こらず、効果的に痛みを取り除くためだけの薬です。抗がん剤や手術や放射線治療などが、がんを治療するのに必要な「薬」であるのと同様に、医療用の麻薬はがんの痛みを治療するのに必要な薬です。
医療用麻薬に対する誤解の解消
日本の医療用麻薬の消費量は先進諸国のなかでも最も少なく、使用目的や効果についてもあまり認知されていないのが現状です。これは多くの誤解に基づくものです。
医療用麻薬は100年以上前から痛み止めとして使用されていますが、長年の経験や研究から麻薬中毒を起こさずに痛み止めとして使用する方法が分かってきました。1986年に国連の世界保健機構(WHO)が医療用麻薬を用いてがんによる痛みを取り除く方法を発表していますが、この方法で麻薬中毒が増えたとの報告はありません。
医師の管理のもと正しく投与されている限り、オピオイド鎮痛薬は安全に使用できます。適切な使用により、患者さんの生活の質を大幅に改善することができます。
2025年最新の痛み治療目標と方法
治療の目標は、痛みがなく夜間よく眠ることができる、じっとしていても痛くない、歩いたりからだを動かしたりしても痛くないこと、です。それらの目標に近づけるように、定期的に時間を決めて使用する薬と、痛みを感じはじめたときに使用する薬を効果的に使用する必要があります。
薬の種類もさまざまで、1日1~2回服用するだけで長時間効果が持続する(12時間や24時間)飲み薬や、3日間有効な貼り薬、効果がすぐに現われる粉薬や水薬、坐薬、注射など、そのときの症状に合わせて薬を変えることもできます。
実際の医療用麻薬の導入法としては、痛みを感じるときだけ使い、1日の間にどのくらいの薬の量が必要かをみる方法と、はじめから12時間または24時間効くタイプの薬を使う場合があります。
最新の痛み治療選択肢
2025年現在では、従来のモルヒネやオキシコドンに加えて、タペンタドールやメサドンなどの新しいオピオイド薬が利用可能になっています。これらの新薬は従来の薬剤では効果が不十分だった神経障害性疼痛にも効果を示すことがあります。
いずれにしても痛みが取り除けるまでは、1日の使用回数を考慮して、定期的に使う薬の量が調節されるので、使用した時間や回数は記録するようにしましょう。ただし、副作用などで量を増やすことができない場合は、薬の種類を変えて、その方に合った薬を選択することができます。
注意点として、定期的に使用する医療用麻薬は、痛くないから飲むのを止めるなど、自分の判断のみで飲み方を変更しないことが大切です。
痛みを我慢することの悪影響
痛みがあることで、夜眠れない、イライラする、食事がおいしく食べられない、やりたいことが出来ない、など様々な問題が生じています。痛みは患者さんの身体だけでなく、日常の生活やお仕事にも悪影響を及ぼします。
痛みを我慢することは身体が辛くなるだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)をも下げてしまいます。さらに、痛みを我慢することは、身体的にも、精神的にも、ストレスを受け続けることになります。これらのストレスは痛みを増強させる方向に働きます。
痛みを我慢することがさらに痛みを強くさせる悪循環を引き起こすのです。日本では古来より痛みを我慢することが美徳とされてきました。しかし、病気による痛みは我慢しても治りません。
痛みを我慢することが体力の消耗やストレスとなり、がんの治療に悪影響を及ぼすこともありますので、痛みは我慢せず、医師や看護師に相談してください。
緩和ケアの最新動向と早期導入の重要性
緩和ケアは、がん疼痛(がんが原因で起こる痛み)に対する治療だけではなく、そのほかがんに伴うさまざまな症状、や心の痛みを和らげる治療で、がんと診断されたときから必要に応じて行われます。終末期だけに行われるものではありません。
2025年現在の緩和ケアは、従来の概念を大きく変えており、がんと診断された初期段階から積極的に導入されています。緩和ケアは治療が終わってから行うものではなく、診断と同時に始めるのが理想です。
通常は、主治医を中心とした看護師、薬剤師などのチームが、がんの治療と並行して緩和ケアを行っています。主治医チームでは対応が難しい場合などに、専門的な緩和ケアを行える緩和ケアチームが主治医チームをサポートします。
緩和ケアの効果とメリット
緩和ケアは身体的な痛みだけでなく、精神的なつらさも緩和します。早期から緩和ケアを行うことで、生存期間が延びる可能性があります。このことは多くの研究により科学的に証明されています。
苦痛をやわらげることによって、治療に前向きに取り組めるようになることはもちろん、日常生活でも、思い出づくりに夫婦で海外旅行に行ったり、家族と食事に行ったりすることもできるかもしれません。また、仕事に戻ることもできるでしょう。
医療用麻薬の副作用と対策
痛みの性質によって、医療用麻薬の量の調節のみでは痛みが取りきれない場合があります。そのときは医療用麻薬以外の薬や放射線などを使って、痛みを取り除く方法があります。痛みが取れることで食事がとれたり、眠れたりすることができ、心配事が減り、通常の生活を快適に送ることが可能になる可能性があります。
また、副作用として、便秘・吐き気・眠気などがあります。便秘はオピオイドを使用しているほとんどの患者さんで起きますが、病院では下剤などを使用することで対処されます。
吐き気は、めまいのように感じる場合やお腹が張った症状に伴って感じる場合があります。これらの症状は、薬の使用を開始したときや量を増やしたときに出やすい症状です。これらが想定される場合は予防のために吐き気止めを使いますが、1~2週間で症状がなくなることが多いです。
眠気も薬の使用を開始したときや量を増やしたときに出やすいですが、2~3日間で症状がなくなることが多いです。ただし、薬を使用したあとに眠気が強く出る場合は、医師に伝えてましょう。
副作用管理の最新アプローチ
2025年現在では、副作用管理についても大きな進歩があります。これらの副作用に対して対策を立てれば、薬の量が変わっても対処できます。一番合った薬を選ぶためにも痛みを我慢せず、医療者に伝えましょう。
最近では、副作用を軽減するための新しい薬剤や管理方法も開発されており、患者さんがより快適に治療を受けられるようになっています。
最新の痛み治療技術と今後の展望
2025年現在、がん治療技術の進歩により、従来の手術、放射線治療、化学療法に加えて、分子標的治療や免疫療法などの新しい治療法が加わり、治療の幅が大きく広がりました。痛み治療においても同様の進歩が見られています。
神経ブロック療法、高周波治療、脊髄刺激療法など、薬物療法以外の治療選択肢も充実しており、個々の患者さんの状態に応じたオーダーメイドの治療が可能になっています。
また、人工知能を活用した痛み評価システムや、遠隔医療による継続的な痛み管理など、最新のテクノロジーを活用した治療アプローチも導入され始めています。
個別化医療の進歩
2025年現在では、遺伝子検査により個々の患者さんの薬物代謝能力を事前に調べ、最適な薬剤と投与量を決定する個別化医療も実用化されています。これにより、より効果的で副作用の少ない痛み治療が可能になっています。
また、バイオマーカーを活用した痛みの客観的評価法の開発も進んでおり、患者さんの主観的な痛みをより正確に把握し、適切な治療を提供できるようになっています。
患者さんと家族が知っておくべきこと
積極的に痛みを取り除く治療を受けることが大切です。処方された痛み止めを使用しても、治療に悪い影響を及ぼすことはありません。がんの痛みを医師や看護師に伝えると、痛みをとる治療が優先され、がんの治療を中止されると心配される患者さんもいますが、がんの痛みをとりながら、がんの治療も続けて行うことができます。
痛み止めを長く使っていても、効かなくなるということはありません。また、痛みに対して必要な痛み止めの量は、患者さんごとに異なり、患者さん同士で多い、少ないと比べることはできません。
がんによるつらさを長い間我慢すると、夜眠れなくなる、食欲がなくなる、体の動きが制限される、気分がふさぎがちになるなど、生活に支障が出てしまいます。痛みや吐き気などの症状は、軽いうちに治療を始めれば、短期間で十分に和らげることができます。
医療チームとのコミュニケーション
痛みについて正確に伝えることは、適切な治療を受けるために非常に重要です。痛みの場所、性質、強さ、持続時間、痛みを和らげる要因や悪化させる要因などを具体的に伝えましょう。
また、日常生活への影響や気持ちの変化についても遠慮なく相談することが大切です。医療チームは患者さんとご家族の生活の質を最大限に向上させるために、あらゆる手段を講じる準備があります。
まとめ
がんによる痛みは我慢する必要は全くありません。2025年現在の医療技術により、適切な治療を受けることで多くの患者さんの痛みを効果的に管理することができます。医療用麻薬に対する誤解を解き、早期から積極的な痛み治療を受けることが、患者さんの生活の質を大幅に改善し、治療への前向きな取り組みを可能にします。
緩和ケアは終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始めることができる重要な治療の一部です。
痛みを我慢することは、身体的にも精神的にも悪影響を与え、治療効果を低下させる可能性があります。